【ブルアカ×サタスペ】キヴォトスより愛をこめて 作:ディム
恥ずかしながら戻って参りました。ブルアカアニメの影響と、
不知火カヤにどハマりしたことが原因です。
感想、評価、ここすき、ありがとうございます!!
久々ですが、またいただけるとめちゃくちゃ嬉しいです!!
――アビドス市街区、とあるラーメン屋の入り口にて。
「ここか? セリカが入って行った店は」
「そだよ〜。セリカちゃんがバイトしてるお店っていったら、ここしかないからね」
「助かる。途中まで追いかけてたんだが、撒かれてな」
「うへ。先生、それストーカーみたいだよ」
「同じこと言われたぜ、失敬な」
着任早々、『カタカタヘルメット団』なる不良生徒を撃退し、そのままその前線基地への逆撃の指揮を取った彼……『先生』は、そのまま、アビドス高等学校へ力添えをする意思を示した。
チームワーク然り、彼女らの秘めたる熱意然り。誰もが諦める目標を掲げて、ただ五人で支え合っている彼女ら――廃校対策委員会。
何のことはない。無法者にして人情家、無頼漢にしてお人好し。女の涙と笑顔と色香、ついでに札巻と札束で転ぶハードボイルド気取りにとって、彼女らを見捨てることなど到底出来なかった、それだけの話である。
「でも先生、本当に良いんですか? 私たちの借金は……」
「俺が『面子』に掛けて約束したことだ。これ以上は野暮だぜ。……それより、さっさとメシ食おうや――大将、席空いてる?」
がらり。後ろに生徒たちを引き連れ、年季の入った引戸を開く。途端、鼻をくすぐる濃厚な豚骨スープの香り。知らず、『先生』の腹がぐう、と音を立てた。
さもありなん、亜侠とは食い意地が張っているもの。オオサカ市警からくすねたあんぱんと牛乳を口にし、その合間合間に食事を酒で流し込みながら、ナニワのごみごみとした大通りを駆けずり回っていた頃を思い出して、どこか懐かしい気分になる彼。
その目の前に、見覚えのない格好をした、見覚えのある顔が現れた。
「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンです、何名様で――げっ」
「五名様だ。テーブル席空いてる?」
もしも彼の前に姿を現したのが、生徒――セリカではなく、彼の旧い仲間。それも、普段から奇抜な格好*1をしている連中や、普段は何も着ていない*2ような連中であったのならば、彼は腹を抱えて笑い転げたであろう。
相手の隠しておきたいところを目にして、煽り、そして銃撃戦になるのはオオサカの日常である――逆もまた然り、ではあるが。
しかし、彼の目の前にいるのは、彼の生徒である。故にか、『先生』の胸にはセリカを揶揄う気持ちは湧いてはこなかった。
あるいは、首裏にちり、と走る悪寒に従ったお陰か。歴戦の亜侠として培った、野生の獣染みた生き汚い危機察知能力。それがキヴォトスでも喪われていないことは、七神リンとの初邂逅時にも明らかだ――悪寒に従っておけば、少なくとも顔面に拳を貰うことは無かっただろう。
「ぐ、っ……こ、こちらへどうぞ。っていうか、どうしてここが……!? やっぱり先生がストーカーを……!?」
「うへ〜。いや、セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここじゃん? だから来てみたの」
「ホシノ先輩が原因かっ!!」
吠えるセリカに、にんまりと気色の悪い笑顔を浮かべる『先生』。黒髪の、威勢のいい荒事屋。かつて彼がオオサカの問題児の一人であった頃にチームを組んだ相手を思い出し、少しばかりの郷愁とともに気分が上向く。土手っ腹の、AKMに素敵なリフォームをされた穴があった箇所を摩りながら、彼は芝犬顔の店主に話しかけた。
「大将ォ! こいつらに好きなモンと、俺に柴関野郎ラーメン一つ」
「すまんね先生、それ終わっちまったんだよ」
柴大将の一言に、『先生』はずーんと項垂れた。今日の口、今日の好みはガッツリ系だったのである。美味いものが食べられる、それも身体が欲しているものを……その機会を逃した落胆はそれなりに大きいのだ。
