あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺は黒刃に言われて今朝家に帰った響香ちゃんの忘れ物を届けに来た。
そしたら響香ちゃんに「お礼に映画行こうよ」って誘われたんだ。
な、何を言っているのか分からねぇと思うが、俺もどうしてこうなったのか分からねぇ……頭がどうにかなりそうだ……お礼だとか、感謝だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
だってさ、
「ね、ねぇ……そんな顔しないでよ」
「え、あ、ごめん……こういうの初めてだから」
「そ、そっか……ウチが初めてなんだ……へへへ」
はにかんでる響香ちゃんに手を引かれて街中を歩いてるんだぜ!?
これじゃあまるで……まるで……!
「そういうウチも初めてなんだよ? で、デートするの……」
デートだって! デートだってよ!
え、え、え? マジで? 俺、今デートしてんの?
前世でもこんな展開経験したことなかったからどうしたらいいのか分からねぇんだが!?
DTはその手のお店で卒業証書貰っただけだからな!
「ちょっと……黙んないでよ」
「あ、う、ごめん」
「謝り過ぎ」
「…………」
「でも知らなかった。白刃って女慣れしてるんだと思ってたのに、こんなに動揺するなんてね」
「で、デートなんて経験したくても、経験出来るものじゃない。相手もいないし」
「被身子がいるじゃん」
「被身子ちゃんと二人きりで過ごしても、デート感はないんだよな……こう妹感が強いというか」
「ウチはそうじゃないんだ?」
「そりゃあ……まあ……」
ああ、やめて! 恥ずかしくて死にそう!
精神年齢おじいちゃんでも、前世でそんな甘酸っぱい経験したことないもん! 前世の俺にとってはギャルゲーとか恋愛漫画とかだけのイベントでしかなかったもん!
「素直に嬉しいよ、ウチは。ウチも初めてだから、初めて同士だね」
「お、お手柔らかに……」
「いやいや、意味分かんないし」
「で、ですよね……あはは……」
ああ、会話続かねぇー!
意識すると何話していいのか分かんねぇー!
「ねぇ、ウチが映画誘ったけどさ、白刃的にはどうなの?」
「どうとは?」
「だから、その……本当にウチと観てくれるのかってこと。義務感とかじゃなくて、一緒に観たいって思ってくれてるかなって」
「え……そりゃあもちろん」
「そ、そっか……へへ」
うわーん! 響香ちゃんがかわいいよー!
今日、俺の命日かもしれない……。
というか、うん。冷静になろう。もちつけ……ちゃうちゃう落ち着け俺。
お互い初めてなんだし、そもそもデートプランなんて人によって違うんだし!
ふぅ、うん。難しく考えずに会話しよう。
「響香ちゃん」
「な、何?」
「映画何観るの? 俺、今上映されてるタイトル知らないんだ」
「え、あ……ええと」
そんなこんなで最初はどうしてもギクシャクしてしまったものの、お互いに会話する内にいつもの感じに戻っていったので、映画館に着くまでには緊張も解けていた。
◇
「…………」
「…………」
映画を観終えた俺たちは、映画館内にあるカフェに入って、無言のままでいる。
何故かって? そりゃあ―――
「とんでもなくつまらない映画だったな……」
「お金を溝に捨てた気分ってこういうことを言うんだろうね……」
―――観た映画がB級映画にも劣る駄作映画だったからさ! 寧ろ定番のゾンビとかサメが笑えるくらいに改造されたB級映画の方が見応えあるよ!
「恋愛映画ってなんだろうな……」
「さぁ、ウチにもさっぱり……」
「まずさ、恋愛描写あった?」
「ウチの知ってる恋愛描写は見当たらなかったかな……」
「うん。俺もそう」
「序盤で男の主人公が何の説明もなく唐突に彼女欲しいってなって片っ端からナンパしていくのは百歩譲っていいとしてさ……」
「どうしてどの子も無理難題ふっかけてくるんだろうな。普通に断ればいいじゃん。主人公もどうして『できらぁ!』みたいなノリで挑戦すんのかもアホらしいし……」
「ウチが男だったとして、あんな意味分からんこと強いられたら恋人になりたいなんて思わないわ……」
「俺だって無理だ」
もう映画の愚痴しか出て来ない。
甘酸っぱさの欠片もない。
あの映画の記憶だけ消える都合のいい記憶喪失になりたい。
というか、こんな意味分かんねぇ映画で前世から数えての初デートを終わりに出来ねぇよ!
