死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第六十三話 恥ずかしがり姫

 

「毎度思うのだけれど、ここの図書室って本当にデカイわよね」

 

「栄えていただけはある、ってことなのかな」

 

「先人には感謝しなくちゃ、ね」

 

 両開きの扉を開けると、開けた大きなホールに出る。何十もの人が座れる大きなテーブルが数多く設置され、本を嗜む人を囲うような本棚が両脇に広がる。最奥部には階段が設置され、そこから吹き抜けになっている2階、3階、4階へと続く。

 

「エリナが『デカい』っていうと、なんだかえっちに聞こえる」

 

「失礼ね、なにを想像してんのよ」

 

「なにも」

 

 自然と見上げようとすれば首を痛めてしまう程の巨大な図書室。どちらかと言えば図書『館』なのではないかと思うのだが、それはさておき、ここには前アスキア王が集積した叡智の数々が収められている。もちろん魔法の論文等もあり、私とエリナは毎日のように利用している。

 

 ちなみに魔法関連の文献は1.2階に分布して蔵書されている。多くの書物が納められている理由は、前アスキア王が迎え入れた妃が魔法関連の技術に非常に貢献した魔術師であり、その成果を一番に集積したためであるとされている。身内贔屓ってやつかな。

 

「本取ってくるから待ってて」

 

「あたしも見たい本があるから。先に下で待ってて」

 

「分かった」

 

 2回まで上がった私達はそこで分かれると、エリナはそのまま3階以降の階段へと進んでいく。

 

「……どこまで行くんだろ」

 

 3階エリアには学術研究等が収められた文献がある。だがエリナは3階で止まること無く4階まで上がっていった。

 

 4階にあるものは主に文芸ものだ。小説とか、詩とか歌とか。アスキア王が各国から誘致した学者人の中に詩人や作家も含まれていたそうだが、その数は図書室に蔵書されている本全体の割合で言えば少ない。そこまで盛んな分野でもなかったのだろう。随分と学術研究に熱を上げていたようだ。

 

 アスキア王ではないが、論文ばかり読んでいるエリナが文芸に手を出すなんて珍しい。よくもまあそんなに飽きずに論文を読めるものだと感心していた。いつも私にオタクと言ってくる割にはエリナも負けずオタクじゃないかと、言ってしまったら最後私は死んでしまうだろうから心に封印しておく。それが処世術である。

 

 心動かされるような小説を読みたい…………そういうときもあるよね。私も休憩がてらたまに読むし。

 

 目当ての本を見つけた私はそれを手に取ると、エリナに言われた通り一階まで降りるための一歩を踏み出す。

 

 …………いや待てよ。迎えに行けばいいじゃないか。その方が楽しい気がする。エリナもきっと喜んでくれることだろう。

 

『えっ! あたしのために態々クソ長い階段を登ってきてくれたの!? 好きっ、テレジーっ!!』

 

 こんな感じになるだろうそんなわけあるか。

 

 ────スパァンッ! 

 

 三階へと差し掛かったところで、上階から何かを叩いたような音が聞こえる。その後ざわざわとした喧騒がただならぬ雰囲気を伝播してくる。

 

 何があったのかは知らないが急いで階段を上がる。エリナが巻き込まれでもしていたら大変だ。むしろエリナが渦中の人物である可能性もあるため、そのときは頑張って擁護しようと思う。もちろんエリナが事を起こしたという確証は一つもない。ないが、一応可能性のひとつとして吟味しているだけだ。

 

 エリナがなにかされた可能性もあるし? 

 

「…………あっ、ご、ごめんなさい」

 

 四階へと到達したその時眼前に黒いドレスを纏った少女が忽然と姿を表した。正面からの衝突を避け素早く身を横に寄せ道を開ける。

 

「ん」

 

 黒髪に黒い瞳の陰鬱とした何処か存在感の薄い少女は短く返答すると、ゆっくりと階段を下っていく。その少女は何故か左頬が真っ赤に腫れていたような気がする。

 

 各階に設置された無数の本棚の内、階段より左に回ったほぼ対角線に位置する所に人溜まりがあった。恐らくそこにエリナがいると思われる。エリナはこういう騒ぎを嗅ぎ付けるのが癖みたいなところがあるから。

 

「あ……あ、あ、あの……すい、ません……」

 

 騒然とする現場に着いたはいいものの、どうしたって近付けやしない。エリナの姿も見当たらない。よく考えたらエリナも私と同じで人混みを嫌う傾向にあるから、そもそもこんなところ来てないのかもしれない。難しい人だな、彼女は。

 

「あら、貴方は……」

 

 その時、私の声を聞いて振り返った緑のショートドレスを纏った女性がこちらを見据える。

 

