死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
「すまん、ちょっとトイレ行ってくる」
「ええ。行ってらっしゃい」
マイケルはそう言って席を立つと、案内すると言ってクレイトンが先立って扉を開け二人は部屋を後にする。
「えぇ!? 今っ!?」
「仕方ない…………濡れ場があったから、抑えたくても抑えられない衝動が湧き出てしまうの…………ちんぼーが」
「そんなわけかるか。だとしたら時間差がありすぎない? 戦闘直後なんだけど」
「テレジーが汗を流し、苦しそうにしている顔を……想像してしまったんだよ…………」
「マ、マイケルさんはそんな、えっ…………じゃないもんっ!!」
「アリシア…………まだまだだね。マイケルは、男は、獣だよ……」
「け、けもの!?」
「子どもに何教えてんだよ」
妄想も甚だしい。いくらマイケルとはいえそんなことでアソコが悩ましくなることなんてあるはず無いだろう。というかこの状況で臨戦態勢になるなんて見境無しにもほどがある。
いや、男なんてそんなものか。
…………マイケルだし、そんなことないよなぁ?
「いだいッ…………! 暴力反対……!」
「叩かれるようなことするからだよっ」
「そうよ」
「うぅ……ここにわたしの味方はいない…………セフレでも連れて囲わせるか……?」
「また叩かれたいのか? そうなら早く言え、いくらでも叩いてやる」
「せふれ?」
「忘れなさい」
「女も所詮獣……」
「けものっ!?」
「黙れ」
「ごめんなさい」
そうやってすぐセフレセフレ…………そんなにいいものかね、情事は。色欲もいい加減にしてほしい。
あれ、そういえばオーフィアは私には何にもしてこないよな。女として魅力がないってことか? それはそれで腹立つけど、実際どうでもいい。多様性は尊重するが、残念ながら私はそっち系ではないし。
「ねえねえ、オーフィアさんは? テレジー、オーフィアさんとは会ってたんでしょ? いつ出てくるの?」
無邪気に笑って身を乗り出し、オーフィアの話題に移る。確かに私の過去話だけが全てではないからな。
「出てこないわ。面識ないもの」
だが残念ながら、私はオーフィアとは出会ったことがない。だからここは私に変わってオーフィアに語ってもらうとしよう。
「あるよ、面識」
「…………え?」
オーフィアの言葉に私の体は氷のように冷えて固まった。凄まじい勢いで頭がフル回転し、必死に記憶の棚を開けていく。
「ある…………一応。あれ、わたし、だけ……?」
「テレジー酷い!」
「ちょ、ま、待って…………今思い出すっ……!」
あれ、あれ…………!? こんなキャラが濃い女いたらぜったいに忘れないと思うんだけど。乳がデカい全身真っ黒の露出癖変態糞百合女だぞ。
「ふふふ、嘘。テレジーは知らない、と思うよ。少なくとも、顔は、合わせてない」
口を抑えてくすくすと控えめに微笑んだオーフィア。私は誂われていたことに気付く。
「よかったぁ〜。忘れてるのかと思ったわ」
オーフィアは用意された煎茶を一口飲むと、再び話を再開させる。何故かは分からないが、オーフィアの仕草が一瞬エリナのそれと重なって見えた。
「けど、噂くらい、なら知ってるんじゃ……ほら、『夢見の女』とか『女子失踪事件』とか」
「無いわ」
「…………あれぇ?」
再び私の体は氷に包まれ、今度は思考が停止する。いくら記憶を覗いてもオーフィアの『オ』の字も出てこない。
「テレジー酷いっ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! ホントに知らないのっ!」
狼狽えるわたしとは反対に冷静な表情だったオーフィアは、カップの縁を撫でながら考える素振りを見せる。
「多分エリナだね…………わたしの情報を、意図的に遮断してる」
「え、なんで?」
「ん…………わたしが嫌い、だから?」
「嫌われるようなことしたの?」
エリナは優しい人間で、時に恐ろしい一面を見せるが、特定の誰かを嫌いになるなんてことはあまりないはずだ。それに態々私がオーフィアを認知しないよう情報操作する手間をかけるなんて、本当だとしたら相当だぞ。
「手首抑えて耳に息吹きかけながらフェザータッチしたり、壁ドンして尻を触ったりした」
「絶対に嫌われてる」
納得。当然の結果である。
「オーフィアさん酷い、最底っ!」
「満更でもない顔、してたけどなぁ……」
「妄想も甚だしい。エリナが尻触られて喜ぶ変態なわけ無いでしょうがッ!!」
「いやいや、テレジー。尻触られて喜ぶのは変態じゃないよ。当然の結果だよ」
「変態でなくても当然ではないだろッ」
「当然だよ。だってわたしが触ったんだよ?」
