死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第六十四話 やぶ蛇姫

 

「なーんか最近エリナが冷たい」

 

 いつもの戦闘訓練でヨピちゃんと戦ってボコボコにされたあと、受け取った生理食塩水を飲みながら愚痴っていた。

 

「そうなんー? でもあれっしょ、テレちゃんがまたなんかしたんでしょー、前科あるしー?」

 

「いやいや、あれは誤解だから。今回のはよく分かんないんだよ」

 

 いつだかのシャワー室事件は確かに私が責め過ぎた。それ故色々と周囲に要らぬ誤解や確執が発生したが、それはそれこれはこれ。

 

「余所余所しいんだよね。妙に」

 

「例えばーん?」

 

「目を合わせてくれなかったり、ページ捲る速度が異常に遅かったり、コーヒーに砂糖入れ忘れて苦さで戻しかけたり」

 

「おほー、想像以上ー」

 

「歩いてるときに手がちょっと触れただけで壁まで吹っ飛んだり、私が部屋に遊びに行ったら飛び跳ねて窓から落ちそうになるし、偶然廊下で出会って体がぶつかっただけでひっくり返って仮死状態になるし」

 

「ちょ、ごめん待って、なんかキャラ崩壊してない?」

 

「挙句の果てには私の姿を見ると全速力で走り去るし……流石にプライバシー保護の観点からこれ以上は詳しく言わないけど……」

 

「十分詳しいよ、流出だよそれは」

 

「おかしいでしょ? エリナ」

 

「おかしいね、やばめだねー」

 

 そうなんだ。なんか、その、私の知ってるエリナがエリナじゃなくなっていくような感じ。一体彼女に何が起こっているの? 

 

「おや、テレジー。今日も訓練をしていたんだね」

 

「あ、先生!」

 

 控えめに開けられた扉からゆっくりとした速度でこちらに歩いてくる先生。シワだらけでちょっと汚いいつもの白衣を纏い、この場には少々似つかわしくない。

 

 顔色は良くないのがローレンス先生の常だが、それにしても少し様子が違うような。ちょっと皴が増えたか? 

 

 そんなわけ無いか。そうだそんなわけ無い。

 

「ヨルフェルコ、準備を」

 

「りょー」

 

 先生の短い指示を受けたヨピちゃんは全て分かっているような様子で返事をし、足早に特殊訓練室を後にする。

 

「テレジー。何か、悩んでいるのかい?」

 

「エリナの様子が変なんです。私、エリナに嫌われたのかな……」

 

「ふむ……そうか。それならテレジー、今から僕が言うことをよく聞くんだよ」

 

「は、はい」

 

「きっと今日の彼女は普通に戻っているよ。だからテレジーも、何事もなかったように接するといい」

 

「……? 分かりました」

 

「いい子だね。それじゃあ僕は行くよ、仲良くするんだよ」

 

 先生は確信に満ちた瞳でそれだけ伝えると、ヨピちゃん同様特殊訓練室を後にした。残された私は手に持った水筒を一気に飲み干し立ち上がる。

 

 ま、先生が言うことだし、間違えはないか。

 

 軽くシャワーを浴びて汗を流してから着替え、いつものようにカフェテラスへと向かう。先生の言う通りエリナが『いつも通り』ではあるならばきっとそこに居るはずだ。そうでないなら居ない可能性もあるが。

 

「…………あれは……」

 

「……あら、テレジーじゃないですの」

 

 ここのカフェテラスはカフェとして利用するにはやや広めの敷地だ。中庭を改造したものなのだから当然といえば当然なんだけど。

 

「ベラー、その人だれ?」

 

 イザベラの周囲に子どもたちが集う。大体6人くらいだろうか。十歳になれば城内の移動可能な範囲が広がる。それに伴って最近入ってきた子たちだろう。

 

「何か暗ーい」

 

 失礼なガキだな。

 

「イザベラよりおっぱいちっちゃ」

 

