マジでシャドウとミホークの戦闘シーンが難しかった。
普段から無双シーンばかり書かないからほぼ互角、というよりかはミホークの強さを改めて認識させるシーンの書き方に悩んでました。
感想で次回を楽しみにしていてくれた方々に改めて言いましょう。
大変、お待たせしました!!!!
それはあまりにも次元の違う闘争であった。互いに接近しての剣の撃ち合いは腕の動きがまるで見えず、されど凄まじい速度で火花を散らす様からその速度が尋常ならざることは容易に察せられる。
ミホークとジミナの剣がぶつかる度に響く金属音は決して鳴り止むことはなく、連続して響くそれは1つの奇怪音となって闘技場に鳴り広がる。
ギャギィギィギィギィギィ!!!!
途切れる事なく剣が撃ち合うせいで音が重なり、上記のような音が発生している。
そんな闘技場の中央で戦う2人の
だが、見えないながらもその戦闘の凄まじさを本能で理解し、その場を立ち替わり入れ替わりを繰り返す2人の高速戦闘に、観客達の目は釘付けになる。
「今はどっちが勝ってんだ?」
「知らねえよ! とにかく目ん玉かっぽじってよく見てろ! こんな闘い、もう2度と拝めねえぞ!!!」
今はどちらが優勢なのかすら分からないまでも、このレベルのバトルなぞ、果たしてこの先の人生でもう1度目に出来るかどうか? ということは理解している為、誰も目を背けようとはしなかった。
「っく! 流石は世界最強の魔剣士か……」
「…………」
苦戦しているジミナ、当然のことながら振るう剣の速度はジミナよりもミホークの方が速く上手かった。
短剣というリーチの差を突こうと絶妙な距離で戦っているというのに、剣がぶつかる度に距離を詰めてくるし、態勢を立て直そうと思って距離を離そうとしても荒ぶる鷹のように追従して、決して逃がしてくれないミホークさんの剣がそれを阻む。
「どうした? その程度では楽しめんぞ?」
退屈そうな声色で振るう短剣の風圧ですら、ジミナにとっては死神の鎌のように感じてしまう。とはいえ、このまま追い詰められてばかりはこっちとしても面白くない。
「なら、俺も少し本気でいかせてもらう!」
体内で練り上げた魔力を身体能力向上に注ぎ込む。それは通常の魔力による身体強化の更なる上位互換。
僕はこれを『オーバードライブ』と命名した。
ただし、これは身体への負担が大きく、幼少の頃に使用したが技の反動で血を吐いて倒れてしまった経験がある。
今は成長して肉体も出来上がっているとはいえ、ミホークさんを相手にどれだけ持続させていられるか?
身体能力を大幅に向上させたことにより、剣の速度を増したジミナは果敢に攻め立てながら、足を使ってミホークの死角へと周り込む。
「ほお、身体強化が大幅に上がったか。これなら楽しめそうだ……」
「おいおい、噓だろ……」
オーバードライブ状態の僕の攻撃を全て反射で弾いていっている。しかも、死角からの一撃もまるでそこにくるのが分かっているかのような動きで見事に防がれた。
こっちは、ミホークさんでは追いつけないスピードで四方八方から剣を叩き込んでいるというのに、その全てを短剣で流水のごとく受け流していく。
なんという高い技術と適応力なのだろうか!? スピードの
攻め続けるジミナであるが、その
このまま勝負は平行線となって終わらないかと思えたが、2人の戦いについていけないものがあった。
それは剣だ。普通ならば剣というものは頑丈で戦いの最中に折れるのはよっぽど硬いものに当たるか、使い続けてヒビなどの無視できない損傷があった場合だ。
だが、常人以上のスピードで動き回り叩きつけられるジミナの剣には、その負担に耐えられずに決壊する予兆が見えてきた。
対して、ミホークの短剣はジミナの剣を受け流しているだけなので、その負担はジミナの剣よりも遥かに少なく、このままいけば先に剣が折れるのはジミナの方だろう。
「もはやリスクを怖がっている場合じゃないな……」
「勝負を決めにくるか? ならばいいだろう。俺もこの剣で受けてみせよう!」
ジミナが勝負を仕掛けに来ることを察したミホークはそれを正々堂々と正面から迎え撃つと宣言する。
それをジミナも信じて距離を取った。そして行う綿密な魔力操作、全身の細胞1つ1つに魔力を纏わすイメージで覆い、剣が途中で折れぬように魔力で強度を一時的に強化させる。
それに対してミホークは、静かな凪のように洗練された魔力を短剣に満たしながらも、その眼は荒ぶる鷹を思わせるほどに鋭くジミナの挙動を射抜いていた。
「「…………」」
両者の間に無言の沈黙が流れ、その間を渇いた風が吹きすさぶ。
観客席の観衆も次の一撃が最後のものになると確信していた為に、声も出せずその時をただ静かに見守っていた。
会場内の誰かがその場の緊張感のあまりにゴクリと唾を飲み込む。それは決して大きい音では無かったが、静寂が支配するこの場において、その音はやけに大きく聞こえた。
そして、それをスタートの合図に遂に両者は動き出す──
ガキィン!
