世界一の大剣豪になりたくて!   作:リーグロード

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ブシン祭でのベアトリクスとアイリスを相手にしたシドかっけぇ!
って思ったら、そうだ!同格の奴を相手させたろっと思って書きました。


サムライ転生

 俺には夢があった。それは剣の世界で生きること。

 何を言っていると言われるかもしれないが、きっかけは些細なことで、とある漫画のキャラクターに惚れ込んでしまったのだ。

 惚れ込んだといっても恋愛的な意味ではなく、男としてそのキャラクターの魅力に取りつかれたのだ。

 いつか大人になったらこんなキャラみたいに強い剣士になりたい。幼い頃の自分は本気でそう思っていた。

 

 しかし、その夢は日常を過ごしていくうちに儚く散っていく。

 周りを見れば剣どころかナイフ1本ですら警察が駆けつけてくる平和な時代。剣で生きていくというにはあまりにも過酷な世界だった。

 勿論、生まれた国を飛び出し争いごとの真っ只中な国へ行けば剣ぐらいは手にすることは出来るだろう。

 しかし、外の世界でも剣は刃物であって武器ではない。

 

 今の時代で武器は銃やミサイルといった飛び道具。もしくは情報という形の無いモノを指す。

 俺は幼いながらに絶望した。俺の夢はどれだけ頑張ろうとも成就することはないのだと。

 

 普通ならば、そのまま日常生活を送ることで夢と現実のすり合わせをしていき、やがて平凡な大人へと成長していくものだ。

 だが、俺はそうはならなかった。

 

 せめて剣で生きられないというのであれば、あのキャラになりきって生きていきたい! そう願ったのだ。

 幸いと言っていいのか、この国は剣をスポーツとした剣道という道がある。

 俺は親に頼み込んで剣道の道場へと通うことにした。

 

 そこで手に入れられたのはスポーツマンとしての基礎能力と、現実的な剣の扱い方だった。

 ここで俺は2度目の絶望を知る。当たり前だが、人間がどれだけ素早く剣を振ろうとも斬撃は空を飛んでいかない。

 剣道をどれだけ頑張ろうとも、真剣で戦える機会には巡り会えない。

 絶望は人を強くする効率的なスパイスである。俺はこの人生を歩んでいるうちにそんな言葉を覚えた。

 

 俺には才能はない。人が1を覚えていくうちに、俺は努力で4を覚える。しかし、天才は人が1を覚えていくうちに、10を覚えてしまう。

 

 それを知った俺は神に感謝した。もしこのまま誰にも負けずに人生を過ごしていたら、夢と現実に圧し潰されるだけの日々に飽きて生きるのが苦になっていただろう。

 

 俺にはライバルと言える男達が3人いる。その誰もが才能の原石を努力で磨き上げた本物の強者だ。

 俺達は剣道の大会でぶつかり合い、誰もが優勝を争う実力の拮抗した良きライバルであった。

 

 負けるのが悔しい、だから次こそは勝ってみせる! そんな思いが今の俺の生きる指針となっていたのだ。

 

 だが、そんな充実した日々は終わりを告げる。

 

 最初は3人のうちの1人が病に倒れて剣の道を捨てた。次にもう1人が事故にあって腕を損傷し二度と剣の道には戻って来なかった。最後の1人は恋人とのいざこざで反社会的勢力と揉めて表舞台から姿を消してしまった。

 

 こうして残った俺はただ1人、剣道の大会で優勝を繰り返し、やがて大人になってその道で飯を食っていた。

 だが、その日々は酷く退屈で窮屈なものだった。

 

 喉を通る飯も美味くはなく、何の為に生きているのか分からなくなる程に虚無感に支配されていた。

 

 そんなおり、俺に転機が訪れた。なんてことのない無意味な日常を惰性で過ごしていた時のことだ。

 人通りの少ない場所で何やら争いごとの音が耳に入った。この日本で殴り合いの喧嘩か? と興味本位で現場に足を運んで見学しに見に行くと、そこではバールを振り回しながら、DQNと呼ばれる猿共と戦う少年がいた。

