僕の名はハリー・ポッター。自慢じゃないがそこそこ有名だと思う。
去年は
それに一年生の時はニコラス・フラメル(高名な錬金術師。実は去年来たボーバトンアカデミーのOBだそうだ)がダンブルドア先生に預けた賢者の石を守った。一年生で、しかも教師やヴォルデモートと戦ったのは僕が初めてだと思う。
毎年のようにそんなことをしてきたけれど、僕たちの冒険に欠かせなかったものは二つある。それは魔法と、何よりも大切な友達だ。
けれど今の僕にはそれがない。未成年はホグワーツの外での魔法の使用を禁じられているし、僕はマグルの(どうしようもない)人たちに預けられて身動きが取れないでいる。
本当はロンの家に行きたい。
今までみたいにロンのお母さんやフレッド、ジョージと家族みたいに過ごしたい。
けれどダンブルドアがそれを許さない。
僕は健全なホグワーツ生だ。そりゃたまに校則を無視することはあるけれど、それは友達や大事な秘密を守るためであって自分のために決まりを破ることはそんなに……そこまでない。たぶん。
だからこうしてまた養豚場みたいな家に世話になっている。立派だろ?
「待ってろハリー!絶対迎えに行くから!」
こんな言葉がロンの台詞だったか、それとも僕が望んだ幻聴だったかももう判断できない。今僕にできるのはこんな古い公園の錆びたブランコを揺らすことだけ。
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
不思議な音でもなりそうなくらい思いっきりブランコを揺らしても数秒もすれば地面に向かう。どれだけ大地を蹴っても空に向かうことはない。
こんなとき、僕の箒があれば空も飛べるのに。
右手をファイアボルトの置いてある方向に向けようとしてやめた。去年は僕の
「ナイスなパンチだったぜ!ビッグD!」
下品な笑い声と共に過剰に太い親戚とその取り巻きが向かってくる。また10歳そこらの子供を殴ってきたのだろう。
「あいつの泣き顔最高だったな!」
「今頃ママに泣きついて────」
「やあ。また10歳児を殴ったのか?"ビッグD"」
いつもは無視をするけれど、なんとなく今日は聞いてみた。
もしかしたら魔法が使えないことに苛立っていたのかもしれないし、箒で飛べない鬱憤を即席の皮肉で紛らわそうと思ったのかもしれない。
あるいは、僕のそばには誰もいないのにこんなやつには友人が(それも4人も!)一緒にいることが許せなかったとか。
「相変わらず生意気だなぁ。ポッターは ええ?」
遺伝の神秘と日頃の行いで日ごとに口調が親豚と似てきたことを恥ずかしいとは思わないんだろうか、こいつは。
最初はざわめいていた取り巻きも自分たちの人数を思い出してすぐに態度が戻っていく。ダドリーがこぶしを握ると周囲もそれに倣った。
いきなり煽ったのはいいが流石にこの人数はまずい
「5対一とは随分と勇敢なことで」
とりあえず挑発してみる。これで乗ってくれれば幸いだ。急いで逃げよう
「じゃあお前は勇敢なのかよ ええ? 毎晩うなされてるくせに。枕が怖いのか?」
乗ってきた。低能な豚とマグルのハーフにしてはよくできた答えだが致命的な部分がある。
僕の部屋に枕なんてない。大方ラジオか何かで聞いた台詞を使いまわしたのだろう。
「『セドリックを殺さないで!』だっけ?セドリックって誰だよ。カレシか?」
小指を立ててジェスチャーしても前足が太いから見えないぞ、ダドリー。
「黙れ」
でもこれは好都合だ。取り巻きも笑うのに夢中で拳が緩んでいる。とりあえず適当な相槌をうって逃げる準備を────
「それと『やつに殺されるよママ!助けて』だっけ?じゃあお前のママはどこだよポッター。死んだのか?ええ?」
────こいつ今なんつった?
冷静だった思考が荒ぶっていく
────親豚の与えた僅か数ガリオンにも満たないはした金で、たかが10歳のガキを殴るしか能のない このアメリカ特産品みたいな肥満野郎が
走る準備をしていた足が逃げ方を忘れていく
────こんな醜いガキ大将風情が よりによってこの僕の母親を侮辱したのか?
「ああそっか死んだんだっけポッター!お前のママ殺されたんだっけ!」
下品な笑いを垂れ流す取り巻き共も見えなくなって 気づいたらダドリーに杖を向けていた。そのまま顎に突き刺すように力を入れていく
周りの笑い声はいっそう濃くなったが、ダドリーの顔だけは青ざめていった。
そうだ。お前は知っているもんな?僕が適当にレダクトでも唱えればお前の頭はザクロみたいに弾けるのを知ってるよな?