何せ――オオサカのラーメンは不味い。
しかし、無いものはない。ならばとメニューを見直して、目を惹かれるのはやはり酒。金色に輝く液体、白い泡、ホップの香り……
意気揚々、駆けつけ一杯。昼から飲む酒は――
「じゃあビー……ルは流石に駄目だな、うん。仕事中だしな。烏龍茶と柴関ラーメン大盛りで」
――そう、本当に最高なのだが。流石に、生徒たちの目の前でこれ以上醜態を晒すのは憚られる……厳密に言えば、これ以上黒見セリカにゴミを見るような目で見られてはマズい。
倫理観ゼロパーセント、保身百パーセントで、『先生』は烏龍茶を頼んだ。
「……先生。先生、聞いてた?」
「あ? どうした砂狼。俺が大仏と戦った時の話*3か?」
「聞いてなかった……。ん、先生。どっちに座る?」
シロコに袖を引かれた『先生』は、胡乱げな瞳を机へ向ける。片側には砂狼シロコ、もう片側には十六夜ノノミ。いずれも、それぞれがほにゃりと崩れた笑みを浮かべて手招きしている。
シロコの隣か、ノノミの隣か。どちらに座るかの『選択』――瞬間、彼の脳裏に閃く存在しない記憶。
霞がかった記憶の彼方、桃色の毛先をした水色の髪の少女は……そう、確かに言っていた。重要なのは『選択』であると。つまり、それは『シロコさんとノノミさんのどっちを選ぶかが大切ですよ』、と言いたかったのだろう*4。
きっとそうだ。そうに違いない。飲んでもいないのに正常な判断のできない、常に酔っ払っているような脳みそをした、神妙に頷いた彼は――カスであった。
「先生は私の横に座りますよねー⭐︎」
「ん、先生は私の隣に座るべき」
「お前らが俺の隣に座るんだよコラ」
大義名分さえあれば此方のものである――『先生』は役得とばかりにほくそ笑むや否や、十六夜ノノミの背と膝裏に手を回して、その身体を抱き上げた。そのまま流れるように砂狼シロコの隣へ腰を下ろし、そうして、自分の隣にノノミを降ろした。
「はえっ!? あ、あら〜……?」
「ふえっ、せ、先生!? なにを……!?」
「うへ〜……大胆だねえ先生」
大雑把、かつノーデリカシー。ただし、女性……女生徒の身体に勝手に触っているという点に目を瞑れば、所作だけはなかなか様にはなっている。それもそのはず、何せ『先生』の顔
赤面する十六夜ノノミを見ても動揺一つしない、掃き溜め生まれの格好付け。その碌でなしはニッ、と口端を吊り上げ。
(おっほー太ももマジで柔らけー!! 膝枕で耳かきしてくれねえかなあ!!)
精一杯のキメ顔でノノミの太ももを堪能していた。
口は災いの元。オオサカで彼が学んだ処世術の一つであり、理解していながら――毎回踏み倒すものの一つでもある。
何せ、沈黙は金……なれども、鉄火場を前に
故に今回も『先生』は、黙っていた方が良いと理解しつつも、首裏の鳥肌を見ないことにして口を開いた。
「じゃあ次、小鳥遊と奥空と黒見は俺のヒザの上な」
「誰が座るかこのヘンタイっ!!」
果たして――無謀な軽口は高くつき、お代は鉄拳で支払われた。
黒見セリカの拳が『先生』の眉間にめり込み、彼の頭は綺麗な弧を描いて柴関のテーブルへ落着する。
「ん、先生。さっきノノミにやったやつを私にもやるべき。早くやるべき。すぐやるべき……先生? ……気絶してる」
「ぅえぇ!? これ私が悪いの!?」
わいわい、がやがや。
身内での語らいは金よりも価値のあるもの、況してや『先生』はそれを尊ぶ
――そして、数時間後。その日の深夜に。
「黒見が行方不明? ――ッ」
アビドス高等学校内の一室を不法占拠して設られたその部屋の戸を、ノックも無しに押し開けた奥空アヤネからの報告。彼の首筋に、ひやりと冷たい予感が滴る。
「……先生? どうかしましたか?」
寒気のするほどの悪寒。笑って踏み越えられるラインではない、正真正銘の分水嶺。ピストルの銃口を、側頭部に突きつけられる錯覚の『それ』。
