死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
「ねぇエリナ。そんなに甘いものばっかり食べてたら太らない?」
「は? 喧嘩売ってんの殺すわよ」
「いやそうじゃなくて。今度一緒に訓練したいなーって誘おうと思って」
「言い方があるでしょ」
12歳になった私達は、相も変わらずカフェテリアで談笑に勤しんでいる。朝起きては二人で話し、飽きたら黙って本を読み、本の内容でまた話す。午後は先月から始まったゴーレムの戦闘データ収集に協力し、ヨピちゃんと少し話してからエリナと合流してまた話す。これが最近の私の日常だ。
「ねぇエリナ。面白い本見つけたから一緒に読もうよ」
「本なんて一人で読みなさいよ。その後にあたしが読めばいいでしょ」
「ちっちっちっ、分かってないねぇエリナくん。一緒に読まないと意味ないのよんっ゙」
「は? うざ。死ねカス」
「またまた〜」
面白い本を一緒の時間、隣で共有して読むのがいいんだけれどね。別々に読むのはナンセンスだよね。まぁ、普通そんなことしないけどさ、敢えてするのがロマンじゃん?
「ねぇエリナっ、これ見てよ!」
「うっさいわねさっきから。なんなのよ」
「ごめんって、お願いこれ見て」
私が何度も話しかけるたびに読書の邪魔をされることに嫌気が差したのか、本を閉じて身を乗り出してくる。そして、私が差し出した本の表紙とページを見ると、何故か呆れた様子の顔をしながら鼻で笑ってきた。
「あぁ…………はいはい、オタク乙」
「せめて見てから言ってよ!」
「オタクなのは認めるのね、いい傾向。で、なに?」
やっぱり一言多いんだよな。もっと素直になれよ。私が言うことじゃないけどさ、あなたも似たようなこと私に言ってたくせによ。
「この本、めっちゃ興奮するからっ! 面白いよ!」
「…………は? あんた昼間っからエロ本見てんの? あたしの前で? キモっ」
「いや図書館にエロ本なんてないでしょ……そうじゃなくて、魔法式!」
「だから言い方どうにかなさいよ…………で、なにこれ」
「透視する魔法だって!」
「やっぱりエロ本じゃない」
「違うよ、その人の数秒後の未来が見える魔法だよ」
「使えない。そんなの見えてもどうしろってのよ」
「えっ……もしこれから転ぶのが分かっていたら防げそうじゃない?」
「それがしょぼいって言ってんの。あんただけでしょ必要なのは」
「ふふん、私知ってる…………昨日エリナがなにもない廊下で転んだこと」
「…………はぁ!? み、見てたの!?」
「そして予言する……今日もエリナは転ぶ」
「…………魔法使ったわね。じゃああたしも予言してあげる。あんたはあたしにぶっ殺される」
「暴力反対っ! それはエリナが何もしなければ防げるじゃんか!」
「あぁ、無理ね……体から不思議と殺意が湧いてくるもの。これが運命かしら」
「あ、ああっ! 今動いちゃ駄目! エリナ転んじゃうよ!」
「そう言って逃げようとしても無駄よ。どこまでも追いかけて、必ずころ────ぎぅッ!?」
その時、後退る私を追いかけようと踏み出したエリナの右足のヒールが折れた。
「がはッ────あっ、つぅッ!?」
「エ、エ、エリナぁ!? 大丈夫!?」
エリナの体が傾き、テーブルの角に頭をぶつける。そしてバランスが崩れ揺れ動いたコーヒーカップがエリナのドレスにかかった。
「えっと、回復魔法……火傷、治るかなぁ……!?」
思いつく限りの魔法を試してみる。たんこぶ程度なら被術者の負担にはならないからすぐさま治す。だが火傷についての知識は少ない。私にできるのは痛みを少し和らげることくらい。
「う、うぅ……なんで、こんな…………っ!」
「と、とりあえず治したと思うけど。まだ痛む?」
「え、えぇ。ちょっと胸元が、ひりひりする」
そう言ってエリナは胸元を少しはだけさせ様子を確認する。首から鳩尾の当たりまで広くかかったコーヒーは、綺麗な藍色のドレスを醜く汚していた。
今の季節はちょうど暑い時期になったところで、各人衣替えを行っている。エリナも薄手のドレスを着用していて、ひらひらとした可愛らしい藍色の衣装が目立つ。薄い生地が濡れてドレスが透け、真っ白な肌が少し覗いていた。
「傷になっちゃうから、医務室行こう。私の魔法じゃ完治できないかも」
最近胸元の膨らみが増えてきたエリナの胸元に流れていくコーヒーがやけに目に引く。他の女子もそうだが、12歳ということも相まって胸元が色付きやがる奴が多くなった。そういうふざけた奴らを見ていると心底虫唾が走り、引き千切りたくなる衝動に駆られる。
