開拓系宇宙人に転生したので太陽系開拓しに行く 作:液体コーラ
私は、大統領に案内されるままホワイトハウスに入っていく。
てっきり警備の軍人さんもついてくると思ったのだけど、彼等は外に残って、警戒を続ける様子だった。
とすると、彼等は私達から要人を守るための兵ではなくて、私たち含めて、要人を守るための警備という事だったのだろう。
いやあ、勘違いしちゃったな。てっきり警戒されてるものとばかり思ってた。
大統領が直接出迎えた事といい、アメリカの皆さんは私たちを信頼してくれているのかもしれない。だとしたら、うん、良いことだ。
私はちょっと嬉しくなりながら、周りを見渡した。
ホワイトハウスの中は初めて見るけど……わぁ、豪華……きれい。
前世のニュースでは、こんなところまでは見られなかった――いや、見られたのかもしれないけれど、興味がなくて見てなかったからな。
でも、今の私にしてみれば、ママドでは見かけない、珍しくて美しい建築様式が見られる貴重な機会だ。できればじっくり見ていたいけど……ま、後回しかな。
見ようとすればステルスで侵入すればいつでもゆっくり見れるわけだし?
私は建築や内装への興味を振り払って、案内されるがままに奥へ進んだ。
そのうちに、一つの部屋に到着する。そこにはなにやらでっかい長机が置かれていた。貴族が食事するときの机みたい。その机の片方にはアメリカの国旗が、もう片方には、なんと事前に伝えたママドの国旗がかけられていた。 おお、すごい。なんか……会談って感じだ。メディアとか入れるのかな? 見た感じカメラは無いけど。
その後、私はママド側席の一番奥に、ゆかりさんとマキさんの二人は私の次に順に座ってもらう。なお、ゆかりさんはどうやら上座に座りたかったらしく、前を歩いてたマキさんに割り込んで私の隣に座った。やめてよみっともない!
さて、そんなママド側陣営3人に比べて、アメリカ側は立派なものだ。
私の正面、上座に座る大統領からずらりと机の端っこまで、果ては立ち見の人まで居る。
多分、みんな偉い人なんだろうな。ここで私が発狂して彼等を皆殺しにすれば、きっと合衆国は脳震盪を起こすに違いないと思った。いやしないけど。
「それでは改めて、ようこそ合衆国へ。
詳細な内容については後日詰めるとして、まずこの場では大まかな交流の形を作ってしまいたいのだが
それでかまわないかね?」
全員が着席した後、大統領がそう切り出した。どうやら会談の主導権を握りたい様子。
まあ私はその方が楽なので、のっかるとしよう。
「ええ、かまいませんよ。
双方の立場は明らかにしておかなければいけません」
「ありがとう。まず我々合衆国は、ママドと友好的かつ長期的な関係を築きたいと考えている」
「なるほど。 それは大統領や政権が変わっても同じスタンスを取り続ける、と信頼してよろしいのでしょうか」
アメリカは、まあ言わずもがなというか、民主国家だ。権力者は日本ほどじゃないがころころ変わる。それこそ政権が変われば意見が180度変わる事もあるかもしれない。……というか、まあこれは私が悪いんだけど、連絡して1日で来ちゃったから、現政権内ですら意思統一ができてないと思うんだよね。 もしかしてやたら人が多いのも、ずっと大統領が前面に立ってるのも、そういうことかもしれない。細かいこと決めれなかったから、全員連れてきてボスの大統領が全部話すよ、みたいな?
ともあれ、これだけの人の前で大統領が確約してくれるのなら、それはきっと信頼に足るだろう。だって確約したんだから。彼らはその威信にかけて、反対勢力を強引に抑えてでも約束を守るはずだ。逆に明言を避けるようなら……。アメリカとのお付き合いはちょっと考えたほうが良いかもしれない。頼りすぎるのは危ないだろう。
というわけで、今後の身の振り方を決めるためにズバリ質問したのだが、一瞬間を置いて、大統領は力強く頷いてくれた。
「……ああ、もちろんだとも。
仮に政権が変わったとしても、この場で合衆国として結んだ約束が反故にされる事はない。どうか安心してほしい」
「そうですか。ええ、安心しました。
では今度は、ママド側のスタンスをお示ししましょう」
こほんと咳払いをして、説明を始める。
詳しくは会ってから話そうという事で、なにも伝えてないからね。
まずは大前提から話さないといけないだろう。
「まず、私はママド本国より、地球人類との交流を主目的として派遣されました。
本国からはそのためのあらゆる権限を委任されています。
ガニメデは、地球との貿易、ないし支援を行うための拠点として開発されました。
今後は、ママド本国とではなく、私の所有するママド領ガニメデと地球の間でやり取りが行われることになります」
派遣目的は、ほんとは人道支援なんだけど、急に「あなたたちの星、可愛そうだから助けてあげるよ!」って言われても気分良くないだろうから濁して伝える。
だが、それ以外は基本的に隠し事をせず伝えた。
私の今後の活動も考えると、本国の威光はぜひ欲しかったので、国が取引に関係してこないことは黙っておこうとも思ったが……まあ、嘘をついてもしょうがない。あとで困るのは私だしね。
ただ、案の定、アメリカの人達はがっかりしてしまったのか、互いに目配せをしたり、ため息のような声も漏れ聞こえてきた。
これはまずいな。 私は慌てて付け加える。
「ご安心ください。先日もご覧になったことと思いますが、今この瞬間も、ガニメデは急速に開発されています。
入植後二日の現時点でさえも、地球の列強国に比肩する生産力を有していますし、これは今後も伸び続けることでしょう。1週間もあれば地球のすべての工業力を超えるのに十分です。
地球への支援能力、また貿易相手としての魅力は十二分に備えているものと自負しています」
「二日、ですと?」
私がそう言うと、大統領が言葉をこぼした。
ああ、もっと前から開発してると思ってたのかな?