「どこに自信を持ってるんだ」
「じゃあ、今から試すから見てて。アリシアで」
「……うぇ? 私ッ!?」
「そうだよ」
「ちょ、ちょっと待って! 近づかないで────あんっ、だ、だめぇ……オーフィアさんっ……!」
オーフィアはさわっ、と妙にこなれた様子のいやらしい手つきでアリシアの尻を一撫ですると、オーフィアの静かな動作からは想像できないほどのアリシアの大きな嬌声が漏れた。
「ほら、一撫でこれだよ」
「なるほど…………いやでもエリナなら耐えられる」
それはそれこれはこれ。エリナは確かに急に迫られると弱いタイプだが、尻を触られたら必ず怒る。それはそれは恐ろしいほどに怒る。だから喜ぶなんてこと万が一にもありえない。
「んっ、だめぇ……あっん、ぅ…………っ!」
「いつまでやってんだよッ」
アホみたいにいつまでも尻を弄り続ける万年発情猿女をアリシアから引き剥がす。ずっと隣であんあんあんあんアリシアがうるさいんだよ、喘ぎ過ぎだろうが。
「ああごめんアリシア。触り心地が良くて」
「も、もう……こういうのは二人きりの時に……」
「…………っ!?」
その時アリシアが発した一言は聞き逃すにはあまりに大きな衝撃を伴っていた。
「アリシア……」
「え…………あっ……!」
はっとした顔を見せるアリシアは、恥ずかしいのか驚いているのか怯えているのか、落ち着きない様子でオーフィアに助けを求めるように視線を送る。
「てめぇオーフィアッ!! とうとう手ぇ出しやがったなッ!!」
マイケルに道案内をしていたクレイトンが耳聡く話を聞いていたのか、激怒した様子でオーフィアに詰め寄る。後ろから付いてきたマイケルは訳分からんといった感じ。それが普通なんだけどな。
「違わない。その通り。わたしはアリシアを抱きました。それはもう激しく」
「少しは悪びれろッ!!」
こいつなんでこんなに堂々としてんだよ。
「すごく良かったので、その報告をお兄さんに、と思っていました」
近親者への寝盗られ報告か。下衆めが。
「許さねぇ。表出ろ」
「ちなみにアリシアは満更でもない様子でした」
「…………本当なのか、アリシア」
「…………うん。良かった…………ぽっ」
頬を朱に染めクレイトンから目を背ける。するとオーフィアはアリシアの肩を抱いて此れ見よがしにドヤ顔を披露する。
「クソぉぉぉおおおおおおッッ!!!」
「に、兄さん…………」
涙を流し地面に突っ伏すクレイトンを見るアリシアの顔は、多少の気まずさの中に呆れのようなものも混じっていたように思える。
「アリシア…………幸せになれよ」
決意固めるの早すぎない?
「止めないの…………?」
「アリシアが幸せなら俺はっ…………くっ……」
「兄さん……っ!!」
「あ、マジっぽいのは、駄目。本命は別に、ある」
途端にオーフィアはアリシアを突き飛ばし、あっけからんと言ってみせた。
クズだ。こいつはクズだ。この二人の寸劇を見ててよくもまぁ言えたな。
「酷いっ、最底っ! 私は遊びだったのねッ!」
「そうだよ、遊び……」
「このクソアマッ……二度と面見せんじゃねぇッ!!」
「遊びでも良い。もっと一緒にいたい…………」
「ん、あぁ?」
はぁ?
「オーフィアさん。私が本当に好きな人を見つけるまででいいから、今までの関係を続けさせてほしいの」
もうやめてくれアリシア。貴方はまだ若い。落ちるところまで落ちてしまう前にオーフィアから離れて。
「うん、いいよ。わたしもアリシアと同じだから」
このクズはアリシアを抱き寄せると、アリシアは嬉しそうにはにかみながら腕を回す。
何なんだよお前ら。もうわかんないよ、幸せってなんだろう。
「くっ……なんだよこの状況…………でも、アリシアがそれでいいなら俺は…………いや、止めるべきなのか? 分んねぇ……」
すまないクレイトン。私はもう考えるのをやめた。頑張ってくれ。
「うーむ、テレジーよ。これは一体どういうことだ 」
「エリナが尻を触られて喜んだ疑惑から、何故かアリシアとオーフィアがセフレになっていた話に飛躍して修羅場突入、と思いきや何故か丸く収まった?」
「なるほど、俺も何かボケたほうが良いだろうか」
「お願いやめて。きっとこれは真面目な話なのよ」
「最近俺がボケる機会が無くてな……オーフィア殿に席を奪われた感じで……」
「なるほどね……まぁしょうがないわよ。今はオーフィアが活躍するときなのよ、物語的に?」
「その流れで行くと、オーフィア殿の次はエリナ殿か?」
「あぁ……イザベラが先かも?」
「負けヒロインになってしまったのか俺は…………」
「いつからヒロイン気取ってたのよ、あんた」
────とりあえず、いざこざを無理やり抑えつけて話を続けようと思う。