開拓系宇宙人に転生したので太陽系開拓しに行く 作:液体コーラ
開拓船団本船、艦長席に腰掛けて、私はぼうっと端末の画面を眺めていた。
……まあ、頑張るとは言ったものの。
別に私のやる事はないんだよね。開拓を自動でやってくれる機械のスイッチをオンにするくらいだ。あとは半日待ってるだけである。退屈だなあ。いつも通り、お昼寝でもしようかしら。
これが地球ならネットやゲームで遊べるんだけど、ママドはそういうコンテンツがあんまり発展してないんだよね。不真面目で不健全だってことで。つまんない国だよほんと。あーあ、早く地球に帰りたい……って。
あ、ネット!そうじゃん、ここ太陽系じゃん!
ママドからは遠すぎて無理でも、この距離なら地球のネットに潜れるはずだ!
「なにしよっかなー。やっぱり動画サイト巡りかな?」
私はワクワク気分で艦長席を離れ、休憩用のソファに身を投げ出すと、とりあえずニパニパ動画へとアクセスを試みた。ふふん、やっぱり動画視聴はこの姿勢だよねぇ。
さて、空間を繋いで……と。
……というか、今、地球は何年くらいなんだろ。
ママドの研究によると、転生者は場合によっては過去やはるか未来に転生することもあるそうで、今の年代が読めないのだ。
教科書の地球の描写を見るに、私が生きてた頃と比べてそんな発展してないみたいだから、そう時代に違いはないはずなんだけど……。ニパニパ動画、無くなってないだろうな?
お、アクセスできた。
表示された動画サイトのページは、私の記憶にあるのと寸分違わない。
ためしに前世の自分のIDでログインすると、普通に入ることができた。
そしてお気に入りに入れた動画を見れば、最後に登録したのは5日前、となっていた。
ああ、これ、私が死んだ日にお気に入りに入れた動画だ。
「……あ~、なるほどねえ」
どうやら私は、地球で死んで、過去に転生したらしかった。
うーん、なんか、運命的だなあ。5日前といえば父が私に船団をくれた日だ。
私が地球に来れなかったのって、もしかして惑星意思とかが介入してたのかな。
同じ惑星上に、同じ魂が同時期に存在するのはまずい、みたいな。
いや、私、その辺の学問興味なくてやってないからよく知らないけど。
でも……とにかく、帰ってこれてよかった。
親の顔より見た動画サイトのキャラクターの顔を見て、私は思ったよりずっと心が落ち着いていた。草ばっかり流れてくるクソ治安のコメント欄も、木っ端みじんにされる本社ビルも、もはやすべてが懐かしい。まさに実家って感じだ。
ようし、じゃあなんか動画見るか。
ボイスドロイドの実況シリーズとか見たいな。
私、あれ大好きだったんだよねぇ――
……ボイド、か。
私は画面上で楽しそうに話すキャラクター達を見る。
なんだろうな。地球に近づいて心が弱ったのかもしれない。
無性に寂しくなってきてしまった。
ここに、ゆかりさんとマキさんみたいな関係の、仲良しの友達が居ればな。
……別にママドにもそんなの、いなかったけどさ。
こう、地球でいろんなもの見て、食べて、すごいね楽しいねって言い合える人。
ママドの事を愚痴ったりできる人。
欲しい。
……よし、作っちまえ。
幸い、この船には附属のアンドロイドがたくさんいる。
所詮附属品だから、固体名なんかないし個性も無いけど、いじれば人間そっくりにすることだってできる。さらに細かく調整すれば、昔好きだった、このボイドそっくりの個性だって持たせられるだろう。
私は決意した。
地球への訪問は、ボイドと一緒にする!
思い立ったが吉日、私はせっせと仕事をしているアンドロイドのうち二人を引き抜き、詳細設定機能を立ち上げた。手元の動画サイトの画像を見ながら、髪色を、髪型を、体型をいじり……性格設定は、ニパニパ動画の動画上での振る舞いを参考にラーニングさせる。
どうだ、いけるか!?
作業を終え、端末から顔を上げると、そこには私の記憶にあるのとすっかり同じ、「ゆかりさん」と「マキさん」が立っていた。
おお……完成だ!
「おはよ。話せる?」
ドキドキしながら声をかけると、二人はイメージ通りの声と口調で応じた。
「話せますよ、サーラ」
「うん、話せるよ。サーラ」
「……っ!」
や……やった!!!!!
私は嬉しくなって、二人にばっと抱き着くのだった。
ゆかりさんは硬いな……いや何がとは言わないけど。もうちょっと体型の設定変えたほうが……いや、やめておこう。
■
あの後、私は二人と動画見たり、ネットゲームをやったりして遊んでいたが、気づけば開拓の条件がクリアされていた。うーん、らくちん!
