世界一の大剣豪になりたくて!   作:リーグロード

7 / 9
仕事とアニメの消化で忙しくて全然更新できずにスマンかった!


世界最強とは核を超える者

 

「最初は気がつかなかったが、随分とデカく……いや、強くなったな少年……」

 

 突然のその言葉にシャドウは首を捻りながら、自身とミホークとの接点があったか思い出そうとする。

 

「……? 何処かで会ったことが?」

 

「覚えていない、もしくは気付いていないのか?」

 

「ん~~~???」

 

 多分、噓は言っていない。というよりも、噓を言う必要もなければ、噓をつくような人でもない。

 ならばやはり何処かで出会っている? しかし、世界最強の魔剣士と名高い人物に出会っていれば覚えている筈だ。

 それが例え赤ん坊の頃とはいえど、転生者である為にその頃の記憶だってある程度は覚えている。

 

 だとするならば……、ミホークさんは気付いていないとも言っていた。

 ならば、今世ではなく前世……。それも、転生しても僕のことが分かる人物……。

 けれど、誰だ……? 隣りの席の……西村さん? ……じゃないよね? あれ、西谷さんだったけか? 

 

 いや、違うな。アレは彼女だったし、ミホークさんとは似ても似つかない存在だ。

 なら一体……あっ! 

 

「辻斬りの木刀お兄さん?」

 

「酷い呼び方だが、ようやく思い出したか……」

 

 僕の前世で決定な敗北を教えてくれた僕と同類のイカレた狂人さんだったのか。

 前世での繋がりが今世でも繋がるとは、陳腐な言い回しになるけれども、これはまさしく運命というやつなのではないだろうか? 

 

「っで、いつから気付いてたの?」

 

「ふむ、お前がシャドウなる珍妙な姿になって戦ってすぐだな。下手な演技を止めたお陰で分かりやすかったぞ。なにせ、俺は一度斬りあった相手の剣は雑魚でなければ大抵は記憶しているからな……」

 

 そう頭をお茶目にトントンと指で叩いて自慢する。

 

「なるほどね。それで、前世での一応知り合いであった僕の顔面を殺す気で狙ったのは?」

 

「貴様が目指していたのは陰の実力者とやらであろう? ならば、アレくらいで死ぬような実力なら、また転生してやり直させてやろうという俺からの親切心だ」

 

「それはまた、随分と物騒な親切心もあったもんだね?」

 

 そう肩をすくめて皮肉を込めて言い放つと、フッと笑い返される。

 

 さて、これからどうするべきか……。僕としては形だけなら引き分けみたいなこの現状に満足は一応しているし、帰っちゃってもいいのだが、この人は絶対に追いかけてくるだろうしな~。

 

 この人が満足するまで戦うことになったら、まず間違いなく僕の体力は尽きてぶっ倒れるだろう。

 そんな情けない姿はシャドウの状態では晒したくないしな、モブのシドの場合ならば大歓迎なんだけども。

 

 そんな困った僕に救いの手を差し伸べるかのように、特別観客席で何やらひと騒動が起こっていた。

 

「……あれもお前の目的か? 確か、名はローズ・オリアナと言ったか? 行くのならばさっさと行って用事を片付けろ。ついでに、その間に負った傷も多少は治癒しとけ」

 

「…………ああ」

 

 何を勘違いしたのか、特別観客席に殴り込みよろしくやって来たローズ先輩を見て、ミホークさんが手に持った愛刀を背中の鞘に納めて腕を組んだ。

 

 ここで隙ありモンスターズ!!! と斬りかかってもいいが、すぐさま斬り伏せられる光景が脳裏に浮かぶ。

 ここは素直に特別観客席に乱入するとしようか、ローズ先輩が何であんな真似したのか分からないけど、シャドウとして参加するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は自国であるオリアナ王国を救うために自分の父親を殺してしまった。

 もはやこの身はどう言い繕うと咎人だ。ならば、最後にこの首を刎ねる処刑人の役割は私自身が──、

 

 剣を首に携えて斬り落とそうとする私の行動を止めようとドエム・ケツハットが護衛の騎士に阻止するように命令を下す。

 だが、もう遅い。彼らが私を押さえつけるよりも早くこの剣は私の首を刎ね落とす。

 唯一の心残りはシド君……貴方にさよならのお別れを告げれなかったこと。

 

