開拓系宇宙人に転生したので太陽系開拓しに行く   作:液体コーラ

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6話 やらかし

私が差し出したカタログには、グルス製薬の主要な商品が、使うとどうなるかの実例と共に記されている。

急ぎなので会社のカタログをそのまま持ってきたから、所謂『医薬品』がほとんど載ってないし、扱いをミスると地球が100回滅ぶようなものも載ってたりするので、役に立つかどうかといわれるとちょっと微妙かもしれないが……それでも地球人には十分な衝撃を与えられるはずだ。

 

私は、エドワード氏にカタログを読むよう促して、ドキドキしながら反応を待った。

 

カタログを受け取った当初、張り付けたような笑みを浮かべていたエドワード氏。だが、段々と驚いたような表情に変わっていく。 よかった、響いたようだ。

 

「これは……その、この効果は、本当に?」

 

「ええ。お疑いでしたら、いくつか実例をお見せしましょうか?」

 

私はポッケから一つの小瓶を取り出した。

ふふん、こんなこともあろうかと、だ。

今回持ってきた薬は何種類もあるが、そのどれもがインパクト重視のびっくりどっきり系の薬だ。実用性はあまりないかもしれないけど、ともかく我々の技術力は伝わるはずだ。

 

具体的には、主に時間や概念、因果律などに干渉する代物ばかりなので、地球の科学では模倣はおろか何が起きているかの観測すら難しいに違いない。なにしろこうした薬品は、今の地球では及びもつかないほどに発展した、ママド基準の『文明国』でも、下位の国ならどうしようもないほどのものなのだ。

 

「それは?」

 

「カタログの7ページ目に記されている薬、概念固定薬です。

 地球の皆様に分かりやすいよう換言すれば、コーティング剤が近いでしょうか」

 

「コーティング剤、ですか」

 

私は頷いて、コーヒーカップか、ともかく何でも壊れやすいものを何個かくれと頼んだ。

カップを持ってきてもらうまでの間に、私は薬の説明をする。

 

「この世の存在は、いくつかの要素によって成り立ちます。

 地球の皆様が観測している物質というものは、存在の全部でなく、一側面にすぎません。

 そうした側面の一つが、概念になります。概念が破壊されれば、物質を破壊したのと同様、それは破壊されます。一方で存在の概念を固定すれば、物質を補強したのと同様に、その存在を保護することに繋がります。そしてその保護は物質を固めるより、ずっと強い」

 

「はあ……」

 

「要するに……ふむ、こちら、お借りしますね」

 

やっぱりよくわかってもらえなかったようだ。

みんな、なんだか困惑した顔をしている。説明が悪かったのか、内容が難解過ぎたのか……私はもう少し説明を続けることにした。

 

ちょうど届けられたコーヒーカップのうち1つを手に取って、その場の皆に示して見せる。

 

「これはカップですね?」

 

皆、うんと頷いてくれた。

 

「はい。ではこれは?」

 

私はカップを叩き割った。

 

「……そうなってしまっては、カップとはいえないだろう」

 

「そう。()()()()()()です。 概念固定薬は、皆様が『カップ』と認識する、その認識を、カップであるという概念を保護します。

 したがって、それがカップでなくなる事はない……風化もせず、破壊もされる事はなくなるのです」

 

これで伝わったかな、とエドワード氏の顔を見る。……あっだめだ、ピンと来てない!

しょうがない、まあ、いい。理解してもらう必要はない。というか私も実のところよくわかってないし!

 

「では、実際にお見せしましょう、この薬の効果を」

 

ともかく実践あるのみだ! 私は壊してないカップに、薬を振りかけた。

 

「これにより、このカップに付随する、『カップである』という概念が固定されました。

 よって、概念を破壊できる手法以外では、物理的なあらゆる衝撃を受けたとしても

 ()()()()()()()()ことはなくなりました」

 

お試しください、と言ってエドワード氏にカップを渡す。

氏は少し考えて、軍人かSPだろうか、黒スーツの屈強な男を外から一人呼びつけて、カップを壊すよう命じた。

 

彼は一言断ってから、カップを地面にたたきつけたり、上に乗ってジャンプしたりするが

まあそんなもんじゃ壊れるわけがない。

とはいえこの程度の事――人力で壊せない程度に強化することは、地球の科学でも可能だろうから、そう驚きにはなるまい。

 

ので。

 

「さて。ついでに、他の薬の効果、その実例もお見せしましょう」

 

言って、私は念力で男からカップを取り上げた。

 

「なっ!?」

 

「これは、超能力を発現させる薬で得た能力です。

 我々ママド人は比較的虚弱な種族ですが、このように、生まれ持った身体能力を拡張することで強大な力を得ています」

 

カップを押しつぶすつもりで思い切り力を籠める。

超能力はモノによっては概念やら時間にも影響を及ぼせるのだが、残念ながら私の力は物理一辺倒なので、カップはびくともしない。

ミキミキ音はするし、なんか圧縮で発熱したのか煙も出てるが、そこまでだ。

 

さて、でも念力でいくら力を加えても見た目じゃわかんないので、もっと見てわかる風に示さなくてはね。

外はあっちだな?

