死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第六十二話 でしゃばり姫

 

 私達が戦った数週間後のこと。

 

「ムキィイイッ!! 来月こそは勝ちますわッ!! 覚えてなさいッ!!!!」

 

「そうよ! 一時の勝利に酔い痴れていなさいっ。最後に勝つのはイザベラ様よっ!」

 

「そうだ! 笑っていられるのも今のうちだっ。最後に笑うのはイザベラ様だっ!」

 

 私だけ特別に、私が指定した日に行っている定期魔力検査を、何故かいつも特定され勝負を挑まれ、いつも通りイザベラをこてんぱんにした後毎度変わる負け惜しみの文言を聞き、続く2人の威嚇をそうですかと聞き流してカフェテリアに向かった私は、いつも通りエリナと合流した。

 

 あの時のなんとも言えない蟠りはすっかりと解消され、いつも通りの日常を送っていた。

 

「…………ん?」

 

 例の如くカフェテリアで茶を楽しんでいたのだが、珍しくエリナは本をテーブルに置き機嫌が悪そうに遠くの壁を眺めている。

 

「何かあったの?」

 

「ちょっとね。気に食わない奴と出会ってしまっただけよ」

 

「あぁ……」

 

 多分それはイザベラのことだ。

 

 エリナは、私が言うのもあれだが、誰かを嫌うに至るまで他人と関わることがほぼ無い。だから、私が知っている範囲の中でエリナが関わりを持っているのは私かイザベラか、えっと…………イザベラの金魚のフンみたいな2人だけだろう。名前なんだっけ。

 

 まぁいい。とりあえずこういう時はエリナから何があったのかを話し、機嫌が良くなるまで付き合ってあげればいい。じゃなきゃいつか私に矛先が向いて厄介になる。

 

 面倒だな、とかは一切思っていない。寧ろこうして心を開いて愚痴を聞かせてくれることに喜びを感じている。どんなエリナも素敵だと思っているから尚更だ。

 

「…………あたしのこと何にも知らないくせに、づけづけと偉そうに語ってくるのよ…………」

 

「あー、そうなんだ……それはうざいね」

 

 エリナにしては行儀悪く肘を付いて話していたかと思うと、その時のことを思い出して気分を悪くしたのかエリナは机に突っ伏す。

 

「ほんとウザい。けど…………たまにまともなこと言うから、それが更に腹立つ」

 

 イザベラがエリナにまともなことを言うときがあるのか。それって一体どんな確率なの? 

 

「でもエリナなら言い返したんでしょ? そんなにイライラすることあるんだ」

 

「……今回はあたしの負けだった、それだけ」

 

 え、エリナがイザベラに言い負かされるの? 

 

「ちょっと見てみたいな…………」

 

「は?」

 

「ごめんなんでもない」

 

「あいつはヤバい奴だから、あんたには絶対に合わせないから」

 

「会いたくなくても向こうからやってくるんじゃ?」

 

「それは絶対に無いわ。あたしが釘刺してるから」

 

「今日会ったよ?」

 

「何を言って…………待って、それ、イザベラのこと言ってる?」

 

「え? 違うの?」

 

「誰が、イザベラなんかに言い負かされると? 殺すわよ」

 

「いや私だって信じられなかったけどさ……じゃあ一体誰のことなの?」

 

「…………ただの愚痴だから、聞き流して。あとできれば忘れて」

 

「えぇ…………」

 

 ────あのときは誰のことが分からなかったが、多分そうだ。オーフィアだ。

 

「あ、そうだ。ヨピちゃんの話受けることになったんでしょ? 聞いたよ」

 

「暇つぶしよ。それと試したいこともあるし」

 

「あのときの魔法すごかったなあ。今度教えてよ」

 

「あんたには必要ないでしょ」

 

「技術の高さを身を持って味わった身としては、学ばないわけにはいかない衝動に駆られているわけで」

 

「オタク乙。暇があればね」

 

「よし、なら今すぐ図書室にいこう。すぐ行こう」

 

「あたしが暇そうに見えるわけ?」

 

「暇でしょ、行こうっ!」

 

「勝手に決めつけんな…………まぁいいけど」

 

 どこか嫌がる素振りを見せつつも、なんだかんだ付き合ってくれるエリナが好きです。

 

 コツコツと、長い廊下にヒールの音が響く。もちろんそれは私ではなくエリナの方。私はローファーなのでそこまで響かない、むしろペタペタと情けない音が鳴っている。

 

「綺麗に履きこなすね、ヒール」

 

「これしか持ってないからかしらね。慣れよ」

 

「私は全然慣れなくて。スポーツシューズが一番だね」

 

「そりゃそうでしょ、使い勝手が良い用に作られてるもの」

 

 他愛ない会話を続けながら、私達は図書室への順路を歩む。

 

「あら、その姿はテレジーじゃありませんの!」

 

 げっ。

 

 後ろから声を掛けられ恐る恐る振り返る。ここの廊下は訓練場からカフェテリアに向かうのに使われる廊下で、訓練終わりの『子どもたち』と出会うことも少なくない。

 

「相変わらずおサボりになっていると思いきや、これからかび臭ぁいお部屋で内職でもなさるの?」

 

「かび臭くなんかないよ」

 

「あら、間違えましたわっ。この辺が随分と臭うものでしたから!」

 

「馬鹿にしてるの?」

 

「まさか。(わたくし)がテレジーを馬鹿にするとでも? (わたくし)は尊敬しているのですわ、義務を放棄してまでお戯れに興じる貴方を」

 

