死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
全身から血が流れる。交わしきれなかったものと掠れてしまったものが幾度も体に傷を作り、とめどなく流出する真紅は血の湖を作りだす。
「口程にもないわね」
啖呵は切ったもののあれから私は防戦一方を強いられ、その場でただ無限に迫る魔法への対処で精一杯であった。
「なんで…………なんで、まだ魔力が残ってるのッ!?」
先ほどまでしていたエリナの魔法は特別なものではなく、いくらエリナが工夫をこらしていたとは言え構造が簡単で。膨大な魔力によって打ち消すのは容易だったのだ。
「さて、何故でしょう」
だが、私を追い詰めた魔法はまさに特殊と言わざるを得ない魔法であった。私が知らないとかそういう問題ではない。
構造は分かる。だが式が理解できない。言うなれば掛け算はできても割り算が理解出来ない感じ。
「ふざけてるッ…………そんな法則知らないッ!!」
「知らないから理解を拒むというの? 戦場に求められるのはいつだって対応力よ」
エリナの眼前に出現した、一見何の変哲もない火の玉。だがそれを形作る魔力の構造は全くの未知であり、私の魔力妨害を一切受け付けない。
「ま、あたしも意地悪じゃないし。教えてあげる」
「くっ……!?」
だが、動くことをせずに真正面から受け止める。魔力による障壁で防いだにも関わらず、その半分以上が貫通し肌を焼く。
「あんたは無駄に魔力を使いすぎなのよ。そのむだになった魔力を再利用してる」
「ぐっ、うぐっ…………でも、その火の玉は何……っ!」
「これ? 不思議でしょ、あたしオリジナルの魔法。理論上どんな妨害を受け流す構造よ。あんたへの対策の一つ」
「なんでそんなものを……!」
「暇だっただからよ。そういえば止血になったかしら。一応焼いてみたんだけど?」
「ふざけっ…………いっ、つぅ!」
足に力が入らなくなり、膝が床につく。その時、全身に針が刺さるような痛みが外からも内からもやってくる。
「あらあら、動いちゃったわねぇ」
いつの間にか体内外に巻き付くように敷かれた魔力によって、私の体の制御がエリナに奪われていた。呼吸をするだけでも息苦しさがあるのに、体を1cmでも動かせば激痛が走る。その魔力操作一つで私の体は一瞬でぼろぼろになった。
いや魔力操作だけではない。エリナは私の魔力妨害を察知し咄嗟に魔法の構造を変化させ魔力妨害に強い形へと変えてきた。これも原理がわからない。通常ならば、通常ならばエリナの魔法は全て無駄になるはずなのに。
「ねぇヨルフェルコ。もうこれあたしの勝ちで良くない? そろそろ止めないと死んじゃうわよ」
「まだだねー」
「はぁ……強情ね。愛弟子の負けを素直に認めたほうが、貴方の師匠としてのメンツがギリギリ保てるわよ」
「ふっふっふっ…………テレちゃんはこんなもんじゃないよん。ね、テレちょん?」
再びエリナの腕に魔力が込められ、3つの火球が発生し迫りくる。その火球は魔力障壁を突き破って直撃し、火に炙られる痛みと魔力による裂傷が脳を蝕む。
「師弟そろって馬鹿とは救えない」
「はぁ…………はぁ…………ッ! まだ、だ!」
「…………降参しないの?」
「しない……っ!」
落ちかけた瞼を無理やり開きエリナを睨みつける。当の本人は何故か目を泳がせ困惑している様子。私が降参すると思っていたのだろう。だが残念、私はまだ諦めていない。
エリナもそうだが、私も大概負けず嫌いだから。
身体強化。魔力の出力を上げる。痛覚は遮断し、必要があればその都度回復させる。体が傷つき使えなくなるまでの僅かな時間でエリナを倒す。いや泣かせる。
「本当にやるのね…………」
「シッ!!」
勢いよく駆け出した体から、それに負けないくらいの勢いで飛び出した血。その血を噴出剤にエリナへ、音速の速さで迫る。
バキィインッ!!
「っ!? ちょっと、それは反則でしょ!?」
エリナが設置していた魔力障壁を拳で破壊する。いくら緻密な魔法とは言え、魔力消費を度外視した圧倒的な奔流の拳で破れないものはない。
「クソッ…………っ、その攻撃は後何回くらい使えるのかしら!?」
「9回っ!!」
「それは……途方も無い数ねっ!!」
嘘だ。本当は1から9回。小分けにすれば9回。全力を出せば1回で使い切れる。だが後者はマインドダウンを起こすと同時に城が吹き飛ぶので、その手段を切ったが最後私の敗北だ。
「っ!? これも、これも砕くの……!?」
私の後先顧みない猛攻に対応を見せるも、それを超える奔流を上乗せし全ての障壁を砕いていく。流石エリナといったところだが、力というものはどこまでも理不尽なのだ。
「あああぁああッ!!!」
「ケダモノがッ、それでもあんた魔法師かッ!?」
魔力障壁を砕き砕き、そして砕く。そうして最後の一枚が砕かれると、エリナは驚愕と怒りを込めた表情でそう叫ぶ。
「終わりだッ、エリナっ!!」
「ちょ、ちょっと本気で殴るのは駄目でしょ!?」
「自分のしたこと忘れたかッ!?」
地を強く蹴り、嘯くエリナへと肉薄する。ようやくここまで接近できた、ならあとは殴るだけっ!