 私の最初で最後の愛しい人、来世があるならばまた出会いましょう。

 

 頬にツーと涙が流れ落ちるのを感じながら、剣を持つ手に力を入れようとしたその瞬間、観客席のガラスが粉々に砕けて闘技場内で戦っていたシャドウが現れ、私を取り押さえようとしていた護衛の騎士達を瞬きの間に斬り伏せてしまう。

 

 あの流麗のような剣さばき、見間違える筈がない。昔、私が盗賊に捕まえられた時に助けて頂いたあの御方の剣だ! 

 

 私は自身の首を刎ね落とす手を止めて、感動で在らん限りの声でその人の名前を呼んだ。

 

「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別観客席のガラスをぶち破り、陰の実力者らしくカッコ良く登場した僕ことシャドウは、ローズ先輩に襲い掛かろうとしていた連中を斬り伏せ、堂々と部屋の真ん中に陣取った。

 その間に、ミホークさんから受けた傷を魔力で誰にも悟られないように治癒していく。

 そして、主役の登場だと言わんばかりに、僕が名乗りを上げようと口を開いた。

 

「我が名シャ……「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさん!!!」え?」

 

 突如、僕の名乗りを邪魔するようにローズ先輩が大声で昔僕が名乗ったことのある名前を叫んだ。

 

「「スタイリッシュ……」」

 

「……盗賊スレイヤー?」

 

 その場にいる誰もがその場違い染みた名前に啞然とした声を上げる。ただ一人を除いて。

 

「クククッ、貴様まだそんなフザけた珍妙な名を名乗っているのか」

 

 後からやって来たミホークさんが俯きながら口元を隠して、心底愉快そうに笑っている。

 

 にゃろー! 失礼だな、今はシャドウってカッコイイ名前があるんだぞ!!! 

 っく! それにしても、流石はローズ先輩だ。僕のカッコイイ登場シーンをあっさりと無に帰すとは……。

 

「行くがいい。貴様の選んだ道を突き進む覚悟があるのならば……」

 

「っ! はい、ありがとうございます! スタイリッ……シャドウ様!!」

 

 途中でまた前に僕が名乗っていた名前を言いそうになっていたけど、すぐにシャドウと言い直してローズ先輩はこの場から去っていった。

 

「ま、待て! 逃がすものか……っ!」

 

「そこまでだ。そこから一歩でも動けばどうなるか……試してみるか?」

 

「──―っぐ!」

 

 ローズ先輩の後を追いかけようとしたドエムの行く手をシャドウが塞ぐ。

 既にシャドウの実力を嫌と言うほど見せられたドエムは悔し気に唇を噛んで踏みとどまる。

 

 傀儡に仕立て上げたオリアナ国王を失い、そのままローズ王女にもむざむざと逃げられでもすれば帰った際にどの様な叱咤の声を上げられるか、想像するだけで胃が痛む。

 

 そこでドエムの視線はミホークの方に向く。この場でシャドウを抑え込める者などミホークもしくは剣聖ベアトリクスぐらいしかいまい。

 そこで一縷の望みを賭けてドエムはミホークに助けを求める声を上げる。

 

「ミホーク様! お助けください!! 奴は国家指名手配犯のシャドウです。今ここで奴を倒さねば未曾有の被害が出るやもしれません!!!」

 

 迫真の演技で助けを乞うドエム。いや、実際にここでシャドウを抑えてもらわなければ教団に戻った際にどうなるか、いやそれ以前にシャドウガーデンに捕縛されたらどの様な悲惨な末路を辿るものか。

 

 だからこそ、顔中に汗をびっしょりと浮かべて必死になってミホークに救援を求めるのだが、当のミホークはすました顔で棒立ちを決め込んでいる。

 

「ど……どうしたのです!? 何故動いて下さらない!!!」

 

「見くびるなよ三下。この俺が戦いながら周りを見れない程に愚かだと思ったか?」

 

「ひっ!」

 

 ギロリ! と鋭い眼光がドエムを貫き、戦士でないドエムはその恐怖に短い悲鳴を漏らす。

 

「そこに転がっているゲールク国王の死体から香水に紛れて漂う臭いに加え、ローズ王女の攻撃から本来守るべき国王を迷うことなく肉壁として扱う始末。余程の馬鹿でない限り、これが王女の駆け落ちによる事件ではなく、貴様の暗躍によるテロ行為への反抗の為であると察しが付く……」

 

(えっ! そうだったの!?)

