【ブルアカ×サタスペ】キヴォトスより愛をこめて 作:ディム
感想、評価、ここすき、ありがとうございます!!
よければもっといただけるとめちゃくちゃ嬉しいです!!
良かったですねえ……そしてやっぱり、前から決めてはいたんですが、ここの先生も『生徒に対して直接発砲はしない』ことを明言します。
生徒に攻撃する先生は、最終編を読むと、ね……
なのでカイザーとか、(そこまで書ければ)エデン編の複製相手に銃を抜くことになりそうです。
対策委員会編(1-1〜1-2)/Abydos and Desert Eagle(1)
彼――『先生』が、亜侠からシャーレの顧問へと華麗なる転身を果たして数週間後のとある日、午前十時を少し過ぎたころ。
愛すべきでもないクソ野郎、正真正銘のダメ人間、女の敵、あらゆる悪名を恣にしてきた彼は今、
「ロッケンローール!! イェーーイ!!」
シャーレのオフィスに爆音で『オルヴィス・プレスリー』の『ロック監獄』を流しながら、ノリノリで酒をかっ喰らっていた。デスクには書類の代わりにビールの空き缶が並び、完全に出来上がってしまっている。
平日の昼間から、大の大人が晒す姿では、もちろんない。
『先生!! 聞こえてますか!? 先生!! ……先生!!』
「イェー……あ? ンだよアロナ、良いところで」
『ンだよ、じゃないですよ! またリンさんに怒られますよ!? 仕事はどうしたんですか!!』
彼の机の上には酒の空き缶しか転がっていない。では、書類は何処に――となると、入り口脇の決裁済みボックスに全て詰め込まれていた。
彼は音楽を止めてタブレット……シッテムの箱を持ち上げ、そのカメラをそこへ向ける。
同時、ぴこんっ、という電子音と共に、彼の持つタブレットが明滅し、何処かで見たような色合いの少女型アバターが画面に映る。
彼女の名は『アロナ』。タブレット――『シッテムの箱』という遺物のメインOSであり、曰く『スーパーAI』。
そのアロナは、満杯の決済ボックスをカメラ越しに見て、アロナはどこか調子の外れた声で、あからさまに安堵の溜息を溢した。
『なぁんだ、先生! 先生もきちんとお仕事してたんですね! アロナ安心です!』
「うん。ユウカがだいたい全部やってくれた」
『ダメダメじゃないですかぁ!?』
考え得る限り最悪の回答であった。
彼の名誉の為に補足すると、別に彼は頭が悪い……という訳ではない。オオサカという犯罪都市に跋扈する人の掃き溜め、亜侠の中に偶にいる天才を超えた『紙一重』ほどではないものの、人並み以上――『博学』と呼ばれるに相応しい頭の回転はしている。しているが……とにかく、仕事の量が殺人的に多い。
そこへ――早瀬ユウカ。彼女自身の書類処理能力もさることながら、特筆すべきはその太もも面倒見のよさ。『冷酷な算術使い』、などという呼称に反して、実際のところはむしろ情に厚く面倒見が良い。
遠くない未来、天童アリスと二人並んであれやこれやとする姿を踏まえれば、あるいは世話焼き女房とでも形容すべきか。
「いやまあ……うん。それはそうだけどなァ」
『なァ、じゃありません! ユウカさんの迷惑になりますよ!』
対して、『先生』の方。亜侠チームのリーダー、親分としての風格を備え、『先生』という立場でありながらも隙が多く、抜けていて、不真面目、ダメ人間で……それでいて、人の心を掴むのに長けた男。
砲火と銃弾、悲鳴の飛び交う鉄火場でなければ欠点だらけである彼。故に、「こいつには自分がいないと」、と思わせてしまう人誑し。
先生と生徒。
指示する者と従うも者。
助けられる側と助ける側。
褒める側と、褒められる側。
片や問題児やダメ人間の類を放っておけず、小言を重ね、その上で、自分の善意ゆえの行動を褒められ、認められると喜んでしまう少女。
片やダメ人間の面目躍如、けれど締めるところは締める、相手の機微を読むのに長けた大人。
……彼は誓って、意図的に早瀬ユウカを狂わせようとした訳ではない。単に世話を焼かれつつ、彼女が褒めて欲しいと思った時に、的確に褒めただけである。ただそれだけで、彼女はシャーレの書類を整理しなければ落ち着かない身体にされてしまった。
つまるところ、彼女……ユウカと、『先生』は――相性が良すぎたのである。
「シャーレの仕事って区分なら、マジでユウカは居たほうがいい。書類仕事から経理から、細かいミスを見つけるのも全部だ。頭の出来ってだけじゃねえ、あれは『ユウカだから』出来ることなんだろうぜ」
『それは……まあ、そうでしょうけど』
「それに、こっちもアイツの仕事手伝ってるしな。他の部活との折衝なんかじゃ、『シャーレの先生』が出張ったほうがいい時もある。持ちつ持たれつ、効率的に。シゴトの基本だぜ」
彼は、まるで似合わない殊勝な言葉を真面目な顔で垂れ流しつつ――ちらっ。目線だけをこっそりと、いつの間にかオフィスに増えていたテディベアへ向けた。
そのテディベアはもふもふと愛くるしく、おそらく生徒のうちの誰かが持ち込んだのであろうと予測できる。タグには高級ブランドの名前が書かれており、相応の値段がするであろうと予測できるそれは、後から巻かれた首輪の下、ほんの少し空いた穴から赤いLEDが明滅するのが確認できて――
(――盗聴器作動、ヨシ!)