彼が『それ』に逆らったことは、生涯でたった一度しかない。そしてその一度の結果がどうなったは、腹に空いた7.62mmの傷跡が証明している。
逆らう理由は無し、彼は目を鋭く細めて。
「奥空、全員対策室に集めとけ。んでお前は周辺の地図洗え、クルマ転がせるルートの選定もな。砂狼と十六夜は出撃と弾薬の準備で――小鳥遊はいるか?」
「いるよ〜、先生。おじさんは何すればいい?」
『先生』は徐に立ち上がれば、小脇に白いタブレットを、逆の手に工具箱と幾つかの電子ケーブルを抱えて。
「小鳥遊は俺と『情報収集』だ。ちょっとばかしスリリングな、な」
「うへ、穏やかじゃなさそうだねぇ」
「穏やかに済ませるのさ、でなきゃ後が怖いからな。……奥空、こっちは三十分で済ませる。戻ったら直ぐにクルマを転がせるよう、エンジンにも火ぃ入れといてくれ」
――果たして、きっかり三十分後。
弾薬を満載にした重装甲バンが、ギャリギャリとアスファルトを削り、砂を蹴散らし――アビドス高等学校の校門から、キヴォトス道路交通法に両手で中指を突き付けるくらいの速度で飛び出した。ヴァルキューレも顔が真っ赤、を通り越して真っ青になりそうなほどご機嫌な速度。
大型タイヤが縁石を踏み壊した衝撃で車体から装甲板がばらばらと剥がれ落ち、飛んでいったそれが無人の民家のブロック塀を突き破った。
「ひゃぁああ!? せ、先生ぃ! 速すぎますっ!? 車体から変な音がしてますよぉ!?」
「ん、快適。私と先生は気が合う」
「そーれはシロコちゃんだけだねえ〜……」
それもその筈、この
当然、防弾性能など気休め程度。だが、一回きりの迷子の送迎には丁度良いというものだ。おまけに、この風体のどうしようもない情けなさも
運転席の窓は全開だが、何時もならばけたたましく響き渡るロック・ミュージックは漏れ聴こえてはこない。ゴーストタウンに配慮をする理由もなし、オーディオに回す電力は別のところに充てているだけ。
「ブリーフィングは走りながらだ! 小鳥遊! さっきの内容、全員に伝えとけ!」
「まったくも〜、先生はおじさん使いが荒いよ〜。……んじゃはいはい、みんな聞いてね〜」
バンの後部荷台。弾薬ボックスに腰掛けた小鳥遊ホシノが、愛銃の点検をしている面々に情報を共有する。即ち、黒見セリカが拐われたこと、下手人がカタカタヘルメット団であろうこと。黒見セリカの最終位置情報から進行方向を割り出して、法定速度も真っ青のフルスロットルでそれを追跡中であること、道中で誰も住んでない民家のいくつかを『通路』にしたことなど。
一通りを語り終え、小鳥遊ホシノはぐっでりとその場に寝そべった。その様子からは、単なる疲労以上の何かが透けて見える。
どうせ『先生』の仕業だろうと、奥空アヤネは苦笑した。
「お疲れ様でした、ホシノ先輩。かなり無茶したんじゃないですか?」
「ホントだよ〜。先生、連邦生徒会のセントラル・ネットワークにハッキングして監視カメラの映像を持ってきてさあ。お陰で色々分かったのは良いけど、おじさんびっくりして寿命縮んじゃったよ〜」
「え、えぇっ!?」
奥空アヤネが、驚いて運転席へ詰め寄る。
「せ、先生!? 大丈夫なんですか、そんなことをして!?」
「バレたら減給だァな! だが問題ねえ!」
「ん、その通り。バレなければ問題ない」
「いや、もう引かれる給料が残ってねェからなんだが。ゼロから何を引いてもゼロってな、うわははは」
残念ながら誤りである。彼の来月の給与の天引きが、彼の知らぬところで決定されている。
「……それに今回は連邦生徒会でも、俺が心の底から信頼してる
がたん、と車体が大きく跳ねる。ちょうど市街区と砂漠の境目へ差し掛かった頃、夜明けには今少し遠い。
十六夜ノノミは、このどうしようもないダメ人間に『心の底から信頼してる』とまで言わしめる生徒のことが、ふと気に掛かった。
「先生? その、連邦生徒会の生徒さんって……」
「ん、おお。そんなの当然――っと、見えたぞ砂狼ィ! 上に上がれ、準備しろ!!」
「……ん、分かった先生。あれの出番だね」
