おめでとう!悪役令嬢は悪のカリスマに進化した!   作:ギブソン・ガール

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アールヴ・ナローには秘密がある。

 

彼の母は半亜人(黒耳族(ダークエルフ))と純人の小半(クォーター)の淫売だ。

避妊の魔術を使えず、昼は布織工場で早朝から夕方まで働き、夜は路地裏に突っ立ち、明日の夕飯代を稼いでいる、路地裏の大多数の1人だった。

少し他の大多数との違いがあるのすれば、その肌は他国の難民と変わらぬ程度の褐色だった事だ。

寝床に毛布を敷いて貰ったし、飯も食わせて貰ったが、ただ抱擁されたり、頬擦りするような、母として子を慈しむような事は、只の一度もして貰えなかった。

 

彼の父は結界術師らしい。会ったことはない。

いずれ忘れる淋しさを、いつか忘れる人肌恋しさを、ただ路地裏に捨てただけの、恐らく純人だと思われる。

母曰く、顔も声も、肌の温もりすら、もう忘れたらしい。

故に、真実は永久に闇の中だ。

ただ彼の、母と比べると、それほど尖っていない耳が、黒耳の血を薄める純人の痕跡だと思われる証拠だった。

 

幼少期、アールヴは靴磨きとスリで糊口を凌いでいたが、ある靴磨きをしていた日、いつも彼を贔屓にして、対して汚れてもいない如何にも高級そうな革靴を、跪いて拭く様をじっとりと観ていた一人の妙齢の女に、彼のその端正な容姿を見初められ、養子となった。

この時すでに母は流行病で亡くなっていて、天涯孤独で、大した生きていく為の力が無かったのもあって、まさに渡りに船であった。

 

連れられた館は、大きく、豪奢で、女中も多かった。

後に聞いたが、妙齢の女、その名をハーメルン・ナローは、こうして恵まれぬ才能のある子どもを、社会的に意義のある慈善活動として住居と食を提供し、ある程度の年齢になったら、自立できる様に支援して、社会への旅立ちの手助けをしているらしい。

彼は初めて自室という部屋を与えられ、半ば腐った穀物を喰う必要もなく、濁った水を飲む必要もなく、それどころか風呂にさえ入れた。

その気になれば好きなだけ勉強出来たし、外に遊びに行く事も出来た。

 

彼は初めて人の優しさに、人が持つ善性に触れたと、思った。

母が見せた、義務的な世話は、貧困によって削ぎ落とされた情の欠片に過ぎず、それらを必死に繋ぎ集めようと、足掻いていた自分を、ひどく憐れんだ。

 

ある日、ハーメルン・ナロー、つまり義母に呼び出された。

しかも、彼女に寝室に呼び出されたのだ。

何か粗相をしたのか、と不安になった。

初めて、大声で怒鳴られるのかもしれないと思った。

 

怯えながら部屋に入ると、義母は下着で寝そべっていた。目は少しだけ血走って見える。鼻息も荒く、てらてらとした舌が唇を濡らしている。

そして、彼女はゆっくりと口を開いて、そして、服を脱げと命じられ、大きな寝台に寝かされた。

そして、彼は純潔を失った。

少なくとも快感ではなかった。不愉快という程でもなかった。

只、淋しいと思った。

 

なぜ自分がそう思ったのか、後で思い返すと、自分はきっと、優しさから生まれる善性というものを、心の底では信じていたから、と思う。

 

その日から、彼は熱心に勉強するようになった。

稀に、女中が夜這いに来たので、あるがままに寝そべった。

身体を踏み躙るように、無理矢理抑えつけるように抱き潰される事もあった。

撫ぜる様な、愛玩される様な、愛おしく蒐集品を眺める様に、ぬらぬらと、快楽に対して執拗に抱かれた夜もあった。

欲望の捌け口として、あるいは模擬的な恋慕の標的として、あるいは歪んで行き場を失った母性の最終処理場として、彼はただ寝台に寝かされた。

それらを、歪んだ形の暴力であり、個の尊厳を食い物とする卑劣な行いと受け取ったが、耐えた。

窓から差す、朝に昇る太陽の光が、あまりに眩しくて、笑ってしまうほど眩しいと思った時、『まだ死ぬ気にはなれない』と、感じた。

 

更に、哲学と政治を好むようになった。

自分はまだ、性的な、野生的な暴力の連鎖の中で生まれた獣である、と仮定し、()で成ることを願った。

 

人と成る。

では人とは何か。

分からぬ者には成れない。人としての定義を自分で定める必要がある。

自分で定めていない者にはなれない。

まだ答えを探している途中だが、少なくとも、偏見に囚われず、公平で、厳格で、常に克己し、怠惰を許さない、所謂、法の番人と呼ばれる者こそが、本来の人であり、肌も耳も鼻も歯も髪も色も言語も文化も、法の遵守さえ成されているのであれば、そこに差違は無いと考えた。

 

故に彼は、結界術師となり、懸命に働いて出馬し、民院(この国は二院制であり、その内の一つ)議員となり、ある公約(マニフェスト)を実施しようと思った。

 

それは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()では、その偉業は成される。

 