「あァッ!?」

 

「ひぃっ!」

 

「やめなさいノース! この人はまぁ……一部を除いて凄い人なんですのよ!」

 

「一体どこを除いたんだろうなァ……!?」

 

「ひぃッ、そ、それは、根暗な所に決まっていますわっ!」

 

「あぁ、確かに?」

 

 根暗なのは認めなくちゃね。認めたくないけど、認めないと前に進めないというか。意固地になって根暗じゃないと言い張ると、返って根暗っぽくなるというか気にしてる感が出るというか。

 

 まぁなんだ。

 

 私、思考はポジティブだけどね。一応、言っとくけど。

 

「ねーベラー。早くー」

 

「もう、十歳になっても甘えん坊なんですのね! ほら、こっち来なさい」

 

「わぁーい!」

 

「わたしもー!」

 

 我先にとイザベラの腕にしがみついた子どもたち。するとイザベラはふんっ、と一息で持ち上げてしまう。片手で2人づつを持ち上げた。それも魔力操作無しで。化け物かよ。

 

「…………」

 

「いや、私はやらないよ……」

 

「…………けち。器もちっさい」

 

「『も』だあッ!? てめぇさっきのガキかァッ!!」

 

「ほーらノース! 貴方もこっちに来なさい。まだ頭に乗れますわよ!」

 

「はーい」

 

「チッ」

 

 あのガキ許さねぇ。ガキだからって調子に乗んなよクソガキ。あと少しでも大きくなってたら半殺しだったんだからなッ! 

 

「……ところで、イザベラは何してんの」

 

「見てわかりませんこと? この子達の相手をしていますの」

 

「随分仲良いみたいだけど」

 

「ふふ、年下の子は皆可愛いですのよ」

 

 うぜぇだけだろ。というかイザベラ、先程から胸ばしばし触られてるけどそれは怒らなくて良いのか。

 

「暇な時に(わたくし)がみんなに魔力訓練の指南をしていますのよ」

 

「へぇ」

 

「この子はカーラと言うんですけど、(わたくし)に負けないくらい魔力が多いんですのよ!」

 

 ふふん、鼻を鳴らし胸を張って威張ろうとするも、私のほうが背が高いので全然威圧感がない。むしろ微笑ましいまである。

 

 あれか、褒めてほしいのかな。なんで? 

 

「そうですわ! 折角ですしテレジーも参加しませんこと!?」

 

「嫌だ。じゃあね」

 

「少しは話を聞きなさいっ! 貴方の技術を腐らせるのは勿体ない無いですわ! それに貴方の教えでこの子達が『追放』されるのを防げるかもしれませんわっ!」

 

 イザベラはいつもとはまた違った真剣さを帯びる眼差しで訴えかける。

 

 たしかにこの子達は皆魔力量が少ない。平均的な『子どもたち』が持つ魔力量に比べその水準は低く、来たるべき『最終試験』の日合格できるかどうかが怪しい。思えばあの時階段ですれ違った黒い子も魔力が少なかった。

 

 その『最終試験』とは、我々『子どもたち』が『大人』と呼ばれる上位存在へとなるための資格試験だ。これを合格することによって私達は晴れて自由となり、日々魔力を国に提供することを除けば放免の身である。

 

 とはいえ、私も誰も彼もその『大人』というのを見たことはないのだが。普段訓練の指導や身の回りの管理を担う研究員達は『大人』ではない。城の私たちが住む区域とは別の棟にいるのだろうが……。

 

(わたくし)がいる間は、誰も『追放』なんてさせませんわ。(わたくし)がこの子達を守るんですの」

 

 追放。それは『最終試験』にて一定量の魔力に到達しなかった者に押される烙印だ。

 

 烙印を押されたが最後、マインドショックを始めとした魔力障害、後に発生が予期される後遺症などお構いなしにその身に宿る全ての魔力を搾り取られる。その後は速やかに『処分』される。その処分は2種類で、大抵の場合体ごと全て魔力へと変換される『分解処分』。

