【ブルアカ×サタスペ】キヴォトスより愛をこめて 作:ディム
柴関爆破事件の方は書くつもりなので許して……。
さて、今回は待ちに待った銀行強盗です。
レッツロックン・ロール!
「ん。ん、ん。私にいい考えがある。先生も絶対に賛同する。ものすごいプラスになる。かんぺき」
「はい……じゃあ、二年の、砂狼シロコさん……」
ぴんっ、と挙手した砂狼シロコを、疲れ切ったOLのような表情をした議長……奥空アヤネが指名する。
被指名者、砂狼シロコはドヤ顔のままむふーっ、と息を吐き、瞳をきらきらときらめかせながら、『先生』のほうを向いて言った。
「ん、銀行を襲う」
「却下だバカヤロー」
「!?」
砂狼シロコは驚愕の表情で硬直した。その瞳には如実に、裏切られた、と書いてあった。
付き合いの長い小鳥遊ホシノ曰く『アビドス入学以来過去イチの驚愕の表情』。
何故砂狼シロコはそんな表情で驚愕しているのか、その前にこの議論はいったいなんなのか。それを説明するために――話は少し巻き戻る。
黒見セリカ誘拐事件から一夜明けた、その日の午前。
我らが愛すべきアビドス廃校対策委員会の生徒面々と、そして我らが愛すべきクズこと『先生』は、対策委員会室へ集合していた。
お題目は定例会、発起人は奥空アヤネ。議題は、借金をどのように返済するか。『先生』である彼が呼ばれたのは、知見や知識をアテにされてのことと――彼女たちからの、信頼を勝ち得たからであろう。
「では、先生。気になることがあれば、いつでも仰ってくださいね」
「ああ、分かった」
どっかりとパイプ椅子に座り込み、一応の参加者としていくつか案を巡らせる彼。生憎にして借金返済の経験は五度ほどしかない*1が、その少ない経験から参考になる案をと、本人なりに真面目に考えているのだ。
(えーと、案一。債権者の頭をフッ飛ばす……保留。狙撃ポイントの選定もしてねえし、債権者の人数も洗えてねえ。手間が掛かりすぎる。案二。カイザーローンに放火する……保留。やるならカイザーグループ全部に火ィ点けなきゃならん。一斉にやるには仕込みが必要だ。案三、カイザーグループの役員を上の役職から順に海に沈める……有力だが迂遠、案一と統合してと……)
真面目に考えた結果がこれである。残念なことに、真面目に考えたからと言ってマトモな案が出てくるわけではないのだ。
生まれは裏路地、育ちはスラム。生粋の暴力礼賛者であるネイティヴ・オオサカンにとっては襲撃計画や爆破計画などお手の物であるが、真面目で真っ当な計画立案には滅法弱かった。ついでに、どの案も却下ではなく保留にしているあたりタチが悪い。
「ぐすっ、ノノミせんぱぁい……」
「……んぉ? すまん、色々考えてて聞いてなかった。なんでいきなりセリカが半泣きになってんだ」
「セリカちゃんはねぇ、悪徳マルチに引っかかって、ゲルマニウムのブレスレットを二つも買わされちゃったんだよ〜」
「どれどれ……『ゲルマニウム麦飯石ブレスレット』……? ゲルマニウムはともかく麦飯石ってなんだよ」
「うぐっ……」
黒見セリカ。
はきはきとしていて、活発で気が強い。責任感も強く、アビドス高校のためにアルバイトをして、賃金を学校に入れるだけの優しさも持つ。
金勘定が出来ない訳ではない。現状に関する危機感も強い。ほわほわとした性格で心配になることもなく、自分と同じような危険思想の持ち主でもない。
何より、一年生でありながら、このアビドス高校という沈みかけの船に乗っている覚悟を持った生徒。
故に、彼が返済計画を取り仕切るのであれば、真っ先に声をかけるべきだと思っていたのだが――
