開拓系宇宙人に転生したので太陽系開拓しに行く 作:液体コーラ
宇宙のどこか、とある国。
転生という発想は、その国にもあった。
進みに進んだ科学で、その秘密の一端に指をかけつつも全容の解明には遠く、むしろ一部が科学的に証明されたからこそ以前よりも深く、広くその概念は私の星に蔓延っていた。
……まあつまりどういうことかっていうと宇宙人に転生しました。
2020年代前半、日本でぬくぬくしていた私は残念なことに死亡し、その魂は銀河系すら飛び出して、はるかかなたの「ママド」という巨大星間国家の、すごい金持ちとして転生していた。
そう、すごい金持ち。ここ重要。
ママドは文明が発達していて、人はあまり労働しなくてよくなってはいるが、それでもやはりみんな仕事をしていて、お金を使ってて、そして格差がある。
格差と言っても地球の地域差……具体的には西ヨーロッパとサブサハラみたいなエグい差はなくて、生活水準はほぼ同じなんだけどね。ママド人はみんな同じようなものを食べ、飲んで、余暇をたっぷりもらってのんびり暮らしている。
じゃあ何が違うかと言えば、ママドの格差とはすなわち「デカい開拓設備を持ってるか否か」、もっといえば「星を持ってるかどうか」で決まる。宇宙へと進出してかなりの期間が立ったママドは今、空前の宇宙開拓ブームなのだ。
知的生命体が領土にしていない未開拓地を開拓すれば、その星は自分のものにして良いという狂った法律がある我が国において、開拓設備の有無、質や量の差はまさに身分差として現れている。
法人は次々にいい感じの星の開拓に乗り出し、豊かな個人もまた星々を手に入れた。
我が家もその例にもれなかった。
我が家、その名を「グルス家」は、ママドがまだ単一惑星国家だった時代から、大手企業として存在。国が大きくなるにつれて企業もまた膨張。分野違いとはいえ、開拓設備も相応のものがあり、今や38の居住惑星と800の工業惑星、2028の資源採取用惑星、そして万を超える衛星を保有する大地主……いや星主だ。ウチの星に住んでる人を合計すると30億人くらいになるレベル。
まあママドは民主国家なので、いくら星を持ってると言っても住人には賃貸の主程度の権利しかないんだけど。閑話休題。
重要になるのは、満18歳を迎えた私に、父はついに宇宙を開拓するための船団をプレゼントしてくれたということだ。全長400mくらいの小型宇宙船を35、3kmくらいある中型を10、そして唯一人が乗り込む……というか私が乗る、30kmくらいある大型艦からなる大船団だ。
「……感無量だ」
私は、我が家のある惑星グルス製薬(もっと名前何とかならなかったの?って聞いたら地図に会社の名前が載るから……と、微妙な顔した父が答えてくれた)のプライベート宇宙港に浮かぶマイ船団を眺めながらつぶやいた。
巨大な船団は、私の今いる地上600mほどある高層ビルの上から眺めても一望できないほどの規模。これだけあれば、小さな星系ひとつ開発するのなんてわけないだろう。そう、たとえば太陽系とかね。
……長かった。いやほんとに。
私はずっと、この開拓船団を手に入れることを夢見ていた。
地球に行くため、そして太陽系を開拓するためだ。
私はずっと、地球への望郷の念を捨てられないでいた。
この国は、退屈なんだ。
格差は無いと言ったけど、それは多様性のなさとイコールに近い。
誰も彼も同じようなものを食べて、同じようなもので遊んでいる。
たしか前世では、日本の小学生はみんな同じランドセルを背負って同じ授業を受けてて気味悪い、馴染めない、おかしいとか言ってる人がいたが、その方にはぜひママドに来て欲しい。日本が天国に思えるだろうから。
なにしろ日本ではランドセルが同じと言っても、実はそれぞれ個性がある。メーカーが違う、素材が違う、機能が違う、そしてそれぞれ、許される範囲でデコってたりするわけだ。書道セットとかお絵かきセットも、ドラゴンだったりキラキラだったり種類があったはずだろう。授業だってラクガキしたり寝たり、ノートの取り方も違っただろう。
ママドではそんなものない。その程度の違いもないんだ。
全部全部、同じ。 個性がない。多様性がない。
この開拓ブームだって、何年続いてるんだって話。もう100年以上、誰も彼も開拓開拓……いい加減飽きが来ないのだろうか。来ないんだろうな。
まあ、だからこそ、この巨大な帝国を維持できてるのかもしれないけど……。まったく嫌になる。
ともかく私はずーーーーっと地球に行きたいと思っていて、けれど、親族や法律の妨害によりそれはかなわなかった。
まず、法律面。
ママドでは、民間人が国交のない知的生命体のテリトリーへ渡航する事が厳しく制限されている。
報道目的や学術調査目的なら向かっても良いんだけど、私みたいな観光目的では難しかった。
ましてや移民など問題外だ。我が国では国民の保護のため、非文明国への移民を認めていないのだ。
……ああそう、非文明国!