 イザベラは憎たらしい表情を浮かべると、顎を上げて睨みつけてくる。だが、私の方が背が高いから全然威圧感がない。むしろ微笑ましいくらい。

 

「学問の『が』の字すら知らなそうな人間が良く言えたわね。その年でおままごとに夢中のくせに」

 

「おままごと? 何のことですの」

 

「決まっているでしょう、貴方達が言う『魔力訓練』とやらよ」

 

「聞き捨てなりませんわね。(わたくし)達はこの国を救うために日々を費やしていますわ。それに比べて貴方達は無益なことに時間を浪費している。最早貴方達は反逆者そのものですわ」

 

「この国を牛耳る研究員どもの言うことを頭ごなしに承諾して、盲目的に時間を貪るなんてあたしには出来ないわ。あたしたちのほうがよっぽど人間らしい生活をしていると自負できるわ」

 

「はっ、笑えますわね。人間らしさとは、一体何ですの」

 

「自分の好きなことをし、幸せに生きることよ」

 

「貴方の理論で言えば、(わたくし)は十分人間らしい生活を遅れていると言えますわ。ですが、貴方のそれはただの責任逃れ。自分が落ちこぼれだからと諦めて向上心を潰し、残された時間を無為に過ごしているだけですわ」

 

「おめでたい考えね。まるで貴方は自分を救世主か何かだと勘違いしているみたい」

 

「勘違いではなくってよ。なにせ(わたくし)は救世主そのものですもの。それよりも、(わたくし)は貴方なんかと会話をしに来たんじゃありませんの」

 

 話の流れを察し一歩前に出ようとしたが、横からすらりと細腕が伸びて遮られる。

 

「あたしをコケにするなんて随分と頭が高いのね。背は低いくせに」

 

「エリナ、貴方少々過保護が強すぎるのではなくって? まるで母親ですわ。それではテレジーのためなりませんわ」

 

「はっ、いつからあたしがこいつを守ったというの。あたしはあんたが不快だから早く消えてほしいだけ。こいつがしゃべると長引くからあたしが相手してるのよ、分かったなら失せなさい」

 

「……詭弁ですわ。それはつまり、貴方が一番テレジーを過小評価しているということに繋がりますわ」

 

「は? 何を──」

 

「──誰かに守られなければ、会話することも、人間らしく生きることもできないということではなくって? 貴方の存在がテレジーを『弱い』と証明しているのですわ」

 

「テレジーが、弱い……?」

 

 顔を俯かせながらそうつぶやくと、肩を僅かに震わせながらイザベラの方を向く。その時一瞬だけだがイザベラの勢いが揺らいだような気がした。

 

「エリナ」

 

 エリナの腕を両手で優しく包みこむ。それだけで彼女ならば私が言いたいことが分かるはずだ。

 

「だから、あたしは別に……」

 

「その気がなくても、ありがとう。嬉しいよ」

 

 眉間に皺を寄せ機嫌が悪そうな素振りで渋々後ろに下がるエリナ。だが、エリナの口元が僅かに緩んでいたことを私は気付いている。

 

「ようやくのお出ましですわね箱入り娘さん」

 

「いっぱい言葉勉強したんだね。昔は『不快』って言葉すら知らなかったのに」

 

「国語を学ぶのは国民として当然の義務ですわ。それよりテレジー。何度も申し上げていますけど、どうして訓練に参加なさらないのかしら」

 

「理由は同じだよ。私はローレンス先生から任意参加を認められている。だから私が気が向いたときだけ訓練をしている」

 

「お言葉ですけれど、(わたくし)はその姿を拝見したことがありませんわ。(わたくし)の目は誤魔化せませんわ」

 

「修練場で一人でやってるから」

 

「皆で技術を共有しながら訓練したほうが効率がいいですわ。みんなで高め合ってこその結果だってあるはず」

 

「そんなの要らない。私は十分に義務を果たしている。だからイザベラにとやかく言われる筋合いはない。話は終わり」

 

 なんだか面倒くさくなってきた。早々に切り上げてとっとと図書室に向かうとしよう。せっかくの楽しい気分をこれ以上害されたくはない。

 

「ちょ、ちょっとお待ちなさいっ! まだ話は終わってなくってよっ!!」

 

 イザベラに肩を強く捕まれ身動きを封じられる。無理やり手を振りほどいてイザベラと正対し、怒気を隠すこと無く睨みつける。

 

「もう話すことは何も無いよ」

 

「短気な女は嫌われますわよ」

 

「どうでもいい、女らしさとかくだらない」

 

「まぁそうかもしれませんわね。だって『女らしさ』の欠片もない貴方には関係ないことでしょうからね!」

 

「は?」

 

 私の胸前で手をぶんぶんと振り、私の顔を下から見上げてくるイザベラ。

 

 いや、見上げているのはきっと私の顔ではない。

 

「あれぇ? おかしいですわねぇ、本来あるべき場所には何もありませんわぁ。どこかにお忘れになられたのかしらぁ?」

 

「フンッ!!」

 

 無駄に膨れた醜袋の横っ面を全力でぶん殴った。拳で。

 

「──いっづ、だぁああ!?!?」

 

「いや馬鹿でしょ…………知ってたけど」

 

「二度と胸の話すんじゃねぇぞクソ豚ァ。次やったら火ィ付けて燃やすッ! 脂肪の塊はよく燃えるだろうなァッ!!」

 

「ご、ごめんなさい…………」

 

「……すごい。あたしですら謝られてないのに」

 

 肩でイザベラをどついて道を開け、私達は図書室へ向かった。

 

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