これでガニメデは、法的にも私の私有地だ。 ははは!
「おめでとうございます、サーラ」
「おめでとう、サーラ」
「ありがとう、二人とも!」
喜ぶ私を、二人は手を叩いて祝福してくれた。うれしい。
この半日のお遊びタイムで、二人の学習もかなり進んできた。
学習元が動画サイトと、元々私の持ってたママド人向けのデータしかないから不安だったけど、もう遊び相手としてみるなら何の不自由もない水準にある。
……しかし、この子たち、日本に連れてったら騒ぎになるかもしれないな。
ようし、連れてってみよう。 え、何、著作権? 知らない子ですね……。
「何か悪い事を考えてますね、サーラ」
ゆかりさんがじとっとこちらを見ている。ふふん、よく気づいたね!
さて、このまま彼女らと遊んでたい気分も少しあるが、開拓終了したので仕事に戻ろう。ボイドたちと秋葉原観光という素敵プランは地球人と交流できるようになった後だ!
データを見ると、既にガニメデは、数百万人は不自由しないだけの水や食料を生産できている。各種金属の採掘・精錬も順調。参考値としてデータをすっぱぬいて並べてる地球の国と比べても、各種生産力は遜色ない水準にある。これは今後もどんどん増えるだろう。他にも、提供する予定の薬品や医療機器の製造設備も整ってきているし、あとは輸送用のコンテナとか輸送船とかも徐々に完成しつつあるようだ。これで地球への支援物資には困らないはずだ。
うむ、素晴らしい。じゃあ次はどうしようかな?
開拓システムのチュートリアルによると、次は惑星の設備を高度化させると良いらしいが……んー、まあとりあえず従っておくか。
私はたまった資源を使って宇宙港とワープポータルを建造するよう、ぽちぽちとボタンを押して指示を出した。
場所はガニメデの地球側――ガニメデは自転と公転が同期していて、月と同じようにいつも同じ方を見ている――だ。チュートリアルの案内によれば、普通の資源採掘ユニットとか工場と違って、重要施設であるポータルや港は、あんまり他の惑星から見えるところに作るべきじゃないらしいけど……。地球側にある方が、いざ交流が始まった後、地球人からも見やすいだろうからね。
観測衛星とかからこちらを見て、「あ、あれが港かあ~」ってなると喜んでもらえるんじゃないかなあ。
ま、しばらくは施設そのものをステルス状態にしておくんだけどね。
完成予定時刻は……お、明日の朝にはできるみたいだ。うむうむ。
順調順調!
――と、私が上機嫌になっていると、突然ビービーと警告音が鳴った。
な、何事!?
「あわ、あわわ」
「落ち着いてください。どうやら、地球人のものらしい無人探査船が近づいているみたいですよ」
慌てる私に、ゆかりさんはそう伝えてくれた。
あ、そうなの……驚かせやがって! てっきり父が殴り込んできたのかと思った。仮にも厚生省から発表された国家プロジェクトで動いてる以上、そう無茶はできないと思うけど、あの人ならやりかねない。怖い。
私はどきどきする心臓を抑えながら、ゆかりさんに愚痴った。
「びっくりした……なんでこんな警告が?」
「まあ、現状防衛力皆無の星に、国交のない星の船が近づいてますからね。
警告の一つもするでしょう」
「え~? でも地球の探査船だよ。何ができるわけでもないじゃん」
「甘く見ないでください。
あれが地球人の船を装った敵対文明のものだったらどうするんです」
「ムム」
私は思わず黙り込んでしまった。
確かにそういう事もあるかもしれない。ママドは敵の多い国だ。
地球とやり取りしたくて太陽系にまで来る国はないかもしれないが、それでもママドへ嫌がらせしたいがゆえに、うちの国と敵対的な文明国がここまでやってきて、地球の探査船を改造、私を抹殺しようとする、なんてこともあるかもしれない。可能性としては低いと思うし、そう簡単にやられる気はないけど、怖いは怖い。
しかしゆかりさんめ、主人を論破するとはなんて生意気な子っ……!
だが彼女は、そこで真面目そうな表情を崩すと、にやりと顔をゆがめた。
「ま、そんなことはありえないでしょうけどね。
こんなド辺境の蛮地にわざわざ来るなんて、サーラくらいですよ」
「なんだとこのやろう」
冗談だったのかよ! ほんとに生意気だなこの紫!
