おめでとう!悪役令嬢は悪のカリスマに進化した!   作:ギブソン・ガール

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リーゼ・ポンパドール=ダックテイルは、その肉体が黒胆汁質であると同時に、魂が異性という不完全な転生者なので、こうした不具合が生じています。


猟奇的で暴力的で狂気的な本能の残滓によって発生した、とある少女の無意識内の二重思考的な混沌なる異常思考

悪夢だ。これは悪夢だ。

股ぐらから血が流れている。真っ赤な血が流れている。

何度も何度も股に手を突っ込んで、掻き出してみても、血は流れるばかりで、むしろ、どんどんと血は流れて、流れて、流れて、流れて。

横目には、精悍な顔つきの筋肉質な男がいる。全裸の男が立っている。

俺の両手を片手で掴んで、拘束して、そのまま接吻してきた。

口内を蹂躙するそれは、大きな大きな芋虫みたいで、てらてらとして、ねばねばとして、つるつるとして、それが!それが!!俺を!俺の中を!

気持ちが悪い!気持ちが悪い!気持ちが悪い!!

ビクともしない。俺の両手はビクともしない!

男は嗤っている。女に欲情した目だ。発情期の獣だ。罪人の瞳だ!

 

分かっている。ああ、分かっているとも。

これは『俺』だ。かつての『俺』だ。

俺なんだ、男に生まれて、男として育って、男の肉体を生きた俺だ。

俺は、女の身体なんてロクに分かっちゃいなかった。

だから、こんな、醜い、気持ちが悪い、身勝手で、傲慢で、気色の悪い、我儘な、傲慢な、薄汚い欲望を、抱えて、抱えて、ずっとずっと内に秘めて秘めて秘めて、時には綺麗に飾ってみて、時には欲望を昇華しようとして、時には相手を尊重し慮る心意気を学んで、こういった、欲望を、肉欲を、消そうとした。

 

だが、消えなかった。

俺はきっと若くして死んだのだ。

男としての生涯を送って、肉体が生み出す本能的な欲望を消化したり昇華したりせずに、死んだのだ。

故に、これは残った。この若くて、青くて、未熟な願望が。

そして、この醜い、蟲みたいな、獣みたいな、欲望の残滓が残った。

躁鬱のように、荒れ狂う本能と理性の矛盾、つまりは二重思考が、俺の魂にこびりついて、異なる魂に異なる肉体の、歪な、それはそれは歪な『人のような、なにか』ができて、作り上げたか、或いは作り上げられた。

 

許すことなど、できない。

 

俺は、何かをただ只管に、がむしゃらに、遮二無二、犯して、征服して、屈服させて、支配して、勝利するという欲望の因果に縛られて、取り憑かれて、そうして、俺は俺に犯される悪夢を見る。

 

見よ!この血走った目を!

悪魔だ。俺はまるで悪魔なのだ!

これを抱えたまま死んだ!俺はきっと死んだのだ!そうしてその悪魔は飛び立って魂にしがみついて、夢にまで出てきやがった。

 

畜生が。

 

俺は、俺は、俺は、覚えている限りでは、童貞だった筈だ。

怖かったのだ、女が怖かった。

姉が怖かったのだ。母が怖かったのだ。女友だちが怖かったのだ。元恋人が怖かったのだ。

それと同時に、父を、親友を、悪友を、旧友を、そしてなによりも俺自身を見下していたのだ。

 

男は馬鹿で愚かだと、信じていた。

故に、女という性別が怖かったのだ。

 

嗚呼、分かっているとも。

理性はとっくに分かっているとも。

男だの女だの中性だの無性だの、そんなものは恐怖の差別の異物の崇拝の畏怖の尊敬の愛情の友情の対象を本質的に決定するものではない。

分かっている!!

そんなことは、分かっている!これを否定するのは、社会に背を向けることだとも、分かっている!分かっているとも!

だが、それならば、今の俺はなんだ!下らない事か!これが!この痛みと苦しみと恐怖は、下らない事なのか!?大袈裟だとでも言うのか!?

