姿を消したコクトーを探すため、街中を探し回った。が、結局見つけ出すことはできないまま、夜の六時になった。彼を探すためにかなり遠くまで来てしまったらしく、辺りの景色に見覚えがない。見回してもタクシー乗り場はなく、まだこの時代では携帯も普及していないため、今夜は野宿をするハメになるかもしれない。
「はぁ、ふんだりけったりだ。まったく」
そんな事を呟きたくなるほど、今日という日はツイてない。
式と最初に出会ってしまい、コクトーを見つけることができなかった。このままでは、《空の境界》が破綻してしまう。さて、次はどうするか───そんな事を考えていた時だった。手に冷たさを感じ、空を見上げると、小さな粒らしき物が降ってきた。
「最悪だ、今日は本当にツイてない」
近くにあったコンビニに入り、喉が渇いていたため、volvicのミネラルウォーターを買って一気に飲み干す。コンビニの窓から外の様子を伺うと、かなりの大雨になっていた。その風景を見ながら少しの間ぼんやりしていると、一人の少女が覚束無い足取りで目の前を通りすぎた。なにか悪いことでもあったのだろう、そう思っていたのだが、やけにその少女の事が気になった。コンビニの傘を買い、彼女を追いかける。
「お嬢さん、この雨の中を濡れて帰るのはよくない」
少女に追い付くと、声をかける。
「いいんです。私、寒くないですから」
少女が振り向く。やっぱり、そんな事だろうと思った。こんな雨の中、濡れて帰ろうだなんて愚行をするのは、《空の境界》でも彼女しかいないだろう。
『浅上藤乃』。原作《空の境界》において、荒耶宗蓮が用意した三つの駒の一人にして、死に接触して快楽する存在不適合者。たしか、【痛覚残留】における式の敵だったはずだ。
今日は4月10日のため、ふじのんは湊啓太とかいうゴミに○○○される前だろう。正直、できることなら彼女を救ってあげたいと思う。しかし、【空の境界】において、『浅上藤乃』というキャラクターは敵でなければならない。だから、ここで変に彼女と関わりを持つことはできない。
「そうだとしても、だ」
彼女の左手に、傘を握らせる。彼女を救うのが駄目だとしても、助けるぐらいは許されるはずだ。
「たとえそうだとしても、人は暖かさを求めてしまうモノなんだよ」
彼女の右手を両手で包み込み、自分の体温を少しでも彼女に伝える。この行為は、ただの自己満足に過ぎない。5分ほどそうした後、彼女に別れを告げてその場から歩き去る。たとえ今が辛くても、いつかその分の幸せが訪れるから、なんて願いながら。
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どうして、なんでしょう。どうしてあの人は私に傘を渡したんでしょう。その表情は哀れみでもありませんでした。父のような嫌悪でもありませんでした。それは、言うなれば慈愛に満ちたモノでした。どうして見ず知らずの私にそんな表情を向けるのでしょう。
なぜ、あの人の手を、私は
やっぱり主人公のキャラがブレブレなんだよなぁ。
非力私許
次回、エレイシア目線書きます