ブシン祭から翌日、ここはシャドウガーデンの表の顔であるミツゴシ商会の保有する店舗の一室。
そこにはシャドウガーデン最強の7人である七陰が傷を負ったシャドウの元へ集合していた。
「むぅ~!!納得いかないのです!ボスは最強なのです!負けるだなんてありえないです!!こうなったら、デルタがその大ナントカって奴の首を狩ってきてやるのです!!!」
「やめときな、バカ犬。あんたなんかが挑んだところでその耳と尻尾をぶった切られて終わりだよ。あとそれと、大剣豪な。それくらい覚えときな、バカ犬」
「ガゥルゥゥ!!!デルタを馬鹿にするなです、メス猫!デルタは強いんです。ボスの敵はデルタが取るのです!」
「だ~か~ら~、それがあんたじゃ無理だって言ってるじゃん。このバカ犬!!」
いつもみたくデルタの我儘にゼータが嚙みついて喧嘩になるが、アルファが床を足でカツン!と音を鳴らし、ギロリ!といつもよりも鋭い眼つきで睨みつけると2人は「「あうっ!」」と怯え、即座に謝罪して大人しくなった。
「ごめんなさいね、シャドウ。それで傷の方は大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。デルタも心配してくれてありがとう。それで、今こうして僕はここにいる訳だけど、姉さんの方はどうなっているの?」
「はっ ただいまニューがシド様に変装してどうにか誤魔化しています」
「それ大丈夫?姉さんって僕に対してだけはえらく暴力的だし……」
「問題ありません。現在、ニューが変装しているシド様は先の事件に巻き込まれて病院へ搬送されたという形で隔離しております。更に、事件の参考人としてクレア様には事情聴取という名目でシャドウガーデンのメンバーが騎士に変装して足止めしておりますから」
ガンマの説明を聞いたシャドウはそうかと納得して安堵のため息を吐く。流石に自分の身代わりでニューが姉さんにボコられるのは気まずいのだ。
続けてガンマから密かにミホークの素性調査していた結果報告を聞く。
「ひとまず、彼の大剣豪の素性を調べ上げましたが、教団との繋がりは確認できず、恐らくは白だと思われます」
ふむ、あの人は教団とは無関係という設定か……。
まあ確かに、あの人は孤高の強者って印象の方が強いし、結構いい設定だな。
ここは僕もノッてあげるか。
「だろうな。あの男が教団と繋がる筈がない……」
「流石はシャドウ様、たった一度戦っただけで相手の事をそこまで理解するなんて!」
ガンマ恒例のさすシャドを前に気分をよくしていると、突然部屋の扉が勢いよく開かれてナンバーズの1人が慌てた様子で報告にやって来た。
「どうしたの?今はシャドウとの会議中なのだけれど……」
「そ、それが、アルファ様!大変な事態に!!シャドウガーデンの本拠地である古の都アレクサンドリアが襲撃を受けました!!」
「「「「「「「────っ!!?」」」」」」」
「なんだと……?」
七陰がその報告に絶句するなか、シャドウは僅かばかしに眉をひそめる程度だった。
これは認識の違いからだった。古の都アレクサンドリアは霧の龍による毒の吐息によって守られており、何人たりとも侵入を拒む結界となっている。
それを七陰は周知しているが、シャドウはいい場所を見つけたな程度にしか思っていないのだ。
故に起きた差なのだが、その事情を知らない七陰からはこんな状況でも冷静沈着な対応をみせていると勘違いしている。
「それで侵入者の数と被害状況は?敵は教団と考えていいのね?」
「いえ、それが……」
アルファからの問いに、報告を伝えに来たナンバーズの彼女は何とも答えにくそうに報告を続ける。
「敵の数は1人!被害状況は……建物などに被害はありませんが、ラムダ教官や訓練中のナンバーズが負傷した程度で、死人または重傷者は出ておりません」
「「「「「「はぁ?」」」」」」」
「…………」
その報告を聞き、七陰である彼女らは間の抜けた声を出してしまい、シャドウは無言のまま目を閉じる。
てっきり、奇襲によって死屍累々の血に染まった戦場になっていると勝手に想像していたというのに、実際は負傷者数名のみという事に拍子抜けた声が上がる。
「待ってちょうだい。その報告は確かなものなの?」
「はい!ナンバーズから、イータ様が開発した長距離連絡用の魔道具での報告でしたので間違いはないかと……」
