アオイとイズル   作:東雲。

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アルバイト編最終話…というよりエピローグ?なお話

・私事報告
アオイのチャイナドレス姿をサム・ソー川(@36sohgawa)さんに描いていただきました!

【挿絵表示】

Skebで依頼して、納品されたのは二週間くらい前なんですが、キリの良い出しどころを待ってる内にこんなに経っちゃいました。誠に申し訳ない。

この、な。
骨盤とな。乳の影がな。
たまらねえんだ。

サム・ソー川さんは本作をお読みいただき、しかも感想までくれるとてもありがたい方なので、今回依頼をさせていただいた次第です。
このお方は他にもウマ娘や自前の子やドラゴンに怪獣などなど本当に幅広く描いており、その上小説まで書くマルチなお方。
ハーメルン上にもビーストバインドトリニティというTRPGをベースにした小説を投稿されており、世界観解説も簡潔にされているので何も知らなくとも読めます。
ウォッチナウ!
↓はサム・ソー川さんの支部と笛のリンク
https://www.pixiv.net/users/2143575
https://syosetu.org/user/418652/


アルバイト(5)

 時は少し遡る。

 

 真崎達が去っていった『玲瓏』の店内は、さざ波すら立たないほどに静まり返っていた。それは偏に、眼の前で起きていた出来事を誰も彼もが飲み込めていなかったためだ。

 

 看板娘と言って差し支えないアルバイトの娘……の彼氏がなぜかチャイナドレスを身にまとい(しかもそれが全く違和感がない)。業種の違うお店みたいな接待をして。

 恐らくは"赤鮫"が望んでいた展開のはずなのに、何故か金髪の方の顔色はどんどんと悪くなる。

 しまいに彼氏が耳元で囁いたら、金髪は突然金を置いて店を飛び出したのだ。

 

 喜ぶべき状況なのはわかる。だがそれを態度に出すには過程があまりにも異常すぎて、理解も感情も追いついていないのだ。

 

 

 そうして店中の視線を一身に浴びる出流は、出入り口に向けて笑顔で手を振りながら、数分間の己の行動を振り返る。

 

 

 振り返るほどに。

 首の下からゆっくりと熱が昇っていって。

 それが額の上まで達した瞬間。

 

「~~~~~~~~~~~っ!!!!」

 

 腕を前に伸ばして木製のテーブルに顔面から突っ込んだ。

 周囲の客が奇行にどよめき、机の上の調味料がカタカタと揺れる。

 

(何!? 何してんの僕!! サクッと正体伝えて終わらせる予定だったのに!!!)

 

 特に意味もなく水を注いだり、やたらと顔を近づけたり。なんらかの外的要因に精神を操られていたのではと思えるくらいに、さっきまでの出流の行動は彼本人をしてありえないと思うようなものばかりだった。

 

 心から消えてなくなりたい。それが叶わないならばここにいる全員の記憶を消したい。

 

「むゔゔゔゔゔ………!」

「なあ、イズル」

 

 投げ出した腕をバタバタと上下に振って衝動を逃がす出流に、蒼が声をかける。

 もしかしたら、今の自分に適切な言葉をかけてくれるかもしれない。出流は一縷の望みに顔を上げた。

 具体的に何を言われたら嬉しいのかは思いつかなかったが。

 

「アオ――」

「彼女の眼の前でさ、男を誑し込むのはどうかと思う」

「違うんだってえーーーーーーーっ!!!!!!」

 

 神妙な表情での一言に出流は再びテーブルに突っ伏した。

 蒼の声色にからかうときのそれが混じっていたことだけが、せめてもの救いだった。

 

 

 閑話休題(なにはともあれ)

 二人がコントじみたやり取りをしているのを見てようやく、大人たちも素直に喜べるようになったらしい。

 わいのやいのと酒を酌み交わし、店主が再び軽快に鍋を振るう。

 いつもの玲瓏の雰囲気が戻って来る中、出流は再び大人たちに囲まれていた。

 

『やるじゃないか彼氏クン! 見直したよ!』

『いったい何を話したんだい?』

「え、ええと。それはあの人の名誉の為にも秘密と言いますか……」

『おお、博愛だね』

『君になら、イソミギちゃんを任せられる……』

『お前は何様だよ』

 

 テーブルに座っている出流を囲むように、常連客による壁が敷設されている。

 

