アオイとイズル   作:東雲。

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どうしてまだ話が続くんですか?(電話猫)

今日は12時にも投稿しているので、まだの方はそちらからどうぞ。


接続話

 帰りの電車の中で並んで座る二人は、乗ってから降りるまで完全に無言だった。パッと見は行きより仲が悪くなったのかと思われそうなものだが、二人の間で重ねられた手が静かに全てを物語る。

 言葉が無くとも、蒼は自分の右手に乗った左手から、出流は自分の左手で包み込んだ右手から伝わるものがあった。

 

 地元の駅に着いた二人は、出流が呼んだ黒くて胴体の長い高級車に乗り込み、大通りを通って出流の家に向かう。

 出流の家の前で停車した車から降りる頃には、町はすっかり夜になっていた。

 

「家まで送らなくて大丈夫?」

「流石に徒歩数分を送られるのはなあ。それに、イズルはやることがあるだろ?」

「うん。わかってる。絶対にお母さんを説得してみせるから」

 

 蒼は八重の人となりを知っているし、()()流代が愛し慕う相手であることも知っている。であるならば、説得は一筋縄ではいかないだろうことは想像に難くなかった。

 蒼には、八重の説得と流代の説得のどちらが難しいのか判断がつかないくらいだった。

 

「……がんばれよ」

「うん。また明日」

「おう。また明日」

 

 出流に向け緩く手を振ってから、蒼は踵を返し家路を歩き始めた。

 

 


 

 

 点在する街頭が、頼りない光を足下に向ける夜道。近くの川辺からやってきたのか、鈴虫の鳴き声は涼やかだ。太陽の代わりに上った満月は叢雲に隠れ、湿った風が塀に挟まれた道を駆け抜けた。

 

「う、ちょっと寒いな」

 

 蒼は肌寒さに身を震わせる。独り言を聞き咎めるような通行人は一人もおらず、この風さえ無ければ鼻歌を歌いながらスキップでもしたくなるような、解放的な気分になれそうな夜だった。

 

 だが、たとえ冷ややかな風が無かろうと、蒼はそんな気分にはなれなかっただろう。

 

(……イズルは、俺の事を大好きって言ってくれた)

 

 『大好き』。その言葉を反芻する度、口元がつい綻んでしまう。嬉しさが無制限にこみ上げる。

 

(イズルが……俺の事、異性として見てくれてるんなら、俺も……もう、良いよな?)

 

 蒼は、今まで抑え込もうとしていた『女』を受け入れ始めていた。それは取りも直さず、自分の出流への好意を受け入れることに他ならない。

 ここ暫く悩んでいた問題が解消される。好ましい事―――の、はずだった。

 

(でも、俺はイズルに俺の弱さを隠し続けている。知られれば、イズルに嫌われるかもしれない部分を、隠したままなんだ)

 

 蒼は、出流に己を強く見せ続けている事に、負い目を感じ始めていた。出流は、元より蒼に自分を隠さず見せてくれる。素の出流で蒼に向き合ってくれている。

 だが、今の蒼は『かつての自分』の仮面を被ったままだ。この仮面を外した時、出流の自分を見る目がどうなるのかが、蒼には分からない。

 分からない事が、怖い。

 手にしたものを喪うことが、今の蒼には何よりも恐ろしい。身勝手な恐怖を抱いていることそのものが、更に蒼を責め立てる。

 

(そんな俺が、イズルの好意を受け取っても良いのか? イズルと――付き合って、良いのか?)

 

 蒼は、楽しかった今日と、不安を抱えた今と、どうなるかわからない明日に複雑な心地のまま、塀に囲まれた信号のない交差点に差し掛かった。

 カーブミラーに映る光が、ブロック塀の向こうから差し込む光が。交差点に向かってくる車の接近を知らせる。

 蒼は時間帯が時間帯なので、万が一を避けるべく交差点の手間で立ち止まった。

 

 

 

 交差点に侵入した白いボックス車が、交差点のど真ん中で停止する。

 まるで―――()()()()()()()()()()()()

 

 

 街灯が、バチバチと明滅した。




予告

互いの想い打ち明けて、伝わる二人の恋心。

このまま進めば手と手を取り合い、幸せを分かち合う道を歩んでいくのだろう。

それは、どこに出しても恥ずかしくない、立派で素敵なハッピーエンドだ。


―――『本当に? これで終わりじゃ勿体なくない?』


運命を編む手は(わら)いながら、因縁の糸を摘み上げた。
手慰みの悪戯は、小さな事件の幕開けを告げる。


強く逞しい『男』の身体が、弱く可憐な『女』の身体に。
蒼は未だ、その意味を真に理解してはいなかった。


アオイとイズル:最終編
『First Pain』
心焦がすは性の渇望、心繋ぐは友の絆。
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