 

 もう一つが……貧民街への『譲渡処分』だ。

 

 詳しいことは言いたくない。

 

「テレジー……どうしてもお願いしたいのですわ」

 

「……少しだけなら」

 

「っ! 本当ですの!? うれしいですわっ!!」

 

 背中を押され、6人の子どもたちの前へと押し出される。

 

 こんなのは気の迷いだ。だが、とはいえ……あまり人前で話すのは得意じゃないんだけどな……。いくら相手がガキだからって緊張はするんだぞ。

 

「なんかこう……内側から触られてるような、ふわっとした感覚? それを離さないで、『ここっ!』ってところで一気にいくというか」

 

「なんかちょっとエッチな話されてます?」

 

「どこが?」

 

「触るとか、ふわっとか、イクとか……」

 

「教育者の立場にありながら教育に悪いこと言うな」

 

「この人えっちー」

 

「変態だー!」

 

「あれ? 私が悪いのか?」

 

「ほらテレジー! もう一回、ですわ!」

 

「あーっと、そのー……魔力って無駄に流れてくると思うんだけど、それを少しづつ小出しにするような感じで流すというか」

 

「分かんねぇーよ」

 

「無駄に流れてくるってなにー?」

 

 あれ、これ私だけの感覚なのか。なんていうか何もしなくても体が熱くなってくる感じあるじゃん。私の場合たまに放出しとかないと魔力障害が出るから大変なんだ。

 

 ……あ、これは私だけの場合だ。

 

「もうテレジーは教えるのが下手ですわねっ! 仕方がないから(わたくし)が教えて差し上げますわッ!」

 

 もう、それじゃいつも通りじゃないか。何だったんだよ私の出番。

 

 それからイザベラは6人の子どもたちに向き合うと、いつもの無駄にうるさい声を発しながら魔力操作について説明していく。なんども行われたのだろう、その声音は優しく、普段の厚かましいイザベラとは全く違う印象を受けた。

 

「どう? 少しは楽しんでいただけましたかしら?」

 

「いや、別に」

 

「そんな……」

 

 がっくりと肩を落とし分かりやすくいじけるイザベラ。何がしたいんだこいつ。

 

「少しでもテレジーが訓練に来やすくなるように、と思っていたのですわ……」

 

 いつもと調子は変わらないが、その目には嘘偽り無く本当のことを言っている者特有の色が映っている。まだイザベラは私を諦めていなかったのだ。

 

「なんど言われても、何を言われても私は戻る気はないよ」

 

「そのようですわね」

 

 私がイザベラの懇願を受け入れたのは、気の迷いだがただの気まぐれではない。来たるべきその時が差し迫りつつある『誰か』を慮ったからだろう。

 

 そんな浅慮な事で、一体誰が救われるというのだろうか。

 

 すべてが自己満足の範疇であり、私はただ自分自身を慰めたかっただけなのだろう。増々自分が嫌になる。

 

「……時間を取らせましたわ。エリナのところにでも愛人のところにでも好きに行くと良いですわっ!」

 

「はいはい」

 

 何だよ愛人って。正妻もいないんだけど。

 

「テレジー。最後に一つ伝えておきたいことがありますわ」

 

「なに」

 

「今度の試験から、貴方へ決闘の申込みは致しませんわ」

 

 ……珍しいこともあるもんだ。一方的にやられることを『決闘』と表する人がいたなんて。

 

「今のままの(わたくし)では貴方を倒せない。だから────」

 

 ちらりと後ろを振り返る。既に背中を向け子どもたちの下へ向かうイザベラは、普段と何も変わらないように見えた。どういう風の吹き回しだろう。

 

 とはいえ、面倒事が減るのは万歳だ。ようやく開放されるということだろう。

 

「そう、勝手にして」

 