 

「そんな……」

 

 シャドウ(馬鹿)は内心でミホークの推理に驚き、ドエムは道は途絶えたと言わんばかりに絶望の表情を浮かべていた。

 

「ふむ……」

 

 さて、この一応は決着が着いたこの空気の中、どうしようかとシャドウが悩んでいると、ミホークがおもむろに項垂れているドエムに近付いて首筋の辺りを柄で殴り気絶させた。

 

「ぐぉ……!?」

 

「さて、貴様の用事は済ませてやったぞ。続きを始めようか……」

 

「いいよ、こっちもこの間にあんたの強さの理由の一つが何となく分かっちゃったし」

 

 気絶して地面に寝かされたドエムを放って、ミホークとシャドウが互いの剣を持つ手に力を籠める。

 2人の雰囲気が変わったのを察したベアトリクスは無意識に鞘に手が伸びるが、ミホークが真剣勝負に横槍が入るのを嫌う人間だということを思い出して、溜め息まじりに残念そうに鞘から手を離す。

 

 しかし、それを知らないアイリス王女はこの騒動のどさくさに紛れて王国のアーティファクトである天賊の剣を持って2人の間に割って入る。

 

「助太刀致します、ミホーク様。この男は王国の敵、故に私も……」

 

「いらぬ」

 

「えっ、キャア!?」

 

 鞘から剣を抜いて近づくアイリス王女に対して、ミホークはそれを峰打ちの返答で返す。

 まさか攻撃されるとは思っていなかったのか、アイリス王女は無防備にその一撃を喰らって壁まで吹き飛ばされた。

 

「言っておくが、俺は真剣勝負の横槍を嫌う。特に、自分と相手の実力差を理解出来ない弱者、もしくは正義感に溺れて現実の見えない愚者の横槍は特にな……」

 

「ううぅ……」

 

 峰打ちとはいえ、無防備な状態で壁際まで吹き飛ばされる威力の攻撃を受けて痛みに唸るアイリス王女。

 

 これで邪魔者は消えたとばかりに構えるミホークの行動にシャドウも「え~……」っと呆れたような視線を送る。

 

「さて、ここでは俺達が戦うには狭すぎる。少し場所を移すとしよう」

 

 そう言ってミホークはシャドウがぶち壊したガラスから闘技場へと戻っていった。

 それを追いかけてシャドウも闘技場へと戻る。ただし、ただ戻るだけではなく、シャドウは飛び降りて未だ地面に着地していないミホークの背中を奇襲せんが為に、飛び降りるというよりかは突撃するという勢いで突っ込んでいった。

 

 それに対して、シャドウの殺気を感じ取ったミホークは振り向きざまに背中に迫るシャドウの攻撃をカウンターで剣を振るう。

 

 それでシャドウのスライムソードは真っ二つに……斬られはしなかった。

 

「っ! ほぉ……」

 

「やっぱり、僕の予想ドンピシャ!!」

 

 今まで簡単に斬られていたスライムソードが、今度は斬られずに拮抗したことから、シャドウの予想が的中したことに喜ぶ。

 

 そのまま拮抗した状態で地面に着地すると同時に2人は鍔迫り合いを解いて距離を取った。

 そして、互いに剣は構えたまま、殺気を抑えて軽く会話を始める。

 

「どうやら、俺の剣の秘密に気づいたようだな」

 

「まあね。僕も最初は魔力だけじゃなく、あんたの演じているキャラみたく武装色の覇気でも使ってるかと思ったけど、実は違った」

 

「ほぉ……、見る目があるな。続けてみろ」

 

 暗に武装色は使用していないことは正解だと伝えるミホーク。それに気づいたのか、気づいていないのかは不明だが、シャドウは話を続ける。

 

