次で一区切り付くと思います
──────ラムダが突発的な戦闘に入った頃。
私は、ゴッホちゃんに抱えられてラムダ達の元へ向かっていた。
「ゴッホちゃん、なんでさっきアレを…………あの、化け物を察知できたの? それも、カルデアより早く。それに、なんで宝具を使えなかったの?」
『うん、それには私も気になっていた。何故なんだい?』
ずっと気になっていた疑問がある。
ゴッホちゃんがこの特異点で発揮する謎の直感だ。さっきも、あの化け物をカルデアより早く察知していた。
…………きっと、この特異点においてゴッホちゃんには何か重要な意味がある。
そう思い、彼女に疑問をぶつける。
「…………詳しい理屈は解りません」
「…………そう」
返ってきたのは、ある意味で期待外れの返事。しかし。
「…………でも、何故か胸が騒めくのです。まるで、あの化け物と惹かれあっているよう。…………きっと、わたしはあの化け物と──────同じものなのです。故に、アレの動きがわかるのでしょう。──────そして、それ故にわたしの宝具は全てアレに利を齎してしまうのです。直感的にそう感じ、宝具の使用を躊躇いました」
続く言葉に度肝を抜かれる。
「…………それって」
嫌な予感が走る。
「…………ええ。この事件にはきっと…………邪神が関わっています。わたしを作った、花の邪神が」
花の邪神。
いつかの夢で、虚数空間を掌握し、現実世界へと侵食しようとしたモノ。
彼女達フォーリナーの中でも、フォーリナーの神化…………つまり、邪神の尖兵を作ることに長けている邪神。
ゴッホちゃんがニンフのクリュティエと画家のゴッホのつぎはぎなのも、その方が彼らにとって都合が良いから、だったはず。
だけど。
『ちょっと待って。邪神は確か、現実で干渉出来ないから虚数空間に干渉しようとしたって、私はレポートで見たよ?』
そう。
邪神達は私達とは別の宇宙? にいるらしく、物理的手段で干渉は出来ない、らしい。故に、実数空間ではない虚数空間を足掛かりにしようとしてたはず、なのだが。
「はい。そのはず、なのですが…………………………胸に感じるこの感覚はどうしても、わたしなのです…………」
「…………………………」
その言葉に、どうしようもなく不安を覚える。
私を抱くこの温もりが、消えてしまいそうな不安を。
「…………………………とりあえず、急ごう」
でも、その不安を口に出せず、代わりにそれを先延ばす言葉を口にする。
「…………はい」
『そうだね、ラムダ達の様子も気になるし、急ぐに越したことはない』
お互い無言になり、里を駆ける。
やがて、ラムダの姿が見えた。
「おーい、大丈夫ー⁉︎」
視界に入ったラムダに声を掛ける。見ると、側には綾瀬さんが倒れている。
「綾瀬さん⁉︎一体何が⁉︎」
ゴッホちゃんから降りる。
…………降りた時、ゴッホちゃんに小さく囁かれる。
「…………怪しい気配がします」
「…………わかった」
軽く頷き、急いで綾瀬さんに駆け寄る。
「遅い。もう終わったわよ」
「終わったって…………」
ラムダの方を向くと同時に、後ろから咳き込む音が聞こえる。
振り返ると、倒れていた綾瀬さんが頭を抑えながら起き上がっていた。
「う…………痛い…………この痛みは一体…………」
「あら、覚えていないの? あんなに激しく襲ってきたのに」
「「襲った?」わたしが?」
ラムダの言葉に私と綾瀬さんの声が重なる。
「ええ。私のフィールドに誘い込んだのにむしろ動きが良くなっていて驚いたのだけど?」
「ラムダのフィールドっていうと…………」
「そう、水中よ」
ラムダと綾瀬さんがやりあっていたのも驚きだが、ラムダの水中でラムダに食い下がっていたとは。
「…………覚えてはいませんが、わたしの家は水中の魔─────所謂河童のようなモノへの対処を主としてますので、水中ならそういうこともあるでしょう」
「そ。…………どうやら、本当に覚えてないようね」
「一体、何があったの? こっちだと聖杯級の魔力がそっちから一瞬観測されたのと、変な化け物に襲われたんだけど。後は…………」
綾瀬さんの花の印について言おうと思った瞬間。
「ちょっと待って。こっちも情報を手に入れたわ」
ラムダに制止される。どうやら、あっちも何か掴んだらしい。
というわけで私達はお互いの情報を交換することにした。
『…………なるほどね。つまりこの里は、最初からこのヤツ──────植物型の幻想種の腹の中だったわけだ。ラムダの情報はこっちが死体を観測して得た情報と多くが符合する』
「…………………………そんな、事が」
ラムダとこちらから齎された情報を聞いて、綾瀬さんは何かを考え込むように俯いてしまった。
…………彼女は退魔の家だと言っていた。しかし退魔が続いていたのはこの里の魔のおかげ。ある意味では自分のアイデンティティを否定するような事実なのだろう。
「…………綾瀬さん」
心配になって思わず声が漏れる。
