死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
普段は使われることのない修練場の一つ。エリナと実質初めて会話したときと同じ場所だ。
そこでは空気を決して弛緩させることのない緊張の糸が張り巡らされ、殺意に似た空気が充満し高圧的な雰囲気を放っていた。動くことも、まぶたを閉じることも、息を吸うこと。平時の無意識下で起こり得る一瞬の隙すら憚られる、そんな空気だ。
「じゃ〜、はじめ────」
そんなこと知ってか知らずでか。緩みきったヨピちゃんの一声で、ここ一体を埋め尽くす殺意の根源が猛スピードの魔法を放つ。
「──ちょっ、ちょぉっとぉおお!?!?」
私が立っていた場所が跡形もなく爆発する。直撃の前に何とか回避をすることで軽症で済んだ。
「テレちょ〜ん。油断しすぎ〜」
「や、やり過ぎでしょッ!? ふつうに死ぬ威力何なんだけどぉ!?」
私の魔法感知を振り切る速度の魔法で、危うく何もわからないまま死ぬところだった。
間違いなく、あの女は私を殺りに来てるッ。
「死ねばよかったのに」
そう言って侮蔑しきった視線を向けるのは、殺意の波動に目覚めてしまった女、エリナ。
「忠告を無視してあたしの前に現れるなんて命知らずなクソガキね、殺す」
「確かに悪かったと思ってるけどさぁ! そんなに怒んなくてもいいじゃん!!」
「殺す。殺すと言ったら殺す」
「この殺人鬼ぃ!! 人でなしぃ!!」
「誰のせいよ…………誰のッッ!!!!」
「ひぃッ!?」
「裸を見られたのも…………触られたのも……は、はじめて、だったのにっ……!! あんたが、あたしを穢したッ……!!」
「…………テレちょ〜ん?」
調子乗った私のせいでぇええすッッ!!!! けれど穢した覚えはありませんッ!!
「…………憎たらしいわ。相変わらず無駄な魔力が籠もった醜い魔法ね、この脳筋が。いつかその魔力に裏切られればいいのに」
「これしか取り柄がないもので…………ねっ!!」
身体強化を発動。地面が爆ぜるのを感じながら、エリナへと一直線に駆け抜ける。
「────うわっ!?」
過ぎていく視界の中、一瞬光る何かを感じ引き返す。そこには近付けば真空波が発動し、対象者を八つ裂きにする魔法が設置されていた。
「チッ」
「舌打ちッ!?」
「魔法感知だけでなく目もいいのね。頭は悪い癖に」
「さっきから色々オーバーだなッ!? 殺意が高すぎなんだよっ!!」
「当たり前でしょ。あなたは今日死ぬのよ」
「嫌だよっ!!」
「うるさいあたしが死ねって言ったら死ねッ!!」
「理不尽ッ!?」
人を殺すのに十分な、緻密に計算された魔力量に基づく威力計算による魔法。私が反応できる限界の速度で射出されるそれを回避していく。それは、彼女が私を殺そうとしている事実を、割と本気で信じてしまうほどの業だ。
「ふっ!!」
だが、私は躱す。頬を掠め、体が風圧を受け止め、腕は眼前へと拳を突き出される。ゴーレムやヨピちゃんとの戦闘経験で、何度も行ってきた動作。人が歩くときに腕を振るように、無意識でも呼吸ができるのと同じように、何度も行われる反復動作は寸分の狂いなく私に染み付いている。
動作を覚えられ、見切られると型は弱い。だがそれを見越して型はより早く、鋭く、無駄がなく。相手に対応させない強さを持つもの。
「っ! ────踏み込みの速さは、さすが性犯罪者と言ったところね」
「…………違います」
それを初見の一回で見切られ避けられた。動体視力による反応速度にしては異常だ。エリナは武術等に疎く、体を動かすのは得意でないはず。日常的に格闘技の修練、そうでなくとも立ち会い等を見ていれば目も慣れるかもしれない。
だが、そのどれもに該当しないのがエリナだ。きっと彼女は私の知らない魔法を使ったのだ。原理は不明だが、私の動きに応じて回避できるような魔法が存在しているのならば。その魔法による回避を振り切るほどの攻撃手段又は速度でない限り、私の攻撃は絶対に当たらないということになる。
「…………誇りなさい。あたしは本気を出す」
「本気出して殺すってことッ!?」
そう言ってエリナは左手を頭に手を当て、右手を前方へ突き出す。
「舐めてると死ぬわよ────全力で来なさい」
「っ!!」
空気が変わった。エリナの目が据わり、より真剣さが混じる。それと同時に、エリナの持つ魔力が室内を埋め尽くした。
「っ、後ろっ!!」
背後から魔力の接近を感じ、すぐさま回避を取る。続けざまに前、後ろと飛来する魔力体を回避していく。
「『弾けろ』」
周囲に突如高濃度に圧縮された魔法体が発生すると、激しく収縮し爆発。
「『追え』」
回避を誘発され左にステップした先には、既に先程のかまいたちが設置されていて、背後からは先程爆発した残滓が小さな破片となって後ろから迫ってくる。一つ一つが人を殺すのに十分な威力を持っていることだろう。たとえ私と手すべてを食らってしまえばひとたまりもない。
「っ、うぐっ、はぁああああ!!!!」