「最初はずっとあんたの剣術に目を奪われて見逃していたが、その剣に纏った魔力は2つに分割して擦り合わせて流し込んでいたんだ。まさか、ワンピースのキャラがNARUTOの技術で戦ってるだなんてね」

 

「お見事、その通りだ。この剣には風の性質変化と同様のやり方で魔力を纏わせ切れ味を上げている。とはいえ、こうもあっさりと会得するとは……。随分と魔力操作に長けているようだな」

 

「まあね。こっちの世界に転生してから魔力の扱いはずっと努力し続けてたし、これくらいならコツとイメージさえ掴めば簡単に出来るよ」

 

 論より証拠とばかりにシャドウはスライムソードに2つに分割した魔力を擦り合わせて切れ味を大幅に上げる。

 

 これで互いの剣の強度は互角になったといえる。

 ようやく対等な勝負の舞台に立てたシャドウ。とはいえ、慣れていない風の性質変化に加えてさっきまでのオーバードライブによる魔力の消費は大きく、あまり長々と戦闘を楽しむ猶予は残されてはいない。

 

 だから、ここでシャドウは賭けに出る。

 

「一か八かの勝負だが、やってみせようか……」

 

「くるか……」

 

 一気に空気が変わった。それと同時に、天がこの2人の戦いの始まりに恐怖を覚えて泣いてしまったかのように大粒の雨がザーザーと降り始めてきた。

 

 雨に打たれながらも、両者は微動だにせず、決定的な瞬間が来るのをジッと待っている。

 極限にまで研ぎ澄まされた意識は、やがて降り落ちる雨粒の1つ1つを可視化できるほどに高まり、シャドウのコートに垂れた水滴がポツリと地面に落ちたと同時に、両者が動き出す。

 

 加速する両者はゆっくりと流れ落ちる雨粒の合間をすり抜けるような足捌きで互いの距離を詰め合いながら、互いの急所を狙って攻めと受けを交互に繰り返す。

 

 僅か数十秒の間で闘技場内に落ちた雨粒はほとんど2人の斬撃に巻き込まれて切り裂かれ、やがて2人のバトルフィールドは闘技場を抜け出し、市街地にまで及んだ。

 

「ふむ、付け焼き刃かと思えば、存外中々にやるものだな」

 

「そりゃどうも、こっちも伊達に陰の実力者を名乗ってはいないもんでね!」

 

 どちらも剣に殺気を込めて斬りかかっているというのに、その表情はどこまでも少年のような晴れ晴れとした笑顔だった。

 

 とはいえ、ミホークはまだその表情に余裕があるのは読み取れるが、シャドウはその笑顔を浮かべている口角が疲労で地味にピクピクと引きつっているのが伺える。

 

 シャドウに残された決め手はあと1つ。

 確実に決めにかからなければ、ミホークは下手をすれば僕の首を切り落とすぐらいしてきそうだしね。

 

 とはいえ、賭けだなんて言っても至極簡単なものだ。ミホークは僕に匹敵するイカレ具合の剣術馬鹿だ。

 ここで僕の実力を更に示した上で、とっておきの切り札がある。興味があるならばその身で受けてみろと挑発するだけ。

 

 本当に単純な作戦とも賭けとも呼べない代物だ。

 だが、結果としてミホークはあっさりとその提案に乗ってくれた。当然だ、彼が欲しているのはただの勝利ではなく、全力を尽くしてもなお勝てるかどうか、そんな相手との真っ向からの1対1(サシ)の勝負による勝利を欲しているのだから。

 

「よかろう。何をするつもりかは知らんが、その挑発に乗ってやる。精々、つまらぬ幕引きにはしてくれぬなよ……」

 

「安心するといい、これは流石のあんたもただじゃ済まない。なにせ、前世での俺が知る最強の攻撃方法の1つだからな……」

 

 そう自信満々に宣言するシャドウに期待の色を見せるミホーク。

 約束通り、ミホークはその場から一歩たりとも動かず、魔力を練り上げていくシャドウをジッと見つめる。

 

「…………」

 

 そして、シャドウはこの街で一番高い建物である時計塔の上に陣取った。

 そこで、街全体を覆い隠す程の圧倒的な魔力の奔流がシャドウの肉体から解き放たれた。

 

