【ブルアカ×サタスペ】キヴォトスより愛をこめて 作:ディム
めちゃくちゃ嬉しいです!!
とりあえず今回でプロローグは終了して、次からアビドス編……かなあ?
D.U.メインストリート――風切り音を立てて、頭上を銃弾が飛び交う愉快な戦場で。
「見えるか? チナツ。……違う、全体を俯瞰するんだ。戦場を一枚の地図に見立てろ……よし、そうだいい子だ。よくやったな、やっぱりお前は呑み込みが早い。上出来だ」
「(は、はわぁぁっ、ふわっ、し、心拍数が……!!)」
彼女、火宮チナツは、わりと一杯一杯だった。
「ほら、俺の指先を見ろ。ユウカの斜め右前方、隊列の一番後ろ。狙撃手、いるだろ?」
「ひゃ、ひゃい……」
「見るからに機を伺ってる。隙がありゃブッ放してやろうってな。けど、前衛が居るから油断もしてる。じゃあどうする?」
「き、機先を制するべきかと……! わ、私の銃だと届かないので、別の何かを使うとか……!?」
「そォだ。地味な作業だが、すぐに『自分で仕留める』って手段を選ばねェのは点数が高い。偉いぞチナツ」
現在の態勢であるが、片膝をついて、遮蔽に隠れながら全体を見渡すチナツと――そのチナツの肩に腕を回し、耳元に口を寄せて囁くように指示を出す彼、先生。完全に事案そのものの絵面と行為であった。
「お前のやる事は、派手に騒ぎを起こすことじゃねえ。その
「(せ、先生の声が……息が……!? て、手がわ、私の頭を……! か、顔が熱い……)」
その上、彼……先生は無駄に顔が良い。髪を金に染めていることと目と表情にやたら力が入っていること、そして眼鏡を掛けていないこと。それらの要素を廃すれば、とある世界線で便利屋の面々に差し入れを持っていくような顔立ちの彼にも引けを取らない、とすれば分かりやすいだろうか。
ともあれ、その彼は、チナツの側で事細かに『指導』を行っていた――口を彼女の耳元に寄せ、背中から肩を密着させ。左手を彼女の頭に置いて、右手で視線の方向を指示して。
それは側から見れば、先生がチナツに後ろから抱きついているようにさえ見えた。
「た、確かにいます……でも、あの生徒がお二人にプレッシャーを掛けてるので、後衛までには……」
「注意を割かせるだけで良いんだ。お前がその照準器のレーザーで、ちょっと前衛のアイツ――その顔か、ライフル握ってるグリップの辺りかを照らしてやれば。そら、どうなると思う?」
「ふぇ、はいっ、ええと……あの人は、こちらを見て……いえ、その前にハスミさんが視界に入る……? ……なら、もしかして」
「さて、どうだろうな……答え合わせの時間だ。やってみろ、チナツ」
促されるままに、彼女は銃を持ち上げる。引き金を引くでもなく、やる事はいつもの支持出しの要領で、レーザーポインタをちらつかせることだけ。
果たして、その照準器の先にいたヘルメットを被った不良学生は、目敏くそれに気が付いた。気が付いて視線を移し――遮蔽から狙撃銃を構える、ハスミを見て、ぎょっとして身体を伏せて隠れる。
瞬間、轟音が響いた。隠れるのを確認すると同時に引かれたトリガーと、それにより放たれた7.7mm弾が、伏せた不良生徒の頭上を通り過ぎ――
「……!! 先生!」
「ああ、見てたぞ。よくやった、今のを忘れンなよ。そうすりゃ、お前はもっと優秀な参謀になるだろうさ」
半ば肩を組んだ体勢のまま、先生はわしわしとチナツの髪を荒っぽく撫で、チナツはそれを振り払うでもなくされるがままとなっている。
同時に彼女は下を向いて、頬を真っ赤に染めている訳だが――当然のことながら彼はそんなものお見通しであるし、なんなら役得であるとすら思っている。
無論鉄火場のこと、チナツと接触するために態々このような指揮をした訳では断じてなく、あくまでさっさと銃撃戦を終わらせ、チナツに経験を積ませ、そして四人の動きを見る目的の指揮である。それに間違いはないが、それはそれとしてラッキーだとは思う。
彼はそういうタイプのカスであった。
「……嘘。戦いやすかった……とんでもなく」
「これは……驚きましたね。特に、あのサポートは……」
狙撃を終えてすぐ、ユウカとスズミの二人がかりでボコボコにされた*2ヘルメットを被った不良――ヘルメット団と言うらしい――を全員縛り上げ、ヴァルキューレの車両横に転がして。四人はそれぞれ感嘆を漏らした。
瞬く間に不良生徒たちを蹴散らし、拘束したその手腕。誰がどこに移動し、誰を狙うのか。そして、そうなるからこそ、自分たちはどこで何をして、誰を倒せば良いのか。