かまいたちの発動を確認。恐れずに前方へと足を踏み入れ、身体強化を施した全身に細い裂傷が走る。
「くらえッ!!」
直ぐさまエリナに近付きハイキックを放つ。しかし渾身の蹴りは不可視の防御結界らしきものに阻まれ、不発に終わる。
「うわっ」
鎖が足に絡みつき私はエリナの前で宙吊りになる。
「読み通り。やっぱりバカね」
「すごいね、鎖は気付かなかったよ」
「…………へぇ、わざと飛びこんだと?」
「そうだよ」
エリナを囲う防御結界には見覚えがある。ならば、解除はできる。
「ッ! ……何故っ!」
足を素早く降って強引に断ち切ると、未だ動揺しているエリナに再度接近する。
「また魔力か…………忌々しい」
魔力波による魔力結界への干渉。綺麗に統率された列は強引且つ強力な横槍に弱い。エリナの使う魔法はすべて省力化が図られ、必要最低限以下の魔力で、通常の魔法以上の高威力を達成している。
魔法というのは、術者が持つ魔力を発言させたい魔法の形となるよう結びつけるもの。だからこそ、エリナのような少ない魔法で作られた魔法は魔力の干渉に弱い。膨大な魔力量さえあれば小さな結合で作られた魔法はいとも容易く崩れてしまう。
だが戦況は良くない。
エリナが腕を振るう。同時にそこから高威力の魔力体が出現し撤退を余儀なくされ接近を許さない。
「エリナ、もっと攻めて来たほうがいいんじゃない? このまま待ってたら私の勝ちだけど」
エリナの魔力量は私のそれに比べ絶対的に少ない。このままお互いに魔力を消費していれば先にマインドダウンするのは彼女の方だ。
私が挑発すれば必ずエリナは返してくる。何故なら彼女は生粋の負けず嫌いで、売られた喧嘩は必ず買うのだから。
敢えて言葉を交わし、その隙にエリナの魔法に対する攻略法を考える。先程私はエリナの魔法に対して魔力をぶつけて妨害を図った。だがエリナのことだ。次はそれを折り込み済みで魔法を使ってくるはず。そうなれば徐々に私が押されて一気に潰される。
私が勝つ未来のために、今できることは時間稼ぎと、あわよくばエリナを怒らせて魔力コントロールを鈍らせることだ。魔法の緻密さが向上するほど精密な魔力操作が求められ、それはより大きな精神的負荷をかける。いつも水面のようなエリナの感情を揺さぶり、魔力操作を誤らせて魔力消費量が上がってくれれば御の字だ。
「あたしが攻めあぐねていると? 分析していただけよ」
狙い通りエリナは挑発に乗って言葉を返す。この間にもエリナはいくつもの思考を巡らせ、私をどう潰すかを考えているのだ。
「どうだか。ちなみに私はもう勝ち筋が見えてるけど」
「あら、遅いのね? あたしは戦う前から見えてたけれど」
「自分の力に自信があるのはエリナのいいとこだけど、それはただの強がりだよ。ほんとは現実が見えてないだけじゃない?」
「出来る出来ない以前に、見ようともしてない人から言われると心に染みるわね。得たカードだけであたしを知った気になって、盲目になってるお馬鹿さん」
「ふっ、エリナのことなら良く知ってるよ。ほんとは弱いくせにすぐ強がって心にも無いこと言うところとか。もっと素直になったほうが良いよ、『イキってごめんなさい、許してください』って」
「ずいぶんな御託ね、あたしの挑発に当てられたのかしら。けれど無様に負けるのはあんたよ、テレジー。今のうちに羽ばたく練習でもすると良いわ。負けて泣いたあんたが小鳥の群れに合流出来るようにね」
「エリナの残り魔力は少ない。それにいくら緻密な魔法でも私の妨害で全て打ち消せる。ならエリナの魔法は全て無駄も同然、私には通用しないの。これのどこに負ける要素があると?」
「それが意図的に与えた情報だと気付けない愚か者だとは思わなかったわ。あたしよりも勉強してるくせにあたし以下の知識なんて、恥ずかしいと思わないの? 思えないんでしょうね、馬鹿だから」
「……うるさい、調子に乗るな」
「自己紹介なら鏡を見てやってくれる? あたしに言われても困るわ」
「…………」
「…………えぇ? なんかちょ〜仲悪くないー?」
なんだろう。ちょっと腹立ってきた。調子を狂わせるはずが逆に調子を狂わされた。
「あらぁ、急に黙っちゃってどうしたの? 怒らせちゃったかしら。ごめんなさぁい、ガキ相手にぃ、言い過ぎちゃった見たぁい!」
「…………絶対泣かす……ッ!」
だが私は見逃さない。応酬の最初と最後で、エリナの語気は少しだけだが強くなり、いつもの何倍もの強い言葉を使って私を詰った。それは少なからず私の言葉に動揺した何よりの証拠で、エリナは今そこそこイライラしているはずだ。
そしてもっともっと動揺させるためには、エリナの思考を上回る先述で翻弄しなければならない。
「無駄ね。あんたが本気出したって、どうせ変わらないもの……!」
できるかどうかではなく、やる。
流石に私も頭にきた。怒りは正常な判断力を奪い、いつもの動きが出来なくなるかもしれないが、仕方がない。頬に一発ぶちかますまでは収まりそうにもない。それくらいは許されるだろう。
傷が残らないようヨピちゃんに念入りに回復してもらえばいいのだから。