てんのみち、すべてをつかさどる   作:ヌオー来訪者

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 ドンブラロスとカブト欠乏症が酷いので初投稿です。


 ドンブラはドン48話後、カブトは本編終了から数年後を想定していただけると幸いです。


ドン1話 ほしぞらがないたひ

 

 誰しも行きつけの店というものは、それがどんな店であれ思い入れの大小はさておいて持っているものだ。

 駄菓子屋なり、喫茶店なり、本屋なり、銭湯なり。

 

 それがソノイという男にとってはおでん屋の屋台だった。

 

 おでん。

 その歴史は長くルーツは室町時代の豆腐田楽。その後、江戸時代になって煮込み料理に発展しうんぬんかんぬん。

 

 そんな歴史の話はどうだっていい。

 ソノイにとって故郷を思い起こさせる味であり、無類だと。胸を張って言える。

 

「今日は一人かい、ノイちゃん」

 

 ノイというのはおでん屋のおやじがつけたソノイのあだ名だ。

 暖簾を掻き分けるといつものおやじの笑顔が待っていた。

 

「あぁ。今日は一人になりたい時だ。いつもの」

 

 この数ヶ月の間、幾度となくこの暖簾を通ってきて頼んできたものをおやじは知っている。

 ソノイの言葉に鍋から卵を掬い取り、皿に乗せ差し出す。

 からしを適量乗せた卵を齧る。

 

 齧った瞬間、白身に染み込んだ出汁の味が溢れ出す。ただ何も考えず惰性で茹でられた卵とは違う時間をかけ、計算され仕込まれた職人の味はソノイの舌を唸らせる。

 

「……ふむ、最高だ」

 

「ノイちゃんが持ってきた卵のおかげだよ!」

 

 これはおやじだけの力ではなく。

 ソノイが持ち込んだ最高のたまごによる所もある。

 おでん屋のおやじの最高の仕込みと最高のたまご。不味いはずがない。

 

 卵だけではない。

 大根、がんもを頼み。それも食する実に至高の時間と言える。

 おでんは出汁が命だ。

 

「知ってるかい、ノイちゃん。今日はやたら星が降るんだよねぇ」

 

「星が……」

 

 星が降る程度なら珍しいことではない。

 流星群もそうだ。ある程度の予測は立てられる。だがここでソノイが引っかかったのはそこではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 完食しお会計を済ませたソノイは屋台の外に出る。

 同じく外に出たおやじも言葉を紡ぐ。

 

「もしかしたら願い事の一つや二つ、叶うんじゃあないかって」

 

 ──なるほど。

 

 星空を見上げればそこには誰でも見える勢いで一筋の光が次々と紺碧の空に流れ、落ちていく。

 とめどなく、落ちていく。

 

「まるで──空が泣いているようだ」

 

「詩的だねぇ、ポエムだねぇ」

 

 ソノイの蒼い瞳に映る、その異常とも言える流れ星たち。

 何かが起きる、前触れのように思えた。

 

「ッ!?」

 

 突然の眩暈。

 世界が歪み、頭を無理やり揺さぶられたような感覚にソノイは思わず額を片手で掴むように覆う。

 

「なんだ……っ」

 

 体調不良? 

 そんなものではない。今のソノイは絶好調と言っても過言ではない。

 ならばこの眩暈はなんだ。

 

「──ノイちゃん?」

 

 今のソノイが普通じゃないことに気付いたおやじが声をかける。

 

「いや、何でもない。そちらは何ともないのか?」

 

「何のことだい?」

 

「……」

 

 おやじは眩暈を起こしていないということはソノイ自身の不調なのか。

 それとも──

 

 眩暈が落ちつくまでに然程の時間は要しなかった。とはいえ、この異常な流れ星と眩暈。

 何かの前触れと──取るべきのようだ。

 

 

 

 それも不吉を呼ぶ──凶星の如く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドン1話

 ほしぞらがないたひ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1999年の渋谷隕石から端を発した地球外生命体ワームと人類の長い戦いは2007年に一先ずの終わりを迎えた。ワームに対抗するための秘密組織だったZECTは解散。

 全てが過ぎ去ってから数年が経ち。

 ワームとの戦いにおいて切り札となっていたマスクドライダーの変身者たちや、ZECTに関わっていた者たちは皆それぞれの道を行く。

 

