あの日、祖父に重要な話があると伝えられた私と紅は、屋敷の広間に集められていた。広間には本家、分家問わず大勢の人が腰を下ろしており、その間には緊迫感がただよっていた。1ヶ月程前から祖父の鍛錬が厳格になっていたため、おそらく、この場で蒼﨑の後継者が決まるんだろうな、と確信した。それから30分程経ち、なぜか青子達も連れてこられていた。なぜ自分がここいるのか分からないらしい青子は、こちらを見つけると、まっさきに紅の膝の上に座った。
そういえば、最近青子と紅の距離が近い気がする、なんて考えていると、祖父が広間の中心に立ち、老人とは思えないほどの威厳を含んだ声で述べた。
「これより、蒼﨑の次期当主を発表する」
瞬間、それまでの全ての音が止まり、祖父の声だけが静かな世界に響き渡る。
「次期当主は青子とする」
時間が止まる。意味が分からなかった。なぜ、魔術のまの字も知らない青子が選ばれたんだ。それ以前に、それまでの修行を全てこなしてきた紅の努力は一体なんだったんだ。どうして、兄ではないんだ。なぜ、なぜ--------。
疑問で頭がいっぱいだった私に、祖父はこう言った。
「橙子、お前に才能はない。その点、青子の方が魔法を行使するのに向いている。青子を見習え、橙子」
その言葉を聞いた時、尊敬していた祖父の偉大な姿が崩れ去った気がした。なんで、どうして------。握っていた手の甲が冷たく感じ、下を向くと濡れていた。そこで初めて、私は自分が泣いていることに気づいた。自分の努力が否定されたのがたまらなく悔しかったのだ。目頭を抑え、泣くのをやめようとした。だが、涙が止まらなかった。
「アンサズ!」
聞きなれた声が響いた。
「俺の悪口を言うのは許そう、だが、肉親とは言え俺の妹を否定するのは許さん」
紅が、私の兄が、自身の祖父を敵に回しても、私を、私の努力を認めてくれたのだ。それが、どれほど私の救いになっただろうか。
紅が放った炎の魔術に対して祖父は水の魔術を用いてかき消そうとするも、兄の方が出力が上なのか、水を全て蒸発させて祖父を包みこんだ。その場に祖父が倒れこむ。周りの人が即座に祖父に治療魔術をかけるも、祖父は既に息絶えていた。
「すまない、橙子」
祖父が死に、私達は一度両親の元へ帰ることになった。両親が運転する車に乗り、帰り道を走っていた途中、紅がそう呟いた。魔術師の世界で肉親を殺すのはよくあることらしく、紅にはなんの咎めも無かった。しかし、紅は祖父を殺した事に少し罪悪感をもっているらしく、浮かない表情をしていた。その姿が今にも消えそうで、私はとても怖かった。
翌日、目を覚まして兄の部屋に行ってみると、紅の姿が消えていた。紅がいない、その事実を確認したとき、今にも倒れそうなほどの喪失感が生まれた。紅の机の上には手紙がおいてあり、その手紙には『ほとぼりが覚めるまではロンドンの時計塔にいる』、『橙子、青子。ほんとうにすまない』との旨が書かれていた。その手紙を読んだ瞬間、私は紅からもらったペンダントと何着かの衣類、祖父の通帳を持って家を飛び出した。紅はどんな時でもとなりにいて、私を支えてくれた。なら、今度は私が紅を支える番だ。空港につくと、なぜか青子も付いて来ていた。
「なぜ青子がいるんだ?」
私が尋ねると、青子は答えた。
「お兄ちゃんのところにいくため」
冗談かと思ったが、その眼差しとその雰囲気から事実を言っているんだと感じられた。私は何も言わなかった。
何か言ったところで無駄だと判断したからだ。私と青子は飛行機に乗り、ロンドンに着くのを待った。
ロンドンについた後、紅と私の共通の友人から、紅は時計塔の寮に住んでいることが分かった。時計塔に向かい、寮の教えられた番号の部屋に向かうと、紅が部屋から出てきてくれた。よかった、紅。心配したんだぞ、なんて言葉をかけると、紅は困ったように笑った。喜びのあまり、私は紅に抱きついた。その心臓の音と、体温を感じることで、私は安堵の胸をなでおろした。その時、私は誓ったんだ。もう、何があっても絶対に
ちなみに、主人公は『蒼﨑紅』(あおざきこう)君です。