Fate/Psyentific Index   作:潮井イタチ

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第四章 幻想砲兵 for_romantic_stars.

「おお! この時代には飛行船などないだろうと思っていたのだが。なあルイコ、あれは乗れるのだろうか?」

「やー、そういうサービスがあるって聞いた覚えはないですけど。あと、『外』じゃこういう飛行船はまず無いと思いますよ?」

「ふぅん。やはり時代は飛行機だろうか。気球などもう何度事故ったか分からんからな。そっちはどこで乗れる?」

「航空系は二三学区まで行かないと。それにあそこ、一般学生は立ち入り禁止ですし」

「むう」

 

 などと子供っぽく頬を膨らませながら、足の長いフライトスーツの銀髪美女は空を見上げている。学園都市の上空を行く、日々のニュースを告げる飛行船を。

 

 ――悪い人じゃなさそうなんだけどなあ。

 そう思いつつも、二人きりで街を歩く佐天は、完全に警戒を緩めることはできない。

 

「っていうか、アーチャーさん、もしかしてその服でパイロットでも何でも無いんですか?」

「この辺は民衆の総意だろうな。完全に的外れというわけでもないだろうが、私の生きていた時代にこんな服はない」

「ははあ。時代考証よりイメージ重視と」

 

 まあそんな感じだ、と適当にうなずくアーチャーを前に、うーんと頭を悩ませつつ、佐天は携帯で検索を繰り返す。

 

「アメリア・イアハートとかそれっぽいと思ったんだけどなあ」

「女性初の大西洋単独横断飛行者か。どちらかと言えばライダーだろう彼女は。……まあ、それを言ったら私自身もアーチャーよりはライダーだろうと思わなくはないが」

「えーと、なら、これ! ブランシャール夫人! 初の女性気球操縦士!」

「そもそも原典だと私は女性ではないぞ。コレに関しては前回のアーチャーと複合した結果だろう。霊核は私のものだが、霊基の大半はその女神によるものだ。――とはいえ元より幻霊級、不完全に召喚された神霊と複合してようやくまともなサーヴァント一騎分と言ったところだが」

 

 意味のよくわからないセリフに佐天は首を傾げる。だが、アーチャーとしても理解ができるように言ってはいなさそうだ。

 そういうわけで最初の一言以外を聞き流して、佐天は再度頭をひねる。

 

「男性もアリとなると今度は逆に範囲が広すぎて絞り込めない……! ……ライト兄弟!」

「違うぞ。複数人複合なのはまあそうかもだろうが」

「レオナルド・ダ・ヴィンチ!」

「オーニソプターか。ロマンがあるよな、あれ。ダ・ヴィンチはアーチャーにはならんだろうけども」

「……イカロス!」

「流石に無理があるだろうよそれは」

 

 後半から大分適当になっていた。

 当てずっぽうに言っていく佐天へ律儀に反応を返すアーチャーはいかにも人の良いおねえさんだが、しかし忘れてはならないし、忘れてもいない。

 

 佐天涙子は、先ほど――このアーチャーに、拉致されたばかりだということを。

 

 いや、拉致というのは少し言い過ぎか。

 二人きりで話がしたいというアーチャーが、それを渋った自分と集まってきた初春・黒子・御坂たちを敬遠し、佐天の体を抱えてその場から逃げ出したというだけ。

 

 とはいえ、瞬間移動(テレポート)風紀委員(ジャッジメント)・白井黒子と、学園都市第三位の超電磁砲(レールガン)・御坂美琴のタッグを相手にして。

 逃げ出した()()、逃げおおせてみせた()()、というのも――少し、言い過ぎなような気はするが。

 

