迷子の迷子のオオカミちゃ〜ん♪
○月O日 天候不明
昨日俺を保護してくれた騎士さん――本人曰くアビスの使徒らしい――は俺の言葉が分かるみたいだった。
だから俺が穴の奥、『層岩巨淵』に本当に迷い込んでしまったのだということを理解してくれた。
好奇心で入り込んで迷ったという部分には呆れていたが、外に出る手段が突然使えなくなったことを伝えると途端に真剣な雰囲気で相談に乗ってくれた。
本人的に、自分もそういった事態に陥ったことがあるから他人事と思えないのだそうだ。
道は分からないが、出口を探しに協力しようと言ってくれたし、多分良い人なんだろうなと思う。
とりあえず今日は寝床を適当に改造して休んだ、まずは寝るところからだよね。
追伸
時折使徒さんが何か別のモノを見ている気がする、なんでだろ?
○月P日 天候不明
地下生活二日目、今日から使徒さんと一緒に出口を目指す。
使徒さん曰く、この層岩巨淵は非常に広いし地図とかも無いから迷いやすい、だから今居る場所を中心にして大雑把な物でも良いから地図を作った方が良いらしい…のだが、そもそも地図を作れるような物が無くて作れていなかったそうだ。
そこで、とりあえず俺の今使っている日記帳に簡易的な地図を描くことにした。
一番良いのは使徒さんに書いてもらうことなんだけど、どうにも当の本人がやりたがらない。
書けないとかじゃなくて、触れると燃えてしまうかもしれないらしい。
正直なんのこっちゃとでも言いたくなるけど、使徒さんが理由を言いたくないみたいだから今はそれで良しとしておこう。
これから協力していくわけだしな、仲良くしていこう。
追伸
使徒さんが戦っているところを見た、どうも使徒さんは腕から元素の剣を生やすらしい。
しかも使っている元素が炎元素と来た、道理で日記帳に触れたがらないわけだ、うっかり燃やすってそういうことか。
時折火の玉みたいなのも撃ってるけど、基本的に剣を二刀を使用した近接戦がメイン……というか強いなあの人。
○月Q日 天候不明
三日目、今日も出口を目指す。
所々に人工的に作られたであろう建物みたいなのが見える、なんか工業用の建物っぽい、近くにエレベーターらしきものが有ったからそれを使って登ってみる。
そうして分かったのは、この層岩巨淵と呼ばれる地下世界は俺の思っていた倍くらいの広さがあるということ、そして思っていた以上に危険な場所であるということだ。
上登ってみてびっくりしたよね、だって上から見渡しても先が見えないし終わりも見えない、地上の光が届かないからってのもあるだろうけどとにかく暗い、ここにずっと居たら時間の感覚が無くなりそうだ。
いやまぁ、この身体夜目も効くから見えないわけじゃないんだけどね…なんで暗いって言ったんだろ俺?
それになんだあの紫色の泥みたいなの、触ってみたら身体からガクッて感じで何かが抜けていったんだけど。
あと…なんだ? なんかキノコみたいな魔物と青いデカ茸があった…なにあれ同族? 斬っていいの?
追伸
紫色の泥の所に鎧を着たナニカが居た、使徒さんよりも見た目騎士っぽいけどどっかというとリビングデッドみたいな感じがするから使徒さんの方が騎士っぽいと思います、まる。
○月S日 天候不明
四日目、今日も今日とて出口を目指す。
なんか使徒さんそっくりの奴と会った、身体の形状とかが全部同じでびっくりした。
違うのは使徒さんが使っているのは剣っぽい炎元素の剣で、そっくりの方は剣っていうよりビームサーベルみたいなのを使っていて、元素は青色だったから多分水。
使徒さんのこと裏切り者がどうたら言ってたから、使徒さんが元々居た所のやつなのかな? 審判やら何やら色々と言ってたけど。
あ、因みにそっくりさんは使徒さんに手も足も出せずにボコボコにされた挙げ句、バラバラに斬り刻まれてた…いや弱いなおい、あれだけ偉そうなことあーだのこーだの言ってた癖に弱すぎるでしょ。
とか思ってたら無茶苦茶湧いてきた、なんかチミっこいのと使徒さんにそっくりなやつとはまた別の個体…なんか魔法っぽいの撃ってくるやつとか、まぁ色々。
まぁ、全部使徒さんがボッコボコしちゃったんだけど。
手を出さないでほしいって言われたから手出ししなかったけど、あの人本当に強いのな、複数人相手でもまるで相手にならない。
何もかもを燃やし尽くしてた、真っ黒に。
いやぁ…かっこええなぁ…。
追伸
あの後、私が怖くなかったかと聞かれた。
なんでと聞いてみたら、自分が戦う姿を見た者は全員自分を怖がっていたからだそうだ。
使徒さんも周りの目とか気にするんだなぁって思って、なんとなく俺がかっこいいと思ったこの人に卑屈になってほしくないなぁ…なんて思った……だから答えた。
怖くない、寧ろ格好良かった。
何もかもを燃やし尽くすあの炎も、それで作った剣もそれを振るう技術も全部格好良かった。
分かるよ、あの鞭みたいに剣を伸ばして辺り一帯薙ぎ払う技使う時、こっちに気を配ってたよね? 俺に被害が行かない様にしてたよね? 守ろうとしたよね?
