アオイとイズル   作:東雲。

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ふと思いついたので二人の年末を書き記す番外編になります。


越年

 年が暮れ、新年を迎えるまで残り四時間に迫っていた。

 

 窓の外では犬でさえ庭駆け回るのを躊躇うような寒波が猛威を振るい、びゅうびゅうと強い風の音が家の中にいても聞こえてくる中。

 両目が黒髪で隠れた少年『佐倉 出流(さくら いずる)』と、銀の長髪をなだらかに垂らした目鼻立ちの整いすぎている元男の美少女『五十右 蒼(いそみぎ あおい)』は。

 

「「ふはぁあ~………」」

 

 蒼の家の炬燵でまどろんでいた。

 

 


 

 

 蒼の家には床の間も備えた和室が一室あり、冬場はそこにこたつを出すのが恒例であった。出流の家はなまじ洋風にガッツリ寄せた建築のためか、和室が用意されていない。一応敷地内に用意された離れに茶室があるものの、そちらは主に家同士の()()()()の場として使われるため、軽率に使って良いものではなかった。

 

「なあイズルー」

「なあに?」

 

 こたつに胴体の半ばまでを埋め、寝っ転がってスマホをいじる蒼の間延びした声に、反対側で足をこたつに入れ込んでみかんをつまむ出流が答える。

 

「今年はこっちにいても良いのかー?」

「うん。お母さんが『付き合い始めた年くらいは一緒に年を越したいでしょ』って言ってくれて」

「さすがの気配りだなー……」

 

 家を出る際、母親の声で『姫始め』とか聞こえたような気がしたことを出流は言わなかった。確証はないし、言ったところで空気をまずくするだけだということが容易に想像できてしまったので。

 相槌を打ちながら、睡魔が忍び寄る気配を感じた蒼はこたつから上半身を抜き出し天板によじ登る。

 

「よっと。にしても、去年までと違って今年は色々……」

 

 よじ登った蒼はそのまま天板に突っ伏した。

 

「…………マジで本当に色々あったな。ありすぎなくらいだわ」

「そうだね……」

 

 蒼が男から女になり。友情と恋慕で彷徨い。誘拐事件を乗り越えて交際に至り。

 夏休みは蒼のアルバイト先でまた一悶着が起きたり、佐倉家の別荘を利用しての小旅行では恋人としての段階を進めたりして。

 

「イズルに誘われて金持ちのパーティー行ったら、まさか俺を取り合って決闘もどきが起きるとはな」

「アオイが文化祭のミスコンで優勝と一緒に来年以降出場不可(殿堂入り)もしたよね」

 

 そうして流れるように、蒼が女になってからの約半年の出来事を二人は振り返っていく。毎月最低一件は何かしらのトラブルやアクシデントに見舞われた半年間は忙しく、洒落にならない目にあうことも少なからずで。それでも、終わってみれば悪いことばかりでも無いと思えた。

 

 ひとしきり話し終えて、二人は人心地つく。

 

「来年はもう少し穏やかに過ごしてえもんだ」

「初詣の願い事は決まりかなあ」

 

 言いながら、出流は皮を剥いたみかんを一切れつまみ、蒼に向ける。

 

「はい、あーん」

「あーん」

 

 このくらい大して恥ずかしくない。そう思いつつ大人しく食べる蒼の頬にはほんのり朱が差していた。

 

「急にやめろよな。びっくりするだろ」

「なんて言いながらも素直に食べてくれるアオイが好きだよ」

 

 蒼はみかんの果汁が喉に詰まって噎せた。

 

「げほっごほっ……急にやめろよな! びっくりするだろ!!」

「ご、ごめん」

「ふん」

 

 蒼は口の中を空にしてからばったりと仰向けに倒れる。そのままごろりと身体を横に向けた。

 

「もう来年までイズルと口利かねー」

「う、うーん……あと三時間……」

 

 なんとも曖昧な怒り方に、出流は対応に苦慮する。少なくとも本気で怒っているわけではないのだろうと判断した出流は、こたつを出て反対側の蒼のところまで回り込んだ。

 

「ご、ごめんアオイ。機嫌直して……?」

「………」

 

 眼の前まできた出流に対し、蒼は寝返りを打って体ごと顔を背ける。出流はまた蒼の前に回り込む。蒼はまた寝返りを打つ。

 