 暗雲漂う王都の黒い空を青紫色の光で塗り替えたのだ。

 

「刮目するがいい! これこそが、我が生涯の集大成!! 至高にして究極の必殺技!!!」

 

 

 かつて、世界最強の爆弾たる核に挑もうとした男がいた。

 

「アイ……」

 

 男はあらゆる方法を……修行を……研鑽を積んでいった。

 

「アム……」

 

 だが、そのどれもが机上の空論にすらならない遥か遠く離れたちっぽけなものでしかなかった。

 やがて、その男が追い求めたのは現実には有り得ない空想上の力……すなわち魔力を欲した。

 

 願い、そして追い求めた末に、男は死して別の異世界に転生することでようやくその力を手に入れた。

 そして考えた。どうすれば核に勝てるのかを……、悩みに悩み込んだ末に出した結論は、核に勝てるのは同じ核だけであると。

 

「……アトミック!!!」

 

 シャドウから放たれた一撃は音を消し去り、強烈な光の奔流が時計塔の下に立っているたった1人の男目掛けて襲い掛かった。

 

 それは世界最強の魔剣士たるミホークをも蒸発させ、王都の大部分を纏めて塵すら残らずに消し飛ばす威力であった。

 

 後に残ったのは、底の見えない奈落のような大穴のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「感嘆に値する一撃だ」

 

 それが、ミホークの魔力探知と長年の戦闘によって得た経験による直感の合わせ技である疑似・見聞色の未来視で覗いた未来の光景だった。

 あれはまさに核兵器と呼ぶに然るべき技だ。

 

 まさに死を具現化したような恐るべき技。だが、ミホークの眼からはそれは己の全力を引きずり出させてくれる至高の宝のように映った。

 

 あと2秒。それが何を意味する時間なのかは言うまでもないだろう。

 

(受けに回るは愚策。ならば、真っ正面から叩き斬るまでのこと)

 

 それは今までミホークが見せたことのない剣の構えだった。

 それと同時に、今まで剣にしか纏わせていなかった魔力を自身にも付加していく。

 

宿業断罪──────」

 

 ミホークが構えを取って2秒が経過した。

 それと同時に、シャドウが未来で見せた核兵器と同等の一撃を叩き込む。

 

「……アトミック!!!」

 

 未来視で見た光景と全く同じものがミホークの両目に映り込む。

 だが。

 

「────太刀斬刃娑魅(たちきりばさみ)

 

 ただの一撃だけではシャドウのこの技は斬れるだけで防ぐことは叶わなかったであろう。

 そして、いくら達人といえど、剣での振り下ろしは1つの斬撃しか作り出せぬは道理。

 

 しかし、この男はその道理を蹴飛ばすことが出来るという確信を持って今世で何年もの研鑽を積み重ねることで、ついには多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)という領域にまで足を踏み入れた。

 

 これは簡単に説明すれば1つの次元に複数の並列世界から異なる剣筋を呼び出すもの。(作者もあまり詳しくは理解出来なかった)

 

 ただ同じ剣筋が増えただけと侮ることなかれ、世界最強の魔剣士の一撃は大地を裂き、二撃は雲を貫き、三撃は大海をも割る威力を秘める。

 それは誇張なく全てが真実であると同時に、まだ全力ではないとここに記しておこう。

 

 事実、これまで単純な剣技しか使って来なかったミホークが、始めて使用した必殺の技は同時に生み出した2つの斬撃は天地を穿つ程に強力で、2つの斬撃は互いに重なることで技名に恥じぬ巨大なハサミのような形状となる。

 その威力はただ威力が倍になっただけではなく、技の威力を何倍にも増幅して、迫りくるシャドウのアイ・アム・アトミックへ衝突した。

 

 ミホークとシャドウの技の一瞬の拮抗、その隙を縫うようにミホークは更なる一手として、自らが撃ち込んだ斬撃の重なり合う地点に渾身の突きを叩き込む。

 

 これにより拮抗した関係はあっけない程に容易く消え、ミホークの技が最後の突きの後押しでシャドウの技を斬り裂いて撃ち破った。

 