だから怖くない、だから格好良いと思う…そう答えてみた。
そしたら使徒さん、なんか呆然とした後に俺の頭を撫でてありがとうと言った。
それ、こっちの台詞なんだけどなぁ。
○月T日 天候不明
五日目、今日も張り切って行こう。
今日は使徒さんが自分のことを話してくれた。
どうも使徒さんは自分が誰でどういう存在なのかがまるで分からないらしい。
気づいたらここにいて、姿も近くにあった装置みたいなのを鏡代わりにして確認して初めて知ったのだそうだ。
暫くすると、自分と同じ姿をしている存在に出会って、そこで自分が『アビス教団』なる組織に属すナニカだってことが分かったらしい。
多分その一番最初に会った同族が昨日裏切り者だなんだの言いながら襲ってきたやつなんだろう、あの時だけ使徒さんはなんだか複雑そうだった。
んで、そうしてそいつに連れられて行動している内に本能的に分かったことが二つ。
一つは戦い方、目の前で戦っていた同族とはまた違った戦い方だけどそれが馴染んだらしい。
そしてもう一つは、ここで行われるであろうことは絶対に阻止しなくちゃいけないってこと。
そうして使徒さんは『アビス教団』の奴等を襲った、何がどうととかは分からなかったけど、とりあえず片端から教団の人員を殺して回ったそうだ。
だから裏切り者なのだそうだ、自分は彼等を仲間と思ったことはなかったけど、それでも彼等にとって自分は仲間だったから…それを先に知っていたならば、多分自分は何もしなかっただろうとも言った。
それを聞いて、俺はそっかとしか答えなかった。
だってこれ、俺が何が言えるようなそれじゃないもの。
裏切り云々については分からない、だって俺は使徒さんのそれを裏切りとは思っていないから。
拾われて一緒に行動しただけ、使徒さんの口振り的にそこまで長いこと行動してないだろうし、そこまで深く絆を深めた訳でもなさそうだ。
だったら仕方がないでしょう、だって記憶も何も無い使徒さんのやりたいことがそれだったんだから、偶然出会えた同族を後ろから斬ってでもやりたいことがそれだったんだから。
だったら仕方がないだろう…別に言いやしないけど、それがこの人のやりたいことだったんだから。
追伸
名前が無いと言われたから、俺が付けることにした。
今の俺にとってこの人は灯だ、迷子の俺を助けてくれて一緒に帰り道を探してくれた、だから俺にとってこの人は灯だ。
だから『灯火』にすることにした、俺にとっての灯りでこの暗闇の中の道標でもあったから。
名前と一緒にその意味も教えてみると笑われた、ありがとうという言葉と一緒に。
だからそれは俺の台詞なんだってば。
主人公
迷子、絶賛迷子の子、タスケテ。
実は暗い場所で且つ危険な場所であるという自覚があるせいでちょっとシリアスになってる、だかららしくないこと凄く言っちゃう。
実は人間だった頃、とある事情で裏切り者は扱いしてきた男子生徒複数人を文字通り殺しかけたことがある。
使徒さん
記憶の無いアビスの使徒、自分がなんなのかは分からないけどそれでもやらなきゃならないことは覚えている。
実は主人公の騎士さん呼びが嬉しかった。
因みに男性。