ひどい言葉だけど、地球の文明度だとママド基準では文明があると認められてないんだよね。
しかも地球人は有史以来ずっとどこかしらで戦争してるせいで、戦争好きな蛮族ってイメージがあって、教科書の記述もほとんどヘイトスピーチみたいになってるほどだから。
それともう一つの要因。親族の妨害。主に父。
私の父は中々、過保護というか……過干渉な人で、私が地球に行きたいというとそりゃあもう騒いだ。
前述のように、ママドにおける地球のイメージはかなり悪い。
地球内で表すなら原始生活を送る人食い部族みたいな印象を持たれてる。
だから父は、娘が法律で渡航制限されてる遠方の人食い部族のところに行きたいと言い出した事にひどく警戒し、私に中々開拓を認めてくれなかった。そりゃあもう認めてくれなかった。小さい頃に一回言っただけのことを何年も何年も引きずりやがってあのクソ親父がよぉ……。
開拓ブームのこのご時世だ、普通、私くらいの家の子は10歳には開拓船を貰って、小さい星とかを秘密基地みたいに改造して遊ぶもんなんだけど、もうそんなのも全然認めてくれなかった。おかげで地球の土すら踏まないうちに子供時代が終わり、もう就職まできてしまった。就職先はウチの製薬会社といろんな意味で仲が良い、ママドの厚生省だ。とても忙しい。むかつく。
そして、そこまでなってようやく、父は開拓船団をくれたのだ。
その年齢で自分の星の一つも持っていないのは恥ずかしかろう、とのこと。
お前のせいやろがい!!
まあでも、くれた船団を見て私は一瞬で許した。
明らかに「普通」の範囲を逸脱した、超豪華船団だったからだ。
よーーーーーーーし!それじゃあ太陽系行くかあ!!!
いやあ、なにしろ地球に行けるような高級品、さすがに私の稼ぎじゃ買えなかったからね。文字通り渡りに船だ! 貰っちゃったらもうこっちの物、一番の障害である父の感情面は突破したといえる。あとは法律面だが、これはもう解決のめどは立ってる。
なにしろ私は官僚だ、ちょっとした渡航許可なんて簡単に下りるだろう。……まあ、そんなもんで済ませる気はないがね。
せっかく転生したんだし、私は地球に盛大に干渉する気でいた。そのための根回しも、既に終わっている。
私はこれまで官僚・そして同族経営大企業の長女としての立場を利用し、あちこちに影響力を高めていた。元々省内にはウチの実家の閥はあったんだけど、派閥のリーダーは私の叔父で、どうにも自由に動けなかったんだが……コツコツとした運動の結果、私は閥の中でもそれなりの地位と、発言力を持つに至っている。だから、こういうこともできちゃうんだ。
今日。ママドは地球への「人道支援」を行う事を決定した。
後進文明への影響を最小限に抑えるべく、支援の内容は医療・医薬品の提供を主として行うものとし、その主導は厚生省及び協力企業、グルス製薬によって行われるものとした。
プロジェクトの全権は厚生省の役人である、
これは小さな決定で、ニュースにもほとんどならなかったけど、それでも、私の人生を掛けたものだった。
さあ、待ってろ太陽系!そして地球人!