気がつけば両者の立ち位置が入れ替わり、互いにその背を見せ合う形になっていた。
決着はどうなったのか? どっちが勝利したのか? 観客達は気づかぬうちに拳を握りしめ、闘技場内にいる2人の様子と審判の宣言に耳を傾けていた。
その当の審判でさえ、あまりのスピードの速さゆえに目で追うこともできず、その影すら視認することすら許されずに勝負は終わっていた。
1秒……2秒……3秒……と時間がゆっくりと過ぎていくなか、ミホークが持っていた短剣をその場で小さく一振りすると同時に、時が動き出したかのようにジミナの持つ剣がパリーンと音を立ててひび割れ砕け散った。
そして何が起こっていたのか理解出来なかった審判も即座に理解した。この勝負の勝者は誰なのかを……。
『勝者!! ジュラキュー「ふはははは!!!!」──??』
審判が勝者の名を叫んでいる途中、その勝者からの突然の高笑いでその宣言を中断されてしまう。
見れば、ミホークは己の短剣の刀身を見つめながら愉快そうに笑みを浮かべている。
審判の目から見てもその短剣は何ら変化は起きていなかったが、ミホークの眼から見ればほんの僅か程度であるが、その刀身に刃こぼれが出来てしまっていた。
「まさかこの俺に
「恥か……、こっちは剣を粉々に砕かれたというのにな」
砕けた剣の残骸を見せつけながら、皮肉げに笑うジミナはその残骸を放り捨てる。
既にシドは世界最強の魔剣士とこうして戦えただけで内心では充分に満足していた。ジミナでの戦いはこれで終わり、次に戦うのはシャドウでの姿の時だと。
しかし、そんなシドの思いはミホークには関係無かった。
「そろそろ本気を出して戦り合うとしよう」
「本気って……、俺の獲物はあの通り壊れてしまったんだが?」
そう親指でクイッと指した先にある元剣と呼べる残骸を見れば、これ以上の戦闘は不可能だと誰もが分かるだろう。
だが、ミホークの眼は誤魔化せない。その懐により強力な武器を隠し持っているということを……。
そして、それを引き出す為ならば、ミホークはどんな無茶も相手に対して吹っ掛ける蛮族モドキである。
「そうか……、やはり俺が本気を見せねば懐を開かぬか……」
短剣を鞘にしまうと、その背に背負っている自らの愛刀を抜き放ち、殺気と闘気をジミナに対してぶちまける。
「隠し通すというのならば、斬り殺すまでのこと……!」
「マジかよ……」
打ち付けられるミホークからの気迫に、シドはその頬に冷や汗を流しながら覚悟を決める。
特別席で観戦していたベアトリクスはジミナの実力に驚きながらも、結果は予想通りにミホークの勝利という結末で終わり、そのまま席を立とうとしたその時、今まで聞いたことの無いミホークの高笑いに何事かと闘技場に向き直ると、そこには滅多なことでは抜かない愛刀を抜くミホークの姿があった。
「……っ! まさか、ミホークがアレを抜くなんて!?」
慌てるように観客席のガラス前まで駆け寄ると、驚愕の声と表情で事の成り行きを見守っていると、ベアトリクスと同様にアイリス王女とドエムも同じようにガラス前までやって来た。
「まさか、アレが噂に聞くミホーク様の数々の伝説を作り上げた立役者の1つ。黒刀『ノワール』だというの……!?」
「大地に振れば地は裂かれ、天を突けば雲を貫き、海へ薙ぎ払えば大海をも割るといわれる、あの伝説の……!?」
ガラス越しに見えるミホークが背負っていた鞘から抜き放たれた黒い刀身の剣。
それが、この世にただ一振りしか存在されないとされる黒刀『ノワール』と呼ばれる代物。
2人はそれに釘付けになりながら、ベアトリクスからその剣の詳しい説明を聞く。
