昔ながらのドッキリSSっぽいのを書きたいと思った徹夜明けテンション。

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ノアに悪戯の仕返し

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 生塩ノアは悪戯好きだ。彼女と知り合ってそこそこ経つが、そのそこそこの間に何度も悪戯を仕掛けられてきた。バレンタインの時のちょっとしたドッキリや、日常での揶揄い。対抗してみても逆にやり込められてしまったことだってある。

 

 可愛いから許すけれど、こちらが何をやっても余裕をもって微笑んでばかりで憎たらしさすら感じる。可愛いから許すけれど。

 

 

 

 仕事の息抜きにに何気無くモモトークを開いてみた時に、一番上に表示されているノアのアイコンを見て、ふとこれまでやられた悪戯の仕返しをしてやろうと思った。

 

 忙殺され、連日の徹夜に脳がイかれてしまっていたのかもしれない。

 

「ここに来た時に私が死んでたら、ノアはどんな顔するんだろ?」

 

 

 

 

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 思い立ったら吉日というか、ほとんど無意識にノアにシャーレに来てくれといったメッセージをすでに送ってしまっていた。

 

 「どうかなさいましたか?」と言う返信に如何返したら自然だろうかと頭を悩ませていると、その空白を非常事態ととらえたのか、「急いでそちらへ伺います」と続けて送られてきた。

 

 あまりにも好都合だ。このままノアを驚かせてやろう。

 

 しかしここで何の準備もしていなかったことに気が付いた。

 死んだふりをすると言っても、あの観察力に優れたノアを欺くのは容易ではないように思われる。ただ倒れているだけでも、もちろん先程のメッセージと合わせて慌てる可能性もあるが、不安は残る。一見した時に明らかに死んでいると思わせるような何かが必要だ。

 

「そういえばウタハがくれたのが……」

 

 現在コートをかけてあるハンガーを見る。一見普通のハンガーなのだが、ウタハ曰く耐荷重性能十トン。人間一人と言わず何人でも吊り下げられる。

 

 さらに、以前はなかったものだが、アリスが華麗に天井を吹き飛ばした時に何かに使えるかもとフックを取り付けてもらってある。

 

 

 私は天才かもしれない。

 まずはコートの中にハンガーを隠した状態で羽織る。天井のフックとハンガーをロープで繋いで吊るされて、あとはロープの輪っかを首に巻く。

 

 ただ倒れているだけでは騙せなくとも、首を吊った状態であったならばノアも驚くだろう。泣いてくれるかなぁ。

 早速準備に取り掛かる。

 

 

 

 

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「先生?」

 

 ノアがシャーレのオフィスに入りつつ声をかけるも返事はしない。

 ガラスから差し込む日によって、照明の必要がないほどに明るいオフィスでは、入った瞬間に目に入るだろう。

 

 入口のところでノアが固まった。紫水晶のような瞳をいっぱいに広げて、綺麗な唇が少しずつ開かれていく。ただでさえ白かった肌はより白く、青褪めていくようだった。

 

「い……」

 

 震えるような声が、掠れ気味に零れた。何度もノアと言葉を交わしている私でも、本当にノアの声だか判別できないほどに、擦り切れるような声だった。

 

「いやあぁああ! せんせい! せんせい!」

 

 慌てて私の下に駆け寄って、拳銃で天井から私を吊るすロープを撃ち抜いた。突如襲い来る浮遊感に声を上げそうになるが耐え、落下の衝撃に備える。いや、慌てるノアを見れた以上はさらに騙す必要などないのだけれど、もう少し先の展開も見てみたくなってしまったのだ。

 しかし思っていたほどの衝撃はなく、予期していた硬さも冷たさもなく。どうやらノアに抱き留められたらしい、甘い柔軟剤の香りが衝撃と共に強く舞い、柔らかく温かな質感があった。

 

「せんせい…………せんせい……まだ、まだ暖かい……」

 

 薄目で見ると、ぼろぼろと涙をこぼしながらも私の手を握り、縋り付くノア。

 急にとんでもない事をしてしまった気がしてきた。

 

