死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第五十七話 ふたりの時間

 

「…………」

 

「うっ、うぅ…………おいしぃ……」

 

「えぇ…………」

 

「た……食べる?」

 

「絶対いらな────ううん、折角だけれど遠慮しとくわ。好きに食べなさい」

 

「美味しいのに、なぁ……」

 

 真っ赤な唐辛子を摘んで口に入れていく。やっぱり辛いものは美味しい。胡椒を付けて食べるのが最近の流行り。

 

 そんな私をエリナはさっきからすごい形相で見てくる。正直食べにくい。

 

「で、要件を話す気になった?」

 

「う、うん。ごめ…………言うね」

 

 私が落ち着くまで献身的に慰め、こうしてお菓子を摘む暇さえ与えてくれたエリナのために。私の決心は固まった。

 

「…………」

 

「────だから、その、ごめんなさい……」

 

「…………はぁ?」

 

「うっ…………お、怒った?」

 

 何十分経ったかわからないが、エリナは私の拙い説明ながらも必死の謝罪を静かに聞いてくれた。だがエリナは困ったような怒ったような顔をすると、ため息を付いて額に手を当てた。

 

「怒ったというか…………ちょっとイラッときたというか、それだけよ」

 

 それだけって。つまり怒ってる、ってこと? 

 

「遠回しに伝えたつもりだったんだけど、ガキには伝わんなかったか…………」

 

「遠回し……って、ガキ? お、同い年だよね……?」

 

「はっ、あんたなんかと一緒にしないでくれる?」

 

「えぇ…………」

 

「はぁ……あたしの同期ってなんで変なやつばっかなんだろ」

 

「変なやつ…………」

 

 エリナからしたら私はイザベラと同じ、ってこと? 

 

「うぅ…………」

 

「じょ、冗談よ。そんなことより! あのときあたしは…………あのいけ好かない女に、あんたが怖気付いたんじゃないか、って思ったのよ」

 

「怖気づく……」

 

「そう。眼の前のあたしを差し置いてあの女に恐怖するなんて、物事の上下を理解できない愚か者しか考えられないのだけれど…………そ、それはさておき!」

 

 霞んでいく視界の中でエリナはわざとらしく咳き込んだ。

 

「あんた、『私が悪いんですぅ……!』みたいな虫唾が走ること宣ってたけど。あれが本当にあんたの本音なのか、っていうのをあたしは聞きたいの」

 

 あぁ、なるほど。彼女はいつも一言多く言ってしまう人なんだな……。変わった人だなぁ。

 

 エリナの言わんとすることを感じ取った私は冷静さを取り戻し、彼女の目を真っ直ぐと見据えた。

 

「わかんない」

 

「この期に及んで嘘つくな。あんた、間違いなくあの女にイラッとしてたでしょ」

 

「し……してない」

 

「じゃあ、何であの時あいつに言い返したの?」

 

「え……見て、たの……?」

 

 あの時、というのは恐らくイザベラが私に対して『皆が待っている』と言ったときのことだ。

 

「え…………あ、まぁ……見てたわよ」

 

 何故か言葉尻を弱くしながらそう言うと、エリナはマグカップに入ったドロ甘コーヒーを静かに傾ける。

 

「あちっ」

 

「…………」

 

「ね、猫舌なのよ…………じろじろ見てんじゃないわよっ」

 

「ご、ごめん」

 

 エリナはソーサーに置かれた小さいスプーンみたいなものでコーヒーと空気とを混ぜ合わせ、熱を冷ましていく。コーヒーに浮かぶ白い泡立ちは渦を巻き、スプーンを追いかけるように回る。だがそれ以上の速さで動くスプーンによってかき消され胡散する。

 

「──私のことなんて、皆が待ってるわけない」

 

 ぐるぐる回るコーヒーは湯気を放ち、甘い香りと僅かな豆の匂いが鼻腔を撫でる。

 

 イザベラは気付かない。私はイザベラが言う『皆』に嫌われていることに。そして私自身が、皆の下へ行くことを拒んでいる。互いが互いを避けているのなら、今のままでいいじゃないか。そのほうがお互いのためだろう。

 

「私なんて、魔力しか取り柄がないんだし…………イザベラも、きっと……」

 

「ふむふむ」

 

「だから、エリナにも嫌われたのかと思って……その……」

 

「へぇ〜」

 