こんな性格だったっけ、ゆかりさんって。おかしいな、サンプルにした動画がまずかったかな。
そういえばさっきゲームしてても、やたら煽って来たぞこの子。
「まあまあ。それより、あの船はどうするの?
あと3日くらいでこちらに到着するみたいだけど」
マキさんが、ぷりぷりする私を宥めつつ尋ねてきた。
3日かあ、遠いなあ。……って、ん?
「え、到着?
ガニメデに着陸するの?」
「さあ? でも、角度的には軌道上に入ってくるつもりみたいだよ」
「そっか……じゃ、探査衛星かなあ」
地球の科学では木星に来るまで何年もかかるはずだ。
そんな昔に、ガニメデに着陸できるような機械は造れなかったはずだし、だとすればあれは軌道上を回って写真撮る程度の船だと思うんだけど。
……あー、そうか。写真撮る船か。
あれ、使えるんじゃないか?
「ね、あの探査船、どこの国の奴?」
「調べますね。……アメリカ合衆国だそうです。
お察しの通り、木星の衛星観測用の船みたいですね」
「ふうん、じゃ、都合良いじゃん!」
「……サーラ、何するつもり?」
マキさんが疑り深くこちらを見る。
ふふん、決まっておろう。
「あいつ捕まえて、ガニメデの姿を見せるんだよ」
これは驚かせてくれたお礼、というわけじゃない。
本当にいいタイミングだったんだ。
私は地球へ連絡する方法として、NASAのPCとか職員さんの携帯をハッキングしていろんな情報を送りつける方法を考えていたのだけれど、それだと、他の国からの攻撃とかと区別つきにくいだろうという問題があった。
でも、こんな宇宙の果てで探査船をとっ捕まえてどうこうできるのは、それはもう明らかに宇宙人の仕業だとすぐ伝わるはずだ。
そして相手が私たち宇宙からの来訪者の存在を認知した頃、改めてハッキングしてメッセージを送る。これがいい。
「よし、そうと決まれば文面を考えよう」
私は携帯端末を手にして、メールを作り始めた。
だが、内容は相当注意しないとマズいだろう。
なにしろいきなり太陽系内に拠点ができてるんだからね。
吉と出るか凶と出るか。最悪、交渉失敗して交流できなくなることも考えられる。
嫌だぞそんなの。とにかく日本には絶対行きたいんだ私は!
私は腕まくりをして、気合を入れて外交文書を書き始めるのだった。
なお、途中でもう頭煮詰まりまくった結果、かなりラフな表現に落ち着いた模様。
■
その日。
さらに衝撃的なことに、連れられた先で写された画像には、宇宙船らしき巨船の大船団と、氷の塊であったはずのガニメデ表層に乱立する建造物群が写されていたのである。
これだけで混乱の極地にあった彼等にとどめを刺したのは、それらを為した犯人と思われるエイリアンから、合衆国に向けてコンタクトがあった事だった。NASAとその職員の持つすべての端末に向けて、まったく同時刻に贈られてきたメッセージの内容はこうだ。
「親愛なる地球人類へ
私はママド国よりの使節、サーラ・グルスと申します。
貴国探査船に対する狼藉、まずはお詫び申し上げます。
私は地球と交流すべくやってきました。
現在、我々はガニメデに居を構えており、この星を拠点として地球と交流を行う予定です。
交流の内容としては、貿易や文化交流などを検討しています。
こちらの提供する主な物品としては、高度な医薬品などがございます。
現時点で、ガニメデには複数の生産拠点、資源の採掘場が設けられており、
近く居住可能な環境に改造を行います。
また、我が国の法に則り、ガニメデはママドの領土として組み込まれました。
太陽系内での勝手な振る舞いを、どうぞご容赦ください。この領土については、
地球人類の発達に伴い、諸権利を委譲する用意がこちらにはあります。
なお、貴星の住民感情を考え、アステロイドベルトより内側には、地球人類の求めなしに拠点を構えないことをここに約束します。
ママドとの交流を望むのであれば、返答を願います。
このメッセージは現在、アメリカ合衆国に限定し通信されています。船団及びガニメデの各施設はステルス機能により隠され、観測は貴国探査船を通してのみ可能な状態です。12時間以内に返答がない場合、他の五大国および日本・ドイツへと同様の連絡を行います。その他ご質問等あれば、いつでもご連絡ください」
……現在も拿捕されたままの探査船からは、定期的に、ガニメデ表層で動き回る重機や、飛び回る宇宙船の画像が送られ続けている。この画像が、そして併せて送られてきたメッセージが事実なら、今やあの星はエイリアンの拠点となり、相当な開発が進んでいる事が予想された。
「では、これは本当にエイリアンからのメッセージという事か」