彼女自身も今回の荒唐無稽のような報告に自信なさげな返答を返す。
それを聞いて何が何やらとアルファが頭を痛くしていたが、それでも本拠地を特定されて襲撃されたという事実は重い。
「それで敵の正体とその目的は分かっているの?」
「はい!それも報告にありました。敵はジュラキュール・ミホーク、目的はアルファ様とのことです!!」
「なに?ジュラキュール・ミホークだと!?それに……」
「私?」
まさかの襲撃犯が先日戦った大剣豪ということに驚くシャドウと、その目的が自分ということに意表を突かれ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になるアルファ。
それは他のメンバーも同じ反応で、一体どういうことだと慌てていた。
そんな中、最初に驚いたシャドウが顎に手を添えて、この状況を整理してみる。
ミホークの設定を決めている最中に本拠地がその当人であるミホークから襲撃を受けている。
ははぁ~ん、これはサプライズイベントというやつか?あれだな、序盤はいきなりの急展開なトンデモイベントだが、後の後半でそれが伏線になるっていう、FG○のトンチキイベント的なアレだ。
知っているぞ、ハロウィンやらぐだぐだも最初や途中まではネタだけど、ラストではBGMをバックにカッコいい展開になるということを!!!
「再戦か、はたまた別の目的か、どちらにせよ面白いじゃないか」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、シャドウはこの流れに乗っかることにした。
「……そうね。相手の目的がなんにせよ、単身で乗り込んできたのなら好都合。私たち全員で力を合わせれば、いくら世界最強の魔剣士といえど倒せるはずよ。ねえ、シャドウ……」
「ああ、そうだな」
「グルルルルッ!!そんなの必要ないのです!デルタがいけば敵なんて狩ってみせるのですぅぅぅ!!!」
「ああ、こらデルタ!?」
敵が攻めてきたという報告に興奮したデルタは指示を受けるよりも早く、ミホークが襲撃をかけてきたアレクサンドリアに向かって駆け出していった。
止める暇もなく走り去ったデルタを追って、シャドウを筆頭に戦闘に長けたアルファ、イプシロン、ゼータの3人が後を追おうと立ち上がる。
♦
ブシン祭が終わり、ベアトリクスからの頼まれごとを嫌々ながらに聞くハメになってしまったミホーク。
例の妹の忘れ形見に似ているというシャドウガーデンのエルフを探す為にあてもなく彷徨い歩いていたのだが、魔剣士の勘からなのか、人の出入りなど有りそうにない鬱蒼と茂った森へ足を運んでいた。
「……っ!これは」
森の中を進むこと数時間、突如として発生した謎の霧に足を止める。
これがただの霧ではないことは直感で察することが出来た。
「……よかろう。形なきモノすら斬ることが出来て一流の剣士というもの」
自身の歩みを妨害するように立ち込めた霧に対して、ミホークは意欲に燃える。
背中に背負った剣を抜き放ち、眼前で滞留する毒の霧に向けて剣を振るう。
ただ漫然と振るうのではなく、その霧の中心ともいえる元凶、それを見極めてそこに斬撃を叩き込んだ。
「ふんっ!!」
その斬撃は嵐の如く、空間が揺らぎ森中に広がっていた霧が周辺の木々ごと纏めて一掃された。
この異変は森の奥に存在する古の都アレクサンドリアに拠点を構えるシャドウガーデンにも届いた。
「なんの騒ぎだ!?」
「大変です、ラムダ教官! 森の方から侵入者が!? どうやら、今の騒ぎは霧の龍の毒霧を吹き飛ばした際の衝撃のようです!」
突然の騒ぎに古の都アレクサンドリアは蜂の巣をつついたような騒ぎに陥る。
ただし、騒ぎになっているだけで混乱などはなく、普段からの訓練の度合いを窺わせる。
「「「キャ──ー!!!」」」
森付近で訓練をしていた訓練兵が吹き飛ぶ姿が見えた。
それは傍から見たらギャグ漫画などで吹き飛ぶ悪役のような飛び方だが、ラムダが手塩に掛けた訓練兵の実力はそんじょそこらの騎士よりも遥かに実力が高い。
決してあのような雑魚が一掃されるような表現で倒されるような実力ではないのだ。
だが、現実にはそんな光景が遠くの方で起こっていた。
つまり、ここに侵入してきた者は生半可な実力者ではないということだ。
まさか、下手をすれば七陰クラスが出張るほどの実力者か!?