――つまりそれは、音瀬コタマの持ち込んだ盗聴器であった。
当然、この会話もコタマに盗聴されている。盗聴されていることを前提に、『先生』は会話している。
オフィスに鉄砲玉を嗾けられた、等であればともかく、盗聴器の一つ二つは日常茶飯事。『先生』にとって、目くじらを立てるほどのことではない。教育のために軽く嗜めはするが、その程度だ。
(コタマが聴くだろ? 録音するだろ? んで、ヴェリタスがユウカに詰められて……取引としてこれを持ち出す。ユウカは請けて、俺は知らぬ顔をしながらユウカの株を上げる。みんな喜んでみんなハッピーだぜ、と)
むしろ、それを利用する。駆け引きとすら言えないお遊び程度の攻防であるが、やはり年季が違う。盗聴、窃盗、銃撃、爆破、車上荒らし、押し込み。どれも銀行強盗には必須のスキルであり、彼はそれを高レベルで身に付けている。
ミレニアムがいかな天才集団とはいえ、違法行為と脱法行為、犯罪行為で彼に勝てるものは、そうは居ない。
(計算どおり、かんぺきー!)
盗聴相手にはアロナの声こそ聞こえないが、そこは誰かと会話しているとでも思ってくれるだろう。彼はよりにもよって、彼を献身的にサポートしてくれるユウカの決め台詞で以てほくそ笑む……しかしそれも宜なるかな。彼女、早瀬ユウカは後日、彼の目論見通りにこの録音音声に屈し、コタマに譲歩することとなる。
正しく計算通り、完璧であった。
そんな未来など露知らず、彼は真面目な顔を取り繕ったまま、タブレットをスタンドに立て掛けた。
「んで、仕事の話だっけか。まあ、あれは俺も悪いところは少しはあるんだが……七神も七神だ。別にそんな目くじら立てることじゃねえだろ。なあアロナ」
『シャーレのオフィスの真横の土地に温泉を掘り当てたのは普通に目くじらを立てることだと思います、先生……』
アロナが、『先生』の吐き捨てた愚痴を拾い上げた。
「とは言うがね。土地の権利的には連邦生徒会の土地なんだから構わねェし、あの
『掘る方も掘る方ですけど、掘り当てる方も掘り当てる方ですよ。最後のひと押しをしたのは先生でしたし……リンさんも諦め半分だと思いますよ。埋めるのも出来ませんしね』
「だろ? 地域の皆様のお役に立ってるなら、ってやつさ」
『でも勤務時間中に湯船で熱燗を一杯やるのはダメですよ、先生』
「しょーがねえだろ飲まねえと
『まあ、なので、先生のお仕事が沢山あるのは当然です! 今日……はユウカさんのお陰でどうにかなりましたけど、明日は一人で頑張っていきましょう! ……あ』
「あ、ってなんだよ。また何か面倒な仕事か?」
『いえ! 先生宛に今朝、手紙が届いていたのを連絡しないとな、と! デスクの左脇に置いてるはずです!』
アロナに促されるままに手に取ったそれは、アビドス高等学校――その廃校問題への『対策委員会』から差し出されたもの。一通り中身を検めた彼は、便箋をデスクに戻し、背もたれに深く身体を預ける。
「あー、アビドスの奥空……ああ、あの耳のとがった、眼鏡の」
『はい! 奥空アヤネさんですね! ……というか先生、アヤネさんのこと知ってたんですか?』
「生徒全員の顔と名前と学校くらいは一致させてるに決まってンだろ。流石に細かい情報までは知らねェけどな」
『うわぁ……すごいですね先生!』
何でもない風に言い放ったそれは、決して楽なことではない。彼が徹夜で全生徒の名簿を読み耽ったのは、ちょっとした見栄とカッコつけ、亜侠としての習性――
そして、本人としては未だ無自覚。自覚も自認もしてはいないが「この椅子に座るのならそうすべきだろう」という『先生』としての責任からであった。
「……よし。決めた、出張だ。アビドスに行くぞアロナ」
『い、いきなりですか!? さすが大人の行動力……あっ、でも先生! アビドスは……』
「広い上に人も居ねえから遭難するかも、だろ? 大丈夫だ、徒歩で行く気はねェよ。手紙を見るに、補給物資だの弾薬だのも持って行ってやらねェとだからな」
そうして『先生』は机の上の空き缶をリサイクルボックスに捨て、何処かへ連絡を取り。諸々の必要なものを揃えた上で、意気揚々とアビドス自治区へ向けて出発し――
◆
――四日後。
「死ぬ……」
『先生! しっかりしてください!! 先生!! ああっ膝をつかないでください! 寝ないで!! 先生!!』
彼は、アビドス自治区のど真ん中で遭難していた。