「ええ、昔ミホークが古代遺跡から発掘した古代武器。折れず曲がらずの絶対の強度を誇り、古代の製法で造られた故に現代では再現は不可能とされる一品。世界で唯一の
「せ……戦場にですか!?」
これに慌てたのがアイリス王女で、ベアトリクスが言った戦場になるという言葉を比喩的な表現ではないと感じ取った。
「今すぐに観客達を避難させることをオススメするわ。さもなければ、確実に死人が出る」
その眼からは噓を言っている気配は微塵もなく、その言葉は真実であると悟ったアイリス王女は即座に部下たちに命令を下す。
「ただちに観客席の者達を避難させる準備……いえ、行動を取ってください!」
「「「はっ!」」」
そのまま部屋を出て行き、観客席の方まで駆け出していった。
そうなると、他の貴族や商人もここが危険であると認識し、そそくさと部屋から出て行って外へと逃げる。
「ドエム・ケツハット様は逃げなくてよろしいのですか?」
「確かに逃げ出したい気持ちはありますが、かの大剣豪が全力で戦う場面を見逃す手はないでしょう。それに、私の護衛の騎士達も中々の実力者揃いですので、多少の危険からは私を守り抜いてくれますよ」
そうしてこの部屋に残ったのはベアトリクス、アイリス王女、ドエム・ケツハット、そしてドエムの護衛とそれに守られるオリアナ国王のみであった。
悠然とした態度で愛刀『ノワール』を構えたミホークは、ジミナが本当に自身と対等に戦える器であるかどうか、
「まずは推し量らせてもらおう、貴様がこの俺と本当に闘えるだけの実力者かどうかを……」
「っっっ!!!」
ドンッ!!!
それは最初に短剣でみせた飛ぶ斬撃とは規模がまるで違っており、振り抜いたその剣の一撃は闘技場の地面を斬り裂きながらジミナの方へ走っていった。
これに慌てたのはジミナの後ろの方で観戦していた観客達であった。
いきなり、世界最強の魔剣士の斬撃が飛んで来たのだ。それも無理のないことだろう。
「「「「「ぎゃあああああああ!!!」」」」」
叫び声を上げながら、逃げ惑う観客達の脳裏には自分達の悲惨な末路が浮かんでいた。
だが、そんな未来はやっては来なかった。何故なら、観客達の前にはあの男が立っていたのだから。
観客達の悲鳴をBGMに、ジミナは服の下に纏っていたスライムスーツから剣を生成すると、目の前に迫る巨大な斬撃を真っ向から受け止める。
瞬間、闘技場内に響く轟音と衝撃波は観客達を襲い、ジミナは斬撃に押されるがまま地面を削り後ろへと後退させられる。
やがて、ジミナの背中が闘技場の壁にぶつかる直前になって魔力を大量に纏わせたスライムソードの一振りでその斬撃を斜めに斬り裂き、両断された斬撃がジミナの後ろの壁に衝突した。
そのおかげで観客席への直撃は避けられたものの、壁には巨大な斬撃の跡とジミナを包み込む程の土煙が立ち込める。
「ふう、随分と手荒い試験だな? それで、俺は合格か?」
「ああ、十分にな……」
立ち込める土煙の中からジミナの声が聞こえてきたと同時に、土煙が完全に消え去り、そこから見えた人物はくたびれた装備と血色の悪い青年ではなく、漆黒のローブと漆黒の剣を手にしたシャドウがそこには立っていた。
それに慌てたのは特別席にいたアイリス王女とドエムだった。
まさか、ブシン祭に犯罪者であるシャドウが堂々と参戦していたとは夢にも思わず、目の前のガラスに拳を叩きつける。
そんな特別観客席の騒ぎなど我関せず、シャドウは目の前に対峙するミホークの迫力に内心で圧倒される。
今の攻撃を防いだことで本格的な敵になり得ると判断されたのだろう。
先程以上の強力な気迫がぶつけられる。
「これはまた……」
