俺の名前は地毒白刃(ぢどく はくば)。
年齢は5歳。
5歳と言っても、産まれた時から前世の記憶を持つ所謂転生者ってやつ。
前世は平和な日本でのうのうと暮らし、ニートのまま病気で苦しんで亡くなった。
ぶっちゃけ楽な人生で、死ぬ間際までニートをさせてくれてた前世の両親には感謝しかない。
両親が亡くなってから『もっと親孝行すればよかった』なんて在り来りな後悔もしたが、感謝の気持ちは忘れたことない。これだけが俺の自慢かな。自己満とか自惚れだけど。
だから前世は満足だった人生だ。
なのに俺は転生した。
何故? そんなの神のみぞ知る。
転生とか前世の記憶とか、それはまあいいんだよ。
前世でこれでもかってくらいそういったラノベやマンガを楽しんでいたんだから。
でもなんでもっと平和な世界に転生させてくれなかったかなぁ。
ここあれだよ? 僕のヒーローアカデミアだよ? 訳分かんない超能力者ばっかりの世界よ?
ヴィランっていう敵が蔓延ってて、それを倒すヒーローなんて職業がある世界よ?
ならこの世界で自分は平和なところで暮らしていけば良くないか、と思ったそこのあなた!
そうは問屋……というか神が卸してくれない訳だ。
何故って?
何故なら、
「何の真似だ、小僧?」
「…………」
ヒロアカ世界のナンバー2ヒーローのエンデヴァーから、あの轟焦凍を庇いながら対峙しているからさ!
それは少し前のことだ―――
――――――
―――
5歳になって早々、焦凍の稽古が始まった。
マンガやアニメで見た通りで、エンデヴァーは容赦なかった。
分かるよ。エンデヴァーのどうしてもオールマイトを越えられずに絶望して、自分の悲願を子どもに託すってのは分かるよ。
でもさ、ヒーローがここまで家族内めちゃくちゃにするのって、正直どうかと思うんだ。
だからさ、やっちゃったんだよね!
俺の個性、毒で!
いや、やっちゃったって言っても、そういうやっちゃったじゃないぞ!
産まれてからずっと個性を扱う特訓をしてたんだ!
危ない個性だからこそね!
大人が目を離している間とか、みんなが寝ているすきに、落ち葉とか庭に生えてる雑草とかに個性使って調節したり出来るようにしてきた。
転生特典って感じなのか、俺は毒を自分の考えた通りに生成出来るっぽい。
―――
――――――
なので今日はとうとう俺の我慢も限界だったから、稽古場へ忍び込んでエンデヴァーに俺特性の麻痺毒を塗った針を転んだと見せかけて脚にプスッとやってやったんだ。
「おじさん、俺言いたいことある。おじさんに。だから悪いけど個性使わせてもらったんだ」
「……何だ?」
「おじさんって本当にヒーローなの?」
「は?」
俺の質問の訳が分からず、間の抜けた声を零すエンデヴァー。
でも俺は言いたいことを言う。そうじゃないと轟家は崩壊するから。
だって嫌じゃんそんなの。
俺はそもそも、出来ることならヒロアカの世界でも平和に暮らしたいと思ってた。
まあ誰だって平和に暮らしたいと思うよな。
でもさ、多分神様かなんかが前世の俺に楽して暮らしてきた分、試練を与えたんだと思う。
だって俺の両親はナンバー2ヒーロー:エンデヴァーの家、轟家のお抱え医師だから。
原作にそんなのいなかったのも、俺がこの世界に転生したのも、きっとこういうことなんだと思う。
だって思いっ切りお家騒動というか、家族問題に思いっ切り巻き込まれる前提じゃん。
最初はふざけんなよって思ってたさ。だって赤ん坊の頃から、あのヒロアカ1、2を争うイケメンである轟焦凍が基本俺の隣にいる状態だったんだから。
俺たちは同い年。誕生日は俺が5月で、焦凍が1月だから、数ヶ月先に俺が産まれてる。
んで赤ん坊の頃から轟家にはお世話になってる。
両親は轟家のお抱えとはいっても、地毒病院っていう地域で一番デカい病院の医院長と副医院長だから。
因みに父が内科医でありつつ、その界隈じゃトップレベルの麻酔医。母は外科医でこっちも界隈でトップレベルの腕を持ってる。
医者ってのはどの世界でも忙しく、俺の両親もそれは同じ。ヒロアカの世界だから怪我人も多いしね。
だから、俺は轟家に預かってもらってて、焦凍の母親である冷さんや焦凍の兄弟に面倒を見てもらってる。
そして何故か焦凍は俺にべったりだ。
まあイケメンってさ、赤ん坊の時だとクソかわいいんだわ。
だからなんていうの? 弟みたいに構ってたら、めっちゃ懐かれたんだよ。
そんな子、守れるなら守りたいじゃん。
「自分の子どもをナンバー1ヒーローにしたいのは分かるよ。ずっとナンバー2だったのは悔しいだろうし、オールマイトの強さを知ってるなら余計にその絶望とか壁の大きさに限界を感じたのも理解する」
でもさ、
「だからって自分の家族を守らないヒーローが、ナンバー1のヒーローを作り出そうとかバカげてるんだよ。オールマイトは違うよ。自分の手の届く全てを守れるように強くなったんだよ? そんな人に敵う訳がない。自分の家族を平気で傷付ける人がさ。俺から見れば、しょうちゃんたちや冷母さんを傷付けるエンデヴァーは敵と同じだよ」
「貴様に何が分かる!!!!!」
めっちゃキレてるー!