 斬り裂かれたアイ・アム・アトミックの魔力は霧状となって霧散し、それを成した宿業断罪・太刀斬刃娑魅(たちきりばさみ)は、天を覆う暗雲を全て散らし、雨によって出来た虹を真っ二つに斬り裂いて、遥か天の彼方へと消えていった。

 

 後に残るは時計塔の上で驚愕の表情で固まるシャドウと、それを見上げて勝ち誇った笑みを浮かべるミホークだけだった。

 

 

 

 

 

 

 あれは……アイ・アム・アトミックは僕が考えうる最強の技だった。過大評価なく、まさしく核にも匹敵する究極の奥義だと自負もしていた。

 だがそれを、ミホークさんはいとも容易げに撃ち破ってみせた。

 

 ここで普通の人ならばその胸中にあるのは絶望か困惑、もしくは夢であると思い込んでの現実逃避に走るだろう。

 

 でも僕は違う。今の僕の胸中で巻き上がっているのは驚喜と興奮、そして渇望だ。

 

 かつて核へ挑むことを決意し、魔力を手に入れた僕は核に匹敵するだけの力を手に入れた。

 けれど、匹敵する力を手に入れただけで、これで僕は核に勝利できるのかは分からなかった。

 

 でも……、

 

「僕の核に打ち勝ち、斬り裂いたアンタを倒せば! 僕は正真正銘、核に勝ったと断言することが出来る!!!」

 

 狂気乱舞とはまさにこのことかと言ってしまいたくなるような歪んだ笑みを浮かべて襲い掛かるシャドウ。

 既に身体も魔力もボロボロといった状態だ。だがそれに反比例してシャドウのテンションは天井を吹っ切れ、疲労を感じさせぬ動きを見せていた。

 

 まさに、精神が肉体を凌駕していると言わざるを得ないだろう。

 

「その気概や良し! しかし、精神論だけで勝てるほど俺は甘い敵ではないぞ」

 

「そんなこと、最初から承知の上だ!!!」

 

 既にシャドウの持つ最大の切り札は斬って伏せられた。

 ならば、後に残る勝利の手立てはあるのだろうか? 

 

 Q世界最強に勝つにはどうすればいいか? 

 

 Aならば、世界最強になればいい。

 

 この戦いで刹那の間とはいえ、幾度となく彼の大剣豪の剣筋を見た、受けた、この身で味わった。

 なればこそ、たった1度の戦いしかしていないとはいえ、模倣出来ぬ道理などある筈がない! 

 

「むっ!?」

 

 シャドウの剣を受けてミホークが目を見開く。

 それは完璧とは言えないまでも、紛れもなく自身が幾年もの戦いの中で作り上げてきた剣の型だったからだ。

 

 ミホークの剣は我流だ。その元となる基本は前世で培った剣道をもとにしているとはいえ、王都ブシン流のような誰にでも扱える剣ではなく、真なる強者にしか扱えない代物へと昇華させたのが彼の剣だ。

 

 例えるなら、格ゲーで必殺コマンドの入力が難しいが、決まれば大逆転も夢ではないキャラと言えば理解出来るだろうか。

 

 そんな自身の剣を模倣されたミホークは驚愕するでもなければ、憤慨することもなく、ただその目を閉じてシャドウの操る剣の呼吸に耳を傾ける。

 

 雨上がりの冷えた空気に、それに紛れて隠れている複数の何者かの気配、そして襲い来る我が模倣の剣。

 その全てがミホークの感覚に捉えられている。

 

 ドクン……ドクン……と自分とシャドウの鼓動がデカく聞こえる。

 もう見る必要はない。ただ感じたままに斬ればいい……。

 

「あんたを倒して俺は真の世界最強になるんだ!!!」

 

 そして一閃──ー

 

「……まだまだ未熟なり」

 

 一刀両断……シャドウの放つ世界最強を模倣した剣は、その世界最強の手によってあっさりと斬り捨てられてしまった。

 

 Q世界最強になるにはどうすればいい? 