僕は以前から戦いとは対話であると考えていた。体の些細な動きから意味を読み取り、相手と会話するものだと。
だが、この人からは対話だなんてぬるいものは感じなかった。最初は完全なる無言、そして最初の斬撃を避けた次の斬り合い時は一方的な会話のドッジボール。
最後に、今のノワールを抜いて立ち会うミホークから感じられるのは強烈な闘志と殺気にほぼほぼ近しい敵意だった。
僕も闘志や殺意に敵意など、盗賊共から何度も受けたことはあるが、こんなにも暴力的なものは初めてだ。
この人の前では、対話ですら暴力にすらなり得るということか……。
「はは……、生きた心地がしないな……」
背筋に走る悪寒を抱えながら、渇いた笑みを零してシャドウは魔力を高める。
だが、そんなことはお構いなしとばかりにミホークはフッと笑うとシャドウに剣先を向ける。
「それが貴様の剣か。中々に面白い工夫をしているようだな」
「それはどうも、世界最強の魔剣士から褒めてもらえるとは光栄だ!」
先程の斬撃のお返しとばかしにスライムソードをムチのように伸ばしてミホークに斬りかかる。
「甘い」
「なっ……!?」
その一言で自身に迫るスライムソードを容易く斬り裂いてみせた。これに驚いたのはシャドウだった。
スライムソードの魔力伝導率は脅威の99%を有している。これは高級品のミスリルソードの2倍近い数値で、先程まで装備していたナマクラとは訳が違う。
精々が弾かれる程度だろうなと予想していたシャドウはその切れ味の高さに戦慄する。
「……想像以上だな。とはいえ、負けてやるつもりもないが!」
シャドウは魔力で底上げした身体能力でミホークの背後を取ると、そこへもう一本のスライムソードを生成して二刀流で更に手数を増やして襲い掛かる。
だが、その程度の策でどうにかなるほど世界最強の称号は安くない。
背後に回ったのだと気配で察したミホークは振り返り、次々に振るわれる剣の連撃に見事に対処する。
その方法は、短剣の時とは違い受け流すのではなく斬り裂くことでシャドウの攻撃を防いでいた。
それはまさしく怒涛の連続であった。身体能力で劣るミホークが手数の差を苦にすることもなく、次々と再生するスライムソードを斬り裂いていく姿はまさに剣神と呼ぶに相応しい剣筋であった。
こんなにも剣技の差があったのだと軽く絶望すると同時に、この男ならばどこまで自分の本気についてきてくれるのだろうかと興奮を覚える。
「今度はこちらから攻めさせてもらうぞ!」
自身の身の丈とほぼ同等の馬鹿デカイ剣を、まるでうちわで扇ぐように振り回しながら、幾つもの斬撃を飛ばしてくる。
それをシャドウは避けながら、時にスライムソードで斬り返すが、ミホークのようにあっさりと斬ることはできず、ギギィ! と僅かに拮抗してようやく斬ることが出来るレベルだ。
それをそよ風を送る感覚でポンポンと飛ばしてくる辺り、ミホークの実力の高さが推し量れるというもの。
「身体能力のお陰で拮抗しているとはいえ、このままでは先に力尽きるのはこちらか……」
パワーとスピードによるゴリ押しでなんとか勝負という体裁を保っているが、オーバードライブ状態はそう長くは持たない。
ならばと覚悟を決めて赤く輝く瞳がミホークを捉えると、そのまま激突覚悟の特攻を仕掛けていく。
「勝負を焦ったか?」
常人ならば視認することすら不可能な領域の速度であるが、ミホークの眼にはシャドウの姿がしっかりと映っていた。
目前に迫るシャドウを前に、ミホークは冷静に剣を振り払う。通常ではシャドウのスピードでも避けられない絶好のタイミングと速度。
これで勝敗は決したかと若干の落胆を覚えるミホークに、シャドウは魔力の障壁を張って約1秒もの間、ミホークの斬撃を止めてみせた。