少なくとも『戦闘指揮』……あるいは、もしかすると、『戦闘』そのものという分野において、彼は紛れもなく自分たちの遥か先に位置しており。それを惜しげもなく伝える様は、正しく『先生』であった。
さて、その先生の指揮であるが。本来の『先生』よりあらゆる面において劣っているどころか比較するのも烏滸がましい彼の、数少ない、本来の『先生』よりも勝っている点である。
『……先生、聴こえますか。私です、七神リンです』
「おう、七神。聴こえてるぜ、どうかしたか?」
『はい。先程の指揮はお見事でした。まさかあんなに早く不良生徒たちを制圧するとは……』
「朝飯前だっての。で? 用はそんだけか?」
『いえ。……私もそちらへ向かっています、という連絡と。そして――』
その指揮の冴えは凄まじく、敵の前衛から後詰までを纏めてたった数分で制圧してしまったほど。その戦闘時間の短さと、そして遵法精神が欠片も見受けられない速度でD.U.メインストリートを連邦生徒会公用車でかっ飛ばした*3という事実は……本来の歴史と、僅かに違った結果を手繰り寄せた。
『――ご報告です、先生。シャーレの建物前の道路で……現在。事件の首謀者である狐坂ワカモと、それに鹵獲されたヴァルキューレの多脚戦車が、SRT特殊学園の生徒……FOX小隊と激しい戦闘を繰り広げている最中です』
即ち――本来であれば、戦闘後に。至近距離で対面し、一戦も交えることなく退散する筈だった『災厄の狐』……狐坂ワカモとの、戦場での邂逅。
彼らは、その照準の先に身を躍らせることとなる。
「……の、ようだな。こっちでも見えたぜ、派手な爆炎がよ。結局、どっちにしろソコへ行かなけりゃならねえんだ。突っ込むぜ」
『……無理はなさいませんよう』
「おう。七神は後からゆっくり来な」
『はい。ところで先生、先生の運転しているその車が観測によると時速230kmで走行しているようですが?』
「あー感度不良!! 通信終了!!」
小学生以下の言い訳に、ちゃっかり助手席を確保したユウカが呆れたような顔を彼へ向ける。彼はそれを気に留めることもなく、盛大なドリフト痕をアスファルトに残しながら、砲火の真っ只中へ車を突っ込ませた。
「!? なんッ――」
「よう、邪魔するぜ? 俺たちは……ああ、連邦生徒会のシャーレと愉快な仲間たちってトコだ。お前らはFOX小隊、ってのでいいか?」
「……!! シャーレ……っ、失礼しました。はい、FOX小隊の小隊長、ユキノです」
「おう、よろしく」
FOX小隊長ユキノの目の前に、遮蔽となるように生徒会公用車を転がした先生とその一行は直ちに車から飛び出してその陰に隠れる。瞬間、ワカモから放たれた銃弾が公用車の側面を穴だらけにする。
その際の、黒髪の小隊長……ユキノの目線に気になるところを感じたものの、咎める事はない。この程度であれば、オオサカでは日常茶飯事である。
「へえ、よく訓練されてやがる。
「はい。ワカモ単体でも厄介ですが、下の多脚戦車もまた厄介で……ところで、これは、連邦生徒会の公用車ですよね?」
「ん? ああ、そうだな」
「見る間に蜂の巣になっているんですが」
「俺のじゃねーしセーフだよセーフ」
残念ながらアウトである。先生の初任給が本来の額の十分の一になることが確定した瞬間であった。
「まあ、それは置いておいてだな。手厳しい相手ではあるが、押せば撤退には持ち込めるだろうさ。まずは足元のアレをぶっ壊すトコからだけどな。っつー訳でもう一仕事頼むぜ」
「……全くもう。私、ミレニアムじゃセミナーなんですよ? 生徒会なんです、それがこんな……」
「まあまあ。ここまで来たら、ですよ。それで……ユキノさん、でよろしいでしょうか。まずはあの戦車をどうにかするということで、よろしいでしょうか」
「はい。前衛と後衛に分かれます。そちらの指揮は先生が――っ!? 狙ってます、散開!! ――先生!?」
四つ脚の戦術兵器、その全身に取り付けられた火器が火を噴いて、連邦生徒会公用車を真っ赤に炎上させる。FOX小隊の四人、そしてユウカ以下の四人はきっちりとその場を脱し、それぞれ遠くの車の陰へ身を隠す……しかし、そのどちらもに彼の姿はない。
では、爆発に巻き込まれて黒焦げのハンバーグになったのか。当然、そんなことはなく――
「避けるまでも無ェってんだ!! あんな