 

なんだ、この悪夢は、許せない。

許してはならない。

殴り書きのような思考で、かつての俺は、文字と声とでグシャグシャになって、それで、消えて、また、今度は、俺はかつての俺になって、目の前には、男になろうとしている今の俺が出てきて、俺を睨みつける。

抵抗するように、戦う姿勢が見える。

 

そうだとも、これは、きっと無意識下の自己嫌悪だ。

そうやって、憎しみが自らの内界で、ぐるぐると輪廻していて、終わりのない、躁鬱のようで、きっと、終わりがない。

 

思い出した。

俺の原初の恐怖。

母だ。

物心ついた頃から、姉はヤンチャで、よく母に叱られていた。

幼い頃から共感能力が高かった俺は、その、叱咤が俺にまで飛んでくる事が怖くて怖くて仕方なかった。

しょうがないだろう、幼い頃の人間にとって、大抵は、親が全てなのだ。

わかるとも、ああ、わかるとも、昔の俺の声を出すな、耳に障る。

そうだとも、これはきっと、愛着的な意味では無い、偏執的な猜疑心だとかの方面のマザー・コンプレックスなのだろう。

母は、良い母親をしていた。

虐待も飯抜きもされなかった。外に放り出されなかった。

ただ、それでも、幼い時分の共感は、側から見れば、そのヒステリックな叱咤がなによりも、世界の崩壊のようで怖かったのだ。

 

もっとあるとも、そう、あるとも。

姉は、ゲームばかりしていて、よく叱られていたが、それでも何度も反抗した。

弟である俺をよく見下して、それを母親や、時には父親にすら嗜められ、叱られ、制された。

それが怖かった。

俺は別に直接叱られたことは少ない。

もう、物心ついた頃から周りの目を気にして模範的である事だけを心がけて、心掛けて、とにかく、良い子であろうとした。

 

だが、どうだ、俺よりも何度も叱られている姉は、ある意味では、両親に構われていて、挙句俺よりも優秀な成績で、運動神経で、世渡り上手で、それが、それが、ずっと、見下してくる。

 

怖かったのだ。

俺は、私は、怖かったのだ。

 

その、こびりついた恐怖は、友人と過ごしていても、恋人ができても、拭えなかった。

 

ヴァギナ・デンタータ。歯が生えた膣。

俺はそれを無意識下に恐れたのだ。恐れたのだ。きっと恐れたのだ。

それに食いちぎられる事によって生じるのは、単純な痛みなどではなく、男としてのアイデンティティと自信と誇りと自尊心の崩壊であって、それが怖かった。

 

思い出した。

俺はかつて、恋人と、共にベッドに潜り込んだ。たったの一度だけ。生涯で、たったの一度だけ。

怖くて、吐き気がしたから、結局、何も出来なかった。

それが、俺の根源的な恐怖。

 

両方の、根源的恐怖。

ヴァギナ・デンタータと、社会的規範に服従する恐怖を起因とした精神の対抗として生まれた性欲衝動的なカリギュラ。

 

嗚呼!嗚呼!俺が何をした!

結局、俺はこの衝動を漏らさぬがまま死んだ!

それで良かったじゃないか!

俺は誰も犯していない!誰も傷つけていない!失敗と叱咤と失望を恐れて挑戦に臆したが!それでも俺は誰も傷つけてなんかいるものか!

 

嗚呼!嗚呼!嗚呼!嗚呼!嗚呼!

あああああああああああ!!!!!

クソが!!クソが!!クソッタレ!!

やめろ!!やめろ!

汚い無精髭塗れの口を近づけるな!俺に触るな!!

 

ふざけるな!ふざけるな!誰も触るな!俺が何をした!俺は何も出来なかっただけなんだ。

 

消えていく、俺の汚い原初の感情である怒りと欲望が、代わりにまた、あの少女が取り残される。

 

俺はどうすればいい?