 ヘルメットをしているから顔こそは分からないが、その体格と声色で中学生か高校生くらいの年齢だと判別できる。

 

「そらそら! どうした? 逃げるチンピラはただのチンピラ! 逃げないチンピラはよく訓練されたチンピラだぁ!!!」

 

「「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」」」

 

 それはなんと非現実的な光景だろうか。たった1人の少年を相手に、普段喧嘩慣れしているであろう猿共が悲鳴を上げて逃げ回っている。

 確かにあの少年は戦う技術がある。それを上手く扱える身体能力も兼ねそろえているのだろう。

 

 しかし、一番の要因は相手を傷つけることに躊躇していないその精神性からくるものだろう。

 この日本で武器を渡されて相手にまともに殴りかかれる人間は一体何人いるのだろうか? 

 

 イジメなんかで拳をぶつけるのとは訳が違う。バールというのは当たり所や威力で下手をすれば容易に人は死んでしまう。

 死ななくても傷を負って病院送りなんてことも充分にある。

 

 だが、あの少年はそんな負い目なぞ一切考えずに武器を振り回している。

 そう、まるで昔漫画で見た俺の憧れた世界のキャラ達のように、相手を叩き潰す動きを見せていた。

 

 だからだろうか、俺は背中に背負っていた木刀を装備し、あの少年の目の前に立っていた。

 

「ん? 誰あんた?」

 

「俺か? なに、ガキ共が元気が余ってうるさいから説教しに来た大人。そして、君に戦いを挑む剣士だ……」

 

 そんな俺の返答に気を良くしたのか、少年は明らかに嬉しそうな雰囲気を見せ、俺に向かってバールを振り回してきた。

 常人ならば何も出来ずに終わる速度だったが、俺からしたらまだ甘い。打ち込んでくるバールに対して木刀を器用に盾にして防いでみせる。

 

 10、20と俺の木刀と少年のバールがぶつかり合う。本来ならば、木で出来た木刀は鉄のバールに対して耐久力で劣っている為、20も打ち合えばへし折れてもなんら可笑しくない。

 だが、そこは大人になるまで努力を重ねてきた俺の技術力のなせる技といってもよいだろう。折れぬように防ぐタイミングと位置を完璧に見極めている為、木刀にはダメージは少々程度にしか入っていなかった。

 

「ふむ、その歳でよくぞそこまで動けるものだ。だが、実戦経験が足りないな。雑魚を相手にいくら戦おうと得られる経験値は極僅かだぞ……」

 

「なら、あんたが俺の経験値になってくれよ……!」

 

「む!」

 

 バールを振り下ろす……そう思った瞬間、少年はバールを手から放して懐へ潜り込んできた。

 こやつ! 不意をついて鳩尾に掌底を喰らわすつもりか!? 

 

「させるか……!」

 

「っ! やるね……」

 

 俺は咄嗟に右足を上げて少年の掌底をガードする。決まったと思われたタイミングで足で防がれるという事実に少年は驚きながらも、素直に称賛の声を発する。

 動揺は少ない。実戦経験もこの一戦で確実に積み上げてきている。武器だけに頼らないその発想力も大したものだ。

 

「少年……貴様、名は何という?」

 

「名前か……。そうだな。チンピラスレイヤー……っとでも呼んでもらおうかな?」

 

「チンピラスレイヤーか……。安直でダサい名前だな……」

 

「ダサいとか言わないでよ。傷つくな……」

 

 手放したバールを拾い直し、地味にダサい名前と指摘されて傷つきながらも、こちらへの警戒は緩めない。

 一瞬でも気を抜いて隙を晒せば即座に攻め込んでくるだろう。

 

 ならその隙は作ってやる。

 

「ほれ、かかってこい!」

 

 木刀を構えず、両手を広げて前面に隙を晒し出す。

 こんな見るからにあからさまな挑発に乗ってくれるかと一瞬考えたが、その心配は無用の用だった。

 

「ヒャッハー!!!」

 

「……一体どこの世紀末愚連隊だ」

 