しかし、彼の前に立つ試練の壁は、知らぬうちに、大きく、分厚く、硬く、そして、過酷になっていた。

 

 

 

 

この夢は、必ず忘れる夢だ。

感覚的に、分かるのだ。

目が開いた時。若しくは、いざ帳面に書こうと硬筆を手に取った時、必ず内容を忘れる。

 

 

 

 

苛立ったので、思わずコントローラーをクッションに、ポイっと、投げてしまった。

 

「やっべ」

 

根が小心者なので、すぐさまあちこち触って確認して、接触不良とか起こしていないか確認した後、忌々しきゲーム画面を睨む。

 

「んだよこのクソボス、強すぎんだろが」

 

一旦、悪態を吐いてから、携帯に映る攻略サイトをもう一度身漁ってみる。

 

アールヴ・ナローの攻略。

褐色で眼鏡でロン毛で、根暗そうな、しみったれた辛気臭い面していて、いつもいつも陰気な事ばっか言ってるガリガリのイケメン野郎。

なんか亜人がどーたらとか言ってるが、知らねぇ。

シナリオがクソだから興味ないしちゃんと読んでないから。

 

物語の丁度半分に差し掛かる頃に、コイツと協力して、ハンプティ・ダンプティ8世とかいうデブの色白と戦うイベントがあった。

このデブ、やたらキャラ濃い。

見た目が濃い、顔が濃い、気になったので会話ログを見返してみると、キャラの背景(バックボーン)も濃い。ついでにシスコンらしい。

そして異様に強い。意味不明に強い。

1ターンで4回行動。最後は物理で固定とはいえ、3回は必ず多彩な属性を使って、着実に弱点をついてくる。

デバフもバフも余裕で解除してくるし、HPも高い。

あとなんか知らんけど、陰気褐色眼鏡クン(笑)とは思想が対立するらしく、ライバルキャラ的な立ち位置らしい。

 

因みにこれは余談だが、とあるネットの掲示板のスレで、『ハンプティ・ダンプティ8世様を人気投票1位にして女オタク泣かそうずwww』とかいうクソみたいなスレが異様に伸び、コイツが何故か公式サイトの人気投票で無双し、無駄に豪華描き下ろしイラストの壁紙が公開され、あらゆる掲示板やSNSで祭りと化した。

 

もちろんクソ姉貴は憤慨した。

余波が俺に来たが、普通に無視した。

 

 

 

ほら、忘れちった。

 

 

 

色々と捏造しまくった資料を並べて、口八丁手八丁で、口から出まかせに喋る。紅茶が冷めているが知ったことか。

 

「えーっと?」

 

やっぱり、阿保みたいな面で疑問符浮かべて困っているので、()()()()()()()()()って顔して嘯く。

 

「つまり、君の家の『伝統』を違法にして、君達夫婦の、純愛を脅かそうとしている『悪いヤツら』が居るってことさ」

 

「ゆ、ゆるせん…今、ぼくすごい怒ってるぞ!」

 

「さっき、い…じゃなくて、奥さんの写真見せてくれただろ?すごい綺麗だし、気立ても良さそうだ…なのに、違法だぜ?犯罪だってんだよ?別に誰かをぶっ殺したりぶん殴ったり無理矢理決闘ふっかけたり物盗んだり女を犯したりしていないのに、犯罪」

 

「ゆ、ゆるせん…すごく怒ってる!今!」

 

「こんなの、どんな手を使ってでも妨害したり()()しなきゃダメだよな?そうだよな?」

 

「うん!怒ってるし!」

 

語彙力皆無かコイツ。

 

「さぁ、組もうぜ、お互いに助け合おう」

 

「うん!勿論!」

 

やったぜ。

 

「あっ、でも!その前に一つだけ言わなきゃなんだ」

 

……なんか、嫌な予感がするな。

 

「父様が言ってたんだ、誰かと協力する時は、『まずそいつと決闘しなさい』って!気高い魂の闘争の中で、互いの事を絶対に分かり合えるから、()()で、()()()でやればやるほど良いって言ってた!」

 

何言ってんだコイツ。

 

「…つまり、私と決闘して、私が勝ったら、協力してくれると?」

 

「ううん、違うよ?」

 

「は?」

 

「ぼくの相手して『生きてたら』、一緒に頑張って、その…なんだっけ名前…ハローくん?とお話したり、ボコボコにしよう!ってこと」

 

うん、普通に勝てる気がしない。

 

「……了解した、いつ決闘する?」

 

「明日!!」

 

はやっ。

 

………が、ここで折れたら何のために『生き甲斐』を決めたのか。

それに、この歩く兵器みたいなのが戦力になるのだ。

腹を括ることにしたので、一先ず、煙草を吸おうと思った。

すると直ぐ横に気配を感じたのでチラッと見ると、見覚えのある店員が仏頂面で立っていた。

 

「だからここ禁煙ですって」

 

「あっすいません」

 

……やっぱ、まだ腹括れて無いかも。

すこし震える手で、煙草を木箱に仕舞い込んだ。

因みに、8世はさらに追加で色々と注文していたので、結構マジでイラッとした。

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