本当に魔法を使うのは禁止されているが、しかし杖を振り回してありもしない呪文を口ずさむのは誰も止めていない。このままアブラカタブラとでも叫んでお前の砂糖漬けの脳を恐怖でいっぱいにしてやろうか。僕の額の傷跡みたいにハグリッドにやられた尻の傷が痛むまで絶叫させてやろうか。ほらどうしたビッグD、お友達に助けを求めなくていいのか?ナイスなパンチとやらは拝ませてくれないのか?どこを見ている。お前が見るべきは僕の背後に広がる糞田舎の空じゃないだろ。僕の目を見ろ。お前が侮辱した母さんから貰ったこの僕の目を見ろ!
ふいにダドリーの顔に赤と青以外の影がさしはじめた。辺りを見れば取り巻き共も空を見ている。
────朝にあの豚小屋で聞いたニュースを思い出す
おかしい 今日はうだるような暑さだったはず。
今はまるで曇りの日に台風が来たような寒気とジメジメさを感じる。
「な、なあ行こうぜダドリー」「帰ってアイスでも食おうぜほら」「なんか変だよビッグD!」 「お前、何をした?」「何もしてない!」
周囲の取り巻き共が騒ぎ出す。ダドリーは僕が原因だと思っているようだが違う。
お前ごときに呪文なぞ使ってやるものかよ。
気が付くと僕とダドリーは二人で走っていた。どうやらビッグDのお友達は先に逃げたらしい。
それを見て少しスカッとした。醜い豚にはふさわしいチキンなお友達じゃないか。
僕のは違う。みんな絶対に友達より先に逃げたりなんてしない。ハーマイオニーもロンも…………ロンも本当に危険な時に僕を見捨てたりはしなかったはずだ。うん。
辺りにずっしりと雨雲が立ち込め、小規模な竜巻が吹き始めた。このままだと落雷の恐れもある。僕とダドリーはトンネルに入った。
トンネルの向こう側もみるみる暗雲に吞まれていく。これはしばらく雨が降りそうだ。……普通なら。
僕も横の白豚も察していた。これは普通じゃない。家に帰ればいる太った糞親父がこの世でもっとも忌み嫌う「普通じゃないもの」だ。こんな田舎にそんなものがあるのなら原因は一つしかない。
ふと横を見る。
3年生の時に恐怖を刻み付けたあいつが僕を見ていた。
ヒュッ
きっとダドリーには見えない風かなにかが僕を吹き飛ばしたように見えるのだろう。ほら、その証拠に僕をみて怯えている。
……こんな奴でも、僕のせいで死ぬのは嫌だ。
「ダ…ドリー……逃げ ろ」
抑えられた喉を何とか動かしてダドリーをせかす。きっと狙いは僕だ。
……僕のために残ることを少しも期待しなかったとは言えないが、流石にその言葉を聞いてすさまじい速さで逃げるダドリーに少し呆れる。ほら、前足も使わなくていいのか?
………いやその先は駄目だ!ほら、
僕の注意(目線だけ)も無視して見事に転んだダドリーに吸い寄せられるように二体目の
よっしゃこのままじゃダドリーも僕も死ぬ。法律を自分だけのために破るのは優等生じゃないがあいつも死ぬなら仕方ないよね!
杖で火花を起こしまずは首を自由にする。そして近づいてきた
「
僕の杖から現れた銀色の牡鹿が3年生の時のように
まずは一匹。しかしダドリーがもう危ない。このままこいつを向かわせても間に合うかわからない!
そんな時に奴の背後に人影が見えた。野次馬に来たマグルかと思えば杖を構えている。味方だ!
「
彼の杖から出てきた少女と植物の混じったような守護霊はダドリーに覆い被さった
急いでダドリーのそばに駆け寄ると徐々に頬に赤みがさす。無事だ!