別にどうでもいい、この世界がどうなろうと知ったことか。

いや、違う。

俺は殺すのだ。

本能の証明なのだ。

俺は男だ。俺は男だ。俺は男だ。

男だから、勝利しなくては、支配しなくては、蹂躙しなくては、戦わなければ、生きていけないのだ。

 

そうだとも、男は戦う生き物だ。

怒りと欲望衝動を飼い慣らして、戦う生き物だ。

だから、競争社会に男などという愚かな生き物が蔓延った。

俺は男だ。俺は男だ。俺は男だ。

 

子どもなんて産まない。

卵子も卵巣も要らない。

愛なんていらない。

恋なんていらない。

 

俺はただ、殺すのだ。

自らの恐怖の反動にしがみついて、そのままに、怒りのままに、殺すのだ。殺すのだ。殺すのだ。殺すのだ。

 

…何を?

何を殺す?

女か?いや、女は違う、守るべきものだ。

 

…もの?ものだと?女はものではない、男、女などと、性別を大きく括って大きな主語にすることは愚かで馬鹿らしい阿呆のやる事だ。

 

だが俺は男だから、殺さねばならぬ。

 

は?

 

どういうことだ?わからなくなってきた。

 

悪夢だからか。

これが悪夢だからか。

 

嗚呼!クソが!畜生!また、まただ!股ぐらから血が!血が!穢らわしい!汚い!血、血、血なんて、血だぞ!?血だ!

うあああああえおおああおえおあおあ!!!!

 

俺は、男だ。

しがみついて、しがみついて、しがみついて、こんがらがる。

訳が分からない。

上か、下か、右か、左か。

男か、女か、中性か。

夢か現か。

精神の、魂の残滓の性欲衝動と、暴力衝動。

肉体の、生殖衝動と生理現象。

 

わからない。

わからなくって、解らない。

 

怖い。怖い。怖い。

姉が怖い。あの見下して、俺の、俺の唯一の楽しみで、ある意味では存在意義だったゲームを、ゲームを、あんな軽く、雑に、押し付けて、俺がやりたかったゲームでもないのに。

 

何がゲームだ、クソが、下らない、頑張ればよかった。こんなことになるなら、もっと、人生をハッキリと、しゃっきりと、何でもいいから、頑張ってみれば良かったのだ。

 

勉強とか運動だけじゃなくて、芸術とか、音楽とか、文学とか、もっと、もっと、色々と、色々とあったのに、どうして、どうして俺は、親とか姉とか学校とか友だちとか恋人とかのせいにしてばかりで、頑張れなかったんだ。

 

もっと色々な道があったのに、結局、幼い頃の恐怖をいつまでもいつまでも言い訳にしていた俺の弱さのせいだ。

 

そうだ、幾らだって貪欲になれた、勇気を持てた、チャンスがあった、姉に逆らうことも、親に歩み寄ることも、あの時仲違いした友人に声をかけることも、元恋人に復縁を迫ることもできた!

 

なんだ、全部、自分のせいか。

 

悪夢は、俺が俺に犯されるのは、当然のことだ。

 

身勝手で、我儘で、嗜虐的で、自虐的で、自己陶酔的で、もしかしたら或る意味ではこれも、自殺的な衝動。

デストルドーと同居するエロス。

 

そういった、そういった悪夢は、全部俺が招いたのか。

 

嗚呼、分かるとも、分かるとも、何故か分からないが、悪夢ってのは覚えていられない。

ここで散々苦しめられて、犯されても、また目が覚めれば、全部全部忘れるのだ。

 

クソが。

何の為の苦悩だ。何の為の悪夢だ。

整理されたようで、全く整ってなんかいない。

いや、夢ってのは、たしか、記憶だとか、そういう、頭の中の整理だったな。

なるほど、俺はやっぱり発狂していたのか。

どうりで、こんなにもグチャグチャな訳だ。

嗚呼、嗚呼、忘れる。

忘れる。

忘れる。

忘れるのだ。

恐怖も。

何もかも。

忘れる。

忘れる。

忘れる。

忘れる。

もうすぐだ得られる答えすらも。

忘れる。

朝には、もう消える。

 

そして、また、悪夢が来る。




彼女は、欠陥を抱えています。
彼女は、欠落をしています。
彼女は、欠乏しています。
彼女は、既に、失っています。
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