慣れ親しんだ轟家の居間で少し落ち着いた後、冬姉も帰ってきたので一緒になって晩飯の用意をするのにキッチンにやってきた。
当然のようにしょうくんも俺の隣にいるが、被身子ちゃんも反対側にいる。
何? この二人? いつの間にポジション決めたの?
ともかく黒刃は夏兄に任せ、俺は俺でしょうくんからのリクエストでオムレツを作る。
俺が料理するのも珍しくないので、キッチンには俺のためにお立ち台まで置いてくれているくらいだ。
それでもまだ火を使う時は冷母さんか冬姉、夏兄の立ち会いが必要。
「いつも食材使わせてもらってすみません」
「気にしなくていいのよ。白刃くんは焦凍のお兄ちゃんみたいなもので、私たちの家族も同然なんだから」
「ありがとうございます。卵貰いますね」
俺の言葉に冷母さんは「どうぞ〜」と言ってくれたので、冷蔵庫から卵を一パック取る。
前世は一人暮らしだったので一回で一パックを使うのに未だ抵抗があるけど、一パック使わないと圧倒的に足りなくてオムレツの取り合い戦争が勃発する。
パックを開ければ、しょうくんが何も言わずともボウルを持って待機してくれていた。ほんといちいち行動がわんこみたいでかわいいんだよな、このイケメン。
「そのまま持っててね、しょうくん」
「任せろ」
はい、かわいい。
しょうくんが持ってくれているボウルに俺は卵を割って落としていく。
全部入れたら塩と牛乳を加えて一先ず溶き卵にしていった。
あとは、
「冷母さん、賞味期限が切れそうな食材何かある?」
オムレツの中身だ。
冷母さんは「ちょっと待ってね」と言って冷蔵庫の中を確認。
すると余っていた鳥挽き肉を出してくれた。
俺はお礼を言ってそれを受け取り、耐熱ボウルに挽き肉を移して電子レンジで加熱する。
こうすれば生焼け防止になるからだ。
レンジから挽き肉を取り出して、しょうくんが持ってるボウルに移し入れて、塊を崩すようにかき混ぜる。
「ねぇ、かき混ぜるの私やりたい」
そこで被身子ちゃんが興味を持ったので交代。
グチャグチャとかき混ぜる被身子ちゃんは心なしかとてもいい笑顔だ。
「被身子ちゃん、もういいよ」
「分かった! お料理って楽しいね!」
「そりゃ良かった」
いい笑顔だ。思わず被身子ちゃんの頭を撫でる。待ってしょうくん。無言で『俺もお手伝いした』って目で訴えて頭を寄せてこないで。撫でます。撫でますから。
「しょうくんもありがとう」
「むふん♪」
「じゃあ俺は焼くから、しょうくんと被身子ちゃんは居間でお茶碗とか出しといて」
「分かった」
「はい!」
「焦凍、被身子ちゃんのお茶碗は取り敢えずお客様用のを使ってね。夏雄が知ってるから」
「分かった」
そして俺は冬姉の立ち会いの元、オムレツを慣れた手付きで上手に焼きましたー。
◇
料理を居間に運んでいると、ガラガラと玄関が開く音がする。
ただいまとこんばんはの声がすることから、轟家の家主と燈矢兄。そして俺の両親だろう。
その証拠に黒刃がとてとてとお出迎えしにいった。
「おかりー!」
まだちゃんと「おかえり」って言えないけど、かわいさは天下一品だ。
「黒刃ちゃん、ただいまー♪」
「黒刃ー! ただいま! お父さんだぞー!」
「ただいま、私たちのかわいい黒刃♪」
黒刃のお出迎えに喜ぶ両親と燈矢兄。炎司さんも黒刃の可愛さにやられて微笑んでることだろう。睨んでたら殴る。
それから被身子ちゃんをみんなに紹介し、晩飯を終えてから、炎司さんの書斎に俺と被身子ちゃんは呼ばれた。当然のようにしょうくんも付いてきたが、炎司さんは特に何も言わない。
「さて、改めて自己紹介しよう。俺は轟炎司。焦凍たちの父で、エンデヴァーというヒーロー名でヒーロー活動をしている」
「私は白刃と黒刃の父で、地毒修作だよ。医者をしている」
「……渡我被身子です」
二人の大人を前に被身子ちゃんは俺の背に隠れつつも、自分の名前を告げた。
俺は被身子ちゃんを安心させるように頭を撫でてやる。
「急に大人に呼び出されたら不安だよね? ごめんね。でも怖いことはしないから安心してほしい。私たちの質問に答えられる範囲で答えてほしいんだ」