「ふふふ……どうぞ、こちらへ。貴方の探し求める人はこの先にいますよ」

 

 何故私が誰かを探していると分かったのかは定かではないが、確かに女性が示した方向には、赤髪の中に黒色が散りばめられた特徴的な髪をした人が存在していた。

 

「あ、あ、あり、ありが、と、ぅ……ございま、す……?」

 

「えぇ、うふふ。それでは、テレジーさん……」

 

「な、なん、で……なま、ぇ……?」

 

 不穏な影が潜む優雅な笑い声とともにその女性とお友達らはその場を去っていく。自然と名前を呼ばれたのだがこれいかに。私はあの人と面識があっただろうか。あれか、私は何かと噂になりがちだからきっと今回もその類だろう。

 

「エリナ?」

 

「……はぁ……はぁ……」

 

「エリ……ナ? なんか顔赤いよ」

 

「気の所為よ…………それよりあんた、何でこんなところに……騒ぎを嗅ぎ付けて来るような質でも無いでしょ」

 

「エリナになんかあったのかなって……」

 

「本音は?」

 

「ごめん。エリナがなにかをやらかしたのかなって……」

 

「あんたの前でやらかしたことはないはずだけれど」

 

 頬を僅かに朱に染め息の荒い様子のエリナはこちらを見据えると、いつもならもっと噛み付いてくるはずの問答で矛を収め、背中を本棚に身を預け目を閉じた。

 

「『前で』ってことは、私が見てないところでやったことあるの?」

 

「出会う何年も前よ。気に食わない奴を半殺しにしたの。引いた?」

 

「全然。エリナならやるだろうなって」

 

「あんたのあたしへの印象が分かってしまったわ」

 

「エリナはいつも正しい選択をする。やりすぎることはあるけれど、きっとその時は向こうが悪い。だよね?」

 

「…………そうかしら。暴力でしか解決できなかったあたしの落ち度もある」

 

「後悔してる?」

 

「全然。むしろ正しいって思ってる」

 

「エリナの判断基準が大体分かってしまったよ」

 

「浅はかね、あたしはその程度では測れないわ……ま、だから今回のこともあたしは悪いとは思ってないの」

 

「すごい痛そうにしてたけど」

 

「は? 会ったの!?」

 

「すれ違っただけだよ。黒っぽい人のことだよね?」

 

「はぁ……ならいいのよ。痛い目にあって当然の人間なんだから」

 

 そうなのか。いやそんな人間いないだろ。

 

 気弱そうな人に見えたけど……背の低さと童顔も相まって年下だろう。悪そうには見えなかったけどな。

 

「……エリナ?」

 

 エリナの様子になにか違和感を覚える。それはかつて覚えた既視感とともに徐々に鮮明となり、確信をもって判断できた。

 

「なんか緊張してる? 距離遠くない?」

 

「っ…………してない。寄るな」

 

「寂しい……」

 

「も、もう……なんなのよ……別に、寄るくらいだったら……」

 

「やった」

 

「っ…………!」

 

 耳まで真っ赤に染まったエリナは顔を俯かせながら小さく譫言をつぶやく。流石に何を言っているかは聞こえないが、何故かめちゃめちゃに恥ずかしがっていることだけは分かる。

 

 良くわかんないんだよな……このときのエリナ。そんな恥ずかしがることあるかね。

 

「ほ、ほんとう……あんたってあたしの事好きね!」

 

「? ……うん、好きだよ」

 

「なっ……!? す、す……ッ!」

 

「……え? そんなに驚くこと?」

 

「そんな簡単に……えぇ……?」

 

 すごい面白い顔と動きしてるな。普段冷静な人がこうも慌ててすれると楽しいな。

 

「エリナは? 私のこと好きでしょ?」

 

「は、はぁっ!? 誰が、あんたのこと……」

 

「酷い……そんな風に思ってたなんて…………」

 

「あ、あぁ……ち、ちがくて……その…………」

 

 うーん、あんまりいじめすぎるとあれだな、またこの前みたいに決闘が起こっちゃいそうだな。顔歪みすぎて絞った雑巾みたいになってるし。嘘だけど。

 

「もう……やめて…………」

 

「なんかごめん」

 

「その本貸して……あとで読んでおくから、感想はその後でね……」

 

「あ、うん」

 

 ちょっと手遅れだったらしい。頭から煙を吹き出して私が持ってきた書物を抱え、とぼとぼふらふらと歩いて去っていくエリナ。その背中を見つめながら、私は一体あの黒い少女がエリナに何をしたのだろうと考えた。

 

 ──まぁ考えただけで、私は今に至るまでそのことを忘れていたのだが?

 

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