 どこぞのモヒカンみたく奇声を上げながら飛びかかってくる少年に、カウンターで顎を軽く横から薙ぎ払いで打ち抜く。

 

 そうすることで、例えヘルメットをしていようとも、脳が揺れて脳震盪を起こし人は容易く気絶するのだ。

 

 ドシャっと地面に倒れ落ちた少年を抱きかかえて俺はこの場を去った。

 さっきまでここにいた猿共は俺と少年の戦闘を見て怯えて逃げて去っていったのだろう。

 これに懲りて少しはマシな人種に生まれ変わることを祈ろう。

 

 少しばかり落ち着いた雰囲気のある公園のベンチで少年を寝かしつけて数分、意識を取り戻したのか、バッ! と即座に身を翻してベンチから離れ即座に戦闘態勢に移行する。

 

「落ち着け、すでに戦いは終わった。俺の勝ちでお前の負けだ。それとも、まだ勝負を続ける気か? その丸腰の状態で?」

 

「……何が目的?」

 

 普段は背中に隠し持っているであろうバールがないことに気づいた少年は諦めたように再びベンチに腰掛けてそう尋ねてきた。

 無理もないだろう。いきなり現れて剣士だ! などと自称する大人なんざマトモであるはずがないのだから。

 

「……しいていうなれば、暇つぶしだな」

 

「……あっそ」

 

 信じていないな? いや、それとは違う。これは期待外れに似た感情の返答だな。

 俺はこの感情を知っている。夢と現実に潰された者の感情だ。だからだろうか、俺と似たこの少年にふと尋ねてしまった。

 

「君はなぜあの猿共と戦っていた?」

 

「猿共? ……ああ、あのチンピラ達ね。う~ん、しいていうなら僕の夢の為……かな?」

 

「そうか。君もか……」

 

 同じような境遇の人間に初めて出会えたからだろうか、俺は不意に自身の胸中を口に出してしまっていた。

 そこからは互いに自分の夢を語って意気投合した。

 

 俺は剣の道で生きるという夢を。少年は陰の実力者になるという夢を。

 それぞれが今の現代では難しい夢に苦悩しながら、それでも諦め切れずに今を生きているという境遇がこの出会いをもたらしたのだ。

 

「……俺は決めたぞ、少年。俺はこの国を出て剣を握ることにする。ウクライナかイランか、どちらにせよ戦争が起きている国へ行けば何かしら今とは違う光景を目にすることが出来るだろう」

 

「そっか、お兄さんも夢を目指して修羅の道を歩むつもりなんだね……」

 

「ああ……、それもこれも少年、君のおかげだ。俺は気づかぬうちに心のどこかで己の夢を諦めていたようだ。これでようやく前に進める。感謝するぞ……」

 

「うん、それじゃお兄さんも頑張ってよ。僕もこれから頑張ってみるからさ……」

 

 互いに固い握手を交わし、それ以降この2人が顔を合わすことはなかった。

 

 こうして俺は日本を飛び出し紛争地帯を駆け巡る日々を送った。最初は言葉もロクに通じず苦労したが、身振り手振りと鍛え上げた技術で剣を振るうことで闇社会へと招待を受けた。

 

 最初は銃を扱えないど素人だと揶揄される日々だったが、常人離れした身体能力と相手の視線と指の動きで弾道を予測し銃弾を斬ってみせたパフォーマンスに、いつしか弾斬りサムライと呼ばれるようになった。

 

 日本で20数年、海外で10数年生きた。もはやこの界隈で知らぬ者はいないと自負してしまうほどに名の売れた剣客となった俺はある1つの依頼を受けた。

 

 それは紛争地帯で活動している特殊部隊の遅延戦闘を終わらせてこいというものだった。

 どこの誰がこんな依頼を出してきたのか? 知る気もなかったし、依頼内容を深く知り過ぎるのもタブーであるとこの界隈の暗黙の了解を心得ている俺には関係なかった。

 ただ剣を振って認められ金さえ手に入れば問題なかったのだ。

 

 

 

