おめでとう!悪役令嬢は悪のカリスマに進化した!   作:ギブソン・ガール

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#1

ぼんやりとテレビの画面を眺めながら、ボタンを連打する。

金髪のイケメンがコロコロと表情を変えていくその様は、かなり滑稽だ。

メッセージウィンドウに並ぶ主人公への、気色の悪い何処かで使い回され擦られ続けた薄っぺらい愛の囁きが、濁流のように高速で流れていく。

ときおり頭の片隅に現れる「俺、何してんだろう」という邪念を振り払いながら、一心不乱にイベントを飛ばしていく。

 

『ラバーソウル2』

 

クソッタレ姉貴に強制的にさせられている乙女ゲーだ。

乙女ゲーといっても、このゲーム、前作の『1』と違って実は結構歯応えのあるRPG要素がある。

様々な魔法を組み合わせる戦術や、いやらしい性質の中ボスなど、RPG好きでも楽しめるゲームデザインとなっていて、そのためRPG好きな男ゲーマーたちがこぞって乙女ゲーを買うという奇妙な光景がゲーム屋で見られ、SNSでちょっとした話題にもなったという。

 

 

そんなことは妖怪二次元ババアことクソ姉貴には関係のない話。

さっさと推しのスチルとイベントが見たい姉貴からすれば延々とレベリングしたり攻略パターンを構築するのが苦痛なのだ。

しかし好感度上げやシナリオ進行にはレベルやボスの撃破が必要ということで、普段友だちと外で遊ばず大学にも行かずに部屋に篭ってゲームばっかしてる俺に白羽の矢が立った。

 

「やれ」

 

「はい…」

 

たったの2文字で俺のゲームライフにスクランブル。

しかしそれが弟の宿命なのだからしょうがないのだ。

 

そんなわけで延々とクソみたいなノベルパートをやらされているが、正直苦痛だ。

金髪のイケメン野郎は、やれ本当の愛だの、血が全てではないだのあーだのこーだのゴチャゴチャ抜かしてやがる。

ブサイクで姉貴に逆らえない俺からすれば、コイツの戯言なぞ、テッシュ未満の薄っぺらい三流猿芝居だ。

 

他のムキムキマッチョ野郎やロン毛メガネ根暗マンも腹立つ。その自信たっぷりなキラキラ笑顔(笑)と、僕は不幸なんです〜世界で一番可哀想なんです〜とでも言いたげな辛気臭い面。

それと所謂子犬系というのだろうか、男のくせに主人公に尻尾振って媚び諂ってくる後輩男子。マジでキモい。

 

自発的に始めたゲームではないので、どうしてもシナリオが楽しめない。

主人公の女の子も、立ち絵でもイベントシーン内でも目元が影や前髪で隠れていてイマイチ可愛くないというか、ビジュアルがわからない。さらには選択肢のセリフはどれもこれも少し的外れで、本当に攻略キャラと面と向かって向き合っている感じでもない。

 

ここまでやってきて思うのは、なぜRPG部分は無茶苦茶素晴らしいゲームバランスで作られているのに、シナリオがイマイチなのか。

したり顔で口説いてくるイケメン共をぼんやりと眺めながら、なるべくこの虚無に等しい時間を、心の中で毒を吐くことで耐える。

 

すると急に、やたら前髪を大きく膨らませ、バチバチの厚化粧に、死ぬほど利便性の無さそうなクソデカいドレスを纏った、さも私は悪女でございますって感じの少女が現れた。所謂中ボスの悪役令嬢という奴だ。

 

コイツもコイツで色々と腹立つ。名門の家に生まれ、成績優秀という設定の癖に、主人公への嫌がらせは幼稚で杜撰で短絡的、挙句それを糾弾の材料にされてみっともなく焦りまくる。

事あるごとにバカで下品な口調で主人公を煽ってくるので、普通にノベルパートで嫌な気持ちになる。

 

女の嫌な所(まるで姉貴のような)の凝縮エキスみたいな性格で、それに加えて小学生男子並みのオツム、トドメとばかりに自己中心的で保身に走るお猪口以下の器。

 

やはり俺は根っからのゲーマーなのだろう。

RPG部分が素晴らしく、イラストや操作性も抜群という長所に不覚にも魅力を感じてしまったが故に、このシナリオやキャラの動かし方といった面に、物凄い勿体無さを感じてしまった。歯痒いと思ってしまった。

 

正直このシナリオはクソだ。攻略キャラにも主人公にも惹かれない。

 

もし、この悪役令嬢がこんなしょうもない小悪党ではなく、悪のカリスマのような、魅力的な悪役だったのなら、この物語はもう少し面白くなったのか知れないが……

 

 

 

 

公暦1984年、王国立アバー=ガーヴェニー高等魔法学院は、第101期生の入学式を迎え、豪奢な飾り付けのされた大広間には、全校生徒と全教職員が集っていた。

 

荘厳な雰囲気に気圧される新入生たちの、どこかソワソワと落ち着きない姿を微笑ましく見守っていたアリス・モンタギュー学園長は、ふと一人の新入生に目が付いた。

 

そこらの女生徒よりも少し短い黒髪を整髪料で整えている。前髪は持ち上がり後方に流れ、両横の髪も後ろに流れている。後頭部には肌色の一本線。たしかその髪型は下町に屯する不良少年に流行っていた、と記憶している。

 