 その一人、加賀美新。

 かつてマスクドライダー・ガタックの有資格者だった男は──

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てぇッ、指名手配犯犬塚翼ァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 黒衣の男――凶悪犯犬塚翼を追っていた。

 

 

 警察官、加賀美新は追う。何故ならば眼前には凶悪犯犬塚翼がいるからだ。

 とにかく全力全開、体当たりで突っ走る。犬塚翼が一斗缶やゴミを倒したとしても跳ね除け、時に飛び越えようとしてコケかける。それでも食らいつくその様は狂犬か猪か何かだと、犬塚翼は吐き捨てるようにぼやく。

 

 凶悪犯、犬塚翼は逃げる。

 背後には鬼のような形相で追い縋る警察官がいるからだ。

 だが犬塚翼には身に覚えはないが、追われる理由は知っている。それは語れば長くなる。

 背後の警察官こと、加賀美新の執念深さはあの男*1といい勝負。

 

 

 泥試合のような逃亡劇にはビルの屋上にまで至る。

 長い長い階段を駆け上がり、蹴破るように乱暴に開け放たれたドアを潜り屋上に追い詰められた逃亡者(犬塚翼)と、追跡者(加賀美新)

 

 犬塚は柵を背に、加賀美は左右に逃げても動けるように両腕を左右に開きながら位置取っていく。

 その息は荒い。

 何キロ走ったかは定かではない。少なくとも、野球やら何やらで鍛え上げてきた加賀美が息を上げることだけは確かだ。

 

「はぁっ……はぁっ……げほっ、もう屋上だ、逃げられないぞ!」

 

 ひゅー、と喉奥から掠れ声で叫ぶ加賀美に犬塚は心底うんざりしていた。

 

「しつこい……ッ!」

 

「理由は知らないがよくもここまで逃げられたな……!」

 

 加賀美にとって犬塚翼なる男をよく知らない。

 何故ならば逃亡犯が現れたという話を同職の警官と会って聞かされたばかりなのだから

 

 それまでは連勤で疲れた身体に鞭打つようにコーヒーでひと休み。

 夜空を見上げたら綺麗な流星群が落ちてきたので慌てて願い事でも考えていたら突然世界が歪むような眩暈がした。

 きっと疲れているに違いない、そんなことを思っていたら犬塚翼を追う同職の警官と遭遇。共に追う運びとなった。

 

 なお、同職の警官は途中で犬塚のばら撒いたゴミに転けたり体力切れでダウン。

 残るは加賀美だけとなる。

 

 

 

 犬塚翼も加賀美新なる男のことをよく知らない。

 狭山以外にもしつこく追ってきた警官は数多く存在するがこれほどしつこい者ならこれまでの度重なる逃亡生活で記憶しているはずだ。

 

 だというのにここまで暑苦しく、追い縋ってくるような奴は知らない。知りたくもない。

 それでいて『ドンブラザーズ』や『脳人』にもいない人種だ。

 

 故にこの男に目をつけられることを犬塚の逃走本能が叫ぶ。

 この男に目をつけられるな、と。

 苦手意識も篭ったその内なる声に従い、犬塚はフェンスによじ登る。

 

「あっ、おいやめろ犬塚翼ァ!」

 

 フェンスの向こうには何もない。

 わずかな足場の先にあるものは虚空、踏み外せば地上10m以上に真っ逆さま。

 まさかヤケになったのか、加賀美は慌てて止めに入る。

 

「はやまるな! そんなことをしても何もならないぞ!」

 

 本気のトーンで心配しにかかる加賀美に犬塚は調子を狂わされかけるがここで止まれば警察サイドの思う壺だ。

 故に犬塚翼はフェンスをよじ登る。が、

 

「しまっ……」

 

 焦りすぎたようだ。犬塚のつま先はフェンスに引っかからず空を切る。バランスを崩した犬塚にここぞとばかり加賀美はフェンスを超える前に床に引き摺り下ろそうと駆け寄る。

 

「考え直せ! まだやり直せるはずだ!」

 

 踏み留まらせようと説得しながら迫る加賀美を他所に犬塚は必死につま先をフェンスに引っ掛けようとするも上手くいかない。

 普段ならうまく行くはずなのに今日は厄日か何かだ。

 このまま加賀美に足を掴まれて犬塚はジ・エンド。刑務所送り。

 

 命運尽きたか、と犬塚は目を閉じる。一方で加賀美は勝利を確信した。

 同職の警官によると報奨金が500万の大物、何をしたのかじっくり聞かせてもらおう。などと取らぬ狸の皮算用をしていた加賀美の足元に火花が散った。

 