 廃墟の街中でとある軍人が味方へ無線機で連絡を取っていた。

 

「こちらアーチャー! こちらアーチャー! 最悪の報告とクソったれな報告がありますが、どちらから聞きますか?」

 

「こちらセイバー! 手短に簡潔に話せ。ちなみに、両方聞かないという選択肢は存在するのか?」

 

「いいえありませんね」

 

「なら最悪の報告から言ってみろ」

 

「はっ! どうやら今回の戦闘にマフィアが介入してきた模様。それもロシア勢力の……」

 

「ファック! 母国はなにをやってるんだ! マフィア? それもロシア勢力だと!? このファッキンビッチがぁ!! ……はぁ、それでもう1つのクソったれな報告はなんだ?」

 

「これはマジで尻からクソが垂れるぜ。どうやらマフィアのお偉いさん方は事態を相当に重く見ているようでな。あのサムライを戦場に投入したらしい……」

 

「オー、ジーザス。それはマジでケツからクソを垂れ流しっちまいそうな最悪な報告だな。サムライってあの弾斬りサムライのことだろ?」

 

「YES! 戦場の死神にして時代遅れの狩人よ。そいつがこの戦場に俺達の敵としてやって来るようだ……」

 

 死を宣告された死刑囚の気分になりながらも軍人は銃を手に持ち、1,2回構えを繰り返し気分を落ち着かせて作戦に戻る。

 それでも頭の中には先程聞いたサムライの参戦が脳裏にチラついて離れない。

 

 日く、時代遅れの剣で敵を殺す黒い風となる。

 曰く、真っ正面から3人からの銃弾を斬ってみせた。

 曰く、その者はかの剣豪宮本武蔵の生まれ変わりである。

 曰く、そのサムライは金だけでは動かず、興が乗らねば大金でも仕事は受けない。

 

 この戦場で長く戦い抜いていれば自然と耳にする伝説だ。

 まるで漫画の中から飛び出てきたような存在だが、事実としてそのサムライが起こした事件は存在する。

 

 イランでの大量惨殺や、ロシアでの弾道ミサイル発射阻止の為の国家の要人暗殺など、どれも戦場で生きる者にとっては眉唾物に近しい偉業とも呼べる数々だ。

 

 写真は見たことないが、聞いた話によると齢30近くの東洋人のようだ。

 ここでは滅多にいない人種であることから、見ればすぐに分かるだろう。

 

 作戦の為にこの先の角を曲がろうとした瞬間、背筋に悪寒が走った。

 

「っ!?」

 

 戦場で生きていればこういった経験は何度か味わったことはある。敵との交戦の際に銃弾の嵐に晒された時、目の前に爆弾を投げ込まれた時、中には鬼嫁に浮気がバレた時にも走ったことのある。

 

 こういった時は大抵命に関わる事態に陥る時が多い。しかし、こうして何もない時に走った記憶はない。

 

「まさか!?」

 

 嫌な予感がしてこの先の角を手鏡を使って覗き込むと男が1人立っていた。黒いローブに腰には刀剣がぶら下げられており、その顔は東洋人の特徴が浮かんでいた。

 

「ファッキンゴッド! ちくしょうめ!! 死神の貧乏クジを引かされっちまったか……」

 

 ギリ! と奥歯を嚙みしめて軍人は銃を強く握る。ドクンドクンと早鐘のように鼓動する心臓を押さえつけながら、作戦を成功させるためにはこの先の道を突破しなければならない。

 

「大丈夫だ。所詮は剣、剣は銃には勝てない。奴はまだこちらに気づいている様子もない、反応するよりも先に引き金を引きさえすれば、俺が英雄だ……!」

 

 心を落ち着かせるために自分自身に言い聞かせるように独り言を口ずさむ。

 覚悟は決まった、クソったれな神への祈りは唾を吐き捨ててやった。

 だったらあとは……。

 

「うおぉぉぉぉ!!!!」

 

「…………」

 