「そうするわ…………シャワーも浴びたい」
「そ、そうだね」
だがエリナのを見てもそうは思わない。むしろ今、こんな状況なのに少しどきどきしている。何故だろうか。
☆ ☆ ☆
「じゃエリちょん、着替え用意しとっから〜。ゆっくり浴びてきてねん〜」
「ありがとう」
私達は医務室にたまたま居合わせたヨピちゃんにエリナの治療を任せた。彼女の魔法により火傷が完治した後、シャワー室に案内された私達は脱衣所に通された。
「折角だしテレちょんも入ってけば〜」
「────えッ!? 私も!?」
「そんなに驚くことかな〜? 今日は暑いし〜。着替え用意しとくね〜ん」
「え、あ……」
反論を言う間もなくヨピちゃんはそう言い残し走り去っていった。私は別に何ともないのだけど、シャワー浴びても良いのかな。
「いいのかなぁ……」
「別にいいでしょ」
そう言うと手をドレスの後ろに回しチャックを器用に外す。
「────え、あ……え、ちょっ、エ、エリ──エッッ!?」
白く小さな肩が露出し、袖から腕が抜け華奢な細枝があらわになる。そしてシンプルながら蒼に煌めくブラジャーが外され、膨らみかけの胸とそれに連なる細いくびれと縦に伸びるへその緒が────。
「…………何ジロジロ見てんのよ。ぶつわよ」
「えっ!? いや…………ぁ、そ、そうだね。うん」
「反応キモっ…………先行くわよ」
既に衣服を脱ぎ終え籠に入れたエリナは私と違い女性らしい腰を左右に揺らしながら、ひとりでに歩いてシャワー室へと入っていく。
「…………ふ、普通だな……」
ヨピちゃん以外の人に裸を見せるの初めてなんだけど……エリナは、そうでもないのかな。そもそもそういうこと気にしない人なのかな。
ジャー、っと水が流れる音が耳に響く。エリナはシャワーを浴び、当たり前のように体を清めているのだろう。
へ、変なこと考えるな。私もいつも通りにすればいいだけだ。普段と違うこと考えるから緊張するんだ。いや何で緊張してるんだ、女同士だぞ。いやそれ以上に友達だぞ。
「────もうっ、えいっ!!」
シュパパっ、と服を脱ぎ捨て籠に投げ入れるとシャワー室の扉を勢いよく開ける。大事なのは勢いや。がーっと行ったらええねん。ってとある地方に伝わる訛を纏めた書物に書いてた。多分使い方は合ってる。
「遅すぎない? 一人で服も脱げないの?」
「脱げるよ! ちょっと脱ぎづらかっただけ」
そんなことはない。勢いよく脱いだ。
「汗掻いてて張り付いてたんでしょ。暑いしね」
そんなことはない。すごく脱ぎやすかった。
「そうそう」
「そういうことにしておいてあげる。あたし優しいから」
…………そんなことはない。決して。
「ねぇ、後でさっきの魔法教えて」
「う、うん! いいよ、簡単だからすぐにできると思う」
「そうね、なんとなく理論は理解できるわ。答え合わせがしたいだけだから」
「流石エリナだね」
やはりエリナはすごい。
さっき私が透視の魔法を使ったあの一回だけでエリナは魔法式を読み解き、理解し、その全貌を把握しているのだ。式を読む優れた魔法感知力とそれを把握するための魔法に関する知識。思い当たる魔法を思い浮かべ、自ら構築する柔軟さ。
それがエリナのすごさだ。
「ふん…………。
「イザベラのマネ上手っ!」
「嫌いなやつのモノマネは得意なのよ。よく見てるから。あんたのモノマネもやってあげましょうか?」
「その流れだと私のこと嫌いって言ってるみたいだけどッ!?」
「そう言ってるのが聞こえなかったのかしら。言葉分かる?」
「分かるよっ! この、ツンデレめ!」
「誰がツンデレよ、この陰険陰湿クソタヌキ」
「また増えたッ!?」
「『ふっ、ふぇえ……エリナぁ。ご、ごめぇぇ〜ん! 怒らないでぇえ〜〜!』」
「似てないっ! 全然私に似てないッ!!」
「怒っちゃった? 同族嫌悪かしら、似すぎるのも罪ね。反省反省」
キュキュ、と隣から蛇口が締まる音が聞こえ同時に水の流れが止まる。
「先上がるわね」
「え? あ、待って私も」
「あんたのほうが後だったんだから、ゆっくり浴びなさい」
「一緒に出たいのっ」
「あたし待つの苦手なんだけど…………髪だけ拭かせて」
苦手と言いながら、エリナはシャワー室から出ること無く私を待っててくれている。こういうところがツンデレなのだ。可愛いやつめ。
すぐさま全身を洗い流して体を清める。エリナとの会話に夢中でただ水を体にぶつけていただけだと気付くのが遅れた。