安堵して汗を拭っていると彼もこちらに近づいてきた。
「無事か?」
「あ、ありがとうございます!」
「いいってことよ。それよりご友人の方も大丈夫かい?」
「あ、はい。無事です。それより……」
改めて見ると彼はどことなく僕に似ているような気がした。
髪色や体格、顔のパーツは似てもつかないのに、雰囲気というか全体的な印象が本当にそっくりだった。
「あの、僕は──」
「知っているさハリーポッター。というか君を知らない魔法族なんていないだろうね。名乗るのは俺だけで十分だ」
そういうと彼はなぜか額を見せた。そこには稲妻も傷跡も何もない。むしろ彼が着けている銀色の眼鏡の方が印象的だった。
「俺の名はアーロ・シャフィク。君には悪いがスリザリンだ」
「ようこそわが家へ。本宅じゃないけどね。」
トンネルを抜けるとそこは彼の家だった。
とりあえず椅子にダドリーを寝かせる。彼は紅茶の用意をしているようだ。いかにも余裕がありそうな感じに見えたが時折耳を抑えていた。
「あの、シャフィク?悪いけど僕帰らなくちゃ。それに君も未成年なら魔法を使ったらどうなるかわかるだろう?今すぐホグワーツに手紙を──」
「んー手遅れじゃない?最近の新聞読んでる?」
そう言って彼が投げ渡した今日の予言者新聞には目を塞ぎたくなるような内容が書き綴られていた。ダンブルドアは魔法省を乗っ取ろうとしているだの、僕が彼の信奉者だの、それに──僕が嘘つきだとも。
「まあ少しは落ち着きなよ。実は最近この場所で色々実験していてね。外とはそこそこ時間がズレてるから30分は休めると思うよ」
彼が言う言葉は突拍子もなかったが
「あの、ありがとう。ダドリーと僕を助けてくれて」
「いえいえ、もう聞いたよ。それに俺もあのままだと襲われてたからね」
彼が持ってきた紅茶を飲むと温かさが僕の体に戻ってきた。チョコレートと同じくらい冷え切った体には効果的───なんで彼のだけコーヒー?
「いやぁ実は3徹中でね。紅茶とか飲むと寝ちゃいそうなんだよ」
彼は一人で薄く笑った後また額を抑える。その様子はまるで去年の僕のようだった。
「似てるだろ?」
見ているのがバレていたらしい。
彼は誇らしげに、けれどどこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「…そうだね。すごい偶然だ」
「偶然じゃないんだなぁこれが」
「えっ?」
彼は自虐的な金色の目で僕と鏡を見ている
「親父が君の熱烈なファンというか、まあいわゆる狂信者でね。君が出てきてからはそこそこ自由にさせてもらってるんだが…ガキの頃は少しでも親父の理想のポッター像から外れると鞭でしばかれたもんだ」
「それは…その、ごめん」
「いいって。本当はもっと言ってやりたかったけど君に教えて少しスカッとした」
彼は悪戯を成功させた子供のような顔をしてこう続ける。
「あの場にいたのもそうさ。親父は3年ほどかけて君の場所を探し当ててね。ダンブルドアが顔をしかめない範囲で見守ってたってワケ」
「そうなんだ…」
正直ちょっと怖い。
「引くだろ?」
「うん…」
「まあ安心しな。親父も最近はおとなしくなったからね。君に危害は加えないだろう……おっと噂をすれば」
彼がドアの方に目をやるとノックと共に痩せた男が入ってきた。
「失礼します。ポッター様はあと10分ほどでダーズリー家に向かった方がよろしいかと。この家のズレもそのあたりが限界です」
「おっそうか。ごくろーさん」
痩せた男は恭しく一礼すると部屋を出ていった。ドアの向こうには屋敷しもべ妖精も見えたが彼らには礼をしないあたり彼の方が立場は上らしい。
「今のは?」
「親父。最近心境の変化があってね。今は絶賛執事をエンジョイ中よ」
「お父さん…今のが…」
あれではまるで部下だ。
僕も本当の父親の記憶があまりないけれど、彼の関係は正しいものではない気がした。
「純血ってのはどこも妙なしきたりがあるもんよ。それに比べればうちのは随分軽いさ。どこぞの一族なんて優秀な奴以外は部下扱い、親にも敬語らしいよ?」
僕は純血の家族をロンの家しか知らないけれど、彼がそういうならそうなのだろう。確かにマルフォイの家もまともな育ちとは思えないし。
「まあそんなわけでそろそろ潮時だな…悪いけどお土産は出さんよ」
「いいよそんな…それより本当にありがとう。僕もダドリーも随分助けられた」
「もう聞いたって。俺たちも一度君と話したかったからね。損はしてないさ」
彼の家を出るとそこはさっきのトンネルの壁だった。出る前にドアの上についたダイヤルを回していたのが関係しているのだろうか
「それじゃあ俺はここまでだ。また会おうぜ。まあ俺のことは秘密にしてもらうけど」
「ありがとう。君のことは絶対に言わないよ。とりあえずダンブルドア先生に手紙を書いてみる」
「おう。それじゃあな。……っと、それと」
彼は今度は額ではなく眼鏡を軽くおさえた。
「縁が
「………?ああ!学校でまた会お」
「
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毎度誤字報告や感想兄貴ありがとナス!