死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
あ、やっちゃった。
マッチョを見ていたから、ついその貧相な体に本音をぶつけてしまった。ボディビルダーであれば毎日の厳しいトレーニングに励んでいるから、筋肉と比例して器もでかくなる。この程度のことで突っかかってくるとは、やはりガリは短気なものだな。鍛えろ。心も体も。
「失礼」
「ちっ…………ほらよ」
落ち着かない様子で下っ端レジスタンス構成員は……ちょっと長いから今後ガリッパと呼ぶ。ガリッパは私に2つの包を乱暴に押し付ける。中身を確認するまでもなく爆薬と数日分の食料だろう。いつも通りの支給品だ。
「この前の奴はどうした? 姿が見えないが」
「あァ、『消されたよ』。うちの所有物に許可なく手を出されちゃァ黙っていられないよなァ……?」
「…………」
どうせあの手の輩は大量にいるから、気にすることはないのだが。抜け駆けは許されない、ということだろう。心底気持ちが悪い。服従の身なれど、お前らの所有物になった覚えはない。
「よ、よし荷物はちゃんと渡したぞ…………へ、ヘヘっ……そ、それじゃあ、早速……」
……は?
さっきから様子がおかしいと思っていたが……まさか、今日はこいつが『当番』なのか?
仕方が無い。今日は疲労困憊だから勘弁願いたいところだったが……抵抗することもできないから、受け入れるしか無い。
その時後ろから肩をちょんちょんと突かれた。
「むぅ? テレジー、その御仁は友達か?」
振り返るとマイケルは何かに疑問を持ったのか顎にあたる位置を気にしつつ、首を傾げて私に尋ねてくる。
「……違う。仕事の、関係だ」
あまりにも斜め上の切り口だったので言い淀んでしまう。私は変に冷めた口調にならないよう気をつけながら返答する。
「そういえばテレジー。前にもこんな風体の輩に追いかけられていたな。あれは何だったのだ? モテ期か?」
「まぁまぁ嫌な言い方ね……似たようなものだけど」
「それはなァ……オレ達レジスタンスにとっての邪魔者を、ボマーに始末してもらってる。そのせいでこいつは貧民街の連中から命を狙われてるってわけさ」
だいぶ掻い摘んで説明したな。邪魔者って言うと少し語弊がある。
レジスタンス。彼らはこのアスキア帝国のあり方に疑問を持ち、革命を起こそうとしてる連中のことだ。彼らは地道に活動に必要な物資や武器防具を集め、最終的には貴族街であるマグナ・アスキア城を落そうと企てているわけだ。
しかし人が集まればその分争いごとは起きるリスクが生じる。例に溺れずレジスタンスは革命を起こす手段や最終目標の違いから革命派と穏健派の2つに別れた。簡単に言えば前者が軍出身者が多い荒くれ者の集まり。後者が争い事を好まない者たちが集まる残り滓集団、といったところか。『残り滓』と言ったのは、分派の際に大半を革命派に人員を持っていかれたためである。ちなみにこの見窄らしい風体の輩、ガリッパが所属するのは革命派だ。
そんな彼ら革命派に取っての邪魔者とは、革命派曰くレジスタンスに非協力的で、『徴税』と称した配給切手などの回収、必要物資の融通に従わない奴らのことだ。また時には革命派も活動を阻害することもあるらしく、革命派の幹部陣は私を使って穏健派の構成員を少しずつ減らし、派閥争いにおいて優位に立とうとしてる訳だ。
しかし表立って革命派が穏健派を潰すことはできない。なにせ分派した、今はほぼでき同士の間なれど元は同じグループ。この国を変えようとしている同士。対立の深さ、しかも革命派がそこに一枚噛んでいると民衆に伝われば、どうなるかは自明だ。
そこで私の出番だ。私が『個人的に』殺戮をしてるとなれば、革命派に悪評が流れることもなく穏便に済ますことができるという、実に愉快な仕組みだ。考えたやつはきっと性格が悪いぜ。
後は他にも食料を効率よく得るために、適当な貧民共に恐喝を行って配給切手を奪ったり、テリトリーを所有する貧民を始末したりするのが主な私の仕事なのだ。
……というような内容を私からマイケルに説明した。
「貴族出身のこいつは恨みを買いやすいからなァ……正しくオレたちの『体のいい』駒だってことよォ」
わざわざガリッパが『体のいい』を強調したのが些か鼻についた。はっきり言って不愉快だ。
「……ふむ。その見返りがその2つの袋というわけか。中身は食料か?」
「あァ? てめェ頭ん中お花畑かァ? そんなんじゃ足りるわけねェだろ」
そんな簡単な話はない。