 

よいしょ!

 

私はあたりをつけて、壁をキックでぶっ壊した。

うーん……脆い。ママドでは建築基準法違反間違いなしだな。

 

「な!? 何をなさっているのですか!」

 

「後で直します」

 

すたすたと庭に出ると、今もホワイトハウス上空に停まってる船に命令を出す。

 

小惑星破壊用砲台を起動。

同時に、大気圏内での使用、また居住空間での使用で必要になる安全装置をオンにする。この安全装置がないと大変なことになっちゃうからね。このへんで生きてるの私だけになっちゃう。

 

で、あとは、ステルスの対象からこの場にいる人達だけを外して……。

念力で、カップを庭の中央くらいに浮かせて……準備終わり!

 

ステルスを外したことで、上空に浮かぶバカでかい宇宙船が見えるようになった皆様がすごい騒いでいるが、まあ落ち着いて欲しい。本番はこれからなんだ。

 

「では皆様、あちらをご覧ください」

 

私が空中に固定しているカップを手で示すと、それを合図にはるか上空よりレーザーが降ってきた。

大型トラックなら数台まとめて飲み込めるくらいの太さのそれは、しかしステルスによってこの場にいる人にしか見えていない。さらに各種機能により、放射熱や爆発などもない、とても安全でクリーンなレーザーだ。ぱっと見LEDライトにも見える。

だが、その威力はかなりのもの。時間にしては1秒に満たないごく短い照射だったにも関わらず、庭はひどい有様だった。

地面はドロドロに溶け煮え立ち、さながら活火山の如く。しかし、それほどのレーザーを受けてもなお、事前に補強していたカップは無傷である。

 

「このように概念に干渉しない攻撃であれば、レーザーであろうが、核攻撃だろうが破壊不能になります。

 今の地球人類では、どのような手法を用いても破壊出来ないでしょう」

 

そう言って、ホワイトハウスの壁の穴からこちらを見る要人たちの顔を見回す。

赤熱する庭の光を浴びる彼等は、熱いはずなのに、その目をかっぴらいて微動だにしていなかった。全員見事に絶句している。

 

……よし、良い感じに無敵感を演出できたみたいだな。

そう、あたかも無敵であるかのようにアピールしたこの薬だが、実はそう強いものじゃない。

所詮は民間向け、それか下位の文明への輸出用の安物だから、時間改変や現実改変への耐性がまったくないお粗末なものなのだ。

文明国でも中堅以上なら、こんな程度の概念防御は簡単に突破できてしまうだろうし、いわんやこれがママドなら、クラスに一人はいる現実改変能力者がえいやってしたら壊せてしまう。

 

だが、その辺は言わぬが花である。どうせ非文明国人(地球人)じゃ壊せないし、せいぜい最強無敵だと勘違いしてもらおう。

 

さて、最後にこの大惨事を直してアピールタイムは終わりだ。ふふ、当然こんな破壊を行うんだから、原状回復のめどは立ってるのだよ。

 

さて、ポッケにしまってあった因果逆転スプレーは……と。あれ?

 

「……あっ」

 

やべ、忘れたかも。私はサッと顔が青ざめていくのを感じた。

や……やばいやばいやばい! 

このまま終わらせたら、ただホワイトハウスを無茶苦茶にして帰ったやつになる!

 

うわあああ!交渉決裂しちゃう!まずい!暴力で脅すタイプの宇宙人だと思われる! ぷるぷる、ぼくわるい宇宙人じゃないよう!!

 

 

「……ゆかりさん(小声)」

 

「えっ、アッハイ。なんですか」

 

「因果か時間を戻せる道具、ある?(小声)」

 

「は?」

 

ゆかりさんは、どうやら状況を理解したらしく、過去一の呆れ顔をする。

お前煽るか呆れるしか表情ないんか! いや、悪いの私だけど!頼むよゆかりさん!

 

「……事故が起きた時のために、一応ありますよ」

 

「じゃ、あと頼んだ……!(小声)」

 

「はいはい」

 

ゆかりさんはため息を一つつくと、要人たちと、それからホワイトハウスと庭が破壊されてなんだなんだと集まってきた軍人さんたちの中、バッと腕を広げて注目を集めた後、一人の軍人さんを指さした。 えっ、何?