 銃を構えたまま走りだし、角を曲がった瞬間に雄叫びを上げながら銃をサムライに向けて乱射する。

 普通ならば銃口を向けられた相手はそのまま弾丸の嵐に撃たれて無惨なハチの巣になるのがお約束だが、サムライは違った。

 

 軍人が角から現れたと同時に斜め前に走りだし、自身に迫る弾丸を剣で受け流したのだ。

 

「オー、アメイジング……」

 

 まるで映画のワンシーンを見せられたかのような現実離れした光景に、軍人は思わずその言葉が口からこぼれた。

 しかし、腐っても軍人。そんな気の抜けたような台詞を吐きながらも、作戦遂行の為にサムライを殺すべく、銃が効かないならば爆弾をと懐の手榴弾をピンを抜いて目の前に迫ってくるサムライに投げつけた。

 

「…………ふむ」

 

 この距離では手榴弾は斬れんと判断するも、一度走り出した足は急には止まらんし後ろに方向転換しようとも爆風に追いつかれて火傷を負って銃を持った相手に距離を取ることになる。

 

「ならば!」

 

 手榴弾が地面に接触するまでの1秒足らずの間に高速で脳を働かせて対処法を考える。

 そして、俺は足を止めることなく更に地面を強く踏みしめ、走るというよりも跳躍するように前へ飛び出しす。

 それと同じタイミングで手榴弾が地面に落ちピカッと光る。

 

 ドゴーン!!! 

 

 けたたましい爆音と爆発が戦場に轟いた。

 この爆炎の中で防火装備を着用していない人間が生きているはずがない。そう思って軍人は思わずガッツポーズをした。

 

 だが、その軍人の勝利を否定するかの如く、爆炎の煙の中からボフンとサムライが空を飛んで現れた。

 

「うっそ……?!」

 

 サムライは手榴弾の爆発から逃れる術はないと瞬時に判断したと同時に活路を見出した。

 それは近くに建てられた廃墟のビルの壁を三角飛びで蹴り上げて跳躍し、耐火ローブを盾にしながら爆炎に乗って被害を最小限に抑えるというゴリ押しによる戦法だった。

 

 事実、その戦法は見事に成功し、多少の火傷を負いながらも即死を免れる。

 そして、軍人の真上を取ったサムライは自然落下しながら剣を構えて軍人の首を流れる水のごとく鮮やかに断ち切って宙へと刎ね飛ばす。

 

「これが……サムライ……!」

 

 軍人が最後に見た光景は首が無くなった己の肉体と、大小さまざまな切りキズや刺しキズに銃創や火傷と体の至る箇所に傷痕が刻まれ、爆風で脱げたローブの下から覗いた顔にも無数の傷と、その耳は銃弾が掠ったのか半分くらい千切れてしまっていたサムライの姿だった。

 一体どれだけの戦場を駆け抜けてきたのか、その傷痕を見れば分かるというもの。

 

 そしてボトリと軍人の頭が地面に落ちて戦闘が終了する。

 

「これで仕事は完了だ……」

 

 サムライは剣に付着した血を一振りで払い、そのまま鞘へと収めてその場を後にする。

 

 

 指定された成功報酬の受け取り場所へ足を運んでみると、そこには受け渡し人以外の複数の人間の気配と、銃特有の火薬の匂いが漂っていた。

 

「いや~、流石は伝説のサムライだ。この依頼を見事にやり遂げるとは!」

 

「御託はいい、さっさと要件を言え。さもなければ……」

 

 鞘から剣を抜く構えを見せると、男は慌てて依頼達成の報酬金が入ったアタッシュケースを取り出した。

 

「そっちではない。さっきからコソコソと周りを囲んでいる連中のことだ……」

 

「っ! さ……流石は伝説のサムライだ。あんたスーパーマンの親戚だったりするのかな?」

 

 そう話題を逸らそうとした男の片耳を、サムライは目にも止まらぬ居合切りで切り落とした。

 

「──っ! ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

「御託はいいと言ったはずだ……」

 

「お、お前ら! やっちまえぇぇ!!!」

 

 その言葉を合図に、建物内に隠れていた連中がバッと飛び出しサムライ目掛けて銃弾を撃ち込んできた。

 