実際のところ、彼はきちんと対策を講じていた。早瀬ユウカに対する真偽確認――シャーレに提出された個人情報書類の体重欄が100kgと記載されていた――のついでに彼はミレニアムを回り、知り合いであるいくつかの部活に協力を依頼したのだ。
まず彼は、確かな技術力を持つエンジニア部に依頼して*2、多数の弾薬を運べる物資輸送用バンを用立てた。
更に彼女らの発言を全面的に信頼し*3、オートパイロット機能を取り付けて、道に迷わないようにし。
ついでに貰った携帯型ゲーム端末に、ミレニアムのデータベースで見つけた『テイルズ・サガ・クロニクル』という神ゲー*4をダウンロードし、道中の暇つぶしも備えた。
「死ぬまえにハスミの乳くらいは触っとくべきだった……」
『最低ですよ先生!?』
そして意気揚々とアビドスへ向けて出発した彼は、持ち込んだビールを早々に飲み干してしまった。故に途中で見つけた自動販売機の前にバンを停車させ――降車中に、エンジニア部が善意で取り付けた、一定以上の停車を確認すると自動で発進するシステムが作動した。
「えっ?」
そして追い討ちで、自動運転システムを開発したヴェリタスが善意でプログラミングした、全体工程から遅れを逆算して速度を調節する機能が実行された。
『あれっ?』
結果、バンは彼一人を自販機の前に取り残して、猛スピードで発進。アビドスの、ゴーストタウンのど真ん中に放置された彼の手持ちは、購入した缶ジュースが一本と、ヴァルキューレ警察学校から借りたままの二挺拳銃、そして『テイルズ・サガ・クロニクル』入りのゲーム機のみ。
そうして、どうにか人のいるところへ辿り着こうと歩き出した彼は、
「それか例のバニーちゃんしかいねえカジノクルーズ船で豪遊したかった……」
『先生ーー!? だめです死なないでください先生ーー!!』
四日の放浪ののち、今まさに、命の終わりを迎えようとしていて――
「……あれ? こんなところに……人? ……死んでる?」
――
疲労と空腹のあまり、意識が混濁する彼の目の前に、彼女が立つ。限界ギリギリの脳裏に走馬灯が閃く。
……暗い空、アスファルトを濡らす雨。好き勝手にわめき立てる白服白仮面のクソ野郎ども。捩れて歪んで、一人ずつ欠けていった愛しい生徒たち――泣きそうな顔で、こちらを見下ろす、水色の瞳と、白黒オッドアイの瞳孔。
――死んでいられるかよ。
彼は、ぐい、と頭を持ち上げた。
「あ、生きてた。道の真ん中で大の字になって人に見せられないような顔してたから死んでるのかと」
「砂狼……砂狼シロコ、か?」
「あ、うん。……? 名前、いや、それより……ホームレス? 違う? ……ああ、ただの遭難者か」
彼はがっくりと頷いた。そして、彼女……シロコから差し出されたエナジードリンクを死に物狂いでひっ掴み、一息に飲み干す。乾き切った身体に水分と糖分が染み込んで、急速に吸収されてゆく。
「――ぶはっ! あ゛ー、死ぬかと思った」
「……その、ええと……なんでもない。それより、大丈夫? 連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど」
「あ? おう、そうだぜ。学校探しててな。準備はしてきたんだが……まあ、ちょっとしたアクシデントで遭難したんだよ」
「学校? この近くにはうちしか無いけど……もしかして、『アビドス』に行くの?」
「おう。そこだ」
「じゃああの弾薬が満載された自動運転のバンは貴方の?」
「……おう。そうだ」
彼は情けなく肩を落とした。降りさえしなければ、きちんと到着していたのだと理解したからだ。まさしく後の祭りであるが、思いつきで行動して後悔することの多い享楽主義の亜侠に、これほど相応しい言葉もない。
「ん、じゃあ案内するから……ついてきて」
「おう。済まんが頼――」
ずべーん、と。
いつものように格好をつけて歩き出そうとして、彼は顔面からアスファルトに倒れた。限界だったのである。
「!?」
「悪ィ。身体が動かねェ」
「……ん。わかった、運ぶね」
そうして彼は、砂狼シロコに俵担ぎされながら、アビドス高等学校へ辿り着いたのであった。
Tips:肉体点と精神点
TRPG『サタスペ』における、いわゆるHPとMP。
肉体点がHPで、ゼロになると表を振る。表の結果次第で死亡したり、肉体が欠損したり、無傷で生還したりする。
精神点がMPで、消費することで一度に振れるダイス数を増すことができる。ゼロになるとその場でぶっ倒れて気絶する。
睡眠や食事、そして【お酒】を使うことで回復できるため、亜侠はだいたい酒を飲みながら銃撃戦をする。