 回り込む。寝返りを打つ。

 回り込む。寝返りを打つ。

 回り込む。寝返りを打つ。

 回り込む。寝返りを打つ……。

 

「ああもうわかったよ! 黙ってぐるぐるぐるぐる回り込んでくるなよ気持ち悪いなあ!」

「よし、僕の勝ち」

 

 根負けした蒼が寝転がったまま降参のポーズを取る。出流は静かにガッツポーズした。

 

「ったく。こたつの外でウロウロして寒かっただろ? 早く入れよ」

「あ、そう? じゃあお言葉に甘えて」

 

 許可は得たからと、出流は足を滑り込ませる。

 

 

 ―――蒼の真横に。

 

 

「ちょっイズル!?」

「アオイが入れって言ったでしょ」

「いやっ、言ったけど! 狭いって二人は、入らねえだろ!」

「まあ、アオイが男だった頃はできなかったけど、今なら……」

 

 言いながら出流はこたつの中にもぞもぞと下半身をねじ込んでいく。そこまで大きくはないこたつは、どうしても身体が触れ合ってしまう程度には窮屈ながらも二人分の体積を受け入れた。

 

「ほら入れた」

「…………」

 

 無邪気な笑顔で宣う出流から赤らんだ顔を逸らしながら、蒼はふと考えた。出流のこういう態度を注意すべきなのだろうか、と。

 蒼の性転換前からその気配はあったし、恋仲になってしばらくは蒼を女の子扱いしていたからか遠慮がちだったが、最近になって慣れてきたのか甘えたがりが再発してきている気がしていた。

 

(でもなあ)

 

 普段は見られない頼もしくてかっこいい出流や、滅多に見られないちょっと恐怖すら覚える冷徹な出流。ベッドの上で蒼を見下ろす、ギラギラに目を輝かせた出流。

 女になって、それまで知らなかった出流の様々な側面を目の当たりにするほどに。

 

(そんなイズルが俺にだけこうして甘えてるんだと思うと、嬉しくなっちまうんだよな―――)

 

 蒼の口元が自然と緩む。背中越しで様子を伺えない出流は、何も言ってこない蒼を訝しんだ。

 

「アオイ? どうかした?」

「っ。な、なんでもねえよ」

 

 ドキドキと鼓動する心臓を意識から除きつつ答える蒼。出流は無性にそうしたくなって、こたつの中で蒼の腰に腕を回した。

 

「なにすんだよ」

「アオイを抱きしめたくなって」

「……あっそ。好きにしろよ」

 

 まんざらでもない蒼の返事に、安心していちゃつく出流。

 その時、和室のふすまが徐ろに開かれ。

 蒼の母、篠江が顔を覗かせた。

 

「蒼? 年越しそばができるから運………」

 

 和室を覗き込んだ母は見た。こたつを向かい合ってではなく、何故か隣り合って使う二人。出流に背中を向けて頬を染める蒼に、ちょうど腰がぴったり合う感じの位置で身体の前をくっつけた出流の姿を。

 

「―――」

 

 すすす、と何も言わずにふすまが閉まる。『これ以上邪魔するまい』という意思を雄弁に感じさせる所作に蒼は思わずこたつを飛び出した。

 

「いやっ、ちょ、違っ。何もしてねえから!!」

「ご、ごめんね蒼。気の利かないお母さんで……」

「だからぁ!!」

 

 ドタドタと慌ただしく和室を出ていく蒼を見送った出流は、いそいそと炬燵から上半身を出して。

 

 曖昧に笑って頬を掻いた。




皆様も良いお年を。

【余談】

・富豪パーティー決闘事件
出流が蒼を社交界に慣れさせようと手近なパーティーに誘ったところ、ドレス姿の蒼に脳が茹で上がったよそのボンボンが蒼を欲しがった結果、出流と物理的に試合う形になった。
最終的に相手が手段を選ばなくなったところで大神さんがまとめて鎮圧してGET KOTONAKI。

・文化祭ミスコン事件
クラスメイトに持ち上げられた蒼が文化祭のミスコンに出場したところ、あまりの美貌に優勝一直線すぎて他出場者陣営から水面下での妨害が頻発し、ミスコンは混沌を極める事態になった。
最終的に蒼が意地で優勝をもぎ取ったものの、来年も同じことが起きちゃマズいということで運営側から殿堂入りという名の次回以降出場不可の通達が届いた。

いわゆるボツネタ。
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