死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
「ほら、もっとケツを突き出せッ!! よしテレジー、今だッ!!」
「……あーっ、もうッ!!」
スパァンッ!!
「ああぁぁぁんッ/////♡♡♡」
尻を激しく叩かれた男の歓喜に震える大きな嬌声がアジトに響く。
何故こうなった。私はこれまでのくだりを振り返って考えるが……いや考えて分かるか。どうしてこうなった?
私はメスの顔をしたレジスタンスの下っ端構成員(男)を見ながら、だがどうしても目の前のカオスだけは受け入れ難かった────。
☆ ☆ ☆
私とマイケルはクッキーを堪能した後、少し落ち着いてから私のアジトに移動した。まぁ、あれだけ世話になったのだから無下にもできないだろう。屋根のある落ち着ける場所を……落ち着けるかどうか不安になったが、とにかく比較的安全な場所を提供したいと考えたのだ。
私の家は貧民街の外れ、アスキア帝国西城門近くのボロ屋。その地下を改造した場所だ。地上に拠点を構えて住んでいたら私の場合色々不便なことが多い。その点地下であれば見つかるリスクが少ないからいいカモフラージュになる。残念なのは、窓が少ないから光が全然入ってこないことくらいか。
「おー、ここがテレジーの家か! なんというかあれだな、何もないなッ!」
「いつでも逃げれるように最小限にしてるの。そうでなくとも貧民街は物をいっぱい持ってると、周りのやつに裕福だと思われて襲撃に合うことがあるから」
興味有りげに私の家を物色するマイケルを尻目に、私は部屋の奥へと進んでいく。家に物が少ないのは、単純に部屋を飾ることに興味がないというのもあるが、飾ったところで結局この部屋は……まぁ、それはいいか。
「つまり、隣の芝は青く見える、というやつだな!!」
「実際青いのよ」
私は身につけていた襤褸の外套を外していく。さっきの戦いで防具類は全部破損した。特に外套は穴だらけで、もはやボロ雑巾と何ら変わりない姿になってしまった。目深に被れるフードがお気に入りだったのだが仕方がない。捨てるとしよう。外套を脱いで胸、腕、足に付けていた防具とそれを固定するためのベルトを外す。もうこれら全部廃棄だな。使い物にならない。
体に纏っているのは胸元の晒しとショートパンツのみ。予備の外套を纏うことで、人間として最低限のマナーを守っておく。肌を見せることに抵抗はないが、まぁ一応。倫理的に?
先程彼が披露した回復魔法。いやマイケルは魔法を使っていないと言っていたことや、実際に感知した魔力の種類から、あれは魔法の類ではないのだろう。少なくとも私が知っているような。
ならばこそ、一層マイケルの記憶を戻す必要が出てくる。彼の出自にはあの魔法の技術が眠っていることは間違いない。それに……もしかすれば、マイケルはこの国の外からやってきた可能性がある。非現実で妄想極まる愚かしい考えだが、マイケルの出で立ちや振る舞いに『この国の人間らしさ』を感じない。
……ただそれだけだが、私は彼に一縷の望みを託したいだけなのかもしれない。
「よいしょっと」
ドンッ、と後ろから大きな物音が聞こえた。
おい、今何置いた。振り返るとマイケルの横には筋骨隆々としたムキムキマッチョマンの銅像が聳え立っていた。
「そのマッチョはなんだ」
「シ○ワちゃんだ」
「誰だッ!」
「シュ○ちゃんだッ!」
「だから誰だよッ!?」
「1970年代アメリカの英雄ッ、ボディビル最高峰の大会『ミスター・オリンピア』連続6回優勝ッ、ボディビルの父ッ、みんなの憧れ○ュワちゃんだッ!!」
「そんなこと言われても分かるかッ!!」
「テレジーには、この美しいダブル・バイセプスからなる筋肉の流線の美しさがわからんのかッ!?」
そう言われ、私はシ○ワちゃんなる人物を象ったマッチョマンの銅像を眺める。
「っ、いや……ちょっと、かっこいい……かも……」
ちょっとどころではなく、実はめちゃめちゃ惹かれている。さっきからシュワちゃんから目を離すことができないでいる。え、何この胸筋。そして腹筋から下半身まで流れるような美しい太腿……。
──何を隠そう、私はマッチョが好みなのだ。
「そうだろうそうだろう! テレジーは筋肉に魅せられた者かぁ! ほれ、もう一つ置いちゃうぞ!」
ドンッ!
「こ、これは!?」
「ロ○ー・コー○マン……ポージング、モスト・マスキュラーverだッ!」
「!!」
「○ニー・コール○ン……彼は伝説だ。彼はミスター・オリンピアを連続8回優勝しその名をボディビルの歴史に名を刻んだ言わば神だ」
「相変わらず何言ってるのか分からないけど、何か凄いのだけは分かる!!」
か、かっこいい……! なんて大きくて美しい筋肉なの……え、太腿ってこんなに大きくなるの!?
私は今まで見たことのないマッチョマンに大興奮していた。
「素晴らしい……」
○ュワちゃん、そして○ニー・○ールマンの銅像の胸板を同時に撫でる。硬い、大きいそして逞しい……ああ、私はなんて幸福で罪な女なのだろう……こんな至宝のマッチョ2人の筋肉に同時に触れるなんて。ああ、でもこれが本人だったら……いえ、そんなの傲慢すぎる。人間って罪深い生き物だわ……。
──違うッ!!
「いや、だからこんな高価な、貴重で、素晴らしい銅像あったらッ。狙われるって言ってんでしょ!?」
「更にここに俺の銅像を置く! なんとベットの横だッ!!」
そのマイケルの銅像は、まるで猫を思わせるポーズを取っていた。
「もう要らないッ! そこに置くなッ!! 目覚めが悪くなるだろッ!!」
「許してニャン♡」
「全部片付けろぉぉぉおおおッッ!!!!」
怒りに任せ全力でマイケルのケツを蹴り飛ばした。
「oh!! I'm coming……」
マイケルは物悲しそうに、ただどこか恍惚とした表情を浮かべながらも銅像を片付け始めた。
全く連れてきたかと思えばすぐこれだ。変なやつだと思っていたが、ここまで筋金入りの変人とは思っていなかった。あの銅像、どこから持ってきた。そんな収容スペース無かったろ。どこにも。……ああだめだ駄目だ。ほんと何者なのこいつ。
マイケルは物悲しそうに家の外へ運んでいく。ああ、でも名残惜しいな……やっぱり一つだけでも置いておこうかな。いや、駄目だ。あー、うーん。
うん……目に焼き付けとこう……。
私は全神経を目に注いで、二人を記憶に残すため見つめ続けた。
「じー………………やっぱかっこいいなぁ……」
「おい、ボマー」
私が幸せに浸っていたその時微かに耳に私を呼ぶ声が聞こえる。気づけば後ろのアジト出入り口近くにボロ布を纏い、穴開きズボンを履いたもやしが立っていた。
「は? なんだこのもやし喋りかけんなッ」
もやしとか何の栄養にもならんやないか。せめて鶏ササミにしとけ。タンパク質をいっぱい摂れ。
「あァ? 誰に舐めた口聞いてんだゴラァ!?」
違った。定期報告の下っ端レジスタンスだった。