「…………えぇ」

 

「何よ、あたしに慰めの言葉でも期待してたの?」

 

 いや、そんなことはないけど……求められたから喋ったのに、その反応はあんまりだなあと。

 

「まぁでも思ったことを口にできてるなら成長ね。……隠してることはまだまだ多そうだけれど」

 

「それはエリナもでしょ?」

 

「そりゃそうよ。あたし秘密主義だから」

 

「ちょっとずるい……」

 

「ずるくて結構。この世は頭が良いやつだけが生き残れるの」

 

 うん、おいしいとコーヒーに口をつけると今度はチーズケーキを一口。

 

「ちなみにこれの名前知ってる?」

 

先程までコーヒーを混ぜていた小さいスプーンを手に取り、そう聞いてくる。

 

「分かんない。教えて」

 

「当ててみなさい。お得意の…………ぷぷっ、ネーミングセンスでっ」

 

 また馬鹿にしてる。私のネーミングセンスは世界一だ。

 

 小さいスプーンでしよ……あの小ささじゃ何も掬えなさそうだから多分混ぜる用途が主な使用方法だろう。

 

「まぜまぜくん」

 

「違う」

 

 言い方が違うか? 方向性は合ってるはず。

 

「ぐるぐるくん」

 

「違う」

 

 なんで。絶対に混ぜる系の言葉は入っててもおかしくないのに。

 

「うずまきくん」

 

「マドラーね、これ」

 

「可愛くない…………私のほうがセンスある」

 

 何だよマドラーって。どう考えてもかき混ぜ棒に適した名前じゃないだろ。理不尽な名付けだ、これではうずまきくんが可哀そうじゃないか。

 

「あんたのそれは名前じゃなく愛称よ」

 

「でも結局呼ぶことになるんだから、愛称も名前も変わらないじゃん」

 

「じゃああんたの愛称はクソ雑魚ナメクジだから、それも実質名前として呼んでもいいってことね」

 

「クソ雑魚ナメクジッ……!?」

 

「すぐうじうじして湿っぽくなるところとか。お似合いじゃない?」

 

「私は人間だよっ!」

 

「『自称』が抜けてるわよ」

 

「抜けてない! 要らないっ!」

 

「あ。頭にナメクジが──」

 

「──居ないっ!!」

 

「…………ふふふ、そうそう。そんな感じで言い返せばいいのよ」

 

 あ、っとエリナの言葉で今までのやり取りを思い出して気付く。私は遠慮のない言葉をエリナに投げかけ、だがエリナは怒るどころか楽しそうに応じてくれていたことを。

 

「難しく考えて悲観的になるのも大事よ。楽観的に捉えて過ぎて現実逃避してる奴らよりかはね。けれど、悲観的だからこそ、嫌なものもいっぱい見ちゃうのよ」

 

「うん」

 

「もう少しだけ気兼ね無く人生楽しく生きてみなさいよ。嫌なこと忘れて、やりたいことやりなさい。他人の顔色伺って生きるのなんて、そんな道化みたいな生き方貴方じゃなくてもできるでしょ」

 

 エリナからまだ皿に多く残った唐辛子が差し出される。

 

 そうか。私は無意識に、自分の意思を示すことで誰かの怒りを買うのが怖かったんだ。

 

 私が初めてエリナと出会ったときにエリナが言った言葉、その意味が今初めて分かった。分かってしまえば単純だ。私は自分の人生ではなく、誰かが望む人生を歩んでいたのだと。

 

「ありがとう…………そうする」

 

「えぇ、そうなさい」

 

 私はまたエリナに助けられた。けど、それを重く捉えることはもうしない。彼女は善意で私のために寄り添ってくれたのだ。彼女の優しさに泥を被せないために、私は私なりの感謝を彼女に伝えていきたい。

 

 誰よりも優しい、エリナのために。

 

 

 

 

「…………ちなみにホントに頭にナメクジいるから。早く取りなさい今すぐに」

 

「────えッ!? どこっ!? 嫌だ、取ってっ! エリナ取ってぇっ!!」

 

「ちょ、ちょっとキモいから無理だから! こっち来ないでっ────いやぁあああ!!!」

 

 ────その後私達は場内を悲鳴を上げながら、ヨピちゃんに助けてもらうまで走り続けた。

 

 そして、一週間程エリナは口を聞いてくれなかった。

 

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