後藤、もうひとり。   作:最条真

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お久しぶりです。
久しぶりの投稿になった言い訳はあとがきにて。一時間で書きました。


大好きな姉

 

 ネットに転載されたギターヒーローの演奏動画は、当然のようにSNSで万バズをしていた。

 

「はっ、はわわわわわわっわあわわ……」

 

 私がその事実を告げると、姉は奇声を発しながら部屋の隅で蹲り、足元からスライムのように溶けだしていった。いや、どうなってるんだその身体構造は。

「イキってすみません……陰キャのくせに調子に乗ってすみません……」

 頭をぶんぶん振りながら、うわごとを呟いている平常運転の姉。平常運転ともいえるが、社会復帰の一歩目からこの仕打ちは、あまりに酷だ。まぁ無断転載って訳でもないんだけど。私が勝手に許可を出したし。

 

「ほら、お姉ちゃん見て」

「ふぁい……?」

 

『生ギターヒーローすげぇ!!』

『歌まで歌えるのかよ、最強じゃね??」

『前髪でよく見えないけど。美少女だわ、そうに違いない』

 

 他にも数々の高評価コメントが。ネットでは賞賛の嵐。それを見て姉は――静かに目を逸らす。

 

「別に……だから、何って感じだけど……」

 

 興味なさげな姉。Youtubeの高評価コメントに対しても『別にどうでもいいんだけどなぁ』と口先だけでは言う姉。だが、私は知っているのだ。少しは外の空気を吸えるようになった姉は、ほんの少しではあるが自己否定の傾向が少なくなったせいか――高評価をされるたびに口元がわずかにニヤつくのだ。

 

「(あ、あれ……? 私って、もしかして、すごい?)」

 

 すごいぞ。この愚姉が考えていることが手に取るように分かる。部屋から連れ出して以後の、私による『高評価爆撃』(Youtubeのコメント欄をひたすら見せ続ける)が効いているのだろう。姉の底辺まで落ちた自己肯定感を回復させる試みには、確かな手ごたえを感じていた。

 

 更には今回の出来事だ。

 

『youtubeを通してではない、リアルな演奏が、他者に認められる』

 

 

 今まで、ギターヒーローはネットにしか存在しなかった。だから、『高評価爆撃』の効果も本来よりは薄れていた。今回は違う。しっかりと、現実の自分が、他者によって認められた――それは、Youtube上での評価よりも、大きく姉の心を震わせる。

 

「……いや、でも、待って。私は社会の底辺で……アッでもギターがある!? そういえば歌も歌えるし。……アレ、私って……私って……?」

 

 自己評価と他者評価の乖離に、混乱した様子の姉。ここは少しでも自分を認めてあげてほしいところだ。私は黙って姉の様子を見届ける。……どうだ。

 

「私って……」

 

 何かを言いかけて、止まる。くすんだ青色の瞳が、確かに私を見た。

 

「わたしって、すごいのかな。もとり?」

 

 問いかけられる。

 これは、仕方ないのだと自分の心に言い聞かせる。姉は今、積極的に自分のことを認められる状態じゃない。だから、私が。もうひとりがやらなきゃいけないことなんだ。

 

 姉の問いかけに、頷く。

 

「うん。お姉ちゃんは、『すごい』よ」

 

 ずっと、心の中では叫んでいた。

 あなたはちゃんとすごいんだって。

 私も認めてあげたかったけど、ずっと我慢していたのだ。

 褒めてしまえば、そこで彼女は外に出るのをやめる気がして。

 

 殻を破ってからじゃないと。彼女が外に出てからじゃないと。

 私は満足に、自分の心の内を告げれずにいたのだ。

 

「お姉ちゃんは、すごいよ。ほんとに、ずっと、すごい」

 

 語彙力はどこにいった。私の自慢の頭脳は、賞賛の言葉を吐くための思考を回さない。

 そんなことをしている余裕がない。私はずっと我慢していた。

 

 私のお姉ちゃんはすごいんだって、ずっとずっと言いたかった。

 

 

 ようやく言えたのだ。ここまで我慢していたのだ。

 

「すごいよ、お姉ちゃんは。……私のお姉ちゃんは、すごいんだから」

「も、もとり……?」

 

 お姉ちゃんは、心配そうに私を見つめる。

 

「ど、どうして、泣いてるの……?」

 

 別に私だって泣くつもりじゃなかった。

 涙なんて嫌いだ。わんわん泣きじゃくっても解決なんてしないのに、末の妹でもあるまいし。

 姉妹の中で、私がずっとちゃんとしてなくちゃいけなかったから。

 

 こんな感情吐き出すの、何年ぶりだか分かんない。

 

「嬉しいからだよ、お姉ちゃん。……嬉しくても、人は泣くの」

「ぇ……? えっ? ……??」

 

 ひたすらに困惑した様子の姉に、私は必死に笑いかける。

 涙ぐんでいるけど、不格好だけど、それでも言いたかった。

 

「ずっと言いたかったの。私のお姉ちゃんはすごいんだって。……ずっと」

 

 ほとんど無意識的に、私は姉のことを抱きしめていた。

 

「……大好きだよ」

 

 と、私は呟く。

 姉の顔は見えない。私は下を向いているから。

 

 

 頭を撫でられる。へたくそな撫で方だ。猫なら毛を逆立てて怒るに違いない。

 でも、私は許してあげる。

 

「……私もだよ、もとり」

 

 そう言った彼女の顔は優しい気がして。

 たまには姉らしいことも出来るじゃないか。と、私は久しぶりに姉のことを見直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ええ、お久しぶりです。皆さま。
誰だコイツと思われたかともいるでしょう。缶古鳥という前のペンネームは、覚えてる方すらいないかもしれません。
改めまして、最条真です。
第21回MF文庫J新人賞にて、「佳作」をいただきました。


この二次創作をほっぽりなげて何をしてたかと言うと、受賞のための作品作りです。裏でこそこそ頑張ってました。

ハーメルンの皆様には申し訳ない。
時間にゆとりが出来たので、これからはこちらでも創作活動をしていく次第です。


まぁほとんど新規からのスタート、ですかね。
(そもそもこの文が読まれているのかどうか……)

これを読んでくださっている数少ない読者の皆様、今後ともよろしくお願いします。



Xのアカウントはこちら
https://x.com/aratasaijou

受賞作『魔女と毒殺文芸部』(11/25発売予定)もお楽しみに!


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