「……あー、セリカ」
「はい……」
――先生は、なんとも形容し難い、曖昧な笑顔で笑いかけた。その目には、菩薩のごとき優しさが溢れている。普段の露悪的でニヒルな死んだ魚の目とは大違いである。
「今度から、そういう説明会に引っ張られそうになった時は、他の誰かに電話しような。誰にするか迷ったら、ホシノに連絡するんだ」
「はいぃ……」
『先生』は穏やかに笑った。
黒見セリカは縮こまった。
「それと、連絡ができなかったり、連絡するなって相手から言われた時は着いて行かずに戻りなさい。ここだけの機会、とか言われるだろうが、金を稼ぐ手段なら他にもある。それに、まともな相手なら『持ち帰って検討する』っつったら断らないはずだ」
「はいぃぃ……」
『先生』は慈しむような目で黒見セリカを見た。
黒見セリカはますます縮こまった。
「あと、食事を抜くのは感心しないぞ。俺も、お前たちも、身体が資本なんだ。一食抜いたから負けて撃たれて仲間に心配かけました、じゃ本末転倒だからな。身体には気をつけろよ」
「ひぃ、はぃぃ……」
黒見セリカはいよいよ、顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。
『先生』はそれを、つるつるのフローリングの上で足を滑らせてばたばたと暴れる子猫でも眺めるような視線で見ている。
「……で、セリカ。いくらボられたんだ」
「ぃ、いっぽん六万で合わせて十二万……」
「……先生な、最近書類仕事が多くて肩凝りが酷いんだ。ゲルマニウムのブレスレット、そのまま二本売ってくれ。でも、三本目はいらないからな」
「せ゛ん゛せ゛ぇ゛〜〜!!」
ついに、黒見セリカはわっ、と泣き出し、机に突っ伏した。
関係者脱落につき会議中断である。
「……ごめんなさい、もう大丈夫です……」
数分の休憩ののち、顔を洗ってきた黒見セリカを加えて会議は再開された。
『ん、私の案は絶対採用されるから大トリにする』などと大口を叩いて最後に回った砂狼シロコを傍に置きつつ提出されたホシノ案は冗談と分かるもので、ノノミ案――アイドル活動はどこまで本気であるか不明。
そして、満を持してドヤ顔で言い放たれたのが――冒頭のそれであった。
「……なんで?」
「なんでも何も理由なんざいくらでもあるだろ」
「ターゲットも選定済みだよ。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置も警備員の動線も現金輸送車の走行ルートも把握済み。手抜かりはない」
「おい誰だよコイツにアウトローの英才教育した奴」
『先生』は小鳥遊ホシノを見た。
小鳥遊ホシノは目を逸らした。
『先生』は、大仰に溜息を吐いた。
「……なら、確認だ。シロコ、第一中央銀行の最寄りのヴァルキューレの交番は?」
「ん、三丁目の中央東交番と一丁目の交差点にある警備署。どちらも常勤の生徒は三人だから応援は少ない。装備も盾と軽装だけ」
「……装甲バンが常駐してる中規模以上の駐屯署と、そこから銀行までの所要時間は?」
「単純距離だと最短で二十五分。通報からの準備まで含めると三十分は堅い。ぜんぜん余裕」
「戦力把握は万全じゃねーか畜生」
砂狼シロコはむふーっと得意満面で頬を紅潮させた。
まごう事なき逸材である。ここがオオサカであったならば、即座にスカウトしていたかも知れん――『先生』は、戦慄しながらも思考を巡らせた。
プランを考えられてはいる。実行力もある。引き金を引くのも躊躇いはしないだろう。
だが、ならば、それ以外は?
