というわけでR-17.9のタグを付けました。この話の為だけに。
作者渾身のギリギリをお愉しみください。
言うて作中でセッ◯ス書いてる某村上◯樹よりはセーフじゃねえかなあ………でもアレはそこまで描写が情緒的じゃないから許されてそうな節あるよな………
―――土を踏みながら、蔦の這い回る菱形金網とコンクリートの校舎の狭い間を歩く。木々に日光が遮られた道は薄暗く、半袖には少し肌寒い空気がまとわり付く。
―――覗き込んだ先は、前後に伸びる校舎が途中で凹んで出来た、大して広くもないスペース。ガラの悪い連中のたまり場としてはうってつけだ。
出流が、いじめられている。
白波瀬、安発、中嵜。この頃はまだ、ただ金を集るだけのいじめっ子に過ぎなかった。
蒼は、
理由は無い。ただ、そうしなければならないと感じた。見えないなにかに背中を押されるままに、蒼は駆け出す。
殴った。蹴った。投げ飛ばした。
まるでそうなることが決まっているかのように、物語は進んでいく。
白波瀬達が逃げていき、呆然としている出流に蒼は手を伸ばした。
「大丈夫か? イズル」
「――――」
出流は、差し出された手を掴みながら何かを言った。だが、蒼には聞き取れなかった。
――不意に、誰かの気配。蒼の背後にいる。
蒼は振り向こうとしたが、やめた。彼女……
彼は、蒼の肩をポンと軽く叩いて。蒼の背後へ、来た道の方へと歩いて―――消えていく。
蒼は去りゆく彼に、背中越しに声をかけた。
「あばよ―――俺」
夢は、そこで途絶えた。
「ん……」
蒼は、丸まった姿勢で目を覚ました。
いつものことだ。多分子供の頃からの癖なんだろうとは思っているが、直す必要も感じない。
(夢………か)
内容は急速に頭から抜け落ちていったためハッキリとは思い出せないが、所詮は夢だ。覚えていたとて話のネタくらいにしかならないし、忘れてしまっても問題は無いだろう。
うっすらと瞼を開けると、まず目に入ったのは自分の白い手だった。全身に被っている薄手のシーツは光を透過しているため、普通に視認できる。
「ふあぁ……」
蒼は、シーツから頭を出して身体を起こし欠伸をする。銀の前髪が視界の隅で揺れて、後ろ髪がベッドの上に広がる。手で軽く纏めて昨日のように肩から流した。
目が覚めて見る自分の身体が、女のそれであるとホッとする。『これで今日も出流の彼女でいられる』と、安心している―――どころか喜びさえ覚える自分がいる。最近はそれが当たり前になりつつあるからかそう思う頻度が少し減ってきていたが、今朝はそうでもなかった。
原因には明確な心当たりが。
「………ヤっちまったからなあ」
達観したような、複雑な感情が混ざった声だった。感慨深く、恥ずかしく、どこか誇らしく、少しの寂しさが声に滲む。
傍らに目を向ける。蒼の方に身体を向けた出流は、豪胆にも寝ているようだ。出流と同じベッドで朝を迎えるのは、蒼が女になったあの日以来だった。
(ま、そりゃそうだわな。そもそもあれから一緒に寝たことなかったし)
流石に付き合ってもいない男女が同じベッドで寝るのは良くないし、付き合ったからと言ってもおいそれとできることでも無い。何かの拍子に間違いが起きかねないからだ。
昨日はその間違いを意図的に起こしたわけだが。意図的に起こしたのなら間違いではないのやもしれない。
「ふふ」
蒼はなんとなくそうしたくなって、肌に触れないように指先で出流の髪を撫で梳く。分けた髪房の下に見える閉じられた瞼は少し長い睫毛に彩られて美しく、その顔立ちは第二次性徴を終えて尚中性的で可愛らしい。細く柔らかく艷やかな黒髪は、女子のそれと遜色ないように思える。
出流の『男』を昨晩嫌というほど実感させられた蒼としては、少々複雑な気分だった。
(髪も、顔も。ぱっと見女みてーなナリしといてコイツ……)
ふと考えた。女になったのが己ではなく出流だったら、どうしただろうか。最初は戸惑うだろう。蒼の憧れが、今の蒼のように見る陰も無くなってしまっては。
でも、結局はそれに慣れていくのだろう。女の出流を受け入れるのだろう。もしかしたら、蒼がそうなったように出流を狙う何者かが現れたのかもしれない。その時きっと蒼は、かつてのように立ち向かっただろう。勝てるか勝てないかなど一顧だにせず。
(……まあいいか。今はコレなんだから)