「私が行こう。お前たちはアルファ様へ連絡を急げ!」
「「「はっ!」」」
迅速に指示を出すと、私は即座に侵入者がやって来たであろう場所へ足を急がせる。
敵は恐らく教団の連中、ここ最近シャドウガーデンも表舞台に立ち始めたが故にこの場所を特定したのだろう。
もしかすれば、敵の幹部クラスの者が軍を引き連れてやって来たのやもしれない。
「ここが死に場所になるやもしれんな……」
敵に近づくにつれて肌を刺すようなピリついた圧が強くなる。戦わずとも感じてしまう相手の強さ。
そして、幻視する自らの死。しかし、不思議と恐怖はなかった。
「ふっ、元々悪魔憑きとして死する運命だったのだ。ここまで生き延びれた恩を返す時が来ただけのこと……」
強い覚悟を決めたラムダはついに敵の元に辿り着く。
そこにいたのは予想だにしていない人物だった。
「なっ!何故貴方が!?」
「…………」
ラムダの目に飛び込んできたのは短刀を握ってナンバーズを地に伏せさせている大剣豪の姿だった。
彼がやって来たラムダを一目見るも、すぐに興味をなくしたのか、視線を外してラムダの横を何でもないかのように通り過ぎようとした。
「……っ」
一瞬、敵意が無いことにほっとした。このまま戦わずに済むと。
されど、ラムダの立場からそれを許すわけにはいかない。
「まさか、貴方様がここに来るとは思いませんでした。目的はシャドウ様ですか?」
「……答える義理もないが、まあいい。俺の目的はシャドウではない。奴とはまた強くなった時に再戦を果たすのみ。今回の目的は貴様らの仲間にいるエルフの女……俺を相手に殿を務めてみせた者を探している」
「……っ!そうですか。残念ですが、あの御方はここにはいません。ですのでお引き取りを……と言いたいところですが、私もこの地を任されている者。どうやってここを知ったのか、是が非でも吐いてもらいます!」
パシンッ! と自らの獲物である鞭を地面に叩き付け、戦闘の構えをとる。
「ほう、中々珍しい武器を使う。いいだろう。暇つぶしにはなりそうだ」
その立ち振る舞いから今地面に転がっている者どもよりも楽しめそうだと判断したのだろう。
その鋭い眼光をラムダに向けて短剣を握りなおす。
たったそれだけの所作にラムダの本能が最大限の警告音を鳴らすが、それを理性で以て押さえつけ、戦う意思を奮い立たせる。
「いかせてもらう!!」
「かかってこい……」
覚悟を決めたラムダがミホークへと特攻を仕掛け、開戦の火蓋が切られた。
♦
デルタに難しいことは分からない。だが、群れのボスに手を出した敵を許してはいけないということだけは理解している。
ミツゴシ商会からアレクサンドリアに向かって駆けるデルタ。その速度は下手をすれば新幹線にも匹敵するスピードで通り過ぎていく為、道行く人々は新種の魔獣か幻覚でも見たと一部騒ぎにもなった。
だが、当の本人はそんなこと露知らず、その頭の中はボスであるシャドウを倒してみせたというミホークのことしか入ってなかった。
既にミツゴシ商会に連絡が入ってかなりの時間が経っている。もうその場にいないかもしれないが、獣人の鼻を利用すれば後を追い掛けて辿り着くことができるだろう。
そう意気込んで目的地へと全力の猛ダッシュを決め込む。
やがて周囲の景色が街から森へと切り替わり、シャドウガーデンの本拠地であるアレクサンドリアに辿り着く。
そこでデルタの嗅覚に血の匂いを嗅ぎ取った。
その瞬間、デルタの頭に血が昇る。
この先に自分の
それだけでデルタが怒り狂うには充分だった。
「があああああぁぁぁぁ!!!」
血の匂いがする方へ吠えながら走り出す。そしてすぐにその視界に捉えたのは、包帯を巻きながらも日常生活を送っているナンバーズ達の姿だった。