中々面白そうな娘だと、自らの目が品定めをするように自然と鋭くなっていく。

 

「ふむ…」

 

「…学園長?」

 

何やら横に座っていた教員が訝しげに小声を漏らすが、あえて無視した。

それよりもあの少女を『観る』ことが大切なような気がしたからだ。

 

細身な男子在校生と変わらぬほどの体躯。揺れない眼光と不動の鼻っ柱。冷徹な顔貌。革製の外套。雑に結んだ襟締。それらは不思議と格好がついている。

 

勿論名前は把握している。

彼女の名は

『リーゼ・ポンパドール=ダックテイル』。

ポンパドール家は代々、中央魔法院の結界術師や魔薬取締局員を輩出しており、その家格はまさしく名門といえる。

そしてダックテイル家も、その一族の者には一流の決闘士が多い。大昔、かつて9年にも渡って続いたという亜人戦争でも、ダックテイルの一族は最前線で奮闘し多くの勲章を国王に賜ったという。

 

リーゼはそんな魔法院に仕える静かなる臣下の血と、武門から受け継いだ荒き血を持つ少女。

 

今もなお、凛とした態度と容貌で式典を受け止めるその姿勢は、高貴な家格にも負けぬただならぬ雰囲気を醸し出していた。

 

「…もうすぐ挨拶ですよ、学園長」

 

「…おお、すまぬすまぬ」

 

改めて新入生たちを見回す。今期は中々気骨のある子が多そうだ。

適当な挨拶を考えながら、何度も味わってもなお慣れることない不思議な高揚感を胸に仕舞い込んだ。

 

 

 

 

鈍い音が、中央棟の影に木霊する。

力一杯に振り下ろされた金属製の杖(腕ほどの長さであろうか)は、寸分の狂いなく倒れ伏す大柄な男子生徒の頭に叩きつけられる。

 

「ここで今回の特別授業のお浚いといこう」

 

いかにも理路整然といったような、威風堂々とした、年若い少女にしては低く嗄れたその声は、まるで往年の教授のようで、それによって、余計にこの鉄火場に似つかわしくない文言が、陰に覆われた場を支配した。

 

「闘争における最も重要な要素とは、このように、大柄な体型や筋肉、様々な状況に対応できる魔術の手札、あるいはそれらを自在に駆使し得る技量ではない」

 

淡々と同じ声量、抑揚で放たれるそれは、何気ない日常会話のようであって、とても、とても、不気味であった。

 

「強靭な意志だよ…分かるか?……敵対した相手を打ちのめし、その叛逆心をへし折る…あるいは命ごと抹消する、と口にするまでもなく俊敏に行動に移す、示威行為として表現しない、愚鈍な君にも分かるように言うとするならば、まさしく内なる殺意なのだよ」

 

絶え間なく言葉が紡がれる間にも、油断なく、同じ拍子でその杖は、狂気は、或いは凶器が、振り下ろされ、振り下ろされ、振り下ろされ、初夏に降りしきる豪雨の様に、男子生徒の精悍な顔貌を歪めていく。

 

「君は闘争に懸ける意志を侮ったが故に、1つ下の女生徒に叩きのめされたのだ」

 

「…ぁ…や、ゃ…い…っ!…」

 

「眠いのか?それとも、許しを乞いたいのか?」

 

それは嗜虐的とも取れる言葉、しかし、それにしてはあまりにも無感情であった。

 

「そして君はこの屈辱を誰にも共有できない、なぜならば君はか弱い女生徒を襲った獣であり、それを通りすがった勇敢なる女生徒に制裁された、沈黙すべき報いを受けた加害者なのだから」

 

鈍音が響く。

その度、影の中に居るというのに、身を抱いて震えを自ら宥める女生徒が、目にいっぱいの涙を溜めながら、視線を泳がせた。

 

「すまないな、悍ましい様を見せて」

 

鈍音は鳴り止んだ。

同時に杖を振った断罪者は、その上等な生地を汚すことに対し躊躇なく膝を折り、今もなお震える女生徒と目を合わせた。

 

「無理に喋ろうだなんて、考えなくていい」

 

「…ひ、あ、あ、その、あ…っ……」

 

「ゆっくりと、息を吸って、息を吐くことだけを考えるんだ」

 

不思議な光景だ。

陽の光に当たらぬ影の地で、頭や額から血を流す男子を尻目に、震える華奢な少女に、断罪者は恭しく膝を折っている。

奇妙であった。

 

「私はね、君がとても優しい人だと思ったんだよ」

 

それは、機械じかけのような声では、決して無かった。

 

「何故なら君は、本来その純潔を嬲ろうとした悪漢が伸される景色を見てなお、爽快感も高揚感も感じていない」

 

「…そ、そん…」

 

「君は、優しい人だ」

 

その時震える少女は、安心してしまった。

異質な空間であっても、自らの矜持を、常識を、感性を保証されたのだと思った。

 

「どうか、名を教えてほしい」

 

「ベ、ベアトリックスです…ベアトリックス・セネル…」

 

「ではベディ、と呼んでいいか?」

 

今の今まで、頑なだったその表情が、薄く弧を描いた。

 

「君は優しい子だ、友だちになりたい」

 

ベアトリックス・セネルは頷いた。

心底には打算も保身もなかった。

ただ怯えていただけの自分が、少し嫌いになりそうだったが、その言葉に救われたからだ。

 

怯えていたのは、間違いではなかったのだ、と。

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