蒼は益体もない思考を切り上げ、出流の肩を揺すって起こす。午後には大神が迎えに来るのだ。それまでに諸々の証拠を隠滅しておかなければ、何を言われるかわかったものではない。
「起きろーイズルー」
「ん、ぅ……」
出流は小さく唸り身じろぎをしてから、ぱちりと目を開ける。
「わっあ、あぁ!?」
なぜか大声を上げて後退り、壁に後頭部を打ち付けていた。
「痛ぅ……」
「どうしたイズル。俺のハダカなんか昨日さんざん見ただろーが」
蒼もまるっきり恥ずかしくない訳では無いが、腕を組んで胸元を隠し、少し頬を赤くする程度だ。眼の前で取り乱す出流を見れば落ち着くのもあるし―――昨晩晒した痴態に比べれば、裸を見られるくらいどうということはない。
「そ、そうだけど……寝起きにいきなりは刺激が強いっていうか……」
「ハッ」
出流は後頭部を手で押さえ、目尻に涙粒を浮かべる。蒼は鼻で笑いながら腕組みを解き、片腕で胸を隠したままベッドの近くに置いてあったデジタル時計を手に取る。
「んなこと言ってる場合かっつーの。大神さんが迎えに来る前に、洗濯とかしなきゃならねえん―――」
『13:25』
「んんん………?」
蒼は最初、時計が壊れているのかと思った。その近くにあった出流のスマホを手に取り画面を点ける。画面のロックは解除できないが、時間くらいは見ることが出来る。
『13:25』
「なッ、あ……?」
「アオイー今何時ー?」
寝ぼけ眼を擦りながら暢気に時間を聞いてくる出流をよそに、食い入るようにスマホを見ていた蒼はわなわなと震え始め。
やがて。
「はああああああああああああああああああああああああああ!!?!??!?」
この部屋に防音などは施されていないが、別荘は住宅地から離れているためご近所迷惑にはならなかった。
「ど、どうしたのアオイ!?」
「どうしたもこうしたもあるか! 見ろコレもう1時半じゃねーか!!」
スマホの画面を出流の顔面に押し付けながら蒼は叫ぶ。てっきり10時とかそのくらいだと思っていた宛が外れるどころではない。もう大神が別荘に到着してもまったくおかしくない時間帯だった。
「えっうそ。……うわほんとだ。でも連絡は来てないからまだじゃないかな」
「なら良し。良くないけど良し! ああもう、とにかくシーツとか諸々洗うぞ! こんな匂い撒き散らしてたら一発でバレるわ!」
蒼は今しがた二人で被っていたシーツを引っ剥がして乱雑に丸める。出流もベッドのマットレスのカバーを外して同じく纏めた。
また、ベッドの上に散乱した
「よし、脱衣所行くぞ!」
「えっ僕も?」
「
「なるほどね」
蒼と出流はシーツを抱えてバタバタと階段を下り、一階の脱衣所に飛び込む。第一関門は無事に突破できた。脱衣所には洗濯機が併せて置かれているため、ここで全ての用事を片付けるのが蒼の想定だった。
「まずは洗濯機にシーツ類を放り込む」
「放り込んだ」
「洗剤を入れる」
「入れた」
「洗濯機を動かす」
「動かした」
「よし」
手際よく1つ目の用事を済ませた二人は、洗濯機の駆動音が響き始めた狭い脱衣所で話し合う。
「その間に俺たちはシャワー浴びて汚れを落とすぞ。先に俺が浴びるからイズルは脱衣所で待機してくれ。大神さんから連絡が来たか、確認を怠るなよ」
「わ、わかった」
「悪いな」
そう言って、蒼は一人風呂場に入る。出流を待たせている以上時間は掛けられない。とにかく全身を素早く、しかし隈なく綺麗にせねば。
固定したシャワーヘッドから吹き出す温水を胸元に浴びる。勢いの付いた細かい水粒が白い肌の上で弾け、汗やらなんやらを洗い落としていく。流石に昨晩の汚れだ、洗剤まで使うほど頑固なものではないと信じて、胴体を中心に手で拭うように身体を擦って汚れを流す。
「はー……」
お湯を浴びるとリラックスするのは遺伝子に刻まれた人の性か本能か。蒼は張り詰めていた緊張を少し緩め、身体の表面を流れ落ちていく飛沫の温かさに身を委ね始めた。
精神的に生まれた余裕の中、どうしたって思い出してしまうのは昨晩のこと。
(……昨日のイズル、凄かったな。アイツにあんな一面があったとは)
思い返そうとするだけで蒼の心臓はドキドキしてしまう。出流の部屋に入るまでは両方の性を知る身としてリードしてやろうと意気込んでいたのに、いつの間にか出流にされるがままになっていた。
(あンの性欲魔人がよー……付き合わされる俺の身にもなれっての……)