「がうぅ???」
「あれ、デルタ様?」
「お前ら、襲われた筈じゃないのです?」
「あははは……、お恥ずかしながら」
確かに怪我を負って包帯を巻いているし、着ているスライムスーツも若干損傷しているように見受けられる。
ここに敵襲があったことは確かだろう。しかし、周りを見渡しても戦闘の被害がありそうな場所はなく。
こうしてナンバーズ達が無事とは言い難いが、それでもこうして普段通りに動けていることに頭の弱いデルタには理解しきれなかった。
「うぅぅ……?考えても分からないことは分からないのです!お前ら、ここにボスを倒した奴がいる筈です。そいつは今どこにいるです!」
「ミホーク様ですか?それならば向こうの方に……」
そう指を指して位置を教えると、デルタは風のごとくその場から走り去っていった。
その行き先は当然のことながら、敵であるミホークの元だった。
女しか存在しないシャドウガーデンの本拠地にはいないはずの男。
この男こそがボスを倒してこの場所を襲ってきた敵!!!
「見つけたのです!!」
「……これはまた、生きのいい獣が迷い込んできたものだ」
やって来た獣人への俺の感想は猛獣というしかなかった。それほどまでに目の前で荒ぶる獣人は威圧感を放っていたのだ。
それはただ単純に強者の放つオーラのようなものなのか、それとも本能的な何かによるものなのか……。
まぁ何にせよ、今の俺の暇つぶしになる程度の力は持っているようだ。
「よかろう。この
「……ふざけてんのかです!?」
何故に鍬を持ってるのかというと、現在のミホークはシャドウガーデンで
そこへデルタが乗り込んできたというわけだ。
無論、このままデルタを鍬で相手をするというのは本気のことだ。
一流の剣士であれば扱う武器は選ばなくとも相手を倒せる。超一流ともなれば日常品でさえ武器と化して敵を葬る。
つまるところ、ミホークが持てばただの鍬とて立派な武器へと変貌するのだ。
「まずは小手調べだ、──天地返し」
「ぬあっ!?」
地面に鍬を振るっただけ、ただそれだけで地中の土がひっくり返りその延長線上にいたデルタもそれに巻き込まれて宙へ吹っ飛ばされる。
それはもうコミカルにピョ~ン! と擬音が付くほどに呆気なく飛ばされた。
突然の異常現象に流石のデルタも反応することができず、ひっくり返された土と共に空中に飛ばされたが、デルタはシャドウガーデンでもトップクラスの戦闘力を誇る。
ただ吹き飛ばされただけならば1秒とかからず空中でも態勢を整えて反撃の構えを取ることなど造作もない。
「っグルルル!!よくも──っ!?って、いないですぅ!!」
素早く空中で態勢を立て直したデルタが先程までミホークが立っていた場所を睨みつけるが、そこには既にミホークの姿はなかった。
「どこにっ!?」
ふと嫌な予感が背筋を走り、その予感を信じて後ろを振り返ると、そこには鍬を振り下ろそうとしたミホークがいた。
「ふん!」
「がぁっ!!?」
咄嗟にガードできたが、本当にただの農具なのかとツッコミたくなる硬度の鍬で叩き付けられたことで地面へと真っ逆さまに撃ち落される。
一般人ならば間違いなく即死レベルの威力、されど巻き起こる土煙の中から無傷のデルタが姿を現した。
「ガアァァァァ!!!!デルタを!!舐めんじゃねえですぅ!!!」
怒り心頭のデルタが未だ空中で佇んでいるミホークを睨む。その眼力は猛獣もたじろぐほどに鋭く、濃厚な殺意と敵意が含まれていた。
しかし、その程度の殺気はミホークにとってはそよ風程度にしか感じない。
「どうやら貴様はその程度らしい」
「──ッ!調子に乗ってんじゃねぇです!!」
軽い挑発に簡単に乗ったデルタは着地の瞬間を狙い撃とうと爪を尖らせて攻めにいく。