音速に迫る速度で動くシャドウにとって、1秒もの時間があれば回避するのは容易いこと。
即座に斬撃の進行方向から逃げたシャドウはミホークの懐まで侵入することに成功する。
「とった……!!!」
「随分と器用なことをする、だが!」
振り抜いた剣から片手を離し、自身の腹目掛けて剣を突き刺そうとするシャドウの腕を掴み、その動きを止めた。
「最後の詰めが甘いな。雑魚との戦いはともかく、強者との実戦経験は少ないと見える」
「なら、これはどうだろうか!!」
射殺すような視線を送ってくるミホークに、シャドウはスライムソードの長さを変えて突き刺しにかかる。
「やはり面白い仕掛けの剣だ。だが、強者を相手に通用する類ではないな……」
スライムソードが変化する予兆を読み取ってか、ミホークは即座にシャドウの腕を離し地面を滑るように攻撃を避けた。
再び開いた両者の距離、だがその距離は互いの攻撃範囲内であり互いに必殺の距離であった。
「正直、あの攻撃を避けられるだなんてショックだな。流石は“鷹の眼の男”なだけはある」
「っ!? そうか、貴様もまた俺と同じところから来た者だということか……」
この世界で俺は『大剣豪』や『剣神』と呼ばれることはあるが、原作で呼ばれている2つ名である鷹の眼とは一度たりとも呼ばれたことは無かった。
それを知っているということは、つまるところこのシャドウという男もまた、俺と同じ地球から転生した者なのだろう。
あの面白武器も漫画知識か現代科学によるものだというのだろうか?
だが、そんなことどうでもいい。この男は俺と対等に闘える。それだけ分かりさえすればいい……。
「ならば、もっと! この俺の渇きを潤してくれ……!!」
ドン! と更にミホークから魔力の高まりを感じる。それはただ単純に高まっただけじゃない、まさしく魔剣士の理想像とも呼べる無駄のない魔力操作に目を奪われる。
そして、それはシャドウも同じであった。魔剣士として理想的な魔力操作に加えて、高密度に圧縮したスライムソードを作り出し、肉食獣のような笑みすら浮かべている。
互いに待っていたのだ。好敵手になりえる存在の出現を……。
そして、その願いはついに叶った。欠伸まじりに殺せる雑魚ではない、退屈凌ぎに剣を振るう稚魚でもなし、敵意と殺意で戦っても折れることも壊れることもない。
まさに、自身が心から欲した
「この俺が満足するまで死んでくれるなよ!」
「自惚れるなよ、世界最強! 俺は陰の実力者だぞ、精々この俺に屠り殺されぬように剣を振るうことだな」
互いの挑発に気力を昂らせ、剣を握る。
そこでミホークさんが手遊びでノワールを振り回す。
「…………」
無言ながらに、
それが途轍もなく僕には嬉しかった。やっと僕をちゃんと見てくれた。
いや、僕が最初から貴方の敵になれると示していればもっと早くにちゃんと対話してくれていたのだろうな。
「…………」
だから僕もミホークさんに無言で返事を返すのだ、OK! だと……。
互いに無言の対話を終え、楽しむための剣を交わらせる。
早く速く疾く────、ただひたすらに己が魂の奥底に秘めていた力を剝き出しにしていくかの如く、両者はギアを上げていく。
既にオーバードライブ状態だったシャドウも、剣を交えるごとに少しずつ身体が馴染んでいくかのように、シャドウの身体能力が上がっていっている。
別に怪我を負った訳ではないが、疲れてはきている。足や腕にも疲労は蓄積されていっている。
最初に比べたら万全ではない、疲労は身体能力を著しく落とす原因の1つだ。
でも、今はこの疲労こそが僕が強くなるエネルギーになる!
