「それでは── オークション、スタート!!!!!」

 司会の女の掛け声と共にオークションが開始!

 ドンタを競り落とそうとする参加者は癖揃いばかり。果たしてドンタは、マトモな異世界に行けるのか!?

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転生者オークション (中編)

 

 

 

 「まずは価格20ソリドゥス金貨から!それでは─

 

  オークション、スタート!!!!!」

 

 

 

 女の掛け声を合図に、参加者たちは一斉に札を挙げ始める。

 

 

 「30ソリドゥス!!」

 

 

 「40ソリドゥス!!」

 

 

 「50だ!!50ソリドゥス出すぞ!!!」

 

 

 どんどん値段が吊り上がっていく。

 ドンタの額には汗が滲み、体の前で握られた両手は小刻みに震えている。

 

 

 「100ソリドゥス!!運命の女神たる私の元で、あなたには世界を救っていただきます!!」

 

 

 白い翼の女神が力強く言い放った。

 

 

 「なんと運命の女神モイラ様が100ソリドゥスですわ!100ソリドゥスを超えるお方は出るでしょうか!?」

 

 

 「200ソリドゥス!!!」

 

 

 野太い男の声が響く。

 

 

 見るとその男は、ヴァイキングのような鉄兜を被った壮年の白人らしい。立派な顎髭が目立っている。

 

 

 「その小僧は私の世界に連れて行って、ヨルムンガンドと闘わせるのじゃ!」

 

 

 ヨルムンガンド、漫画やゲームで聞いたことがある。北欧神話に登場する毒蛇であり、世界を取り囲めるほど巨大であるという。

 

 その名前を聞いたドンタはガタガタと震え出した。どうやら彼もヨルムンガンドのことは知っているらしい。

 

 

 「むむむ無理です絶対に!!!僕は運動は苦手だしヘタレだし喧嘩とかも一度もやったこと無いしそれに」

 

 「黙れ!!お前がどう言おうが拒否権は無い!!圧倒的弱者が圧倒的強者に打ち勝つ、そんな冒険譚を皆が期待しているのじゃ!!」

 

 

 「そ、そんなあ!?僕にできる範囲なら何でもしますから、どうかそれだけはご勘弁を!!!」

 

 

 ドンタは額と両手を地面に押し付けて懇願する。しかし、髭オヤジは意にも介さない様子だ。

 

 

 「あらあら、なんと綺麗な土下座ですこと〜!他の入札者もいらっしゃりませんことですし、皆さま200ソリドゥスで落札ということで──」

 

 

 「300ソリドゥス。」

 

 

 割って入るように札が挙げられた。

 

 黒い手袋、黒いジャケット、黒いローブ………

 全身黒ずくめファッションの若い男が脚を組んでふんぞり返っている。

 

 

 「北欧神話ァ〜?冒険譚〜?古い古い!そんな手垢だらけの設定は時代遅れなんだよッ!!」

 

 

 「なっ!?貴様何を言うか!!!」

 

 

 黒メンズの挑発に憤慨した髭オヤジが罵声を浴びせかける。しかし黒メンズは気にもせず、ドンタに向きなおって話しかけた。

 

 

 「おいオマエ、"漫画研究部"に所属してるそうだなァ?」

 

 

 「あっ、はい!その通りです…」

 

 

 「ククク……"漫画研究部"ねぇ…?研究部とは名ばかりに、その実態は放課後に遊び呆けるだけの非生産的な烏合の衆………。そもそもちゃんと漫画を読んでるかすら怪しいけどな……」

 

 

 「えっ?いや、あの、僕たちの部活はちゃんと活動していまして、実際に漫画のネームを描いてコンテストに応募するなど積極的な活動を………」

 

 

 真っ向から発言を否定された黒メンズは眉間に皺をよせ、露骨に嫌そうな顔を見せた。

 

 

 「あっ、すみません!!失礼致しました!!ごめんなさい!!」

 

 

 黒メンは舌を鳴らすと、気を取り直して話しを続ける。

 

 

 「まあとにかく……オマエは典型的な"オタク"ってことだよな?そうなると当然、クラスのみんなからは蔑まれて日陰者のような学園生活を送らざるを得ない……」

 