貧民街では言わずもがな食料は大変貴重なものだ。それもレジスタンスという大規模な集団だ。活動分の食料を調達し全員に配当する難しい。いくら革命派に手を貸しているとはいえ、手に入れた食糧を貴族街出身である『グズ以下のゴミ』の私に渡すこと理由など万に1つとしてない。
──ある日貧民街に来てから数ヶ月が経った頃。毎日の食料に困っていた時。まだ分裂したばかりで日が浅かった現レジスタンス革命派の指導者であるクロードが、私にある『対等』と謳う契約を提示してきた。
正気の人間であれば引き受けることはないだろう、もふざけた契約内容。しかし今の生活に限界を感じていた私は、身に迫る余計な危険から逃れたいと思い、その契約を結んでしまったのだ。
「こいつにはなァ……殺戮者としてこの街中の恨みを引き受けてもらうのと……」
「……」
「オレ達の『おもちゃ』になっちまったのさァ!」
アジトが静寂に包まれる。ガリッパはニヤニヤしてマイケルの反応を眺めている。どうやら彼は自分が作り出した空気を楽しんでいるようだ。
私の魔法師としての力を有効利用したかったクロードは、食料の提供と寝床の確保に引き換え、要人の排除と革命派メンバーの慰安婦となることを命じた。
要人の排除は月に何回か。最近では郊外に現れた魔獣の討伐を引き受けた。慰安婦としての活動はほぼ毎日、この部屋で代わる代わる男たちの相手をしている。食料と爆薬は定期的に配給される。これが今の私の現状。
これでも昔と比べれば生活は改善されたほうだ。今日死ぬか明日死ぬかの瀬戸際で精神をすり減らし、殺し合いに没頭する日々は流石に堪えた。それから見れば今は生き死にの心配なく安定した生活を送れている。一年以上そうして過ごしてきたから、今では慣れっこだ。
……慣れた、と言うのに。心の中で長々と、私は一体誰に弁明しているのだろう。
「そういうわけで今日はオレの番って訳だ。お前もこいつを抱きたかったら革命派に入るんだなァ。と言ってもその前にオレが今日こいつを壊しちまうかもなァ!? ハハハハハハッ!!!」
ガリッパはまもなく訪れる展開に興奮しているのか早口で捲し立て、息を荒げる。
「だからよォ、おっさん。出てけや」
ガリッパはそう言い終えると、マイケルの肩を強く押す。しかしマイケルはその場から一歩も動かず、逆にガリッパが後ろにつんのめった。
「てめェ……生意気なァ!!」
気に触れたのかガリッパはマイケルに殴りかかろうとする。殴りかかるその寸前マイケルは素早くガリッパの懐に入ると頭を掴む。ガリッパは突然頭を掴まれパニックで固まったところに、マイケルは強烈な頭突きをお見舞いした。
『ジェッ』
マイケルは素早く身を屈むとよろけたガリッパに短いながらも鋭いアッパーを食らわせた。
『ドリャ』
「グハッ!?」
突然の衝撃にガリッパはその身を宙に浮かせてしまう。すかさずマイケルは高くジャンプすると、空中にいるガリッパに正拳突きで追撃を行い地面に叩き落とす。マイケルはいち早く着地して中腰でジャブを2回繰り出すと──。
『ドリャ』
「グハッア!?!?」
再び鋭いアッパーを決める。マイケルは先程と同じように宙に浮いたガリッパに空中から追撃を行う。地面に落ちたガリッパは、今度は両足で踏ん張る。だがマイケルはそれを読んでいたのかローキックを放って足元を狂わせる。体勢を大きく崩し転倒したところにハイキックを繰り出しガリッパの体が宙に浮く。
……いや今のは絶対に当たってないだろ。何で当たってるの。
『ドリャ』
「グオォォ!?!?」
三度アッパーを食らったガリッパはその身を高く宙に投げ出す。マイケルはそこに追撃するのかと思いきや、今度はガリッパの落下先に移動。そこで身を屈め拳を下段で構え、力を思いっきり溜めて──。
『イ゛ヤ゛ァ゛ッ!!!! 』
落下してきたガリッパの背骨に全身を使って振り抜いた拳がぶち当たった。
「うぐわぁァァァああああ!?!?!?!?」
スパァァァンン!! という気持ちのいい音を立てながら、天井を突き抜け空へ飛んでいった。吹き抜けになって地下から覗く空の一つ星がキラーンと瞬いた。彼は星になったのだ。
なったのだ、じゃねーよ何納得してんだよ。いや納得してねーよ。
冷静に今の状態を考える。つまり、えーっと……私達は革命派の連中に手を出してしまった。なんなら手を掛けてしまった、ということだ。間接的にとはいえこんな事をやってしまったのだから、私への追求が来ることは避けられないだろう。それだけで済めば安いほうだが。
なるほどね。
「……何やってんのよぉぉぉぉおおおお!?!?」
「ここが貴様の墓場だァ!!」
マイケルは一番星に指差してそう言い放った。
「縁起悪いわッ! 人の家墓場にすんなッ!!!」
──私は全力でマイケルのケツを蹴った。