これまで感じたことのないような高揚感と充足感にシャドウは過去最高の動きを見せていた。
まるで自然と一体化したかのような動きと、常識外れの魔力運用に並大抵の魔剣士は勿論のこと、トップクラスの魔剣士でさえ今のシャドウの影を踏むことの出来る実力者はそうはいないだろう。
だが、目の前に迫る男は世界最強の魔剣士。影を踏むどころか、その首を叩き斬らんとばかしに追従してくるのは流石の一言だろう。
闘技場内で高速移動する両者は、あちこちに残像をバラまきながら、剣と剣をぶつかり合わせ火花を散らしていく。
その様は特別席で見物していたベアトリクスやアイリス王女とドエムの度肝を抜かし、観戦すらまともに出来な程に実力差が開いているのかと、アイリス王女の胸に絶望がのしかかる。
それはベアトリクスも同じで、初めて剣を交えた頃よりも遥かに強くなっているミホークの姿に憧憬すら抱きながら、何故自分は今あの場に立てないのだろうと悔しさを募らせていく。
(……あぁ、私もあんな風になりたい)
そう思う2人の視線を受けながら、ミホークとシャドウの剣戟は激しさを増していき、遂に決着の時を迎えることになる。
ミホークの動きが段々とシャドウの速度に速さで追いついてきたのだ。
今までは動きの早さで負けていたのを、スピードの速さで食い止めていたシャドウにとって厳しい状況になっていた。
「お楽しみはここまでにしておこうか……」
「よかろう……。ならばそろそろ本気をみせるとしようか!」
ミホークの魔力が更に高まり、それに比例してノワールの刀身の色味がより夜空に近い漆黒にへと変貌していく。
なるほど、本日何度目か分からない
これで確信した。戦闘技術や経験だけではない。僕とミホークさんの間には確かな格の差が生じている。
真っ正面からの戦闘では決して勝ちは拾えない。いや、拾えないこともないのだが、アレは規模がデカすぎる。それ故に隙も生じやすい。
ミホークさんを相手に使うのは現実味がなさすぎるからな。
やるなら姑息に卑劣な不意打ちを! 勝つ道筋は朧気ながら見えている。
少々自身が思い描く陰の実力者像とはかけ離れてはいるが、無様な敗北よりかは全然マシだ。
ミホークさんがノワールを顔の横まで持ち上げて突きの構えをとる。よく聖騎士とかが取るあのカッコイイポーズだ。
対する僕は2刀流で構えてスライムソードの硬度を更に上げる。これは斬られない為の苦し紛れの対策だ。
いくら硬度を上げようとも、あの人の剣武の前には豆腐がこんにゃくに変化した程度だろう。
だがそれでいい、別に剣で勝とうだなんて思いあがってなんかいない。
一瞬でも拮抗する下地さえ出来上がれば、速さで勝つ僕の方が上に立てる!!
そう確信しているからこそ、シャドウは地を蹴り飛ばしミホークの元へと肉薄する。
それを待ち構えるミホークは近付いてくるシャドウに対して睨みつける。
「…………!!!?」
突如としてシャドウはその身を翻し肩を盾にするような構えへと態勢を変えた。
その直後に不可視に近しい速度で振るわれたミホークの剣が斬撃を飛ばし、コートの上からシャドウの肩を斬り裂いた。
「ぐっ……!!?」
「特攻か……、あまり賢い選択とは思えんが、何か考えがあるのだろう」
剣を振るう直前で感づいたシャドウの行動に多少の疑問を持ちながらも、ここからどうしてくれるのだろうかと期待を込めた目でシャドウを睨む。
「……痛てぇ……斬られたが肩が全部抉られたわけじゃない……」
魔力で斬られた箇所を癒しながら、ようやく剣が届く位置まで肉薄することが出来た。
斬られた肩も一瞬ではあるが、魔力で回復した為に剣を振るうには何ら問題は無かった。(激痛はメッチャ走るが!)