「で、私の真名当てもいいが、聖杯戦争については理解できただろうか、ルイコ」

「えっと、古今東西全偉人ぶっちぎりバトルですよね? 七組のバトロワで、勝ち残った一組は何でも願いが叶う、っていう」

「うん、まあ、だいたいそんな感じだろう。で、願いについて何かあるだろうか。実際問題何でも、というわけではないが……理論値としてはそうだな。――『この街の全能力を束ねた際に可能な全事象』、ぐらいをイメージしておけばいいだろう。当然、あらゆる前提を無視した単純な足し算の話だ」

「……いやー、あたし、興味がないわけじゃないですけど、そういうのはちょっと」

 

 正直、もう懲りてるっていうか。

 なんて、かつての、『能力のレベルを上げる簡単に引き上げる音声ファイル』――幻想御手(レベルアッパー)事件を思い出しながら、佐天は言った。

 

「うん――ならばいいだろう。正直な話、そこで何を押してでも叶えたい願いがある、というのならどうしようもなかった。私には令呪に対抗する対魔力等の手段も無いからな」

「? えっと、それだと、アーチャーさんの方も特に願い事が無いっぽく聞こえるんですけど」

「そうだ。私に願いは無い。私は未来ある若人を守るためにこの街に来たのだ」

 

 怖じ気も恥ずかし気も無く、アーチャーは堂々たる様で言い切った。

 正義、なんて言葉で言うのは簡単だけれど、実際それを行うのがどれだけ難しいことか、佐天はよくわかっている。

 

「当然、君のこともだ、ルイコ。マスターだろうが何だろうが、巻き込む気は無い。亡者の闘争には亡者がケリをつけるとするさ。ご都合の良いことに私の単独行動スキルはEXランクだ。宝具の最大出力使用とまではいかんが、マスター不在だろうと大して問題はない」

「……え、じゃあ何であたし拉致られたんですか?」

「トラブルメーカーだろう君への警告だよ。これ以上首を突っ込むな、と言っているのだ」

 

 うぐ、と佐天はしかめっ面で後ずさる。これまでの数々の実績と自覚がある分、真っ向からそう言い切られてしまうと何も言えない。

 

「でも、なら……あたしだけじゃなくて、御坂さんたちにも言えばよかったじゃないですか」

「力ある人間に説明すれば、話が大きくなり過ぎるだろうからな――この聖杯戦争は、()()()()()()()()()()()()()()()。この街の法則で決着をつけることも、理解ができないと切断処理することもできない。実際、この聖杯戦争というあまりにもオカルト的な事象について、君も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう?」

「…………」

 

 ……確かに。

 かつて幻想御手(レベルアッパー)事件の果てに生まれ、御坂美琴が対峙したという幻想猛獣(AIMバースト)

 アレとアーチャーが同様のものであるというのなら、確かにそれで説明できてしまうように――思える。

 

 姿形も何もかも違うが、幻想猛獣(AIMバースト)幻想御手(レベルアッパー)使用者の『劣等感や欠落感を反映したAIMの怪物』であるというのならば、今ここにいるアーチャーも、『偉人への想像や空想を反映したAIMの怪人』であると――どうして言えない理屈がある?

 

 願いを叶える願望の器、聖杯にしても。先ほどアーチャーが言っていた通り、この街の全能力を結集させれば、それこそできないことなんてほとんど無い。

 

 世界のあらゆる脅威を跳ね返すことも。

 未知のあらゆる物質を創り出すことも。

 電子のあらゆる領域を操作することも。

 次元のあらゆる極点を手にすることも。

 人間のあらゆる心理を掌握することも。

 

 何もかもができてしまうこの街の超能力に――できないことなど、逆に何が在る?