 「いえ、クラス全員仲良しです。サッカー部ともマブダチです。」

 

 「 日 陰 者 だ よ な ? 」

 

 「ひえっ!!?ひ、日陰者ですっ!!!」

 

 

 「宜しい。……では本題に入ろう。日陰者のオマエを日々虐げる奴らを、見返してやりたいと思ったことはないか?復讐したいと思ったことはないか?」

 

 

 「えっと……はい、復讐したいです…」

 

 

 「復讐したいよなア!?イキったクソDQNどもをメチャクチャにしてやりたいよなア!!?」

 

 

 「はい」

 

 

 「そこでオレの考えた『ゲーム』があるってワケだ!!!ルールは簡単!!異世界で転生者どうしが殺し合うだけ!!」

 

 

 「転生者どうしが……殺し合う!!?」

 

 

 「この日のためにクソDQNどもを沢山集めておいたからなあ!?あとはオマエに最強チート能力を付与して転生させるだけ!!!阿鼻叫喚地獄の始まりってワケだーーー!!!」

 

 

 人間同士に殺し合いをさせるゲーム。彼の言葉を聞いて俺は血の気がサッと引いた感覚がした。ついこの間まで普通の学生だったドンタを、彼は殺戮装置として使うつもりなのだ。

 

 

 これが人間の理を超えた神々なのか。恐怖におののく俺達を見て、黒い男は不敵な笑みを浮かべている。

 

 

 静まりかえる会場に、髭オヤジのつぶやきが響いた。

 

 

 「否定するワケではないが、貴様も大概古いではないか」

 

 

 「…は?」

 

 

 「だから…北欧神話は古いと言っておったが、貴様の『ゲーム』も大概古臭いではないか」

 

 

 黒メンの顔は急激に赤くなり、こめかみに血管が浮き出た。首の筋は浮かび上がり、まさしく鬼の形相と化している。

 

 

 「言わせておけば適当なことをクソ老害があああああアアアア!!!!!!」

 

 

 「誰が老害じゃ青二才があああああ!!!!!」

 

 

 二人は剣を抜き、目にも止まらぬ速さで斬り合いを始めた。あまりの速さに、俺は残像と飛び散る火花しか捉えることができない。

 

 

 「貴様のゲームと違って冒険ファンタジーは古くならないんじゃあああ!!!王道なんじゃああああああ!!!!!」

 

 「王道すぎて供給が飽和してんだよこのシーラカンス!!!人の心に闇が存在する限り復讐は終わらねえんだよ!!!!!」

 

 

 双者の壮絶な斬り合いが続く。参加者からはブーイングの嵐が飛び、司会の女は慌てふためく。

 

 

 「皆さま落ち着いてくださまし〜!!そちらのお二人はケンカをお止めになって〜!!!」

 

 

 「500ソリドゥス!!!!!」

 

 

 耳をつんざくような大声に、会場が静まりかえる。鍔迫り合いをしていた二人も動きが止まった。

 

 

 「ここはオークションをするための会場です。喧嘩ならラグナロクでやってください」

 

 

 厳しい女の声で喝が飛ぶ。その言葉を受けた二人は渋々と剣を収め、バツが悪そうに席に戻った。

 

 

 「さて……、500ソリドゥス以上出す方はいらっしゃいませんね?」

 

 

 低く、力強い声を発する女………いや、女なのか?

 

 

 その姿は明らかに人間のものではなかった。ピンク色の粘らかな触手が幾重にも重なって塊状になっている。しかも、大きさは人の背を優に超えている。

 

 

 「え〜、500ソリドゥス以上の方はいらっしゃらなくて〜?おりませんわね〜?」

 

 

 「………それでは500ソリドゥスで落札!ハイッ!」

 

 

 オークションハンマーを叩くが響いた。

 

 

 ついに落札者が決定し、落札者に対して参加者から拍手が送られる。

 

 

 彼女(?)は触手を振って感謝を示すと、地面を這いずってドンタに近付いていった。

 彼女の巨大さと威圧感に思わず後ずさるドンタ。

 