シャドウの剣はまさに鬼神が宿ったかのように苛烈で鮮烈なものだった。たった1秒に数十近い乱舞を叩き込む双剣の嵐はまさしく竜巻のような荒々しさがあった。
「ほぉ……、中々いい攻撃だ」
だが、そんな攻撃もミホークは微笑みを浮かべながら完璧に対処してみせた。
シャドウの10の手数による攻撃もたった一太刀で防いでみせ、20の手数による攻撃は返す太刀で薙ぎ払う。
これはただ単純に考えるならばミホークの一太刀はシャドウの10倍の力を秘めているということ。
だが、剣の威力で勝負が決まる訳ではない。勝負は時の運と言われるように、様々な要因で決着がつく。
そして今から僕がやろうとしていることは博打同然の行為だ。
でもこれが今一番勝率が高い戦法だと自負している。というか、それぐらいしないとミホークさんから虚を突くイメージが湧いてこない。
さ~て、死ぬかもしれないけど、いっちょやってみますか!
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
シャドウが更に剣速を増して連撃の数を増やしていく。それに合わせて腕からピキピキと嫌な音が骨を伝わって頭蓋に響くのを感じる。負荷が肉体の限界を超えかけているのだろう。
だけども、これだけやってもミホークさんは至極あっさりと剣と体術の合わせ技で見事に対処してくる。
けれども、この程度は予測済みだ。問題はここからだ。生死を分かつ分水嶺、一瞬の判断の差で勝負は決まる!
「うおおぉぉぉ!!!!」
「ふんっ!」
右手で振り下したスライムソードを、ミホークは剣の一撃でへし折った。これで連撃によってミホークの攻撃を封じていた乱舞は半減する。
そうなればどうなるか? 当然、空いた隙を突きにミホークさんは動くだろう。
僕だって剣がへし折られたんだ。スライムソードだから再生は可能だが、ミホークさんが攻撃するより速くは無理だ。
それはミホークさんだって理解しているだろう。だから、彼は迷わずに攻めてくる!
「────っ!」
ほらきた! 実質、今の僕の手札じゃミホークさんの斬撃は防げない。得意の格闘技でも僕がミホークさんの剣を避けて腕を掴むイメージが一切湧いてこない。
だから、僕はミホークさんの斬撃をあえて受けようと身構える。
「っ!?」
シャドウを貫き刺そうとした剣先をミホークは体ごと突然逸らした。そのおかげで、剣はシャドウの顔面ではなく頬を斬り裂くという結果に終わる。
「まさか、これにも反応するとは……」
「ふふ、姑息だが、いい手を使うな……」
顔を逸らしたミホークの頬に、ツーっと赤い血が流れていた。
何が起こったのかというと、ミホークがシャドウへのトドメの一撃を決めようとしたその瞬間、へし折れたスライムソードを弾丸へと形成し、ミホークの脳天目掛けて発射したのだ。
火薬を使用せずに放った弾丸は音が出ない魔力で撃ったスライム弾だ。これを敵にトドメを刺すという人が最も油断しやすいだろうタイミングに、不意打ちで飛ばして避けられる訳がないと確信していたのだが、この人は未来でも先読みしていたかの如く、弾を発射させるタイミングと同時に避けてみせた。
「まったく、強いうえに油断も隙もないとか、普通に反則だろ」
ぼんやりと見えていた勝ち筋をこうも容易く潰されたことへの嫌味もミホークは微笑み1つ浮かべて受け流す。
そして、頬に出来た傷口を親指で拭い、指に付着した自身の血を舐めとる。
「オレ自身の血の味は……随分と久しぶりだ……」
そうニヤリと笑う大剣豪は満足そうな顔をしながら、僕の顔の横に添えていた剣を離すと、ゆっくり距離を取った。
「最初は気がつかなかったが、随分とデカく……いや、強くなったな少年……」
ここまで書いて思ったのが、アニメ勢だからこの時点でのシャドウの強さが合っているのか不安なので、感想お願いします。
あと、ミホークの原作での戦闘シーンが少なすぎるのも書くのに時間が掛かった原因です。
あと何巻したらミホークはガチで戦うんやぁ!!!
ミホークが異世界(別タイトル)に行くなら?
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