目の前の少女は、涙を流しながらカレーを食べ続ける。
「ほんとうに、ありがとうございます」
その姿はまるで、人に拾われた野良犬のようなものだった。7分ほど経つと、カレーを食べることですこし落ち着いたようで、水を飲みながら遠くを見つめていた。
「お嬢さん、名前は?」
そう彼女に問いかけた。この世界で青髪といって真っ先に思い付くのは、世界線が違うが『月姫』のシエル先輩だ。だが、直感的に彼女はシエル先輩ではない気がする。なにせ、シエル先輩と言えば『弓のシエル』と言われる程の実力の持ち主。いくら幼いとはいえ、そこらへんの魔術師相手なら引けを取らないはずだ。
「な、名前ですか?えっと・・
まだこちらを信用しきれていないのか、探り探りといった雰囲気で答えてくれる少女。たしか、シエル先輩の本名がエレイシアだったはずだ。しかし、この世界は空の境界の世界線のため、この子が《月姫》のシエル先輩である可能性はかなり低い。たしか、《月姫》と《空の境界》は設定は同じで別の世界線だったはずだ。そのため、この子はシエル先輩のそっくりさん、と捉えるのが正解のはずだ。
なら、空の境界の原作にはいないキャラクターだ、一人ぐらい助けてもいいだろう。
「そうかい、エレイシア。俺は蒼﨑紅。さっきからの様子をみるに、なにか厄介事に巻き込まれてると見た。俺でよければ話を聞こう」
そうして、その少女から語られたのは凄惨なものだった。ある日、突然何かに取り憑かれたこと。自分の手で知り合いを殺してしまったこと。
「よく、生きた。生きていてくれた。大丈夫、これから先、何があっても、エレイシア、君を守ろう」
そう言うと、彼女は安心したように、笑った。俺は彼女に睡眠魔術をかけた。抱きしめた時にわかったことだが、目の下にはひどい隈が出来ており、それがかなりの間、エレイシアが眠っていないことを示していた。とにかく、彼女を安全な場所まで運ばなければ、そう思い、彼女を抱き上げ、時計塔の寮までの道を歩いていたときだった。
「おい、そこのお前、その子供を返してもらおう」
路地裏を抜けようとした時、目の前に立ち塞がった祭服を来た神父風の男がそういった。見るからにこっち側の人間であり、殺気たっているのが肌で理解できた。
「悪いが、この子は今から俺の妹だ。妹を手放す兄がどこにいる」
そうか、と呟いた男は手にもった小ぶりの剣のようなものをかなりの速度で投げつけてきた。エレイシアを左手で抱え、タイミングを合わせて右手でその剣の持ち手の部分を掴む。
「(これは・・黒鍵)」
黒鍵は聖堂協会で使われている武器の一つであり、悪魔払いの護符の一種だ。
「ほう、それを掴むとは・・貴様、かなりの強者と受け取った」
男がなにか言っているが、こちらはそれどころではなかった。大切な妹を、『悪魔』なんてものと同一にされたのだ。
「お前、俺の妹に手を出したな?」
シエルをその場に優しく置き、男に振り抜く。
「その魔力量・・・まさか貴様---------」
自身の四肢全ての魔術回路を起動し、強化魔術を発動させる。構えはめちゃくちゃだが、右手に魔力を集め、黒鍵を男に投げつける。瞬間、こめた魔力が爆発し、投げられた黒鍵は音を超えた速さで男を貫いた。かつて、男がたっていた場所には、見るも無惨な肉片が転がっているだけとなった。
肉片を火炎魔術で焼き尽くし、人目につかないように処分した後、地面に置いていたエレイシアを抱き抱えて、寮に向かって走り出した。
明日から学校が始まるので、すこし更新が遅くなるかもしれません。
ちなみに、主人公が死んだら青子と橙子が作った人形に魂が移るらしいです。
※この回だけ文章がめちゃくちゃになってます。作者のアホが一回書ききったあと、重大なミスに気付いて前半をその場で書き変えたからです。できるだけ訂正していますが、後ろと前で設定が食い違うところが出てくると思います。ほんとうに申し訳ございません。