蒼は口の中だけでぶつくさと文句を垂れるが、とはいえ全ては過ぎたこと。あまり引きずらないで今の証拠隠滅に集中するべきだと、蒼は心機一転しようとする。
無論、そう簡単に気持ちが切り替えられるのなら苦労はない。
(……………)
頭の中にこびりついた昨晩の記憶は、身体にも心にも深く刻み込まれた蜜月の甘露は。蒼を嫌でも悶々とさせてしまう。
―――そんな時に。
『アオイ』
「―――ッ!!」
控えめなノックと共に、脱衣所から出流の声。蒼は驚きのあまり悲鳴が出そうになった。
「……わ、悪いイズル。待たせてたか?」
『え? 全然? それより大神さんから連絡が来たよ』
「そ、そうか! なんて!?」
本来の目的に意識を向けることで、蒼の中で芽生えた邪心が少しずつ薄れていく。蒼は一度シャワーを止め、出流の声に耳をそばだてる。
『……えっと、
「へ」
蒼の思考に、空白が生まれる。
いつ帰ってくるか分からないから張り詰めていた緊張の糸。それが、2時間半の猶予付きと分かったことでぶつりと切れる。
「………そ、そっか。そいつは良い、ニュース。だな」
『そ、そうだよねっ』
言うまでもなく吉報。蒼にとっても出流にとっても。
身体に残った痕跡を隅々まで洗い落とし、ゆっくり着替えても尚時間は大幅に有り余るだろう。
そう、大幅に―――
「……そんだけ余裕があれば、風呂にお湯張って入っても大丈夫だな」
『そうだね、ゆっくりお風呂に入りたいなあ』
昨日までの蒼ならば、その余り時間の使い方なんてさして気にしなかっただろう。『じゃあコンビニ行ってアイスでも買い食いしようぜ』なんて言っていたかもしれない。
だが、蜜月の味を知った今の蒼には。
心臓の鼓動がうるさく響く。
蒼は、自分の中で渦巻く欲を自覚した。それをなんとか押し留めようとする理性も。
「ところでさ、イズル。すっぽんぽんのまま
『ま、まあ落ち着かないのはあるけど……あ、でもアオイはゆっくりして良いからね』
「い、いや。そういうことじゃなくって……」
『?』
蒼は蛇口を捻り、浴槽に湯を張り始める。多量に吐き出されるお湯がユニットバスの底に打ち付けられる音が浴室を反響する中、蒼の手は震えながら浴室と脱衣所を隔てる折り戸に伸びていく。
(だ、ダメだろ。流石にそれは。絶対、ダメ。だって……)
頭では分かっているのに、身体が言うことを聞かない。一夜の悦楽の残響が蒼の身体を操っている。胸が弾み、頬が紅潮し、口元が緩む。白い肌の上を滴る雫は、湯か汗か―――はたまた。
ついに蒼は折り戸を引き、折り戸の手すりに身体を預けながら脱衣所に身を乗り出す。
「な、なあ。イズル」
「あ、アオイ!?」
出流は思わぬ事態に目を丸くし、慌てて両手で顔を覆うも、湯気を纏い血色良好な蒼の珠肌を指の間から凝視してしまう。その視線が、蒼の心身をなおのこと昂らせた。
目線を下へと向けた蒼は、緩んだ笑みをより深くして。
「だ、ダメだってアオイ! 隠して隠して!」
「なーに言ってんだ、そっちも準備万端のくせしやがってよ」
ハートマークでも浮かんでいそうなくらいに甘く蕩けた声と共に、蒼は掌を上に向け手招きをする。
「せ・な・か。流してやるからさ―――こっちこいよ、イズル♪」
2時間半以上の猶予をフルに使い切って
ゆりかごのように揺れる車内で、蒼と出流は仲良く居眠り。
手を重ね、肩を寄せ合い、頭同士をこつんとくっつけて。
遊び疲れた子供のように、満ち足りた表情で寝息を立てていた。
佐倉 出流と五十右 蒼は、無二の親友であり―――恋人である。
蒼が女になろうとも、異性として恋仲になろうとも。そこに確かに友情はある。損得を無視して相手の為に動く事ができる固い絆がある。
一時期はできなかった互いの部屋での寝泊まりも再開し、二人の仲はより一層進展したと言えるだろう。
だが、なにぶん二人も高校生。少々爛れていてもそれは―――ご愛嬌というものだ。
使用人は、時としてポーカーフェイスが求められる。
これにて後日談「夏の小旅行」編、終了です。
二人の仲も良好なようで投稿者の肌は潤っております(自給自足)。
余談
出流くんが女体化すると、黒髪ゆるふわウェーブセミロングに向かって左側がメカクレの赤目、身長150cm弱でB90強とかいうソレナンテ・エ・ロゲ(死語)なわがままボディ僕っ娘になります。
190cm弱でボサボサ茶髪に恵体で目つきの悪い男時代の蒼と並ぶと犯罪臭凄そう。