その速度は弾丸かと見紛うほどのもので、並みの相手ならばまず避けられないだろう。
だが、ミホークには通じなかった。
「っぐぅ!」
「速度と魔力だけならば合格点は出してやってもよかろう。しかし、その他がまるで不合格だな」
あっけなくデルタの攻撃を鍬の棒部分で防ぐと、そのまま棒の先端部分を巧みに操り隙が生じたデルタの胸元を突く。
「がぁっ!?」
不意打ち気味に放たれたその突きに息を吐いて動きを止めたデルタに追撃だといわんばかりに鍬の端っこを握って振り払う。
たったそれだけのことなのに、デルタは凄まじい衝撃を受けて地面を転がりながら吹き飛ばされてしまう。
「突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀、この言葉を知っているか? まあ、知らずともよい。所詮は獣なのだからな……」
「ぐぅっ!クソォがぁ!!っですぅ!!!」
「はぁ……」
吹き飛ばされ、木に激突して止まったデルタは怒りの声と共に立ち上がる。胸に走る痛みを無視して突っ走るデルタにミホークは溜息を吐いた。
それはデルタの短絡的過ぎる行動への呆れからくるものではなく、心底失望したという失意に近しい感情から出たものだった。
握り構えていた鍬を地面に突き刺し、自身に向かってくるデルタに向き合う。
「──止まれ!!!」
「──っっっぎぃ!!?」
ただの一睨みの威嚇のみ、ただそれだけの行為だというのに、デルタの本能が全力で止まれと足にブレーキをかけた。
心臓の鼓動が不規則に跳ね上がり、全身から冷や汗が滝のように流れ落ちた。
ただ一言命じただけで放たれる異常なまでの威圧感に、デルタは気圧されて動きを止めて立ち尽くす。
ここで初めてデルタは目の前の男が自身のボスを卑怯な手や偶然で倒した存在ではないと確信した。
これはシャドウの実力の高さを知りすぎているがゆえに、デルタの脳が言葉では実感出来ずに辛うじてこれならば納得できると無意識に相手の実力と状況を頭の中で勝手に変換してしまっていたのだ。
つまるところアホの子なのだから勝手にミホークを運だけのクソ野郎と思い込んでいたのだ! アホの子だから!!!
だが、先程までの攻防戦と今の威圧により、ようやくデルタの中でこの男が真っ正面からボスに勝ったのだと理解できた……いや、出来てしまった。
戦意喪失してしまったデルタは真っ先に逃走の手段を模索したが、目の前でただ睨みつけている男に背を向ければ終わるという確証なき確信がデルタの足を地面に縫い付ける。
そんな今のデルタの胸中にあるのは諦めだった。
本来ならば負けん気の強いデルタが素直に諦める筈はない。ないのだが、弱肉強食の世界を生きるデルタにとって目の前の男は鷹で自身はひ弱な鼠に成り下がってしまったように感じてしまっている。
デルタの不幸を上げるとするのならば、悪魔憑きから解放されて世界でもトップクラスの実力者集団であるシャドウガーデンで鍛え上げられ、教団との戦いにもガンマの策によって常勝無敗の戦果を取り続けたことによって起きた自身の油断と慢心。
そして、相手のミホークが握っていたのが武器ではなく農具であったことであろう。
どこの世界に農具を握った剣士を警戒する戦士がいるだろうか? 傍から見ればただの農業に勤しむ青年にしか見えないのだ。
しかも、その上で戦いを始めるのだから、これで怒らずに相手の様子を伺って警戒しろだなんて短絡的なデルタには不可能なことだ。
そんな2つの不幸が重なって起きたのが今のこの現状だ。
デルタへの興味を失ったミホークと戦慄し恐怖で動けずにいるデルタ。
両者互いに硬直状態になって数秒、気まずい空気が立ち込めてきた。
「…………」
さて、どうしたものやら?