「よし、次の確認だ」
「戦力分析はもういいの?」
「
「ん、望むところ」
「待て待て待て待ちなさい銀行強盗に煩いってどういうこと!?」
調子を取り戻した黒見セリカの渾身の咆哮。しかし、目を輝かせている砂狼シロコには少しばかり届かない。
「金庫の位置は分かってるんだったな。なら、金庫のロックシステムは?」
「……ミレニアム製。ただ、鍵は無いから――」
『先生』の眉がぴくりと動いた。
「押し破るつもりか? なら質問だシロコ、第一中央銀行の地下金庫の蓋の厚さと材質は?」
「……! ……むう」
「流石に調べる時間は無かったか? 答えは、正面蓋が厚さ950mm。材質は耐爆塗装、対銃弾加工済みの、ミレニアム謹製の特殊素材だ。爆破は難しいだろうな」
「何で詳しいの!?」
黒見セリカ、咆哮。
気持ちは分からないでもないが、そこはそれ。オオサカ生まれの人でなしにとって、最寄の銀行の襲いやすさを調べるのは、明日の朝食の献立を考えることよりも馴染み深いことなのである。
「……人質に開けさせるのは」
「それも無理だ。装甲バンが到着まで三十分だろ? 押し込んですぐとんずらするなら問題ないが、腰を据えるにゃ時間が足りん。粘られて終わりだ。そもそも、人質が効果を発揮するのは立て籠りの時だろうが。そういう時には滅茶苦茶役立ったけどな」
「えっ経験則?」
黒見セリカの問いに、『先生』は曖昧に微笑んだ。
先ほどと同じような笑みではあるが、そこに含まれる中身は大違いである。
「うへ〜、ねえ先生? シロコちゃんを説得するのは良いし、役に立つ内容ではあるんだけどさ。……言ってることが専門家すぎない?」
「昔取った杵柄、ってやつさ」
実際には、昔盗った札束とでも言うほうがより正確である。かの犯罪のメッカ、オオサカにおいて銀行強盗はエクストリームスポーツの一種が何かのように扱われていたし、彼ももちろん銀行強盗を果たしたことがある。それも複数回。
「まだあるぜ。銀行内に敷設されてるセキュリティシステムの種類と位置と数、警報の種類とどこ製か……書き出せるか?」
「それは……」
「だろ。そうなると、金庫をどうにかして首尾よく大金をせしめても、追跡されて後ほど御縄に……ってわけだ。違うか? ノノミ、セリカ」
「それは、確かに……」
「……間違ってない、と思います」
彼はおもむろに、スラックスの尻ポケットに手を伸ばし……その手が宙を切って、煙草を置いてきたことを思い出した。
かつて、自分たちのアジトで若い新入りに講義をした時のことが瞼の裏に過ぎる。あの時のように一服しようとして、できず。
目の前の少女たちが、掃き溜めのゴミ屑の仲間ではないことを、再認識する。
「これはまあ、屋内閉所での
砂狼シロコは……裏切られた、という表情から一点、稀に見る真剣さで講義内容をガリガリとノートに写している。鬼気迫る、といった迫真さでこそ無いものの、一言一句聞き逃すまい、としていることは見ればわかる。
ついでに言えば、程度の差こそあれ、残るアビドスメンバーの全員が同じような反応である。あの一番マトモな奥空アヤネですら、だ。
それは講義をする彼の話し口がある種の真摯さを帯びているからかもしれないし、話す内容が有用であるからかもしれない。あるいは、なんだかんだと言ってもこの五人がキヴォトス全体で見ても最上位レベルの戦闘能力を持つ上澄み……極小人数で極大の戦力を誇る精鋭であるからかもしれない。
ともあれ、彼女らは彼の薫陶を――キヴォトスのそれとはベクトルの違う、銃火渦巻く悪の都を駆け抜けた超一流の薫陶を受けて。
その結果が――
「Good Morning、ブラック・マーケット!!