「…………あっ──」
「────ぇ?」
右足に違和感を覚えた。体が宙に浮く感覚の中チラっと見てみると、私の右足首は通常ではあり得ない角度で曲がっていた。
まぁ、あれだ。回復を忘れてた。エリナの魔法で傷を負っているのを忘れて、右足がぼろぼろになっていた。いやあ、気付かなかったな。
ゴン゛ッ゙゛ッ゙゛!!
「ア゛ァ゙゛ッ゛」
凄まじい勢いで私とエリナの額がぶつかり、激突音とエリナのうめき声が場内を木霊する。
「痛てて…………エリナ、大丈夫?」
鈍く痛む頭痛に悶えながら、エリナの容態を確認する。
あぁ……こりゃ、駄目だ。目回して頭から血流して倒れてる。
「あちゃー…………これ、後に響くよー?」
「ヨ、ヨピちゃん……」
「ほらテレちょんも横になってー。とりま治しちゃうからー」
指示に素直に従い、私は意識を失うエリナの横に座る。後に響くというのは、後遺症が残るということだろうか。それは不味い。エリナの綺麗な顔に傷を付けてしまったなんて、絶対に許されない。気にしていなさそうに見えてエリナはめちゃめちゃ肌荒れとか気にするタイプだ。ニキビができたら無くなるまで部屋から出てこないタイプだから。
「う、うぅ…………頭が痛い…………」
「お、復帰早いねー。若々の若じゃーん?」
「エリナ! 大丈夫? 凄い音してたけど」
頭を痛そうに擦りながら、ゆっくりと瞼を開く。なんだかその瞳には不穏な揺らぎを覚え、私は自然と身構える。
「勝敗は……どっちが勝ったの?」
エリナは私を無視し、回復魔法を掛けたヨピちゃんに尋ねる。
「んー……状況的に見たらテレちゃんの勝ちだよね」
「くっ…………でも、それは──」
「よ、よしっ」
あ、やばい。なんかめっちゃ横から殺意を感じる。
「でも、流石にエリちょんの勝ちかなー」
「な、なんで!?」
「テレちゃん自分のこと気にしなてなさ過ぎー。ヨピちゃんが回復魔法掛けてなきゃ死んでたよー?」
「え?」
「…………呆れた。あんた気付いてなかったの?」
二方向から呆れたような声が行き交う。あれ、どうしてだ。いくら忘れていたとは言え、何とかなると思っていたのだけど。意外と人間の体って脆いのかな。
「ま、けしかけたのはヨピちゃんだけどー。まさかゴリ押しするとは思わないじゃーん?」
「え、いや……え?」
「最初足を止めてた時からあんた詰んでたのよ。あの位置からあたしと撃ち合いするしかなかったの」
「いつも教えるんだけどねー。なーんでか直ぐボコりに行っちゃうんだからー」
「ていうか貴方。勝負の途中で手を貸すとか頭をおかしいんじゃないの。止めなさいよ」
「えー? あそこまでいったら最後までやるべきでしょー」
「あんなので勝っても嬉しくないわ」
エリナはふらふらと頼りない足取りでなんとか立ち上がると、みだれた髪と服装を正し出口へと向かう。
「頭の腫れは一週間くらいで治るよんー」
「えぇ」
「エリナ、もう大丈夫なの? まだ座ってたほうが……」
「もし」
エリナの透き通った一声がすんなりと馴染み、私は続く言葉を打ち止め耳を傾ける。
「もし傷が残ったら…………責任取りなさいよ」
エリナの言った発言の意図がわからず、胸中で何度も反駁する。
「え…………それは、一体どのように……?」
「それは…………あんたが考えなさいよ」
「えぇ…………」
「それも責任よ」
なんという無責任な。私はどうすればよいのだ。
「次はぐうの音も出ないほどに叩きのめす。覚えてなさい」
扉が閉まる直前、剣呑凄まじい様子でそう言い切ると返事を待たずにエリナは訓練室を後にした。なるほど。ヨピちゃんが言っていた『後に響く』とはこのことか……。
それにしてもすごい魔法だった。私は先生とヨピちゃんに鍛えられているから、それなりに魔法は使えるようになった。だがエリナは全て独学で修練してきたはずだ。一体どうしたらあそこまでの技術を磨けるのだろうか。
そして、何故あの素晴らしい技術があるエリナが『落ちこぼれ』なんて言われているのだろうか。
やはり魔力で評価するシステムはおかしい。確かに私達は魔力を灰の嵐へぶつけ対抗するために鍛えている。だが、調べればもっと他の方法でも灰の嵐を消すことが出来るのではないかと思う。なにせ灰の嵐が発生してからまだ14年しか経っていない。エリナの技術力と発想力があれば、先生と協力していつかは悲願の達成だって夢じゃないはずだ。
「…………ヨピちゃん?」
ふとヨピちゃんの存在が気になり、その横顔覗く。いつにもまして真剣そうな表情で出口を見つめると、すぐさまあっけからんと雰囲気を変え私へと相対する。
「さーて、テレちょんも帰るよー。今日はいっぱい休んで一週間後の試験に備えてねー」
「あ…………うん。そうだね」
忘れようにも忘れられない、気になるヨピちゃんのあの横顔。その違和感を拭えることのないまま、私はヨピちゃんに促され訓練場を後にしたのだった。
2023年最後の投稿です。今年も早いですね。
死が迫っている感覚です。