この目の前で固まってしまっている獣人の娘の対応に悩みながら思案する。
元々、ミホークからしてみればデルタは敵という訳ではなく、ただ単純に遊び相手にはなるだろうと期待して相手していただけに過ぎない。
無論、最初は普段は戦わない獣人特有の獣らしい動きに期待を込めて相手をしていたが、技量の極致に立つともいえるミホークにとって、愚直なまでの荒々しい戦い方では負ける方が難しいとすら言えた。
ただ身体能力と戦闘センスのみが特化しただけの攻撃ではミホークは傷つけられない。そこに相応の技量が伴って初めてミホークと戦える舞台に上がれるというものだ。
シャドウガーデンのメンバーだというから期待していたのだが、蓋を開けて見ればただの鎖の繋がれていない猛獣であっただけ。
無論、一般人どころか並や強者と呼ばれる類の魔剣士でもデルタの戦闘は充分に通じるレベルどころか、そのままぶっ倒せる破壊力なのだが、それをまるで寄せ付けないミホークの実力がデタラメなのだ。
さて、話が逸れてしまった。今の現状で問題なのは、互いにもう戦う気が全くなくなっているというのに、ミホークムーブのせいでコミュニケーション能力にやや難があるミホークと、格上の敵を前に固まってしまっているデルタ。
どちらからも戦闘終了の提案を口に出せないでいるのが、この空気を作り出している原因なのだ。
このまま日が暮れるまで睨み合いを続けるのかと思ったその時、天は2人を見捨てなかった。
「そこまでにしてもらおうかしら、2人共!」
突如としてこの最悪な空気を切り裂くように割って入ってきたのは、デルタの後を追ってきたアルファだった。
「ア……アルファ様!!」
今にも泣きそうな面でこの場に現れたアルファの名を叫ぶデルタ。
それを無視してアルファはミホークの方へ視線を向ける。敵意や殺意といったものは飛んでは来ていない。
送られてきた情報通り、あっちはこちらに対して本当に敵対の意思はない?
デルタがミツゴシ商会から飛び出してすぐさま後を追ったはずのアルファが、ここに来るまで時間が掛かったのは1つの理由があった。
あの時、シャドウを筆頭に戦闘に自信のある七陰を連れてアレクサンドリアに向かおうとした途中、再び慌てた様子で駆け付けた別のナンバーズの1人がある連絡を持ってきたのだ。
その内容はミホークに敵対意思が無いという報告というものだった。
今回の衝突は誤解によるものだと説明され、それを聞いたアルファが頭を痛くしながら、とりあえずは先に出ていったデルタの確保は自分がすると言って後を追い掛けたのだ。
勿論、勝手な単独行動を行ったデルタには後で厳しいお説教&お仕置きを施すつもりだ。
「ひぃっ!?」
ブルっと謎の悪寒に襲われるデルタ。どうやら少しばかりアルファの怒りが漏れてしまったようだ。
そのことにアルファも気づいたのか、漏れ出た怒気を抑えて沈黙を続けるミホークに会話を試みる。
「さて、御機嫌ようとでも言っていいのかしら?私は貴方のことをあまり知らないから挨拶のしようがないわね」
「ああ、別に構わん。俺も貴様と別段深く親睦を深めたいという理由でここへ来た訳ではない」
「なら、単刀直入に訊ねようかしら? 貴方は何故私を探してここへやって来たの?」
目の前の男に下手な言い回しや遠回しな腹の探り合いは無用と判断してとの言葉だったが、少し性急に迫り過ぎたかと考える。
だがそれは無用の心配だったようで、ミホークはあっさりとその目的を話してくれた。
ただその内容がアルファにとって好ましいものではないものだったが。
「というわけだ。今回はそれだけだ……」
「そう……、残念だけど人違いよ。私はシャドウガーデンのアルファ。生憎とそれ以外の名は持ち合わせていないわ」