「はい。正確には40時間程度でしょうか。
現時点ではガニメデのみですが太陽系の木星より外縁についても同様の開発をすることになるかと。
ああ、事前にお伝えしましたが、段階を踏んで権限の譲渡の用意はあるのでご安心を」
「そ、そうですか……」
どこか引き攣った笑みを浮かべる大統領。やっぱり勝手に持ってったのまずかったかな? なんとなくだが、場の雰囲気もギクシャクしてしまったように感じる。 ふむ、そうだな……こういうときは、小粋なジョークの一つでも挟むとしよう。
「ええ。私はコルテスやピサロとは違いますので」
……。
…………。
なんだろう、誰も何も言わなくなってしまった。
場の雰囲気はギクシャクどころの話ではなく、完全に死んでいる。
えっ、えっ、あれ? なんで?
テンパった私はゆかりさんとマキさんに助けを求めて目配せするが、彼女たちはそれをスルーした。
このクソAI共!!
その凍った空気の中、大統領に替わって、割と上座に座っているおじさんが声を上げた。
「失礼。私は国務長官のエドワードと申します。
サーラ殿、いくつか質問をよろしいでしょうか?」
国務長官! ありがとう空気を換えてくれて!
私は喜んで頷いた。
「かまいませんよ、いくつでもどうぞ」
「ありがとうございます。 まず、今後の交流の形について決めるにあたって
ママド本国における、ガニメデとあなたの立ち位置をお伺いしたい」
「立ち位置、ですか?」
「ええ。貴国では、今回のあなたのケースのように
他の惑星と交流するための役職などが存在するという理解でよろしいでしょうか?」
ん? あー、そうか。要するに、ママド内での『対地球担当』はどんな地位なのかってこと?
そうかそうか、そりゃ、そこは気になるよねー。バチバチのコネ入省とはいえ、一応これでも役人やってたので、そのへんはなんとなーくわかる。
相手がどこの誰の命令で動く何者で、どの程度の裁量を持っているのか。それが分からないと、話がしにくいんだよね。例えば文民の外交官相手に軍事知識が前提とされる匂わせをしても通じないし、逆に軍人相手に外交的な話をしてもわかんないだろう。そして、仮にその人が分かってくれたところで、大した権限を持ってないのなら意味がないわけで。
だから、交渉のために、私はどこのどいつでどんな権限を持ってるかを知りたがるのは当然……なのだけど。
そういう意味では、私の立場は、なんだろうな。なんて伝えるべきだろう。わかんね。
プロジェクトの提案者で、資源も全部持ち出しの9割あしながおじさんなわけだけど、一応所属は厚生省で、グルス製薬で、今回も国の命令を根拠にして動いてるので、国とかうちの会社から追加命令が来る可能性もゼロじゃない。国が一度出した命令を撤回とか変更するなんて、そうはないんだけど……。
私が返答に困っていると、見かねたようにエドワード氏は付け足した。
「不躾な質問、大変申し訳ない。
ただ、我々としても、新たに隣人となるガニメデがどういった存在であるのか、それをよく知っておきたいのです」
「……いいえ。もっともな疑問かと。
まず結論から申し上げれば、そうした特別な役職は存在していません。
我が国は通常、準文明国以下の水準の文明とは……。失敬。
恒星間航行を行えない文明とは交流を行いませんので。
今回の交流は、我が国始まって以来の特例となります。
また、ガニメデにおける意思決定は、基本的には私の一存で行われますが、これは国家より、ガニメデを私的に所有する事が認められているためです。
本国からの干渉は現時点では考え難く、この状況は長く続くことが強く推定されます」
「……なるほど、特例と仰いましたが、それはどういった理由でしょうか。
太陽系や、地球、あるいは人類に何か求めるものでも?
合衆国が協力できるのであれば、ぜひ協力させていただきたい」
私がなるべく現状を分かってもらえるよう答えると、エドワード氏はにこやかに協力の意志を伝えてきた。
……多分何かしらの思惑は大いにあるのだろうけど、悪くない申し出だ。
そも、私がアメリカに接触したのも、私を、そしてママドの文明を巧いこと扱えるのは彼等だと期待しての事。
私は喜んで頷いた。
「協力の申し出、感謝いたします。合衆国の影響力は、地球国家の中で最も大きなものと期待しています。ご協力いただけるのであればこれほど心強いものはありません」
そこで言葉を切って、私はなるべく大げさに、地球人にも感情が良く伝わるように、それこそ演劇の如く、身振り手振りを付けて主張した。
さあ……これからが本番だぞ。
「そして私が地球に求めるものは、地球の文化資源です。我が国にはありえない、そして宇宙でも類まれな豊かで多様な文化が地球にはあります。引き換えに我々は、あなたがたに、今以上の繁栄を強く約束します」
言い切って、私はポケットより、紙媒体のカタログを取り出した。
グルス製薬の商品カタログ(英訳)である。
「具体的には、我々の持つ薬学によって。
我々はこれを無償提供、あるいは物品と交換することを想定しています。
我が国の薬学は宇宙屈指の水準。ぜひ、ご利用ください」
グルス製薬は製薬会社だ。だが、なにも医薬品だけを作るわけじゃない。
さあ刮目せよ! 宇宙文明のお出ましだい!