そりゃあキレるわな。でも俺は言うぞ。エンデヴァーに何を言われたって!
だって焦凍……しょうちゃんの笑顔は最高だからな! 冷さんもめっちゃ優しいし、燈矢兄や冬美姉、夏雄兄だってみんなみんな優しい。
なのに笑わなくなった。
家族の笑顔を奪うヒーローなんて聞いたことない。
「分かんないよ。俺はエンデヴァーじゃないもん」
「なら――」
「――しょうちゃんだって分かんないよ。というかみんなエンデヴァーじゃないもん。分かるはずがない。全部家族に押し付けて、自分本意で行動してる。敵だよ。何が違うっていうの? ヒーローは人々の笑顔を守る職業なんだろ? 家族の笑顔は奪っていいんだ?」
ふざけんなよ
子どもながらに本気で低い声が出たと思う。
片膝を突いてるエンデヴァーは俺の視線から逃れるように視線を逸らした。
「燈矢兄はサポートアイテムさえ使えばいくらだって強いヒーローになれる。自分の理想と違うからって勝手にはしご外してんなよ。冬美姉や夏雄兄だってそうだ。自分の子どもだからって勝手に評価下すな。なんだよハズレとか。自分がどれだけ偉いと思ってるんだ。自分だってオールマイトに届かないハズレのくせに、棚に上げて語るなよ。今の地位や、財産とかだって、全部エンデヴァー一人で得てきた物じゃないはずだ。代々受け継がれてきたものだ。こんなことじゃエンデヴァーの代で轟家は終わりだよ。それも自分のせいで。自分のことしか考えてないせいで!」
それからエンデヴァーは麻痺毒の効果が切れたのか、立ち上がってきた。
こうなったら!と依存性のない幻覚を見せる毒をエンデヴァーに浴びせて、しょうちゃんたちのトラウマを味わわせてやる!
と思ったが、エンデヴァーは何も言わずにその場を去っていった。
「はくくん……」
「手当てしに行こう」
「でも……」
「また守ってやるよ」
「怖くないの?」
「怖いよ。でもしょうちゃんや他のみんなが傷付いてるの見るのはもっと嫌だ」
俺はそう言ってしょうちゃんの手を引いて、冷さんのところへ連れて行って、手当てした。
両親から手当ての仕方は教わってたし、前世でも傷の手当てくらいは自分でしてたから。
その後、エンデヴァーは暫く家に帰って来なかったけど、帰って来たと思ったらしょうちゃんの稽古も、燈矢兄たちにも冷たく当たるようなことはしてこなかった。
後々分かったけど、俺の両親にしこたま説教受けて、今後は家族に自分の考えを押し付けないと言ったそう。
俺の父さんはエンデヴァー……炎司さんの幼馴染みで親友なんだと。
なんでも『白刃に言われても分からんのなら、お前の家族は全員こっちが預かるぞ!』とまで言ったらしい。
父さんも母さんも前々から注意してたみたいで、子どもにまで言われたと聞かされて我慢の限界突破をしたんだろう。
まあうん。エンデヴァーが悪いよ。
これから頑張って家族サービスしてくれ。
という訳で、俺はこんな世界で、今世を頑張って生きていこうと思ってます。
エンデヴァーサイド
俺は愚か者だ。
前々から親友に言われていたことを聞かず、家族を苦しめてきた。
それを焦凍と同じ、5歳の親友の子どもに現実を叩きつけられた。
愚か者だ。
本当にどうしようもないほどに。
でも親友は、
『分かったなら、変えろ。そして態度で家族に示せ。どうせ炎司は言葉足らずなんだから』
と言われた。
正直殴りたくなったが、事実なので何も返せない。
寧ろ返したところで、また親友の子に『やっぱり敵じゃん』と言われるだろう。あの心底俺を蔑むような、哀しい眼で。
家族にこれから俺がすることを見てもらい、許しを請うしか道はない。
責任を取るんだ。でなければ、俺は英雄になんてなれないのだから。
焦凍サイド
お父さんが怖い。
お父さんが嫌い。
いつも僕だけを特別に扱ってくるし、他のみんなを無視するから。
どんなに痛いって言ってもやめてくれない。
もう嫌だ。なんでこんなことされないといけないの? 僕が悪いの?
そんな時、
『おじさん、俺言いたいことある』
はくくんは僕を守ってくれた。
はくくんがお父さんと話してることは全然分からなかったけど、お父さんは起き上がってから何日も帰って来なかった。
帰って来たと思ったら痛いことしない。今まで悪かったって謝ってくれた。
その時も僕ははくくんの後ろに隠れてたけど、はくくんが『良かったじゃん』って笑顔で頭を撫でてくれたから、安心して泣いちゃった。
それからお父さんはお母さんたちとも少しずつお話しするようになった。
まだはくくんのお家みたいにみんなが笑顔で過ごすことは出来ないけど、前みたいな嫌な感じはしてない。
はくくんが守ってくれたから。
だからはくくんは―――
「僕の一番のヒーロー」
―――かっこいい。
読んで頂き本当にありがとうございました!