「なっ、ななっ、何者だ……!? 覆面の……ご、強盗!?」
「知らねえのか? おいおい遅れてるじゃねェか、白襟のくせに。おい3号、教えてやれ」
「は〜い⭐︎ ……あ、でもそこの通報しようとしたあなたはアウトだお♧」
「ぎゃぁぁあっ!?!?」
「ほらほら!! 死にたくないなら伏せなさいってば!! 撃つわよ――ナメてんじゃないわよっ!!」
「うぎゃっ!?」
――これである。
渡世の宿痾として敵対した便利屋をシバき回し、身の程知らずにも歯向かってきたブラックマーケットのチンピラを血祭りに上げ、そして辿り着いたのは、あからさまに怪しい現金輸送車を迎え入れた闇銀行。
狙い澄ましたかのように訪れた機会に対して、彼の与えた薫陶はあまりに大きかった。
なにせ……『先生』が彼のような人間失格のクズでない場合に於いてすら、五分で一億を稼ぎ出すような犯罪集団が彼女たち、覆面水着団である。それだけでも充分以上の脅威*2、それが更に魔改造されようものならば……結果は、推して知るべしと言うものだ。
「私たちは、人呼んで覆面水着団!」
「うへ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に――」
「ん、今1号が喋ってる。ちゃんと聞くべき」
銃声一発。
『2号』と書かれた青色の覆面女子高生の放った鉛玉が、こそこそと、テーブル裏の警報ボタンに手を伸ばした職員の腕に突き刺さる。
蹲る職員の頭の真横に、やけに堂に入った動きでだん、と叩きつけられる靴裏――その持ち主である彼の覆面には、『王』と書かれていた。
彼はそのまま、懐から抜き出した.44口径の銃口を、職員の頭にぐりぐりと捻りつける。
本体と銃身をマットなくすんだ白、グリップと一部装飾を濃いめの青で塗られたそれは、鈍い鉄の光がなくともその重さだけで破壊力を推し量れる。
彼が
「ひぎゃぁっ!? う、撃たないで……」
「言うこと聞きゃ撃たねえよ。え?」
「……覆面マスター。終わった、けど……その……」
「よし、ならずらかるぞ」
「……ん、採点は?」
「引き上げてからだァな」
ほんの五分前、マーケットガードを蜂の巣にした勢いのまま、闇銀行に雪崩れ込んだのは我らが愛すべき覆面水着団――with覆面マスター。
彼ら、彼女らはまずは駐車されていた現金輸送車を鹵獲し、そこに『細工』を施した上で正面玄関を輸送車で突破。ぶち破った硝子片を無駄に高価な床材へデコレーションしながら、車体を正面カウンターに突っ込ませた。
驚き慄く職員たちへ、駆け付け一杯とばかりに銃弾の雨あられをご馳走。マーケットガードを薙ぎ倒しながら、鞄に戦利品を詰め込めるだけ詰め込ませた。
「ま、待て!! お前ら、奴らを追――」
「0号、やれ」
「了解ですっ!!」
かちり。通信越しに赤いボタンが押し込まれ――赤熱、膨張、のち、爆裂。メインカウンターに突っ込んだ現金輸送車が、満載された爆薬とガソリンをぶち撒けて炎上。警報器も、防衛装置も、何もかもを吹き飛ばし……ほんの数秒前までは見事な内装を誇っていたそこを、無惨にリフォームし終えた。
売上は占めて一億、被害総額は本来の歴史の十数倍。瞬く間の犯行である。
「うわはははは!! よォし引き揚げろォ!」
「撤収〜⭐︎ 引き揚げで〜す⭐︎」
「ロックンロォール!!」
「うへ〜……なんだか大変なことになっちゃったねえ。……セリ、じゃなかった4号、これ元に戻るの……?」
「な、なな、な――なんなんですか、これぇ〜〜!?」
リーダーである5号、ファウスト――阿慈谷ヒフミの悲痛な叫び声は、悲鳴と絶叫と怒号に飲み込まれ、誰にも聞こえることはなかった。
闇銀行に追手を出す余裕はなく、証拠は爆炎の中に消え、一人歩きするのは『水着に覆面を被った異様に強い
「ん、先生……その、鞄の中に……」
「現金ン? 捨てとけ捨てとけそんなモン。はした金だ」
即ち……覆面水着団の記念すべきデビュー戦は、足のつかない、完全犯罪であった、ということである。
Tips::銀行強盗
覆面ブルー「ん、銀行を襲う」
TRPG『サタスペ』とブルーアーカイブの奇妙な共通項のうち一つ。
亜侠はスナック感覚、あるいはエクストリームスポーツ気分で銀行を襲い、銀行は襲われる前提で行員が帯銃している。頭取も武装している。
どれほど銀行強盗がポピュラーかというと、それなりの練度の亜侠は手番が余るとたいてい【襲撃】するし、公式シナリオには銀行強盗をテーマにしたものが最低でも二つある(しかも、同じ銀行を襲う)程度である。
銀行と亜侠は、まさしく切っても切れない存在なのだ。