長らく次元の支配者との旅を続けていた勇者の決着がつくがたどり着いた場所が新たな舞台で!?

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片道道中

 

もう何百年も異世界で過ごしているため、今では前の世界、祖国である日本のことはもう細かい所までは覚えてはいない。転生してからは、苦難の連続でそんなことに気を使えば死んでやり直すはめになるからだ。

 

もちろん文化や中世ヨーロッパのような文明から遙かに進んでいること、家族の名前や顔くらいは覚えてはいるが、家族の声などは忘れた。

 

大きくこのあたりなどといった地名は覚えてはいる。しかしもう景色は明確には思い出せない。こんな感じのコンクリートジャングルだったというようなテンプレート的な覚え方だ。

 

悲しくないのかと問われるのであれば、悲しい。頭の中をぐるぐると回るように自責の念に苛まれる。しかし同時にずいぶん遠いところまで来たなという達成感もある。

 

それもこれも今日この日このタイミングで全てが終わると知り、努力してきたからなのだろう。

 

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白く輝き、視界に入れるのも恐れ多いような威圧を放つ、全ての次元世界の支配者を名乗る大蛇が、己の後を追い縋る。

 

どこを見まわしても暗く黒い大地で覆われた次元回廊を進む。あらゆる次元の何かしらの理由で流れ着いた漂流物......特に建造物を避ける。

 

体に身にまとった鎧がガチャガチャと大きな革を挟んだ金属同士の衝突音が鳴る。緊張と焦りで体から汗が流れ、息が荒くなる。倒さなければいけない敵との戦い。しかも実力は相手が明確に上であり、優れている能力なんて今までため込み続けた道具と何百年の敗北による死を含めた戦闘経験である、笑いすらおこらない。

 

《次元の支配者》に戦闘経験などない。しかし全ての次元世界の支配者を名乗ることが出来るほどの能力を持っている。災害は人間一人では太刀打ちできないから災害と呼ばれるのだ。

 

こちらは後ろのあらゆる次元の障害物に気を使いながら、己よりも地力がある《次元の支配者》に聖剣、聖槍、聖斧、聖杖という場合によっては軍を相手にできる武器を状況によって使い分け戦うが、相手の体力が膨大ゆえに削るというのもおこがましい。相手が倒れるのを願い、戦い続ける。

 

もちろん酒や油を使用した基本的な炎上や混乱の巻物などの書物、呪いの骨などの呪い、強酸のアンプルなどの毒薬を使った罠に嵌めたが、それでも相手は己の策を食い破ってくる。大半の武具はこのような状況に持ち込むため限界ギリギリ、モノによってはもう二度と使えなくなったのも存在する。

 

体はずいぶん前にヴィクター王によって教えられた秘術を己なりに改造したため問題はないが、そろそろ勝負にでなければいけない。ありとあらゆる勇士たちを退け、支配してきた覇者だ。殆どの策は必殺を除いて、全て使い切ったこのまま持久戦に持ち込んでも意味はない。

 

今までの旅路を思い出す。

 

ごく少数からの応援が己の原動力の一つだった。

 

多くの者たちの恨みつらみが......呪詛が己の行動を戒め決断させる力となった。

 

あらゆる次元の世界を渡り、力を蓄え、場合によっては一般人や仲間を見殺しにしなければならない時もあった。

 

多くの結果を追い続けるあまり大切なものを忘れたこともあった。それを殴ってでも思い出させてくれる人がいた。

 

それらを踏まえ此処まで到達した。

 

冷汗が流れる。今ここで勝負に出るのは失敗ではないか、もう少し後にして何かほかの策を考える余地はないかと頭の中を駆け巡るが、それらを踏みにじり、決断する。

 

此処で全てを決める。

 

手が震える。武器を《次元の倉庫》から引っ張り出し、《次元の果ての大剣》に切り替える。今まで持ってきた武器の何よりも重く、己に託してくれた人物からの信頼を感じる。

 

己の覚悟はとうに済ませた。

 

「イーリス!!」

 

今、弓で援護しているどんな世界でも味方であり続けた相棒に声をかける。返事が返ってくることに期待していない。今も必死に戦っているのだから。

 

相手に移動停止のフォース......魔法をかける。相手は《次元の支配者》、長い間は持たない。

 

その間に様々な師匠に教わった技や己の開発した技術、ドーピングするためのアイテムをこれでもかと使用する。

 

イーリスと呼ばれた妖精は己の服に入り、防御のための魔法をかける。もうここからは相棒の無事を祈る。

 

《次元の支配者》が動く、あくまで移動停止という魔術は相手の行動までは縛れない。大きな口に凄まじいエネルギーの塊であるものを吐き出し、ブレスとして攻撃するのではなくここまで追い詰めた敵にたたきつけるために。

 

準備は完了した。

 

憤怒を脚に込め、大地を踏みしめる。

覚悟を背筋に通し、武器を含めた上半身に力を入れる。

願いを込めて《次元の果ての大剣》大上段から振り下ろす。

 

「救いあれ」

 

甲高い空気を割く音が響く。

 