「その通りです、大統領閣下」
ホワイトハウスの執務室で大統領と向き合うのは、NASAの局長だった。彼の傍には数人の科学者が付き添い、これまでの数分間、「このメッセージが偽物ではなく、探査船から送られてきた画像、つまりガニメデに現れた宇宙船や建造物もまた本物である」という事を、大統領へと熱心にプレゼンしていたのである。
「これはチャンスです、閣下。ママドは我が国に最初にコンタクトを図りました。今ならば、宇宙文明と地球の交流の窓口として、我が国が主導権を握れます」
「……君は随分楽観的なんだな。連中は我々の探査船を拿捕したのだぞ? それに見たまえ、どうやらエイリアンは、既に太陽系に拠点を設けたようだ。アステロイドベルトより内側に侵入しないというが、つまり太陽系の外側半分以上は自分たちのものだとでも言いたげじゃないか」
不安そうに言う大統領をなだめるように、長官は言った。
「閣下、それは仕方のない事です。我々と彼等の差は、ネイティブアメリカンとコンキスタドールなどという生易しいものではありません。原始人と現代人ほども差があります。
今の地球人類では、あの探査船を使う以外の方法ではガニメデを観測することすら困難です。だからこそ、彼等は我々とコンタクトを取るために、探査船を拿捕せざるを得なかったのでしょう。ガニメデの拠点にしても、どうせ今の地球人類では、その表面を眺めるのが精いっぱい。むしろ開発してくれるなら、それは歓迎すべき事です」
いやむしろ、彼等が太陽系内にいる事はメリットになるのだと長官は続ける。
「確かに彼等は高圧的で一方的に見えます。しかし、ご覧ください。彼等は地球と交流するために来たと、そう言っているのです。
わざわざ地球人類と交わるため、太陽系を開発し、拠点を設けた。この事実だけを見ても、フィクションのような悲劇的な展開はあり得ません」
熱っぽく語る長官に、しかし大統領はどこまでも悲観的だった。
大統領には、長官がなぜ、エイリアンの送って来た文面をすべて鵜呑みにしているのかが分からなかった。
地球人との交流のために来た? ならばなぜ、今の今まで連絡の一つもよこさなかったのだ。これほどの規模の開発、一年や二年でできるとはとても思えない。何年もの間潜伏していた意味は? 侵略の準備を終えるまで黙っていたという事ではないのか?
大統領の頭からはどうしても、中国との「貿易拠点」として、香港やマカオを切り取った国々の姿がちらついてならなかった。
「そうだと良いがね……彼等の提供する医薬品とやらが、英国が中国に与えたアヘンのようなものでないことを願うよ。……ああ、いや、仮にそうだとしても、我々は答えないわけにはいかないのだったね。なにしろ原始人と現代人なんだから」
深いため息とともに、大統領は十字を切った。大統領は慎重な男だった。彼は輝かしい成功はしてこなかった。ただどっしりと構え、失敗をほとんどせず、小さな成功を積み上げてこの地位を手に入れた。合衆国大統領の地位についた事、それこそが彼唯一のトロフィーだった。
「閣下……そう悲観することはありません。これはチャンスです。
偉大なアメリカをさらに偉大に、その栄光を永遠のものとする、チャンスなのです」
「君は共和党支持者のようだな、長官」
どこか前大統領を彷彿とさせる長官の演説に、大統領はそう吐き捨てた。
つまらない男だと、彼は自分をそう理解している。大きな決断などできない人間なのだ。
栄光ある合衆国の未来は敗亡の惨禍となるか、それとも宇宙文明を受け容れ、大きな飛躍となるか? 超大国の指導者として、これからは今までとは違い大きな決断もしなければなと心構えはしていたが、まさかこれほどの決断を迫られるとは、彼は思ってもいなかった。
「まあいい。それで、連絡が来てからどのくらいの時間が経っているのだね?」
「8時間になります、閣下」
「な、なに! ではもう残り4時間しかないではないか。
急いで国務長官に返事を書かせ……ああいい、私がここで書く。細かい部分は君たちが修正してくれ、いいな」
そう言うと、大統領は近場の書類をひっくり返し、裏地にさらさらと返答を書きなぐり始めたのであった。
ボイスロイドっぽい子たちが登場しましたが、この子たちはボイスロイドじゃないし、それに、彼女たちがメインの小説でもないので、ボイスロイドタグをつけるのは遠慮しています。
検索妨害になっちゃうので……。
あくまで作中世界の地球における「ボイスロイド相当の存在」が出てるだけだと認識頂ければ。マッキーマウスとか民自党とかそういうの。