 四方から撃ち込まれる弾丸に、さしものサムライも全てを防ぐことは出来ず、肩や腹といった戦闘への支障が少ない部位に命中する。

 

 パン! パン! と鳴る銃の音に合わせて、サムライの体から真っ赤な血が吹き荒れる。

 

「いいぞ! 殺れ、ぶっ殺せぇ!!」

 

 耳を切り落とされた男は興奮したように声を荒げ、目の前でなすすべもなく銃弾の嵐に晒されているサムライを指さしながら、銃を撃っている連中に命令する。

 

 このまま本当にあの伝説のサムライを殺せる! そう確信しながら銃の引き金を引き続ける。

 やがて、銃の弾幕によって建物内の埃が舞い散って煙幕になり、サムライの姿をかき消してしまう。とはいえ、四方から撃ち込まれている為、どう逃げようとも銃弾から逃れることは出来ない。

 むしろ、銃口を見て銃弾を弾いているサムライにとってこの煙幕は不利になる要因だと知っている彼らからしてみれば慌てるような事態ではない。

 

 そしてすべての薬莢を使い果たした連中は埃による煙幕が晴れるのを静かに待ちながら、サムライの死体を拝もうと銃を下してサムライが立っていた場所を覗き込むと、そこには赤い血だまりがあるだけで、サムライの死体はどこにも転がってはいなかった。

 

「き……消えた!?」

 

「馬鹿な! 奴は瞬間移動が使えるのか!?」

 

「そんなわけあるか!! 探せ! まだ近くに奴が潜んでいるはずだ!!!」

 

 煙のように消えたサムライに、連中は泡食ったように慌てて周囲を警戒する。

 特に、耳を切られた男は顔を真っ赤にしながら非科学的なことを口走る男の声を否定して即座に指示を出す。

 

「ん?」

 

 連中の1人がサムライが残した血だまりにピチョン、ピチョンと水滴が落ちてきているのに気づき、ふと視線を真上に上げてみた。

 

「っ! いっ……いたぼばぁ!!?」

 

「斬り捨て御免」

 

 なんとサムライは天井に剣を刺してぶら下がっており、連中が周囲を警戒してサムライが立っていた場所から注意が逸れるのを待っていたのだ。

 

 脚立も使わず銃弾が飛び交うなか、己の脚力のみで天井に届いたように思えるが、それは違う。

 

 いくら伝説と謳われようが、それでも人間。オリンピック選手といえど広い建物の天井にジャンプして届くはずはなく、サムライも例外ではない。

 ならばどうやって天井にまで張り付くことが出来たのかというと、サムライの右腕にはルパン三世やスパイダーマンみたく、強力なワイヤーの糸を発射出来る装置が装備されており、剣で銃弾を受け流しながら右手を天井に向けてワイヤーを発射させ、上へと逃げていたのだ。

 

 その後、すぐに下へ落ちれるように天井に剣を多少の事では抜けないように刺して、ワイヤーを切って待機していたのだ。

 血だまりに落ちてきた水滴はサムライが流している血で、連中の1人に気づかれてしまったが為に仕方なく天井を蹴って下に落下し、気づいた1人を一刀両断して真っ二つに叩き切ったのだ。

 

「で……出たぞぉ!!?」

 

「サムライだぁ!!!」

 

 悲鳴にも似た声を上げて銃を構えて後ろへ振り返るが、1秒にも満たない時間であろうとも、サムライにとっては絶好の隙だった。

 床を滑るような足取りで連中の動脈を切り裂き、そのまま死体に変貌した連中を盾にしながら残った連中を順に殺していった。

 

「ひっ、ひぃぃ!!!」

 

 この場に残されたのは耳を切り落とされた男のみで、他の連中は全員物言わぬ死体となって床に転がっていた。

 

「さて、これで邪魔者はいなくなったな。それで、どうして俺を殺そうとした?」

 

「あ……あんたが悪いんだ! どこの組織にも所属せず、風来坊気取りでフラフラと……、だからウチのお偉い方はあんたが邪魔だったのさ!!」

 