黒煙を上げ続ける公用車の上に着地した『先生』は、無惨にも黒焦げとなったルーフの上に片膝をついて、不敵に笑う。真っ白いシャーレの制服は煤けて汚れており、頬や両手に軽い火傷こそ見られるものの――それは、爆発に巻き込まれた人間としては、驚くほどに軽傷であった。
されど、災厄の狐もさる者。爆炎に紛れて逃げた木端はともかく、一人。それを凌いでいる強者がいる――その闘争本能でそれを嗅ぎ取った彼女は、狐面の下で舌舐めずりをする。
「あら……うふふ、骨無しばかりと思いきや。貫き甲斐のある獲物が一人、居るようですねえ――!!」
そしてその姿が黒煙に覆い隠されている時点で既に、其処へ照準を定めて。破壊衝動のままに愛銃の引き金を引き――狐坂ワカモの神秘が内包された、深紅の花吹雪を纏う凶弾が、空を裂いて飛翔する。
「――、俺を」
さて。
キヴォトスの全ての生徒には、その寡多はあれど、須く神秘が内包されている。『
そして、高い神秘を持つ生徒は得てしてそれぞれ特有のスキルを持つ。それは味方の能力を上げるものであったり、回復するものであったり、敵を攻撃するものであったり、隕石を落とすものだったりする。
それが、キヴォトスの生徒たちの戦闘力を高レベルたらしめているものであるが――翻って、『彼』の出身地たるオオサカには、そのようなものは無かったのか。彼の地は、何の面白味もない、ただ無骨な殺人兵器で血の池を作るだけの地獄であったのか。
答えは、否である。
「俺を、撃ったな?」
鉄火場で熱され、撃鉄で鍛えられ、そして死線で磨かれた亜侠が、仲間に認められることで目覚めるそれ。
「……な、っ!?」
――彼の口角がにィッ、と吊り上がる。野生的な笑みが深まり、双眸が爛々と輝き、その全身から戦意が噴き出す。
彼は先程くすねた
彼が行使した異能の名は【反撃】。特定の条件――即ち、自身の攻撃が敵の攻撃を上回った時のみ、敵の攻撃を無効化して自身の攻撃を相手に与える技能。
成程、便利な能力である。ならば
それは、否である。理由は簡単、誰もが死ぬからだ。異能を二つ三つ揃える前に死ぬ三下など掃いて捨てるほどに存在し、ある程度力をつけた者さえ同格との戦闘や、あるいはちょっとした不運で屍を晒す。
命が
「……うそ。何あれ、あんなのどう計算したって……」
「冗談、ではないですよね。……自警団でも、正義実現委員会でも……いえ、キヴォトスの何処でも、見たことがありません。……鳥肌が立ってしまいました」
二挺のS&Wから放たれたうちの一発は、ワカモの弾丸の正面を寸分違わずに捉え、その威力を相殺し。残る一発は、きぃんと跳ね上がった緋色の弾丸を見事に
『生徒を直接撃たない』、しかし『お灸を据える』。先生としての僅かな矜持のために態々銃弾を狙った彼は、硝煙たなびく二挺拳銃をだらりと下げて、笑った。
「へえ、仮面なんぞ付けてどんな顔だと思ったら――驚くほどに美人だな。そら、終わりか? お前さんの
「――はうっ!? し、しし、し……」
変化は劇的であった。
災厄の狐は『先生』の顔を直視し、その声を聞き……ぼふん、と顔を真っ赤に染めて、一目散に退散した。ぴゅーっ、と効果音すら聞こえてきそうなほど、それは見事な逃げ足であった。
「なんだ、終わりか……よーし状況終了。今週も生きてて良かった、ってな」
「なんだ、じゃありません!!」
「うおっ」
すっかり真っ黒になった公用車のルーフから飛び降りた彼を出迎えたのは、ユウカ、スズミ、ハスミ、チナツ。それにFOX小隊の面々と、加えて駆けつけたであろう七神リン。全員に取り囲まれ、詰問され。ついでに先程の振舞いを――怪我に関して、特にチナツから――咎められつつ……やはりどこか、尊敬されて。
「……成程。悪かねェな」
ただ倒せばいい訳じゃない『先生』というのは大変であるが。
なるほど、悪くはない――と、そう思うのであった。
生きてて良かった!
Tips:【異能】
TRPG『サタスペ 』におけるスキル。
獲得方法は、セッション終了時のアフタープレイ……『スピークイージー』にて、同卓した面々から、『そのキャラは今回どんな活躍をしたか?』を投票してもらい、その結果で決まる。
味方を率いれば『親分』、敵をたくさん倒せば『殺し屋』、ハナコみたいなことをすれば『色事師』など。
まずはそれらを投票で一つ獲得し、獲得したそれらに割り振られている【異能】の中から選んで習得する、なかなか特徴的なシステム。
なのであまりにも出目が死んでいると、『ダメ人間』ばかり獲得してしまうことも。