父さんが優しい声色で被身子ちゃんに語りかけると、被身子ちゃんの表情が少し和らいだ。流石小児科も受け持つ医者だ。
それから父さんは被身子ちゃんに様々な質問をし、手帳にその答えを書いていく。
両親の名前、年齢、職業。通っている小学校の名前と通っていた期間。そして個性。
「ふむ。随分と遠くから来たんだね。疲れたでしょう」
「いいえ」
「ではこれが最後の質問ね。お家に帰りたいかい?」
「いいえ」
迷いなく返した被身子ちゃんは俺の服の裾をギュッと握りしめる。
それを見た父さんは柔らかく微笑んだ。
「分かった。じゃあ取り敢えず、暫くは私の家にいなさい。今は白刃たちも冬休みだからね。その間に今後のことを私と決めよう」
「いいんですか?」
「子どもをこんな遅い時間に追い出すほど、私は外道ではないから安心してほしい。それに私は自分の病院の敷地内に君のような子を守るために児童保護施設を経営しているからね」
「父さん、そんなことしてたんだ」
「ああ、白刃には話してなかったね。白刃が産まれる前からやってるんだ。因みに炎司は出資者で、季節ごとのイベント事にはエンデヴァーとして子どもたちにサービスしてくれているよ」
「自分の家族にはあんなことしてたのに、他所様の子どもたちには優しいヒーロー出来るんだ?」
「やめてくれ白刃くん。俺のメンタルをえぐりにこないでくれ」
「いいぞもっと言ってやれ白刃。父が許す。忘れないように少量の毒でジワジワと攻めるようにやってやらないとな」
「修作!」
すがるように父さんの名前を叫ぶ炎司さん。
しょうくんめっちゃ笑うやん。ええで、最高やでイケメンショタの笑顔は。
「こほん。とにかく、被身子ちゃんは何も心配せずに今は取り敢えず自分のことを大切にしなさい。大人のことは大人に任せて、ね?」
父さんが被身子ちゃんの近くまでやってきて同じ目線になって言うと、被身子ちゃんは泣きながら何度も何度も頷いて返した。
それだけ今まで周りから優しくされることがなかったんだと思う。
「さ、子どもはもう寝る時間だよ」
「事情が事情なだけに遅くまですまなかった。今晩は泊まって行きなさい。焦凍、お前の部屋には既に白刃くんの布団はあるが、被身子ちゃんのがないから、お母さんに言って出してもらえ」
「分かった」
◇
それから俺としょうくんは冷母さんに伝えて、布団を出してもらい、一緒にしょうくんの部屋まで運んだ。
そして俺としょうくんがお風呂に入ってる間、被身子ちゃんはまだまだ寝る気配のない黒刃や母さんたちと一緒にいてもらい、俺たちが出たあとで冬姉が被身子ちゃんをお風呂に入れてくれた。
今日は色んなことがあったから疲れたな。
早く寝よう。
因みに俺が泊まるということは黒刃も泊まる。
「くぅ……くぅ……にぃたぁ……」
「癒やされる。俺の妹マジ天使」
「白、俺は?」
「しょうくんは俺のヒーロー」
「むふん♪」
「かぁいい〜♡」
俺を真ん中にして右にいつものオプションしょうくん。同じ布団のすぐ左に黒刃で、その隣に被身子ちゃん。
「まさか父さんが児童保護施設運営してるとは思わなかったな」
「その児童なんとかってどんな施設なんだ、白刃?」
「被身子ちゃんに悪いけど、親に育児放棄されちゃった子たちを保護するところだよ。子どもが一人で生活するのは難しいし、敵に捕まったりしたら大変だからね」
「じゃあ被身子ちゃんはそこに行くのか?」
「……多分」
「私、もう白刃様に会えなくなるの?」
「いやいや、そんなことないと思うよ。そんな収容所みたいな施設じゃないから、安心して」
顔面蒼白の被身子ちゃんに俺がそう言えば、被身子ちゃんはほっとしたように息を吐いた。
暗い雰囲気を紛らわせるため、俺は明日あれしようこれしようと色んな案を出していくと、二人は楽しそうに頷きながら寝落ちしたので、俺も眠りにつくのだった。
エンデヴァーサイド
渡我被身子ちゃんという育児放棄された少女を焦凍たちが連れてきて数日。