 俺を指さしながらそう喚く男の首を刎ね飛ばすと、首を失って倒れる男の死体を一瞥してサムライはその場から消えた。

 

 その翌日、依頼を出した組織に殴り込むサムライの姿があったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が曇って今にも雨が降りそうな嫌な天気だ。それに体がとても寒い。芯のほうから冷えていっちまっているみたいだ。

 体が指一本動きそうにもない。視線を少しずらせば辺りは血の海が広がっている。

 

 俺1人だけの血の量ではない。周りには俺以外の悪党共の死体が多く転がっており、鼻には血と火薬の嫌な臭いがこれでもかというくらいにこびりついていた。

 

 何があったのかというと、単純な話だ。先日の襲撃によるお礼参りをしに行ったのだが、それを予想していたマフィア連中が手練れの傭兵や組織の部下を使って待ち構えていたのだ。

 まんまと罠にハメられた俺は時代劇さながらの大立ち回りを演じてみせた。

 

 結果、体のあちこちに銃弾を貰いながら、相手さんが用意した戦力のおよそ7割りを殺して力尽きた。

 まさか人間相手にロケットランチャーを撃ち込んでくるとは。こっちはバイオハザードのタイラントじゃないんだぞとツッコミを入れてしまいそうになった。

 

「ふふふ……、夢に生きた我が人生もこれで終幕か。あのまま少年に出会わなければこのような心踊る日々を送れず虚無で無意味な日々を老衰するまで続けていただろうな」

 

 死の間際に走馬灯のごとくあの日の少年との出会いを思い出す。

 あの少年も夢は叶えられただろうか? ふとそれが気にかかったが、きっと同じように心踊る日々を過ごしているだろうと考えて重くなる瞼を閉じる。

 

「さらば……我が人生……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゅん、ちゅん、ちゅん

 

 鳥の鳴き声が聞こえる。瞼を通して太陽の光が眼球を焼いてくる。

 

「…………ここは?」

 

 目が覚めて周囲を見回すと、そこは鬱蒼と茂る森の中だった。

 自身が着ている服を見るとボロボロになった子供服で、自身の手や体もそれに合った子供サイズに変化していた。

 

「ここはあの世なのか? それとも……」

 

 訳の分からないまま、俺は森の中を彷徨い歩いた。子供故に当然なのだが、歩く一歩が大人の頃よりも小さく、いつもならとっくに辿り着いている距離も遠くに感じる。

 

 やがて頭上の太陽が少し傾き始めた頃、森の中でも開けた場所に出た。

 そこには崖から転落したような馬車と周囲に散らばる荷物が落ちていた。

 

「事故か……。それにしても、このご時世に馬車とは珍しい」

 

 多少の警戒をしつつ周囲を見渡すと、潰れて真っ赤なトマトになっている人が倒れていた。

 あの様子では即死だろう。ならば、ひとまず先立つものもない状態では話にならないため、落ちている荷物の中で役に立ちそうな物を物色させてもらおう。

 

 俺は落ちている荷物を漁りながら装備を整えていると、森の中から人の声が聞こえてきた。

 

「ひっひっひ、やっぱここは穴場だな。いちいち襲わずともお宝のほうが落ちてやがるからな」

 

 見れば薄汚い格好の連中が現れた。聞こえた内容からして盗賊などの類なのだろう。

 俺は落ちた荷物の中に紛れていた短剣を手にして連中の前に立った。

 

「あん? 商人のガキか? 運良く生き延びたようだが残念だったな。俺達に見つかっちまうなんてよ!」

 

「へっへっへ、面構えは良さそうだし男色好きの変態に高く売れそうだぜ!」

 

 どうやら連中は俺を奴隷か何かにして売り飛ばそうとしているみたいだ。

 さてどうするか? 今は大人とは違う子供の体だ。森の中を少し歩いてそこそこの体力があるのは分かったが、剣を振り回せるだけの筋力がちゃんとあるのか不安でもある。

 しかし、そんな不安を消し飛ばしてしまうような何かを体の中に感じる。

 