「終わった? 妙に早いわね」
「そんなに汚れてなかったし?」
「それもそうね」
「…………」
「…………なに」
何だか違和感がある。
エリナは髪に付着する水滴を丁寧に挟み込んで水気を取っていく。胸元辺りまでかかる髪を手櫛で漉いて軽く整えていく。それ自体は普通だ。
「…………エリナ?」
「なに」
「……ん?」
「…………」
「…………すっ」
「…………っ」
「すすすっ」
「…………っ…………っ!」
「何で目を合わせてくれないの?」
「別に」
その時私に電流走る。
違和感の正体に気付いた私は、満面の笑みでエリナに近付いていく。
「な、なに…………っ!?」
「エリナ、すっごい綺麗な体してるよね」
「は、はぁっ!?」
「いいな…………憧れちゃうなぁ」
わざとらしく体を上から下へ舐め回すように眺める。いつもなら絶対に怒って反論してくるだろうが、私の読みが当たっていれば面白いものが見れる。
「くびれとかすっごい良い感じ。羨ましいな」
「別に…………あんただって、悪くないでしょ……」
「ほ、ほんと!?」
「お世辞は言わない主義よ。…………足とか、あたしよりも細いし、長いし…………綺麗よ」
「ありがとう!」
「その、あんたは背が高いし…………スタイルがいいし」
「うんうん」
「他人を羨むより、自分の長所を認めたほうがいいわよ」
「そうだね! その通りだっ」
そう、読み通りだ。
エリナは気が動転するといつもならあまり言わないような、デレた発言をする。これを初めて知ったのは私が訓練で怪我をしたときだ。
私が魔力の調整を間違えて腕の筋肉が破裂し大量出血したときのこと。私以上に取り乱し慌てふためくエリナを見て冷静になれたのはいい思い出だ。私が回復魔法を使えば一瞬で治るのだが、その後もエリナは何かと私を気遣って親身にしてくれた。
あのときのエリナをまた見たいと思っていたのだ。
怪我ではなく、健全なやり方で。
「も、もういいでしょ。見ないでよ…………」
「もうちょっと見たい」
後ろに下がるエリナを追いかけずんずん近付いていく。
「ね、ねぇ…………ちょっと、テレジーっ」
「うーん…………」
「ち、近いっ…………きゃッ」
ぺたっ、とエリナの背中が壁につく。ひんやりとした冷気が背中を巡り小さく悲鳴を上げる。
あれ、これはやり過ぎか。何か、思ってる以上に距離が近い。ここまでやるつもり無かったんだけど。
思考とは真逆にまた一歩足を踏み出したその時、足元の水たまりが足を掬い体が傾く。
「あっ、やばい」
「────ちょっ!?」
バランスを整えようと手を前に伸ばす。何とか壁に手が付き、地面との衝突を抑えれ事なきを得た、かのように思えた。
「ぁ…………」
左手はエリナの右耳を掠め壁に手を付いている。だが右手はエリナの胸元にしっかりと乗っかり、柔らかな感触が伝わる。私達の体は一部はくっつき、エリナの少しだけ開かれた股下に私の太ももが挟み込まれている。
「ぁ、あぁ…………」
私よりも身長が低いエリナは、当然私を見上げる形になり、私は逆に見下ろす形になる。頭を傾ければ額がぶつかる距離で、耳まで真っ赤になったエリナは潤んだ瞳で私を見上げ、小動物のように震えている。
「かわいい」
「ひっ……!?」
違う。
いや、違わないが可愛いが。
こんなことを言いたいわけではなかった。
「ご、ごめん」
「あ、足…………う、動かさないでっ…………あっ、ん……っ!」
「え────エリ、ナ?」
何だ今の反応。なんか、いつもと声音が違ったような────。
「────こ、この…………さっさと離れろ変態ッ!!」
「うわっ────いだッ!!」
勢いよく押されて後ろから倒れた私は頭を強打する。
「あんたなんか知らないッ!! 頭打って死ねッ!!」
拘束から解かれたエリナは一頻り罵声を浴びせると、体を隠すように腕を抱えシャワー室を後にした。
「あれ、エリちょん? そんなに走ってどうしたのん」
「うるさいっ! 早く代わりの服を!!」
「そこにあるよん」
「…………そこの性犯罪者に言っておきなさい! 二度とあたしに話しかけるなって!!」
バタンっ!
勢いよく扉が閉まる。その後ドタバタと廊下から音が聞こえ少しずつ小さくなっていく。
「…………なーにがあったらああなるの?」
困惑いっぱいの雰囲気でシャワー室へと顔をのぞかせるヨピちゃん。
「えっと…………恥ずかしがってたエリナが面白くて、からかってた」
「なるほど…………」
腕を組んで数秒間考える素振りをする。
「テレちょん有罪」
ですよねー。