まだ親の庇護下にいなくてはいけない少女を疑うようで気が引けるが、ヒーローとして敵が送り込んできた構成員または擬態か操られている可能性を入れて冷や燈矢と共に見守っていた。
しかし敵らしい素振りも、怪しい動きも見せないのでホッと一安心だ。
少しばかり変わった趣味趣向を除けば、コミュニケーション能力もあるし、既に俺の家族たちに溶け込んでいる。人見知りの気もあるにはあるが、それは焦凍や妻も同じだし許容範囲内だろう。少々白刃くんを焦凍と取り合うものの、その姿は年相応だ。
「うちの弁護士が被身子ちゃんの親と接触し、こちらが踏むべき手続きは終わった。あとはどうするつもりだ? 施設に預けるのか? それともお前か俺が里親にでもなるのか? 俺はどちらでも構わん」
被身子ちゃんの件で大人のやるべきことは終わった。
あとは親権を施設にするか、轟家や地毒家にするか、はたまた信頼出来る家に持ち掛けるか。
ちょうど所属ヒーローたちの健康診断でうちの事務所に来ている親友へ問うと、親友は少し悩む仕草をする。
昔から何か考える時は必ずする顎を擦る癖。
しかしその癖をする時は決まって何かを企んでいる時が多いため、俺は思わず身構えてしまった。
「明日、施設でクリスマスパーティーするよね?」
「そうだな」
「オールマイト呼ぶんだよね?」
「頼んだら快く引き受けてくれた」
「ならそのパーティーに被身子ちゃんも参加させてみるのはどうだ? 勿論、お前のとこの子どもたちも都合がつくなら参加させれば、被身子ちゃんも安心だろう。白刃も参加させる。それで施設に馴染めそうなら、本人に最終確認をしてから話を進めよう」
「分かった。しかし冬美と夏雄は友人たちとのパーティーがあると冷から聞いている。燈矢は夜になれば上がれるから、燈矢は参加出来るだろう」
「そうか。なら私があとは引き受けよう」
「すまないな。俺も仕事が終わればすぐに向かう」
「ナンバー1とナンバー2が一箇所に集まるだなんて、子どもたちも喜ぶだろうよ」
「あの男には敵わんさ」
昔より大分若い層からの支持が増えたといっても、まだ奴に敵う気がしない。
弱気になっているとかではなく、現実を受け止めることが出来ているからこその思いだ。
「なぁに気にすることはないだろう。白刃なんか普段はお前にあんな態度を取ってはいるけど、筆入れはエンデヴァーのを使ってるぞ? 小学校に上がって最初に買ってほしいって言われたのはエンデヴァーの筆箱だったしな」
「そ、そうなのか!? 何故もっと早く言わない!? 言ってくれれば――」
「――全部お前の写真付き文房具で一式揃えて持ってくるだろ? 白刃は好きな物ほどその一つを大切に使う性格なんだ。全部が全部お前のになると流石に嫌がられるぞ。何の嫌がらせだって」
「うぐっ」
確かに言われてみればそうだ。俺はいつも良かれと思って一番大切な相手に確認を入れるのを忘れて、行動してしまう。だから親友も敢えて俺には伝えなかったんだろう。流石だ。
「大丈夫。お前はお前が思ってるよりも白刃に嫌われてない。寧ろ応援されてる。オールマイトと僅差だったのを見て、俺よりも悔しがってたぞ?」
「そ、そうか……」
「その顔やめなよ。笑うか照れるかどっちかにしてくれ、暑苦しい」
「元々こんな顔だ」
「そうだな。私じゃなきゃ喜んでいる顔だと分からない、分かりにくい顔をしてる」
「……うるさい。黒刃ちゃんには怯えられたことはないぞ」
「黒刃は熊さんが好きだからな」
「そろそろ本気で火炙りにしてもいいか?」
「私の身に何かあれば、刃子と白刃を敵に回すがいいか?」
「……こいつ!」
「ははは、ナンバー2ヒーローのこんな顔を見れるなんて、いいポジションを持ったな私は♪」
「本当にいい性格をしているな、お前は」
だが、だからこそお前とは親友になれたのだと思う。
それから俺たちはそのまま少し明日のクリスマスパーティーの打ち合わせをして、解散した。
家に戻る前に事務員に言って俺をモデルにしたぬいぐるみを白刃くんと黒刃ちゃんの手土産にしよう。
読んで頂き本当にありがとうございました!