「響香ちゃん!」
「うぇ!? な、何!?」
「場所移そう。ここにいてもあのアホ映画の記憶が蘇るだけだ」
「それもそうだね。じゃあモール見て周ろうか」
「オッケー♪」
こうして俺は響香ちゃんと共にショッピングモールへ向かった。
◇
「相変わらずここのモールはなんでもあるねー」
「来る度に品揃えも変わってるしな。唯一変わってないのはヒーローグッズ店くらいじゃないか?」
「あぁ、分かる。でも前に比べたらエンデヴァーの増えてない?」
「まあ次こそナンバー1獲れそうって報道されてたしな」
「そしたらやっぱお祝いすんの?」
「すると思うぞ? 炎司おじさんは『そんなことしなくていい』って言うだろうけど、冷母さんたちが準備しちゃえば内心喜んでるくせに渋々ってスタンスで祝われてるはずだ。あの人素直じゃないから」
「流石は長年側で見てきただけのことはあるねぇ」
まあ昔に比べたらかなり丸くなったけどね、炎司さん。会う度に『呼びたいなら、炎司父さんと呼んでもいいぞ?』なんて言ってくるから、基本的に『呼びたくなったら呼びますね』って返してる、ホントそういうとこしょうくんの父ちゃんだなって思うよ。
「あ……」
「響香ちゃん?」
急に立ち止まった響香ちゃんに声をかけたけど、なんか恥ずかしそうに耳のイヤホンジャック弄ってる。
急かすのも悪いから俺は待つことにした。
「え、えっと、さ……」
「うん」
「ちょ、ちょっとここで待っててくんない?」
「? 分かった」
俺が頷くと響香ちゃんは足早にとある店舗へと入っていった。
ぱっと見た感じ雑貨屋っぽい。恥ずかしがらなくてもいいのに。
それから暫くして響香ちゃんは買い物を終えて戻ってきた。手には雑貨屋で買ったであろう品物が入った白い紙袋を持ってる。
「小腹減ってきたし、何か腹に入れる?」
「そうだな。フードコート行くか? それともどっか別の場所行く?」
「白刃は何食べたい?」
「ジャンクな物かな」
「言うと思った♪ なら、駅前のとこに行こうよ。ここよりは空いてるだろうし」
「じゃあそうしますか」
ということで今度は駅前にあるバーガーヒーローに向かった。
◇
店についた俺たちはそれぞれ食べたい物を注文して、店内ではなく近場の公園で食べることにした。今日は天気もいいから、そっちの方がいいという響香ちゃんの判断だ。
「どこもベンチ空いてないな」
「別にいいじゃん。芝の上だって」
「あ、なら俺の上着敷いて座りなよ」
「え、白刃の上着汚れるじゃん」
「洗えば済むから。それに、えっと……初デートだから格好くらいつけたいな、と……」
「……バカ」
「うっ」
「は、早く上着敷いてよ……」
「あ、うん!」
また妙な空気になったけど、響香ちゃんは素直に俺が脱いで敷いたパーカーの上に腰を下ろしてくれた。
「いただきます」
「いただきまーす」
取り敢えず食事で妙な空気を誤魔化す俺と響香ちゃん。
ごめんよ。人生2度目でも女の子の接し方は全くなんだ。
「白刃、ほっぺにケチャップついてるよ」
「え、どっちに?」
「こっち」
「むぇ」
「あ」
ついたケチャップを拭いてくれた響香ちゃんだったけど、ふと俺の唇に響香ちゃんの人差し指が触れて響香ちゃんの顔が真っ赤に染まる。
たぶん、きっと俺も同じだろう。めちゃくちゃ暑い! 熱い? どっちでもいい! とにかくあつい!
「……響香ちゃん」
「なに?」
「そういうかわいい反応されると、どうしたらいいのか分からなくなる」
「え……」
「ごめん。本当に余裕ない」
「…………」
俺が本音を吐露すると響香ちゃんは暫く黙ったあとで、持ってたハンバーガーをガツガツと食べ出した。
唖然とする俺をよそに、ハンバーガーを完食した響香ちゃんは、何か決意したみたいな眼差しで俺に一冊のノートみたいな物を押しつけるように手渡してくる。
「これは?」
「白刃」
「あ、はい」
「好きです。ウチと付き合ってください」
「……」
唐突な告白に俺が戸惑っている中、響香ちゃんはしっかりと俺の目を見て続ける。
「最初はどんな時でも冷静で余裕があって、そういう同い年なのに年上みたいなとこに惹かれた。でも近くで接して距離が縮まる度に、白刃はウチにも焦凍や被身子に見せるような隙きを見せてくれるようになって、もっと惹かれた」
響香ちゃんにそういう風に思われてるなんて思いもしなかった。
俺はただ好きな漫画の世界に入って、原作のキャラが現実でワチャワチャしてるのが見てて楽しかった。
たぶん、どこか自分とこの世界を線引きしていたのかもしれない。
「白刃はそういうの鈍感だから知らないだろうけど、アンタけっこー女子に人気あるからね? 今日だってウチと歩いてて何人もアンタのこと振り返ってて、『隣の子羨ましい』とか『いいなぁ』ってつぶやいてた」
「知らなかった……」
「白刃は自分のこと過小評価し過ぎ。まあ常に焦凍みたいなのがいればそうなるのも分かるけど……ウチは焦凍より白刃の方がタイプなんだ」
「……ありがとう」