「と、ところであの。そろそろ僕着替えたくて……」

『『『まあまあまあ』』』

「あう……」

 

 大人たちのにこやかな笑顔の圧が凄い。

 今更のように感じてきた女装への恥ずかしさからさっさと着替えたいのだが、なんだかそれを許さない雰囲気がひしひしと伝わってくる。出流は完全に萎縮していた。

 

 しかし、彼氏への暴挙を見逃さない者が一人いる。

 

「おいお客様。いい加減ウチの彼氏を解放してやってくれませんかね」

『『『………』』』

 

 両手に盆を乗せた蒼が一声かければ、常連客たちも無碍には出来ない。

 

『……まあ、流石におふざけが過ぎたか』

『イソミギちゃんにそっぽ向かれる訳には』

『功労者をこれ以上拘束するわけにもいかないしな……』

『もうちょっとで新しい扉が開きそうだったんだが』

『それどっちが?』

 

 肉の壁がスルスルと消えていく。出流は息苦しさから解放されて席を立ち、蒼に寄っていく。

 

「ありがとう、アオイ」

「おう。まあ俺もせっかく似合ってるのにもったいないとは思ってるけど」

「冗談でもやめてよ、もう」

 

 今も働いている蒼と長話は出来ない。出流は苦笑してスタッフエリアの方に向かう。

 蒼は「別に冗談じゃないんだけどな」とは思いつつも口には出さず見送った。

 

 出流は周囲の物惜しむ視線を見ないふりしながら、スタッフエリアのドアノブを掴む。

 

 

 ガッ。(ノブの捻りが途中で止まる音)

 

 

「……あれ?」

 

 何かの間違いかと思った出流が、二度、三度と捻る。だがノブは頑として最後まで回らない。

 

「……あの、店長」

「ん、なんだい?」

 

 油の弾ける音を厨房に充満させながら、店主は答える。

 

「ドアが開かないんですけど」

「そりゃあ、内鍵かけてるからね」

「え、なんで内鍵を」

「出流クン、そりゃあ決まってるじゃないか」

 

 店主は、それはもう自らの心に一部の曇りもなさそうな、至極真剣な目を出流に向けた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「―――」

 

 出流の背を冷や汗が伝う。

 

「いや、それはこう。あの二人に接触するための方便で」

「もちろん、わかっているとも。そのために契約書にサインまでしてくれた君の覚悟には心から感動させてもらった」

「あの。だからもう良いですよね?」

「ははは。アルバイトがシフトを途中で抜け出すなんて、そんなのダメに決まってるじゃないかHAHAHA」

「………」

「………」

 

 蒼を含む店中が固唾をのんで見守る中、出流と店主は真っ向から見つめ合う。

 何十倍にも感じられる十数秒を経て。

 

「すまないッ! 店を救ってくれた君にこのような不義理を働くのが間違っているのは重々承知ッ! だが、だが……ッ! このような天運が巡り合わせたもう一人のチャイナ娘をたった数分で手放すなんて、私にはどうしても………出来ないッ!!!」

 

 町中華『玲瓏』店主、魂の90度お辞儀であった。

 

「落ち着いてください! 僕は娘じゃないです!」

「いいや今の君は完璧なチャイナ娘だ! そうだろうみんなッ!!」

 

 店主がお辞儀をしたまま手を水平に、客たちの方へ上げる。

 事前に打ち合わせでもしていたのかというくらいに淀み無く男たちが立ち上がった。

 

『ああそうだ! 今の君はどこに出しても恥ずかしくない立派なチャイナ・ガールさ!』

「どこに出しても恥ずかしいです!」

『自分に自信を持ってくれ! 彼氏クンはイソミギちゃんにも引けを取らない程に可憐なんだッ!』

「言われたくないセリフ第一位が更新された……」

『ところで、あの……お酌しなくていいからただ耳元で囁いてほしい……』

「変態がいるーーっ!!」

 

 混沌を極めていく店内。出流は最後の望みをかけて蒼のもとへ向かった。

 

『『『チャ・イ・ナ! チャ・イ・ナ!!』』』

「あ、あの。アオイ。アオイは、もちろん嫌だよね? 僕がさ、そんな。こんな格好で働くの、なんて……」

「………」

 