 

指さされた彼も、周りの人もなんだかわからず困惑しているようだった。

……って、ん? あ、あれジョージ君じゃん。

 

「あなた。ちょっとこっちに来てください」

 

「はっ? 自分ですか」

 

「早く!」

 

「……行け」

 

ジョージ君は困惑し、上官らしきおじさんに目配せをした後、彼の指示でこちらへと向かってきた。

ゆかりさんは、彼に赤色のペイントボールのようなものを押し付ける。

……え、あれって。

 

「これは……?」

 

「気を付けてくださいね。手の中で割ると、あなた、とてもひどい目に遭いますから」

 

「!?」

 

うちの会社で出してた薬の一つ……逆再生ボールだ。割れやすい袋に、時間を巻き戻す薬が入ってるボールで、投げつけて使う。一つ割ると大体1時間戻るので、この破壊は無かったことにするのは可能だが……あれには最悪な性質が一つある。

 

生物にも効く事と、時間をジャンプさせるのでなくて、『逆再生する』性質があることだ。

 

要するに、人が浴びると1時間の間に出した汗とか唾液とか、もしトイレに行ってたらそこで出したものも含めて体に一瞬で戻ってくるうえ、戻った感覚も襲ってくるのだ。なんでそんな旧式の道具持ってるの……。

 

私は道具の効果に巻き込まれないように後ずさった。

 

「そのボールをぶつけると、その場所の時間が1時間戻されます。

 さあ、あなたの手で、この惨状を修復してください」

 

「は、いや、どういう」

 

「地球人の手でも、我々と変わらない効果が出る、というデモンストレーションです。できますね? 両国の友好のためですよ。投げれば使えます。できますね?」

 

「……わかりました」

 

ジョージ君は、最初嫌がっていた様子だが、ゆかりさんの目線に耐え切れなくなったのか、ついにボールを投げた。

 

そして炸裂、無事に庭は修復された。

青々とした美しい芝が戻る。

 

軍人さんたちが一斉にどよめいた。まあ、ビジュアルすごいもんね。

……なんだろうなあ。 なーんか、嫌な予感がするんだよな。

マキさんに目線をやると、彼女は肩をすくめた。

あ、やっぱマキさんも思う? なんかおかしいよね。

 

「よろしい。では次は、あの穴です」

 

そして、渦中のゆかりさんは、次にホワイトハウスの壁を指さし、ジョージ君はひとつ頷いてボールを……

 

ん? あ、ちょ、待ッ

 

 

「逃げて!」

 

 

パァン!

と。私の声もむなしく、ボールはホワイトハウスの壁で炸裂、時間を1時間撒き戻した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

や……やってくれたなこの野郎!!!!

 

「なにやってんだ!おい!」

 

「え、いや、自分は」

 

「君じゃない!」

 

ジョージ君が何か言いかけるが、違う違う!

悪いのそいつ!そのクソ紫!

なにやり切った顔してんだ!!

 

「や、体感してもらいたいじゃないですか。薬を。

 ほら、若返りができてうれしかったんじゃないですか、おじいさんばかりだし」

 

「ふざけろ! あの悲鳴が聞こえねーのか!」

 

修復された壁の内側からは、おっそろしい阿鼻叫喚の声が聞こえている。

でしょうよ、そりゃそうなるでしょうよ!

 

その後、私たちは急いで建物の中に入り、苦しむ要人たちに苦痛を取り払うお薬を強制使用、ひたすら謝り倒して許してもらうのだった。

コノヤローマジ憶えてろクソ紫……!

 

ちなみに、流れでジョージ君もついてきて謝ってた。

 

いや君もほんとごめん……。

 

私は大統領に、もう一度頭を下げて尋ねた。

 

「……あの、お詫びは本当に?」

 

「ええ、もちろん結構ですとも。むしろ地球で最初に時間を旅するなど、冥利に尽きるというものですよ」

 

ははは、と快活に笑う大統領。すげえや……あの拷問同然の体験をしてこの言葉、なかなかできるものじゃないよ。

だって今も顔青ざめてるもんこの人。

 

「ところで……先ほどの時間を戻す薬ですが、あれの製造量はどの程度になりますでしょうか?」

 

「……いささか旧式のものですので、ガニメデでは製造しておりませんが、現時点で1日に億単位の製造が可能かと。

 ご所望ですか? でしたらもっと良いものがありますが」

 

「ああ……いえ、ただの興味でして、はは」

 

大統領は力なく笑った。まあそうよね。あんなもんいっぱい作れるとか聞いたら嫌な気持ちになるさ。

 

「ご安心を。あれは今後、地球に持ち込むつもりはございませんので」

 

「……ええ、安心しましたよ」

 

大統領は、あんまり安心してなさそうな声で答えるのだった。

ごめぇん……。




書き溜めないなりました。
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