 イザベラと別れ、ちょっと離れた所に座っているエリナの下へ足を進める。イザベラの様子がおかしいのはいつものことだ。あれを理解しようとするのは難しいし、多分時間の無駄だろう。

 

「珍しいわね、あいつと長話するなんて。それにあんたが魔法を誰かに教えるなんて初めてじゃない?」

 

 エリナは今となっては懐かしい、以前のように難しそうな本を読みながら、特製ドロ甘コーヒーに口をつける。おお、先生の言う通りいつも通りだ。

 

「まぁ、気まぐれだよ。そういう日もあるってこと」

 

「そう」

 

「……もうなんともないんだ」

 

「は? 何がぶつわよ忘れなさい」

 

「はい」

 

 小声でぼそっとつぶやいただけの言葉をしっかり拾われた。余計なことを言うべきではないなと学びました。

 

「そういえば昨日のことなんだけど、なんか人影が異様に少なくなかった? 特に女子、というか女子が」

 

「…………あぁ、それは、あれよ。大規模な女子会? みたいなやつよ」

 

「え、呼ばれてないんだけど」

 

「呼ばれたいの? いや呼ばれてもいかないでしょうが。ちなみにあたしは誘われたわよ、行かなかったけど」

 

「じゃあ同じじゃん」

 

「あんたと違って参加資格はあった、って事以外は同じね」

 

 相変わらず捻くれてるな。そんなに大事かね、人から誘われることが。

 

「さっきさ、イザベラから言われたことがあって。なんでも今度から私に魔力勝負を挑まなくなるんだって」

 

「……へぇ。とうとう負けを認めたのね」

 

「多分そんな感じ?」

 

「それ、面倒になって帰ってくるだけじゃない?」

 

「いやいや無いでしょ。というか毎度の如く似たセリフ聞かされる私の身にもなってよ。本当時間の無駄だよあれ」

 

「あれのこととはいえ辛辣ね。けれどどうするの、力を付ましたわーって言って1か月後に挑んできたら」

 

「もうそれはただの馬鹿だよ」

 

「ま、そうね。そこまでの馬鹿ではないわね」

 

「え?」

 

 そこでエリナがイザベラ側に付くとは思わなかった。彫りながら私に便乗して口汚く罵るものだと思っていたのに。

 

 やっぱりまだ調子が悪いのか。そのことには触れないけど。

 

「なに?」

 

「なんでもないです」

 

「…………そうそう。あんたが教えてくれた本、読んだわよ」

 

「本当っ! どうだった!?」

 

 それからは確か他愛のない話をした気がする。本の感想を聞いたり、愚痴を言い合ったり、魔法の勉強をしたり。

 

 だが、私は一つだけ聞けなかった。

 

 エリナは先程私が『子どもたちに魔法を教えた』ことに対いして及した。それはエリナが私とイザベラの会話を聞いていたからこそ達した発想だ。ただ場面を見ていただけならば、私が子どもたちに魔法を教えるなんて思いもしないだろう。

 

 それはつまり、イザベラが言った『追放』という言葉も聞こえているはずだった。

 

 エリナの魔力は少ない。それもあの子どもたちがもつ半量にすら達しないくらいに少ない。定期的に行われる試験では、一定量のマリョクを残せなかったものは処分されるのが決まりだ。それ故に何故そんなエリナがここまで残っているのかがそもそも疑問なのだ。

 

 エリナは何かを隠している。それは分かる。だけど、それは私が踏み込んでいいものなのかが分からない。きっと触れてほしくないからこそ、私が出会って話してきたエリナは『未来の話』には絶対に触れない。

 

 知りたい。けれど恐ろしい。

 

 このままエリナとはいつも通り平和な日々を過ごすのだろう。だが、『最終試験』の日が来たならば状況は一変する。きっとエリナは処分される。私はきっと『大人』になる。

 

 エリナは、そんな私のことをどう思っているのだろう。

 

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