 へりくだるように下から目線で見上げてくる出流を、蒼は盆二枚を片腕に抱えたまま見下ろす。

 唇を突き出して少し考え、空いていた手を出流の肩に乗せた。

 

「イズルが店内沸かしたせいでマジで忙しいから責任取ってほしい」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい」

 

 

 出流は折れた。

 

 


 

 

 町中華『玲瓏』は今日も大盛況。

 その賑わいぶりは、店の外にまで響き渡っていた。

 

『イズルちゃーん! 注文おねがーい!』

「ちゃ、ちゃんはやめてくださいってば! すぐ行きますからっ!」

『イソミギちゃーん! こっち目線ちょうだーい!』

「だから俺はアイドルじゃねえっつってんだろお客様ァ!」

 

 店内に入れば、人気の理由が視覚的にも伝わるだろう。

 ブラウスやら私服やらの男たちが相席してまで入店し、笑いながらビールのジョッキを高らかにぶつける。テーブルに並んだ湯気の立つ料理の数々はどれも美味しそうで、見ているだけでお腹が空くこと請け合いだ。

 

 そしてともすればむさ苦しく思える店内には、二輪の花が清涼感を振り撒いていた。

 

「いらっしゃいませ! お一人ですか? 相席ならご案内できますけど」

 

 一人は、水色で丈の短いチャイナドレスを纏った少女。彼女の長髪が翻るさまは銀色の波飛沫のようで、海の群青を宿すが如き紺色の瞳を一目見れば、二度と忘れることはできないだろう。

 すらりとしたプロポーションはモデル顔負けで、その美しさは都会に出ればファッション雑誌の一面を飾ることも容易いと思わせる。

 

「構いませんか? じゃあこちらへどうぞ!」

『イソミギちゃん! これ3番テーブルにお願い!』

「あいよぉ!」

 

 囚われの姫君のような容姿とは裏腹の快活な口調は、むしろチャイナドレスと合わさる事で見事な調和が形成されていた。

 

「あ、あの。その……こちら、お水……と、メニュー、です」

 

 そしてもう一人。黒の布地に赤い梅花の刺繍が入ったチャイナドレスを着た()()。黒い髪で目元が隠れてこそいるが、だからこそその髪房の間から時折覗く紅い瞳が胸に刺さる。

 見た目の可愛らしさにそぐわず声は低いが、そのギャップが不思議と人を惹きつける。

 おどおどとした態度は普通なら減点だろうが、()()の場合はそれがプラスポイントに見えるのはどことなく漂う小動物的オーラの為せる技か。

 

「え、えと。注文を承ります。……生ビールと、麻婆豆腐セット。ご飯は炒飯に変更……ですね? 畏まりましたっ。……うわまた裾が、うう……っ」

 

 季節外れの長袖と裾の長さにもかかわらずしきりに身だしなみを気にするあたり、よほどシャイなのだろう。その証拠に()()の頬は常に赤く、緊張からか息が荒い。

 それでも懸命に接客する()()の姿は、一日の疲れを簡単に吹っ飛ばしてしまえる愛らしさがあった。

 

 二人がそれぞれ腰に留めたハート型の名札には、『イソミギ』、『イズル』と書かれている。店にいる他の客たちも、その名前で彼女たちを呼んでいるようだ。

 

『イソミギちゃん。イズルちゃんとくっついてくれたりしない?』

「この混み合いっぷりでよく言えますねお客様」

『イズルちゃん。水のおかわり貰って良いかな』

「だ、だから『ちゃん』じゃ――ああもう、わ、わかりましたっ」

 

 店内を行き交う二人の看板娘。その可憐さと、息のあった共同作業を何よりの肴として、常連客達は麦酒を今一度高らかに掲げる。

 

 

『『『『『この店に咲いた麗しき二人のチャイナ娘に―――乾杯っ!!』』』』』

「こんな店今週限りだバカヤローーーーっ!!!!」




とっぴんぱらりのぷう。

これにて、アルバイト編完結です。お付き合い戴きありがとうございました。
…この量を二話で終わると思ってた奴がいるらしいですよ。


こちらの公開と前後するとは思いますが、活動報告にてアルバイト編の裏話込みの、本作に関するお話をします。
「アオイとイズルのあとのまつり」というタイトルです。

宜しければそちらもご覧いただければ幸いです。
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