「じゃあ付き合ってくれるってことでいいの?」
「響香ちゃんみたいなかわいい子が彼女になってくれるなら本望です……」
「……やった」
小さくガッツポーズをとる響香ちゃん。
それを見て俺は『ああ、自分に人生2度目にして初の彼女が出来た』となんか他人事みたいに思ってた。
でも今あるのが現実なんだから、何も難しく考える必要ないんだよな。
そもそもが原作と全く話の方向性違ってるわけだし、夢じゃないんだから。
なら俺のことをこんなに真剣に好きだと言ってくれる響香ちゃんと幸せになりたい。
「じゃあ早速、これね」
「これは?」
「カップルノート。お互いのことを書いてくやつ」
「そんなのあるのか……」
「うん。恋人記念ってことで今日から始めよ」
「あ、あぁ」
「あとさ」
「うん?」
「ウチ、隠す気ないから」
「ん?」
「白刃はウチの彼氏だってこと周りに隠さないから! ゼッタイ!」
「え、あ、うん」
「じゃあ早速ノート書いてこ。まずは、ウチらのプロフィールから」
こうして俺は響香ちゃんに言われるがまま、ノートに書き込んでいく。
それを響香ちゃんは嬉しそうに眺めてて、なんだか俺まで嬉しくなった。
同時にこの笑顔を守りたいなって心から思えた。
焦凍サイド
「で、俺を置き去りにして白は響香とよろしくやってたってのか」
「しょうくん言い方……」
被身子と黒にオールマイトの新作グッズを買いに行こうって誘われて、ついそれにホイホイとついて行った俺。
白がいないのは寂しいが別に別行動するのは初めてじゃないから違和感もなかった。それに白はオールマイトよりエンデヴァーが好きだから、オールマイトグッズを買いに行こうって誘っても『俺はいいけど心配だからついてくだけついてくよ』ってくらいだ。
俺がグッズを買って帰ってきても白はまだ帰って来てなかった。
暫く白の家の玄関で待ってたら、白が帰ってきた。
俺が近寄ると白から『彼女出来た』って打ち明けられた。その瞬間、俺は被身子と黒に殺意が湧いた。
だってそうだろ? 白が響香に告白されたっていうビッグイベントをアイツらのせいで見逃したんだぞ? 白のことだから響香を幸せにするのは分かってるし、別れるとかはない。てことは俺は被身子と黒のせいで白の人生で最初で最後の告白されたシーンを見逃したことになるし、白が響香から告白されてどんな反応してたか一生分からねぇってことだ。ああ、考えただけで腹が立つ。
「白、俺たち親友だよな?」
「え、うん。もちろん」
「なら今夜家に泊まれ。んでどういう経緯で響香と付き合うことになったのか聞かせろ」
「しょうくん、プライバシーって知ってる?」
「白と俺の間にないものだってのは知ってる」
「あるよ! 親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!?」
「俺はちゃんと白の帰りを待ってた!」
「お利口さんと礼儀正しいは別だよ!」
珍しく俺の願いを聞いてくれない白だったけど、ちゃんと最後は話してくれた。かなり割愛された感があったが話してくれたことの方が俺は嬉しかったから満足だ。
響香、白を悲しませたら地獄を見せてやるからな。幸せにしてくれよ。俺のヒーローを。
響香サイド
『良かったねぇ、響香ちゃん♪』
「ありがとう、被身子。自分でも夢みたいだよ」
夜、ウチは被身子に電話でお礼を伝えた。
強引だったとはいえ、被身子や黒刃ちゃんに背中を押されなかったら、ウチはいつまでも片想いしてただろうから。寧ろ片想いで終わってたかもしれないし。
だから勇気をくれた二人には本当に感謝しかない。
『でも観た映画はハズレだったんだね』
「やめて。思い出したら気分悪くなるから」
『あ、ごめんね』
「うん……でさ、ちょっと被身子に確認したいことがあるんだけど」
『なぁに?』
「被身子は白刃に恋愛感情的な好きを向けてるんじゃないんだよね?」
『うん。白刃様は私の運命の人(ヒーロー)だもん。大好きで尊くて崇めてるよ』
「宗教じゃん……」
『あはは、そうかも。でも安心してよ。私が白刃様にくっつくのも好き好き言うのも血をチウチウするのも、恋愛的意味はないから! 黒刃ちゃんにも響香ちゃんにもみんなにも同じ気持ちで好きって伝えてるよ! もちろん白刃様への好きは特別大きいけど!』
「まあそこは……もう見慣れたというか、そういう形の絆だと思ってるよ」
羨ましいなって何度か思ったことはあるけど、今はウチも白刃の特別になれたから。
『ただ焦凍くんは面倒かも。あの人同担拒否みたいなとこあるから』
「あ〜、なんとなく分かるかも」
『白刃様のこと悲しませないようにね。そうなったら焦凍くん面倒だよ、絶対に』
「ハイ、キモニメイジマス」
『あはは、とにかくおめでとう』
「ありがとう。今度何か奢るよ」
『うん、それじゃあまた明日!』
「うん、おやすみ」
色んなことがあったけど、白刃と恋人になることが出来たし、悲しませないようにウチなりに頑張ろう!