 

「そして同様に、この聖杯には『あちら側の理屈』でも説明がついてしまう。私も詳しくは無いが、むしろ本来はそちらが本領だろうからな。最悪、言葉通りの戦争になりかねん。それは絶対に避ける。君を『代表者』として選びはしたが、私は本来、この街全ての学生の輝きに惹かれて召喚されたサーヴァントなのだから」

 

 その決意は、あまりにも当然かつ、前提として宿り過ぎていた。

 だから、彼女の意志を否定したいというわけでは全くないのに、佐天は思わず慌てて、何か反論材料を探してしまう。

 

「いや、でも。ここの学生、アーチャーさんがそこまで言うほどじゃ……だいたいみんな治安悪いし、そもそも、あたしが『代表者』ってのも、それこそ、超能力者(レベル5)な御坂さんとかの方が」

「視点の違いだ。私にとっては、超能力者(レベル5)というのはただの『結果』にしか見えない。例えば確かに、宇宙飛行士は弛まぬ努力を積んだ人類の中のエリートなのかもしれないが、彼らだけでは宇宙には翔べんだろう?」

 

 揺るぎも惑いもせずに、世界の果てまで射抜くような、真っ直ぐな瞳でアーチャーは言う。

 

「礎、道、薪、燃料、部品。己がそうであることを人は嘆くだろうが、違う。遥かな星に手を伸ばすのではない。そのための踏み台になるのでもない。遥かへと己が信じる星を投じるために、人間は『ここ』にいるのだ、ルイコ。未来へと歩む君たちは、ただそうあるだけで世界の希望に他ならない」

 

 人の可能性を信じ切った、今どき子供でも謳わないような人間讃歌。

 光り輝く星があるならば、むしろアーチャーこそがそうだろう。

 人々が掲げるべき星。遥かに届けと投じる希望。

 

 白井黒子や御坂美琴、あるいは、初春飾利とは、何ていうかそう、()()()()()()()

 なるほど、これは……確かに。

 ――おとぎ話の、英雄だ。

 

 息を呑む佐天。アーチャーはそんな彼女を前に、どこか遠くを眺めて、つぶやく。

 

「――来るか」

「え?」

 

 直後の出来事だった。

 

 それはまるで噴火のように。

 アーチャーの遥か視線の先で、黄金の炎が爆ぜた。

 

 爆轟の光景に音が追いつくのは数秒遅く。

 暴風。顔を覆い、足を食い縛ってなお、吹き飛ばされそうになる風圧。セーラー服の裾とスカートがバサバサとはためき、アーチャーのフライトスーツが翻る。

 

 そして、爆ぜる衝撃に騎乗し、彼方より飛翔するものが一つ。

 破滅色の軌跡を描く、金色の流星。

 しかしてそれは、常人のスケールでは全くそう観察できないだけで、飛翔ではなく跳躍だった。

 

 黄金の怪物が、跳んできている。

 一キロ以上も遥か先から。

 ただの一足跳びに。

 ――ここまで。

 

「っ――」

「逃げろ」

 

 片腕を横に広げ、掌を後ろに向けて、アーチャーは言う。

 

「今からここは、君がいていい世界ではなくなるだろう。立ち去れ、ルイコ」

 

 それは――そうだ。

 佐天にできることはない。これから始まるのは、人類史に名を残した超人たちの戦いだ。

 どんなに鈍い人間でも理解できる不可視の圧力。これまで危ない目には何度か遭ってきた佐天だが、今回のこれは質が異常だ。

 

 だけど。

 

「……何だ?」

 

 足を震わせ、首筋に汗を垂らしながら。

 

「その……敵は、あたしを狙ってくるかもしれないって、言ってたじゃないですか」

 

 残念ながら、住む世界の違う、見ず知らずのお人好しが助けてくれるからって。

 全て押し付けて何もなかった風にいられるほど。

 佐天涙子は、能天気ではいられないのだ。

 

「どうせ狙われるんだったら、アーチャーさんと一緒に一緒にいた方が……。それにあたし、かけっこには自信あるし、援護とかは無理でも、囮ぐらい、には……」

「――――。ふむ」

 

 銀髪の美女は目を丸くして、顎を撫でながら佐天を見やる。

 

「なら協力してくれ。まずはここに隠れてもらえるだろうか」

「っ、はい……!」

 

 どこからか取り出されたドラム缶のような物体。背の高いアーチャーに抱えられつつ、その中に佐天は入っていく。

 

