Fate/Psyentific Index   作:潮井イタチ

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気楽にお読みください。


序 章 科学史を描く者  Scientific_caster.

 ――例えば、蛇口とコンロと冷蔵庫と電子レンジが、全て同時に故障する確率について。

 

「カップラーメンも作れないとか、もう明日からどうしろってんだよおー……」

 

 両手を顔に当てさめざめと泣く上条に対し、隣を歩くシスターは久々の外食にルンルンである。

 

 事態の深刻さをまるで認識していない能天気。

 彼女の喜ぶ姿に明日から始まる苦難の現実を教えて水を差さないのは、「この子の笑顔を守りたい」とか「あの子が笑えない世界なんか許せないっ」だとかのいつものやつではなく、この状況に際して少女が何の役に立たないことを確信する冷静な戦力分析が故であった。

 

 極度の機械オンチにして科学オンチ。

 これで存外にたくましいところもあるので、例えばこれが無人島のサバイバルであるのなら逆に女神の如く崇め奉る未来もあったのかもしれない。

 

 が、生憎ここは原始的、なんて言葉とは程遠い科学の街――学園都市。

 最先端科学技術を研究・開発し、総人口二三〇万人の内、八割が学生にして()()()()である完全独立教育研究機関。

 

 いかに彼女――インデックスが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、禁書目録を司るシスターであろうと、そんなものは何の役にも立たず。

 同時に、どこにでもいる高校生――上条当麻が有する幻想殺し(イマジンブレイカー)()()()()()()()()()()()()()も、機械の故障なんてありふれた事象には全くの無力なのであった。

 

 上条の心境としてはここらで叙情的表現の一つとして物寂しい雰囲気や寒々しい風の一つでも吹かせたいところなのだが、生憎と街は普段に増して賑わいを見せている。

 

「――科学史フェア、か」

 

 ぽつりと呟く。

 まるでその言葉に反応したかのように、夜の街を彩るイルミネーションが、一斉に点灯された。

 

 銀髪の少女が隣でわぁっと興奮した声をあげる。

 無論、ここは学園都市。ただのLED電飾の点滅などでは済まされない。

 

 宙を行く飛行船から投影されるプロジェクションマッピング?

 無数のドローンが、三次元的な編隊を組んで描くホログラム?

 なるほど、確かに。使われている技術はこの街の外でも同様に使われているそれだろう。

 しかし数世代技術が進んだこの街では精度が違う。

 

 街並みに映像が投影される。

 二人が歩くアスファルトの道路は古い外国の街の石畳に。

 コンクリートのビルの群れはレンガ造りの高くの伸びる城壁に。

 この街の外で行われているような、平面物に光を当てただけの子供騙しとは比べ物にならない本物さながら。

 

 投影映像が早送り。穏やかな女性の声のナレーションと共に、古代の街は一気に中世、近世、近代、現代。綺羅びやかに輝いていく街並み。人類科学の発展を称えながら、投影映像が派手派手しく街並みを彩っていく。

 

 学生たちが声を沸かせる。隣のシスターが目を輝かせる。

 いかに朴念仁の上条当麻と言えど、こうもされれば流石に落ち込んだ雰囲気も回復しだす。

 

 もはや明日のことなど何も考えない半ば自棄の心境で、久しぶりに豪勢に行こっかなー! などと、無理やりに気持ちを持ち上げた直後であった。

 

「っと」

 

 道に敷かれていたコードに足を引っ掛け、つんのめる。

 投影映像によって距離感が分かりづらくなっていたことも災いしたのだろう。上条は強かに壁へ右手を打ち付けてしまう。

 

「とうま、大丈夫?」

「ああ、これぐらい全然平気――」

 

 右手に()()()()()()が出来てしまっているが、毎度の無茶に比べればこの程度、どうということはない。

 不安定な姿勢から地面に腰を下ろし、再度立ち上がろうとする上条。

 

 結果、彼の足に絡まっていたコードが張り詰め――緩む。

 ぶつん、と遠くで何かがすっぽ抜ける嫌な音。

 

 ――投影された映像がいよいよ最高潮というところで全て中断され、街は夜闇に染め上げられた。

 

 水を差すとはすなわちこのこと。

 じめっ……とした湿気のある視線が、シスターのそれ含め一斉に上条へと突き刺さる。

 

「とーおーまー……!」

「いやおかしいだろ! なんでこんな大規模なイベントの大事な電線その辺に放り出してんだよーもー! これ絶対主催側の過失じゃねえかよおー!」

 