渾身の一撃は直撃した。ずぶりと濃度の高い何かで構成された体を切り裂く手の感触が伝わる。今までの何度も経験した人生の中で最高ともいえる攻撃。必殺が《次元の支配者》に当たった。

 

直後に《次元の支配者》からの攻撃が迫る。直撃した必殺により軌道が狂った攻撃は次元回廊特有の鈍く黒に光る地面にたたきつけられる。

 

世界が割れるほどの爆発が起こる。

 

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真っ先に目に映ったのは自分の手の中にある、亀裂の入った《次元の果ての大剣》だった。もう二度と手に入らないような至高の一振りが通常の手段では修復不可能になり、《次元の倉庫》に漬けておかないと、といういかにも俗な思考だった。

 

「マスター!!よかった...生きててよかったよぉぉぉ......」

 

人工妖精とはいえ女性であるイーリスはもはや百年の恋も冷めるような顔で己の首当たりに跨る。息が詰まる。

イーリスの首当たりをつまんで横に降ろす、相棒は鷲掴みにすると凄まじく怒る。曰く女性の扱いがなっていないとのこと。己に聞きたい話でトイレはどうしているのかというのを聞くような奴だが。

 

愚にもつかないこと考えながら己の体を確かめる。鎧は脱がされていた、というよりはあまりにも凄まじい状態であり破損部分から剥いだ状態で地面に放っていた。体の欠損は奇跡的に見つからず、骨折と鎧に覆われていない部分の火傷くらいだ。動くと信号としての激痛が体に走る。治癒の魔法で手早く処置し、水を飲んで一息つく、このような行動をとれている時点で、結果は薄々わかっているが、それでも相棒......イーリスに震える声で尋ねる。

 

《次元の支配者》はどうした?

 

「倒した。もう終わったんだよ。」

 

「世界を飲み込む《闇》も」

 

「ありとあらゆる世界を支配する《次元の支配者》も」

 

あらゆる感情が沸き起こる中ちゃんと発声できたかわからない質問にイーリスが答える。いざ人の口から聞くと信じられない。特に己の悲願ともいえる目標が達成したことなど。

 

このような剣と魔法の異世界に全く別の体に生まれ、中世ヨーロッパのような時代で技術チートだとか言って職人に技術を教えると同時に商人として大成しようとして、《闇》という世界を飲み込む大災害を起こした魔王によって一度死に。

 

その次の生は、別の地域で生まれあんなことは起こらないと勝手に思い込み、《闇》が現れてからはなんとか生きようとして雪山で餓死して。

 

死ねば死ぬほど、かかっていく年月ゆえに消えていく記憶を何とかしようと魔法を習い、やはり間に合いはしたものの《闇》に対する対抗策には間に合わず死んでしまい。

 

ビクビクしながら《闇》を生んだと自称する魔王を討伐しようと剣と魔法を磨き上げ、なんとか戦うも魔王は倒せず。

 

何周もしてようやく魔王を倒し、英雄になったが不治の病で死に、生まれなおしたら、また《闇》が現れた。

 

何が正解かわからなかった。

 

生まれなおした幼少の頃、己の手で自殺したこともあったがそれでも次の周で《闇》は現れた。

おおよそ己が18歳というタイミングで必ず《闇》は来た。

 

どうしたらこの地獄は終わるのか。

 

このループはいつ終わるのか。

 

そのために力を求めた。

 

この周はもうだめだと区切りをつけ、物や情報の収集に徹した時もあった。

 

魔王はあくまで倒されることで闇を封印する存在なのだと知って挫折した時もあった。

 

《闇》を直接倒してもまた別の世界で生まれなおしループさせていること。

 

このループは次元の支配者というが起こしているということ。

 

己の魂がたまたまそれに対抗したものだと知って、何も関係してない神を恨んだこと、神に願った事、感謝したこと。

 

次元回廊にて《次元の支配者》を倒すための剣を手に入れ。

 

何年戦い続けただろうか。もはや《闇》がいた前の世界のことなど欠片も思い浮かべることが出来ない......

 

もう終わったのだ。

 

己の旅は。

 

「・・・・・・」

 

万感の思いを噛み締めて、立ち上がった。

 

次元回廊は《次元の支配者》が居なくなった後、どうなるかはわからない。

だがあらゆる次元の漂流物が流れる次元回廊は長居していいところではない。早めにどこかの世界に行かなくては。

 

「イーリス」

 

「何?」

 

己の顔をニコニコしながら、肩から見つめていたイーリス話しかける。

 

「あまり次元回廊にいることは良くない。まずは此処から出よう。此処から一番近い世界はどこだ?」

 

「わかった。じゃあ案内するね!」

 

そう笑顔で言い、道案内し始める。ここから先は完全に情報がない。もしかしたら別の危機が存在するのかもしれない。だが今は世界が平和になったことを喜ぼう。

 

そう思いながら別の世界に向かって歩き続けた。もう身も心もボロボロで今にも蹲ってしまいそうだが歩く。

 

次元回廊の道は暗い。しかし行く道の先は明るく輝いていた。




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