「…………いえ、大丈夫です。ショックは受けましたが、それだけです。続けましょう」
『…………本当に、大丈夫なのかい?』
「はい。どうあろうと退魔の使命は変わりません。魔はただ滅するのみです」
そう語る彼女の声は力強く、暗い影はなかった。
「そう。ならちょっと確認したいのだけど」
そんな彼女を止めるようにラムダの声が割り込む。
「…………なんでしょう」
「あなた、どっちの味方なのかしら?」
「…………わたしは、退魔の家。ならば、貴方達の味方だと思いますが」
「でも、私を襲った。そこははっきりさせておくべきじゃない?」
「…………それは…………そう、ですね…………身に覚えはありませんが…………」
ラムダの言葉に彼女の気勢が弱くなる。
辺りを見回すと濡れていて、ラムダと彼女が戦ったのは事実らしい。
それでも、どうにか彼女を信じたいと思い、助け船を探す。
そこで、伝えようとしたことを思い出す。
「…………そういえば」
「あら、どうしたのかしらマスター」
「…………綾瀬さんの手」
「彼女の手が、どうかしたの?」
「…………里の死体を調べた結果なんだけど、全員身体に大きな花の印があったの。綾瀬さんと似たような花の印が」
『里の死体はきっと、さっきラムダが言っていた養分にされた人達だ。そんな彼らに彼女と同じような印があったということは、あの印は魔の侵食具合を表しているのかもしれない』
「うん。だから綾瀬さん、手の印を見せてもらえるかな」
「…………わかりました。それが証明になるのなら」
そういうと、彼女が手の甲を見せてくる。
『…………ふむ、里にあったものよりずっと小さいね』
彼女の印は死体のものと比べると、随分小さかった。
『確か、ラムダが見つけた資料では数日程度なら問題ない、という話だったよね?』
「ええ」
「なら、彼女が君を襲った原因はこの印の他にあるんじゃないかな? 例えば、一時的に洗脳されていたとかかね』
「洗脳…………………………あの」
何かに気付いたのか、ゴッホちゃんがおずおずと手をあげる。
「ゴッホちゃん? どうしたの?」
「…………もしかして、先程観測された聖杯級の魔力、それが原因じゃないでしょうか…………?」
『ああ。そういえばそれについてもまだわかってなかったね。こちらがその異常な魔力を感じたのは…………恐らくラムダが戦闘を開始する数分ほど前だと思うんだけど、二人とも心当たりはある?』
「私は資料を読んでいただけよ」
「…………わたしは社の中に入ろうと、鍵を開けましたね…………思えば、そこから記憶が…………」
「社の中?」
「はい、怪しい気配がしたので…………鍵を開けて、中を確認しようとしたのですが…………」
そう言われて、社の方を覗いてみる。
「…………………………ああ」
ゴッホちゃんの言葉を思い出す。そこには確かに、怪しい気配が漂っていた。
『怪しい気配? こっちじゃ何も感じないけど…………』
「え?」
ダ・ヴィンチちゃんの言葉に、つい声が漏れる。
『うん。観測を走らせたけどそこには何も無いって結果が出てる』
「そ、そんなはずはありません! 此処には確かに何かがいる気配があります!」
『…………うーん、どうしても観測じゃあ実際の感覚とズレが生じるからなぁ。そこばかりは君達を信じるしかないか。…………ゴッホはどう思う?』
ダ・ヴィンチちゃんがゴッホちゃんにパスを投げる。確かに、この特異点で重要な役割があるだろう彼女なら何かわかるかもしれない。
「…………ラムダ様からの情報などを統合した推測になります。恐らく綾瀬様の想像通り、社の中にはナニカがいます。惹かれ合う感覚的に…………恐らく花の邪神の気配かと」
『…………なるほど。カルデアの観測をも誤魔化す強固な偽装結界か。綾瀬くんの洗脳も、その花の邪神が原因と見ていいのかな?』
「はい、恐らくは。花の邪神の狂気に当てられ、一時的に正気を喪ったのだと思います。ですので、今は大丈夫かと」
『…………ふむ。ところでゴッホ、正体がわかっているのに撤退を打診しないあたり…………戦うつもりなのかい?』
「…………はい。感じる気配は、わたしより弱いもの。綾瀬様の様子を見るに、恐らく次は大丈夫かと」
「どうする、ダ・ヴィンチちゃん?」
『戦力であるサーヴァント二人が抜けてるのは痛いけど…………ゴッホの感覚を信じるのならば、今のままで行くのがベスト、だと私は思うよ。綾瀬くんの状態を見る限り、ここからは悪化していく一方だろうしね』
その言葉に私も覚悟を決める。
「…………わかった。なら、今此処にいるメンバーで行こう。皆はそれで大丈夫?」
「ゴッホは、行けます」
「私も当然、出番の用意は出来てるわ。物足りないもの」
「わたしも、行けます」
『よし。なら綾瀬くんの体調を考慮し、しばらくの休息をとった後作戦を開始する!』
「了解!」
この時私は、全員の頭から抜け落ちているものがあることに気づかなかった。
クトゥルフTRPGではないです