「で、その、この後どうするんですか?」

「うむ。続いてこれを身に着けてくれ」

 

 手渡されるバックパックのようなもの。指示通りに、リュックサックかランドセルのごとくそれを背負う。

 

「次にこれを持ち上げる」

 

 金属の管ごと、ひょいと軽く持ち上げられる感覚。

 バランスを崩しそうになり、わわ、と慌てて側面を抑えて体勢を維持した。

 

「そして次に少し斜めにする」

「おっとっと」

 

 言われ、自分が入っているそれを傾けられる。

 ちら、と上方を見ると、管の中から青い空が覗いていた。

 

「えっと、それで?」

「撃つ」

「はい?」

 

 どこか遠く――あるいは佐天のすぐそばで、火薬の炸裂音が響いて。

 

「はぃいいいいいいやぁああああああああ!?!?」

 

 青空の遥か彼方へと、佐天の体は超高速で射出された。

 昭和アニメの如くきらーん☆と星になる佐天を見ながら、大砲を携えたアーチャーは満足気に頷いて。

 

「流石にギリシャの神霊。人間を天に投げ飛ばすのはお手の物か」

 

 落下場所は計算し、パラシュートも渡しておいた。サーヴァントに撃ち落とされでもしない限りは、まず問題ないだろう。

 アーチャーはくるりと反対を振り向きつつ、一人呟く。

 

「そも、援護というのなら、その言葉以上のものはないだろうさ、マスター――守るべき者にあのように言われて、奮い立たぬ英雄がいるものか」

 

 彼女の数メートル先で、黄金の流星が落着する。

 爆ぜる衝撃、舞い散る土砂。悍ましいほどの暴力の気配に晒されながら、アーチャーは腕を組んで対峙する。

 

「████ォオオ……」

 

 黄金の全身鎧を纏った狂戦士――であった。

 

 まるっきり悪趣味な、贅を凝らした純金の装甲。

 ギラギラと輝くその武装に刻まれているのは、栄華や繁栄ではなく、死と戦争の象徴。

 

 呪いの金塊。盗掘されたピラミッドの財宝、あるいは北欧の川底に眠る黄金。

 およそ『財宝』という言葉に宿る不吉のイメージを、この狂戦士は一身に凝縮して放射している。

 

「ッ、██████████――――!!!」

 

 正気を完全に失った瞳から溢れる憎悪と怨嗟。

 その嘆きに着火するかのごとく、掲げる両手に爆炎が篭もる。

 一つの手には憤怒の炎。もう一つの手には審判の焔。それぞれ属性の異なる、二種の魔炎。

 

 その狂戦士――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を前に、アーチャーはなおも不敵に笑う。

 

「いいだろう、来いよバーサーカー。火力勝負といこうじゃないか。我々が誇る()()()()の一撃を見せてやる」

 

 アーチャーの周囲に出現する大砲の群れ。

 装填された火薬の量は、空を黒く染めてなお余りある。

 

 号砲はここに。

 かくして、爆炎と硝煙を爆ぜ散らす二人の英雄は、たった今衝突を開始した。




アーチャー
・真名:█████████://█████
・属性:混沌・善
・保有スキル:瞬間移動(テレポート) B 千里眼 A 射撃(砲) A- 騎乗 C 航海 EX
・クラススキル:対魔力 E 単独行動 EX 女神の神核 D

・ステータス
 筋力 D 耐久 C 敏捷 D++ 魔力 C 幸運 A 宝具 B

宝具「██████」


バーサーカー
・真名:███████████://█████
・属性:秩序・狂
・保有スキル:量子変速(シンクロトロン) A 黄金律 A 無辜の怪物 A 大量生産 B 皇帝特権 -
・クラススキル:狂化 B

・ステータス
 筋力 C 耐久 C 敏捷 C 魔力 B 幸運 A 宝具 A++

宝具「██████████」
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