 

 A世界最強を斬ればいい。

 

「──っ!? これは……ジョーカーを引いたか……」

 

 肩から腰にかけて斜めに斬り裂かれたシャドウは、大量の出血を吹き出し、地面に倒れる。

 

「生憎と、その剣は俺が一番よく斬った剣だ……」

 

 ミホークがこれまでの生涯で強くなり続ける為にしてきた修業の大半は強者との斬り合いだった。

 そして、世界最強となった現在では誰よりも己自身がイメージトレーニングとして自らの剣を相手に斬り裂いてきたのだ。

 

 そんなミホークを相手に生半可な剣の模倣など、まさしくジョーカーを引いたも同然だろう。

 

 地面に倒れたシャドウを見下ろしながら、ミホークは刀身に付着した血糊を一振りで払いあげる。

 

「「「シャドウ様!!!」」」

 

 会場内で隠れていたシャドウの仲間と思える黒一色の服装の女性が駆けつけてきた。

 その中でも一等実力の高い女がミホークへと斬って掛かりに来た。

 

 その剣から殺気は感じないことから、シャドウの敵討ちではなく撤退までの殿(しんがり)役といったわけか。

 それにしても、このエルフの女の顔……ベアトリクスの奴に似ている。

 いや、もう少し年齢を重ねれば瓜二つになると言っても過言ではない。

 

 もしや、こいつがベアトリクスの奴が探していた身内か……? 

 ならば、奴に負けず劣らずの才能を持っているやもしれん。

 

 ふふ……、今日は本当にツイている日だ。

 あやつには悪いが、少し味見させてもらうとしよう。

 

「はあぁぁぁ!!!」

 

「ふむ、剣筋はあやつとはまるで別物、されど才能という点では同等……あるいはそれ以上か……」

 

 師の教えが良かったのだろう。魔力の操作も剣術の高さもどちらも申し分ない。

 王国最高の腕を持つアイリス王女と比較しても余程いい出来だ。これならばベアトリクスにも勝てるやもしれんな。

 まあ、今のあいつがどれだけ剣の腕を上げているかは知らぬから断言は出来ぬが……。

 

 やがて、女の実力を測り終えたと同時にシャドウに魔力による回復を施していた女の撤退の声と共に逃げていった。

 別にミホークからすれば彼女らは倒すべき敵というわけでもないし、その背に背負われているシャドウも好敵手なだけであって殺す対象ではないので、剣を鞘に納めて見逃すことにした。

 

 その直後に特別観客席からベアトリクスが慌てた様子で駆け下りてきた。

 恐らく、というよりかは十中八九あのエルフの女のことだろう。

 

「今の子はまさか……」

 

 呆然としたまま立ち尽くすベアトリクスにミホークは声を掛けることなく、そのままこの場を去っていく。

 別にベアトリクスは剣を交える間柄なだけであって、友人でもなければ恋人ですらないのだから、そういった家族関係の面倒な厄介事には深入りしたくはないのだ。

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「……断ると言ったら?」

 

「その時は……貴方に無理やり孕まされたと言いふらす」

 

「やめろ!!!」

 

 それはミホークのイメージを大きく削がれる。

 剣では勝てずに俺との交渉出来ないと踏んでイメージ戦略でくるとは……。一体いつからこいつにそんな悪知恵がつくようになった!? 

 

「全部貴方が悪い……」

 

「頬を膨らますな。見た目はともかく、貴様の実年齢は「黙れ、それ以上口を開くな」……分かった」

 

 不貞腐れたようなベアトリクスの態度に苦言と共に実年齢を口にしかけた瞬間、喉元に剣を突き立てられる。

 流石のミホークも今のは女性に対して失言だったと素直に認める。

 

「とにかく、私は今逃げたエルフに会ってみたい。だから、探すのを手伝ってくれ」

 

「はぁ、あまり面倒事には首を突っ込みたくはないのだがな……」

 

 こうして、俺とベアトリクスはあのエルフの行方を探る為に、手掛かりとなるであろうシャドウガーデンの本拠地を探る旅に出ることになった。




これで一応の完結かな。

これ連載やなくて短編小説やし、オマケで何話か作るけどもな。

とりあえず、高評価や感想あざざます!

ミホークが異世界(別タイトル)に行くなら?

  • 鋼の錬金術師
  • 銀魂
  • ダンまち
  • 異世界おじさん
  • 異世界サムライ
  • FGO 英霊剣豪七番勝負:下総国

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