狼っぽいのになった…タスケテ   作:富竹14号

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注意:主人公がぐっすり寝るだけの話です。


おやすみ

 

 

 夢を見ている気がする…何時もみたいなナーちゃんが居るあの場所じゃなくて、本当の本当にただの夢を見ている気がする。

 

 場所は…多分家だ、制服を着て鞄が側に置いてあるから学校に行こうとしているのかもしれない。

 

 

 身体が俺の意志とは無関係に動き出す、どうやら学校に行く気らしい。

 

 

 部屋の扉を開けて下の階へと降りる、リビングを見ても誰もいない…どうやら今日は誰もいない日らしい。

 

 玄関に行って靴を履いて扉を開ける、眩しい日差しが瞳を擽り、その眩しさに若干目が眩む。

 

 眩んだ瞳を慣らしながら俺は再び歩き出した、スマホを取り出し時計を見てみるとあともう少しで遅刻するような時間帯だった。

 

   

 

 俺は走り出した。

 

 

 

 

 息を切らしながら教室の扉を開けて急いで中に入る、教師はまだ来ていない。

 

 スマホを見てみると定刻ギリギリ、とうやら間に合ったらしい。

 

 

『よぉ彼方! 今日はギリギリだったな!』

 

 

 声を掛けられた、男の声…というか俺の友達の声だ。

 

 名前は……なんだっけかな、思い出せない。

 

 

『お前のせいだろうが『――』、お前が俺の目覚まし持ってったからこんなことになってるんだろうが殴るぞ坊主…!』

 

 独りでに俺の口が動く、ゼェゼェと息をつきながら名前の思い出せない友人を睨みつけて毒を吐く。

 

 どうやら目の前のハゲは俺の目覚まし時計を持っていったらしい……普通に盗みなんだから殴られて然るべきでは?

 

 

『おまっ…! それ言ったら戦争だろうがよぉっ!!?』

『うるせぇ! こちとらお前に持ってかれた目覚ましがないせいで遅刻しかけたんだからそれくらい言ったって許されるわぁっ!!』

 

 

 ハゲも俺も暴言を吐く、言い争いになってそれはその内殴り合いへと発展する……だけどそこに悪意は無い、よくよくある光景だから誰も止めないし止めようともしない、皆笑ってる。

 

 …分からない、何時の光景だったかなこれ…。

 

 分からない、俺は誰と笑って、誰と泣いて、誰と一緒にこの学校生活を送っていたのか…楽しいことがいっぱい有ったはずなのに、ほんの少ししか思い出せない。

 

 ここから先の光景もまた同じ、俺は何を言われたのかどころかどんな風景でどんな光景だったのかすら覚えていない。

 

 なんで覚えてないんだろう…自分でも分かるくらい楽しい思い出のはずなのに……分からない…分からない。

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、彼方はさ、夢とかってないの?』

 

 場面が切り替わる、夕焼け夜空が綺麗な何処か知っているはずの場所、だけど俺には分からない。

 

 俺の目の前に居るのは、綺麗な黒髪を三つ編みにした女の子…女の子だけど俺よりも背が高い……羨ましい。

 

 

『…無いかなぁ、今のところは……もしかしたら一生無いままかもしれない』

 

 

 夢はないのか…そう聞かれて、ちょっとの時間考えてから俺は答えようとした…勝手に口が動いて出来なくなったけど。

 

 さっきと同じだ、驚くことじゃないだろ。

 

 

 それはそれとして…俺は本当にこう答えただろうか? 分からない、こんなにも印象に残りそうな風景の中で夢について聞かれたら一生忘れないと思うんだけど。

 

 

『そっかぁ…無いかぁ〜』

 

 

 女の子は俺の返事を聞いて何処か悲しそうに空を見上げた、それに釣られたのかどうかは知らないけど、気付けば俺も同じように空を見上げていた。

 

 空は夕焼けからもうじき完全に夜へと変わる頃合い、所謂黄昏時…とはちょっと違うのかな? どちらにせよ綺麗な景色であることには変わりない。

 

 この風景を見てると、色んなことがどうでもよくなる…今のこの状況も俺の思い出も過去も未来も全部が全部。

 

 なんで俺が狼になったのか、なんで俺はあんなにも強いのか、なんでミナは俺に懐いたのか、なんで小龍は俺のことを知ってる風な感じなのか。

 

 神とは何か、あの場所の星空が動かないのは何故か、俺は本当は誰なのか…そんなこと全部どうでもいい。

 

 俺はこの風景を…これ等を見るために生まれてきたんだって…そう思ったから、それが今この場に在る俺の全てだから。

 

 だから…正直夢とかそんなのは――

 

 

『どうでもいい』

 

 

 口から言葉が漏れ出た、俺はこの時同じようなことを考えてそれを口に出していたらしい。

 

 

『どうてもいい…かぁ、ハハッ…そっちの方が君らしいね』

 

 そう言って、女の子は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう彼方…良く眠れた?」

 

 

 場面が…いや、視界が切り替わる。

 

 そこは何時もの場所、何時も通りの暗い世界…そして何時通り俺の側から聞こえてくる幼い声。

 

「……ナーちゃん」

「えぇ、貴方のナーちゃんよ」

 

 

 上を見上げるとナーちゃんが居た、俺の頭を笑顔を浮かべて愛おしそうに撫でている。

 

 小さな身体に短い手足、世間一般的に幼女と呼ぶべき容貌なのに纏っている雰囲気は母性溢れる女性のソレ……いや、俺母親居ないから母性がどんなものかは知らないけどね?

 

 それでも、何かそんな気がした。

 

 

「…ナーちゃん」

「なに?」

「……忘れてる気がするんだ…大切な何かを…自分でも分からない何かを」

 

 

 だからなんだろうか、ついつい話してしまう。

 

 先程まで何を見ていたのか、誰と何を話したのかも全部。

 

 ナーちゃんは俺の頭を撫でながら、それを黙って聞いている。

 

 時折相槌を打ちながら、ただただじっと黙って笑顔を崩さずに…それが何故だかどうしようもなく嬉しかった。

 

 

 そうして全部を話し終えた後、とてつもない眠気が俺を襲う。

 

 身体に力が入らない、目元は今にも閉じてしまいそう。

 

 まだ全部話せてないのに、まだ話していたいのに、それなのに俺の身体は起きようとはしてくれない。

 

 

 

 

 …………ナーちゃん……話の途中で悪いけど…………寝てもいい?

 

 

「えぇ、もちろん………おやすみなさい、彼方」

 

 

 

 おやすみ………()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 





主人公

 スピー(-_-)zzz


ナーちゃん

 延々と撫でまくった。
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