 

 「な、なぜ僕を落札したんですか?」

 

 

 「………アナタは自信なさげで、弱々しくて、自分が悪くなくてもすぐ謝ってしまう。でも、優しい心の持ち主ね。アナタは私の世界にピッタリだわ」

 

 

 「差し出がましいことをお聞きしますが、僕はどんな世界に送られるのですか……?」

 

 

 「そうね、まずアナタが思ってるような怖い場所では無いかしら」

 

 

 触手の先端をくるくる回しながら彼女は続ける。

 

 

 「私が治める世界には女の子しか居ないの。進化の過程で男が産まれなくなってしまったのね。だからアナタには、女の子たちの花婿になってほしいの」

 

 

 「女の子たちの……花婿…?」

 

 

 ドンタの目の色が変わる。

 

 

 「あちらの世界には凶暴なモンスターも居るのだけれど……アナタには強靭な肉体と卓越した運動センスをプレゼントするから安心して。あと、女の子を口説くための自動翻訳スキルもね」

 

 

 「女の子は何人くらい居るんですか」

 

 

 「100人以上居るかしら……可愛くて献身的で優しい娘ばかりよ。何人かは素っ気ない態度を取るかもしれないけど、それは恥ずかしがってるだけ。いずれアナタに全てを許すようになるハズよ」

 

 

 「全てを許すっ……!!?」

 

 

 ドンタの両目はギンギンに開き、荒い鼻息を抑えきれないようだ。

 

 

 「でも嫌なら無理強いはしないわ。私の世界が嫌なら、他の人にアナタを譲る──」

 

 「行きます」

 

 

 「………良いの?」

 

 

 「ええ。僕が彼女たちを幸せにします」

 

 

 「…分かりました。それではすぐに転生させます。挨拶が必要なら今のうちに済ませてね」

 

 

 彼は静かに向き直ると、俺の前まで歩いてきた。一重だった瞼がいつの間にか二重になっている。

 

 

 「ダイキ………」

 

 

 「おう」

 

 

 「わりィ、オレ……ハーレ厶作って来っから」

 

 

 「………お、おう」

 

 

 ドンタの体が光り輝き始め、つま先から粉雪のように霧散していく。転生が始まったようだ。

 

 

 「短い間だったけど、ダイキと過ごせた時間…楽しかったぜ」

 

 

 「そうか……まぁなんだ、向こうであんまり調子乗って怪我すんなよ?」

 

 

 「ありがとう。お前も良い世界に行けるといい……な……………」

 

 

 彼の体は光の粒となって消えていった。一人残された俺はなんの気なしに辺りを見回す。

 

 

 触手の彼女はいつの間にか消えていた。

 そして、他の参加者たちが小声でなにか話していることに気づいた。

 

 

 「あの男、可哀想に……」

 

 「あの世界にいる知的生命体って、肉片でつくったスライムみたいな奴らですよね?いや〜キツいでしょ」

 

 「最初はグロいかもしれないけど、慣れれば可愛い美少女に見えてくるかもよ?知らんけど」

 

 「あれは女とは言わん。爆死した遺体じゃ」

 

 

 ドンタ……お前………

 

 

 「さてさて!一人目のオークションが終わりましたので、今から二人目のオークションを開始いたしますわ〜!!」

 

 

 司会の女が呼びかけ、参加者たちは拍手で返す。

 

 

 「今回の出品は二人だけであるか。近頃は少なくなったものよ」

 

 「100年前と80年前は当たり年だったのになあ」

 

 

  「お忘れの方もいらっしゃるでしょうから、もう一度ご紹介いたしますわ!

 

 『トラックにはねられ転生!ごく普通の高校生、タナカ・ダイキですわ〜!!!』

 

 今回最後の出品となりますわ!それでは皆さま、ご準備はよろしいですわね〜!?」

 

 

 

 「天下分け目の異世界転生!見るのは地獄か天国か!?アピールしちゃって幸福掴め!!

 

 

 

  まずは価格30ソリドゥス金貨から!それでは───

 

 

 

 

 

 

  オークション、スタート!!!!!」

 

 

 

 


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