 これは直感であるが、この何かを上手く使いこなせば以前よりも更に強くなれる。そう確信するものが俺の中にあった。

 

「くっくっく、大人しくしてれば俺らも手荒な真似はしねえからよ……」

 

 連中の1人が無警戒にこちらに近づいてくる。その手にちゃんとした剣が握られていた。

 刃物をチラつかせれば大人しくすると思ったのだろう。

 

「他愛ない」

 

 その一言で男は容易く切り裂かれた。

 

「っな!?」

 

 それに驚いたのは周りの連中だ。まさか、こんな年端もいかないガキが抵抗、それも殺しを行うなんて考えてなどいなかったのだから。

 

 だが、内心で驚いていたのは俺の方でもあった。自身の中にある得体の知れない力を何となく漫画で読んだ力に似た何かだと仮定して短剣に纏わせるイメージで切り裂いてみれば想像以上の切れ味を見せたのだから。

 

「……これは、いい退屈凌ぎになりそうだ」

 

 ガキが浮かべていい笑顔じゃない顔をしながら、残った盗賊共に目を向ける。

 その目を向けられた盗賊達は一瞬逃げるかと考えたが、その直後にガキに舐められたまま引き下がれるか! という思いで剣を構える。

 

「いいだろう。精々この俺を楽しませてみろ」

 

 そこから先は戦闘とは程遠い殺戮だった。そもそも、ハイエナみたく事故を起こした商人の荷物を盗み来た連中ごときが、子供になったとはいえ戦場で伝説のサムライと呼ばれた男に勝てる筈もなく、1人また1人と切り捨てられる。

 

「あ……ああ……」

 

「さて、残るはお前1人だけとなった……」

 

 辺りは仲間の死体が転がっており、地面には血の海が広がっていた。この状況でまだガキ相手にと強気になれる訳がなく、目の前の存在がガキの皮を被った怪物だとようやく理解したのだ。

 そして、生き残った男はその後幾つかの質問を繰り返され、その全てに懇切丁寧に答えていった。

 

「なるほど、どうやらここはあの世というものではなく、昔読んだラノベ小説で出てくる転生した世界ということか……」

 

 ここでようやく自身が死んで転生したという事実に気がついた。そして、この自身の中にある得体の知れない力がこの世界では魔力と呼ばれる力であると知った。

 そして閃く、ここでならばかつて憧れながらも諦めた夢を実現することが出来るのではないかと! 

 

「ふふ……、神がいるというのならば粋なことをする。死んでも尚夢を追いかけられるとは……」

 

 漫画で見た飛ぶ斬撃や全てを切り裂く一太刀など再現してみたい技が次々と脳裏に浮かび上がってくる。

 今すぐに試してみたいと子供のようにはしゃぐ心を落ち着かせながら、質問に答えた盗賊を逃がすことにする。

 

「聞きたいことは聞けた。もはや貴様に興味はない。どこへなりとも失せるがいい」

 

「は、はい! ……あの?」

 

 森に入る手前で盗賊が振り返って何かを訊ねようとしてきた。

 

「なんだ? まだ用があるのか?」

 

 手にした短剣の刃先を向けながら睨みつける。

 

「い、いえ、その……あんたの名前を聞いてもいいでしょうか?」

 

「名前……?」

 

 何故そんなことを聞いてくるのか理解出来なかったが、俺は気にせず答えようとしたところ、ふと答えに詰まる。

 別に前世の頃の名前を使っても良かったのだが、折角新たな人生を始めたのだから今度はなりたかったあのキャラの名を名乗っても良いのではないかと考えたからだ。

 

「…………ジュラキュール。我が名はジュラキュール・ミホークだ!」

 

 そう、これが今世で新たに始まる俺の新しい人生で名乗る名前だ。

 

 

 

 

 

 

ミホークが異世界(別タイトル)に行くなら?

  • 鋼の錬金術師
  • 銀魂
  • ダンまち
  • 異世界おじさん
  • 異世界サムライ
  • FGO 英霊剣豪七番勝負:下総国
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