ファサ~っと髪をかきあげる仕草で誤魔化してはいるが、その内心が酷く荒れているのをミホークは見逃しはしていない。
かと言って、それで何かフォローすることもなく、所詮は他人と切って捨てるミホークは何も言葉にしない。
それをするのはきっと……
「なるほど、そういう事情か……」
「っシャドウ!? いつからそこに?」
「おぉ~!ボスも来ていたのです!?」
いつからそこにいたのか、木陰の後ろからシャドウが姿を現した。
アルファとデルタはシャドウの登場に驚いていたが、ミホークだけはその気配を察知していたのか、突然現れたシャドウに対して驚きはしていなかった。
「アルファよ、お前は誰が何と言おうとシャドウガーデンの一員のアルファだ。だから、お前はお前の自由にしろ」
「シャドウ……」
ポンとアルファの頭に手を置いて慰める。後アルファがなんか乙女みたいな顔で恥じらって可愛かったです。
ちなみに、この時のシャドウの心情は「アルファよ、お前は(ベアトリクスとかミホークとか)誰が何と言おうとシャドウガーデンの一員のアルファだ。(だって実質シャドウガーデンのメンバーの把握とか管理とかお前任せだし)だから、お前はお前の自由にしろ(断って僕と一緒に陰の実力者ごっこ続けよぜ!)」だ。
「さて、ブシン祭以来だな。といっても、そうあまり時間は経ってはいないのだが。それで良ければ、どうやってこの場所を突き止めたのか教えてもらえないか?」
ここはシャドウガーデンのメンバー以外は誰も知らない隠された秘境。どのような術をもってこの場所を特定したのか知らなければ、今後の秘密基地としての役割は務まらない。
「大した理由はない。ただの
「勘って、つくにしてももう少しまともな噓を「分かった。信じよう」っな、シャドウ本気なの!?」
この場所を勘で探し当てたというミホークの言い分を否定しようとするアルファの台詞に被せてシャドウがその言葉を認める宣言をした。
「だって、相手はミホークだしね。勘でこの場所を探り当てたとしても不思議じゃないよ」
やれやれと言わんばかりに肩をすくめるシャドウに、アルファはまだ納得がいっていない様子だったが、それ以上何も言うことはなかった。
(それにしても、まさか本当にそれで場所を探り当てるとは……。流石はミホークといったところか……)
そう呆れながらも納得したシャドウの内心を他所に、ミホークは踵を返して去ろうとする。
「おや、もう帰るのか?」
「ああ、既にこちらの用事は済んだ。あいつには直接自分の口で正体を聞けと伝えておく」
そう言って去っていくミホークの姿を見送ると、シャドウの隣にアルファが寄り添うように並び立つ。
「俺は何も口は出さない。だが、己の進む道は自分で決めるべきだ」
「……、そうね。いずれあの人が私の前に来た時は、ちゃんと向き合うことにするわ」
少し悲しげで儚げな表情を浮かべ、アルファはそっとシャドウの肩に頭を傾ける。
それをシャドウは避けようとはせず、アルファのしたいままに体を貸した。
ちなみに、その後落ち着いたアルファから勝手な行動をとったデルタへの罰がキッチリ行われたのは言うまでもない。
「ごめんなさい!アルファ様~!!!」
久しぶりの1万文字投稿はしんどかった。
この小説のミホークを異世界に飛ばすつもりのアンケートで予想外に、ダンまちとFGOが接戦してるのでちょっと驚いた。
てっきり、英霊剣豪一強やと思ってたからな。ってか、ダンまちの方が微妙に勝ってる。
あと1話書いたらダンまちの方で書くかも。
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