「うわっ!」

 

 まさか足元が爆ぜるとは思わなかった加賀美の足は止まり、慌てて2、3歩後ずさる。

 即座に爆ぜた場所に目を向けると信じられないものが視界に映り眼をかっ開く。

 

「矢ァ!?」

 

 矢の飛んできた場所は横のビルからだ。

 そこに誰がいるのか、見るよりも先に犬塚の方を優先させて元の方向に視線を戻したその時には──

 犬塚は「ソノニかっ」と呟きフェンスを跨いでそのまま──

 

「と、飛び降りた……」

 

 重力に従って落ちていく黒衣をただフェンス越しで呆然と見送るしかなかった。

 

 まさか本当に飛び降りるとは思わなかった加賀美はただ、幽鬼のようにフェンス前まで歩く。

 人間なら確実に生きてはいない。

 

 グロテスクな光景を想像し、拒否反応で喉がキュッと閉まる。だがこの手の仕事をしてきて避けられるようなものではない。

 拒否しようとする本音に鞭打つように下を覗き込む。が──

 

「いない?」

 

 下には道ゆく人々たちの数え切れない頭が映っていた。その中に犬塚らしき姿は欠片もない。

 人間が落ちたなら何かしらの炸裂音や悲鳴が聞こえてもおかしくはないのにも関わらず。何事もなかったかのように車は走り、人びとは日常を送っている。

 

 

 つまり犬塚は落ちていない。

 そんなおかしな話があるか。先程のおかしな眩暈といい疲れが行ってはいけない方向まで来てしまったのか。

 いやいや、そんなはずはない。

 

「嘘だろ……」

 

 口から零れ落ちた無意識の言葉が全てを物語っていた。

 あり得ない、荒唐無稽、絵空事、フィクションだろうと拒否したくてもある可能性がどうしても浮かんでしまう。

 

――あの犬塚翼はもしかしてワームなのか……!

 

 考えうる可能性はまずはそれだった。

 加賀美が散々戦ってきた敵であると同時に、このような非常識な真似が出来るのはワームかマスクドライダーかのどちらかしか考えられなかった。

 

「……」

 

 心の中で「来い」と唱えると、どこからともなく羽音と共に機械仕掛けの蒼いクワガタムシが現れる。加賀美にとって戦うための『力』でもあり、こいつとも長い付き合いだ。

 あの2006年の戦いにおいて、ワームは全て倒されたわけではない。

 ワームを擁した隕石はあの事件から小型とはいえ散発的に落ちている。そして2007年に解散したZECTは――

 

 あの『矢』といい、犬塚翼という男には何かがある。

 ピリピリと産毛が逆立つような感覚。

 ガタックゼクターを掴み警戒する加賀美を他所に階段につながるドアのついた塔屋から震え上がったような声がした。

 

「空気邪悪度……87%、こ、これが()()……ッ! 汚い……あぁ汚いっ!」

 

 塔屋の上に真紅のロングコートの人が一人。

 赤い口紅を塗った女のようなその姿から出ている声は神経質で甲高い男の声であった。片手には測定器じみた黒い機械を持っている。

 

 

 この街だ。少しだけ下を見たけれどもかなり車が走っていることから排気ガスの量は確かに尋常ではないだろうが、それにしてもその震えようは常軌を逸していた。

 真紅のロングコートについては――触れないでおく。

 世の中にはいろいろな人がいる。やたら偉そうな妹第一な男、調和を重視する男、自由と女を愛する男、やたら頂点に立ちたがるイギリス貴族の末裔、地獄の兄弟。

 

 数年前散々っぱら見てきたお陰で何も感じない。極端な綺麗好きが一人くらい居たっておかしくはない。

 

――ん? 待てよ? 今この男渋谷、渋谷って言ったのか?

 

 

 加賀美はまだ知らない。

 この先常軌を逸した未来が――待っていることを。

 

*1
狭山刑事のこと




 
Q:世界観どうなってるの?
A:ドンブラサイドとカブトサイドは全く違う世界線。
 それを証拠にドンブラのドン1話ではるかが迷い込んだ渋谷は綺麗なのですが、カブトの方はワームとの戦いから10年以上経ってもろくすっぽ復興されていないらしいことがジオウのEP37で加賀美の口から語られています。



 次回『02:消毒男』
 天の道を往き、総てを司る!
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