 暗闇の中、鯉口を切るが如く、ガブガブと虚空を噛んで牙を鳴らすシスターの(アギト)

 そのまま例によって例のパターンに移行しようとした、その時。

 

 どこか――否、上条のすぐそばで、放電音が舞い散った。

 

 振り返る。

 光の途切れた黒い空間。

 上条の背後に、いつの間にか少女が立っていた。

 

 わずかに金色が混じった銀髪の少女。インデックスよりやや高い程度の身長で、纏っているのは半袖ブラウスと青のスカート、加えて男物のネクタイ。服装自体はありふれた学生のそれ。染めているとは思えない自然な髪色は、何かしらの『開発』の賜物か。

 

 だが、その表情は人間味の無い完全な無表情で――どこか、非生物的な雰囲気があった。

 

 見覚えがある、と上条は直感する。

 この類似はなんだろう。二万人のクローン少女の妹達(シスターズ)? 御使落し(エンゼルフォール)によって堕ちてきた大天使ミーシャ=クロイツェフ? それとも、あるいは――。

 

 スッ、と少女が手を掲げる。

 思わず身構えそうになった上条当麻の前で、少女の手が光を放ち、そして。

 

 掌から溢れ出した虹色の輝きが――投影映像を再開させた。

 

「な……っ」

 

 上条同様、どよめく群衆。

 電源の切れた機材は未だ復活していない。しかし少女から放たれる穏やかに爆発する色彩が、途切れてしまった映像の全てを再現していく。

 

 水を差された人々がまた、活気を取り戻していく。古代、中世、近世、近代、現代。もう一度描写される最高潮。いいや、それすら超えて、学園都市も未だ至らぬ、遥か先の煌めく未来予想図が街並みを上書いていく。

 本来は予定されていなかったパフォーマンスに、人々が歓声を上げる。群衆から溢れる歓喜の感情。

 

「――――」

 

 その中心で、ついさっきまで無表情だった少女は、小さく、不器用に――しかし確かに、心からの微笑みを浮かべていた。

 

 映像終了。

 街は元に戻り、静寂。

 一拍を置いて響いた銀髪のシスターの拍手は、示し合わせるでもなく全体へと伝播していった。

 

「つーかヤベえよ、こんな規模の光学操作できるってどこの学校だよ!」「確実に大能力(レベル4)はあるよね、常盤台?」「いやあの制服見たことあるぜ、確か――」

 

 雑談に興じる人々。慌てたように主催側が次のイベントのアナウンスをし、群衆は街の先へと散っていく。

 

 残された上条とインデックス、そして少女。

 しきりに頭を下げる上条と、興奮して称賛するシスターに、少女は困ったような苦笑いを浮かべている。

 

 ふと、一通りはしゃいで落ち着いた様子のインデックスが、上条の右手を見て言った。

 

「あれ? とうま、さっきのアザは?」

「アザ?」

 

 上条は自身の手の甲を見る。

 そこには何も無く、ただ古傷だけが刻まれた肌が残るのみ。

 

(暗かったし、見間違いか……?)

 

 そんな風に結論づけて、上条は右手を下ろす――今にして思えば、この時点で違和感を覚えるべきだったのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかして彼らは気づかない。些細な疑問は脇へと追いやって、あっという間に仲良くなった様子のインデックスと共に、上条は少女に自己紹介をする。

 

「俺は上条当麻。で、こっちのシスターがインデックス。お前は?」

「――――。ええ、と」

 

 それまで滑らかに会話していたはずの少女は、当然に返せるはずのその疑問に、しかし困ったように眉根を寄せた。

 

「すいません――()()()()()()()()。自分のことが、さっきから何も」

「……なん、だって?」

「でも、私がどう呼ばれるべきかということだけは、知識にあります」

 

 唐突に明かされた、他人事ではない言葉にたじろぐ二人。

 しかし銀髪の少女は困ったように、しかし二人を安心させようとする不器用な笑みを浮かべながら言った。

 

「キャスター。サーヴァント・キャスター。ただ、科学の発展だけを想ってこの街にやってきた――()()()()()()です」




キャスター
・真名:████████
・属性:秩序・中庸
・保有スキル:光学操作 A 啓示 EX 概念改良 EX █████ C
・クラススキル:陣地作成 EX 道具作成 EX ██████ EX

・ステータス
 筋力 E 耐久 E 敏捷 E 魔力 A 幸運 D 宝具 EX

宝具「███████████」
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