即席装甲車のルーフに取り付けられたハッチをばたむ、とシロコの腕が押し開いた。上半身を乗り出し、『それ』の横に溶接された双眼鏡を覗き込めば、月明かりの下……遠くに、砂煙をあげて走る車両が見えた。
降り注ぐ月光の下、アビドス砂漠の乾いた、冷たい風に髪を靡かせながら、シロコはトランシーバーへ息を吹き込む。
「先生、見えたよ」
「こっちからも見えた。方角は大雑把でいい、ただし角度は上方8……いや、7.35度だ。直撃は狙わん」
「ん、任せて」
砂狼シロコが、『それ』に片手を添える。
マットな白色をベースに水色のラインが入った、四角い直方体の鉄の塊。機銃座を改造した回転架台に取り付けられたそれは、彼女がよく扱うミサイルドローンに酷似していた――そのサイズ以外は。
横幅・縦幅1.5メートル、長さ3メートル。回転架台を軸に、バンの左右に大きく張り出したそれは、ただドローンと同じく『発射機構』を備えていて――今ここに居ない黒見セリカがそれを見れば、人質がいる車に
「いいかぁ!? 間違っても直撃はさせんなよ!?」
「もちろん大丈夫。周りにばら撒いて足止めをする目的で使うのは、分かってる」
「まあ、その辺は信頼してるが。砂狼――」
「シロコでいい」
彼女はそこで、かん、とルーフを小突いた。
「砂狼じゃなくて、シロコでいい」
「私たちもですよ〜☆ 名前で呼んでください、先生。ね、アヤネちゃん、ホシノ先輩?」
「はい、勿論です。ここまでやってくれた、先生なら……」
「まあねー。おじさんも別にこだわりはないよ」
にやり、と『先生』の口元が歪む。
「そりゃ――すまん、俺が悪かったぜ。じゃ、改めて」
『先生』は、明らかに上機嫌の様子で、トランシーバーへ向けて囁いた。
「言うことは一つだ。引き金を引く時の掛け声は”ロックンロール”――特に、こんな景気のいいモンをブッ放す時はな」
「ん、分かった――ロックンロール……!!」
かちり、という引鉄の音が背後へと消え、アビドス砂漠に流星が奔る。
それは白煙を棚引かせながら蛇行し、僅かに空へと昇ると――空中分解。破片と炸薬、手榴弾に時限式の地雷、それらを雨あられとばら撒き……先行車は堪らずその場でくるくるとスピンし、横転して、足を止める。
衝撃で開いた後部ハッチから、見覚えのある猫耳と黒いツインテールが覗いた。
「止まったな。そら、一分もしねえうちに追いつくぞ――行ってこい!」
以降のことは、語るまでもない――圧倒的な蹂躙。たった五人ながらキヴォトス屈指の戦闘力を誇る『アビドス廃校対策委員会』は、半泣きの黒い迷い猫を連れ戻してわいわいと騒いでいる。
それを眺める、バンのボンネットに腰掛けた『先生』に、ふと思い出したようにノノミが尋ねた。
「先生? そう言えば、さっき仰ってた『信頼する生徒』ってどなたのことでしょう? やっぱり、首席行政官の七神さんですか?」
「あ? いや、そうじゃねえよ。あいつも真面目で仕事が出来るし、信頼してるがな。一番は別だ」
「……ん、気になる」
「そんなもん、決まってんだろ――」
問われた『先生』は――
「――連邦生徒会防衛室長の不知火カヤだ」
「防衛室長……ヴァルキューレとかを直轄してるとこだね。でも先生、そりゃまたどうして?」
「俺と同じ匂いがするからだな」
「うへ、じゃあろくでなしってことじゃん」
「だから信頼してんのさ」
――ひどく可笑しそうな顔で、そう言って笑った。
Tips:オオサカ市警
悪徳の都オオサカにて、公的に認められている警察組織。
それについて端的に説明するならば、「公的組織のくせに『五大盟約』――盟約、なる犯罪組織のうち、オオサカでも最も大きいものの一つとして数えられている」と言えば足りるだろう。
足の引っ張り合いと贈収賄、警察組織の立場を生かした犯罪、麻薬の密売、事あるごとにショットガンをぶん回す女刑事……犯罪とネタには事欠かない。
ただそれでも、「剃刀の久我」のようなマトモな刑事も、ほんの少しだけ残っている。