 正直な所、もしかしたら驚くかな、くらいの期待でやった行為なのだ。おそらくはオフィスに入ってきた瞬間だけ驚くことはあってもすぐに見抜いて、もしそうでなくとも近づいてきた時には気が付くだろうと思っていた。

 

「どうして……先生……せんせぇ!」

 

 ここまで感情を露わにして、半狂乱に叫び、何度も名前を祈るように呼ばれるとは思ってもみなかった。

 

 

「まだ、まだ助かるかもしれません。人工呼吸を――!」

 

 いよいよ罪悪感に耐えかねていたところで、ノアがそんな事を宣うので慌てて。

 

「わっ! 待ってノア! 私は死んでないから!」

 

 というと。

 

「はい。驚かれました?」

 

 

 

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「さ、最初から気づいてたの?」

 

 私が慌てて死んでないというなり、ノアは一瞬前までの悲壮感を霧散させて、いつも通りの余裕たっぷりの笑みを浮かべた。その様子から、先ほどまでのは演技だったのだと理解した。

 

「ええ。そちらにおそらくロープを天井から吊るす時に使った脚立が見えてますし。そもそもハンガーで吊るされているのは見え見えでしたから。首のロープも不自然です。首輪やチョーカーみたいになってますが、吊るされているのでしたらもっと斜めに掛かっているでしょうし」

「あ、確かに言われてみれば」

 

 ハンガーで吊るされていたら形が見えることに気が付かなかった。首のロープの不自然さも当然。

 

「そもそも、先生が自ら命を絶つとしても、きっともっと違う形でしょうから。私を呼んでおいて自殺なんて絶対にありえないです。さて、先生。まだ先生の口から必要な言葉を聞けていません」

「……あの、すみませんでした」

 

 私の謝罪に、ノアはため息交じりに。

 

「こんな悪戯はよくありませんよ? 先生に信愛を持つ人たちへの攻撃にも等しいですし、繰り返すとどこぞの寓話のように、本当に困った時に冗談だと思われてしまいますから」

「はい……反省してます」

 

 一回りも年下の女の子に諭され正論を言われて、大人としても先生としても立つ瀬がない。こちらこそ涙目になりそうになった時に、ふと先程のぼろぼろと涙をこぼしていたノアを思い出して。

 

「ノアって演技も上手いんだね」

「? いえ、演技ではありませんから」

「え?」

「先生が私を驚かせようとしていると気が付いて、それに乗っかってみようと思った時、本当に先生がこんな風に死んでしまっていたらと考えて、そのまま…………」

「……ごめんなさい」

「ふふ、もういいですから。絶対にもうこんなことしたらいけませんよ?」

「もうしないよ……どうあってもノアを驚かせたり慌てさせたりは、できそうにないし」

 

 私の言葉に、気のせいだろうか。ノアはより一層笑みを深めたような気がした。どこか挑戦的で、挑発的で、蠱惑的な笑みだ。

 

「もし今度同じことをやったら、その時は途中で声を上げても、人工呼吸しますから。それとも今、予行練習しておきますか?」

「やっ、だからもうしないって。の、ノア!? ちょっ――」

 

 当然私を揶揄っているのだろうけれど、力強く肩を抑えてゆっくりと顔を近づけてきた。美しく可愛らしい彼女の顔が、文字通り目と鼻の先に。

 

 がちゃん、と何かが落ちた音がした。

 入口のところでユウカが固まっていた。瞠目し、金魚のように口を動かして、顔を赤くしたり青くしたりを繰り返してから、決心したようにのどを鳴らし。

 

 

 

「お邪魔しました!!!!」

 

 

 

 逃げた。

 

「ああそういえば今日ユウカが来るんだった」

 

 どこか他人事のようにつぶやいた私に、ノアは何度か私とユウカが先ほどまでいた場所とを交互に見て。

 

「ま、待ってください!! 誤解なんです!! ユウカちゃん!!!」

 

 

 大慌てでノアが追いかけて行った。

 

 図らずも目的は達成できた。やったぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 詳しい事情を聴いたユウカに死ぬほど怒られた。


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