表紙イラストも、良ければ。
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魔界で暮らす一人の魔法使い、緑ドクロの種族でもある僕──セシル。
これまでは魔法使いとしても未熟だったけれど、魔術の勉強と研鑽を重ねて、今はこの魔界で有数の一流魔法使いにもなれた。……それに、魔法を人に教える先生にも。
「セシル先生! 本日も魔術のご教授、ありがとうございました」
僕が魔法を教える学校の授業が終わった後のこと。さっきまで教えていた生徒の一人、星ドクロの子が僕に声をかけて来た。
「どういたしまして、アーネスト。君の魔法の実力は大したものだ。このまま頑張れば、きっと僕なんてすぐ追い抜けるはずさ」
「あはは……そう言われると、照れてしまいます」
星ドクロのアーネスト。得意とする魔法属性は違うけれど、それでも魔術を教える事くらいは出来るからこうして先生としてもやって行けている。他の生徒だって、みんな魔法の覚えが良くて僕も嬉しい。
「少し早めに切り上げてすまない。埋め合わせは後日行う予定だから、続きはまたその時に教えるよ。
今日は外せない──用事があるんだ」
それから僕は一人、ある場所へと。
(思っていたより人が多い。空いている席は、どこだろう)
観客席は殆ど埋まっていた。座れそうな席をしばらく探してようやく一席、空き席を見つけたのでそこに座った。
(しまったな……少し遅れてしまった。試合はもう始まっているみたいだし、彼女は──)
観客席に囲まれた円形の大きなステージ。そこには拳を構えて二人、向かい合っている姿がここから見える。
一人は鍛え上げられた屈強な身体を持つ男の格闘家。そしてもう一人、猫耳と二本の長い尻尾を生やした、毛が生えて獣のような四肢を持つ女の子の種族──猫娘族のクーがそこにいた。
今、このスタジアムでは武闘会が開催されていた。武器は使わずに拳と拳、格闘技で競い合う武闘大会。
「──にゃあっ!」
猫娘族のクーは強い脚力で跳躍して、一気に格闘家の男に迫り拳の突きを繰り出す。
対して、格闘家は腕をクロスさせて彼女の拳を防ぐ。けれど強烈な一撃の衝撃で場外ギリギリまで押し出される。試合は場外落ち、気絶などで戦闘不能に陥れば敗北。もちろん殺傷は厳禁だ。足で踏ん張りギリギリで踏みとどまる格闘家にクーは追撃をしかけて飛び回し蹴りを繰り出す。
けれど──。格闘家はそれを待っていたかのように、直前に横に飛び退いて避ける。
「うにゃ!?」
回し蹴りが空を切る。それに蹴りの勢いで逆に彼女の方が場外落ちしそうになる。反射的に攻撃を中断して踏みとどまるクー。けれど今度は格闘家が反撃に転じ、目にも留まらない速さで拳で連撃を繰り出して来た。
クーは防御に徹するけれど相手も強い。殆どの攻撃は避けるけれど最後の一撃、腹部に直撃する。
「……クー!」
彼女のピンチに、思わず僕は叫んでしまう。
お腹を押さえて距離をとるクー。痛みをこらえる彼女に、格闘家は止めを刺そうと空高く跳躍。止めを刺すべく上空から拳を、さながら隕石のようにクーめがけて最大威力の拳技を仕掛ける。
「我が拳技を受けよ! ……秘技、魔拳ビッグバン!」
絶対絶命のピンチ。だけど僕は……信じている。
「……いたた。でも私だって……負けないにゃん!」
上空から拳を振り下ろそうとする相手に、クーは両手を後ろに引いて構えを取る。
寄せた両手の平に気が溜まり、そしてそのエネルギーを──撃ち放った。
「ならこっちも、猫娘族秘技、ネコネコ波にゃっ!!」
クーから放たれた気のエネルギー、それは宙にいた格闘家を直撃して、吹き飛ばした。少し間が空いて、彼はステージ外に落下。僅かに呻いた後に気を失う。
この試合、猫娘族のクーの勝ちだ。
客席で巻き起こる歓声。全て、彼女の勝利を祝っての歓声だ。もちろん僕たって柄にないけれど混じって歓声を上げる。
さすがクー。可愛くて、モフモフで……とても強い僕の妻だ。
────
武闘会も無事に終わって、僕はクーと一緒に家路につく。
「お疲れ様、クー」
「にゃにゃにゃ! セシルが褒めてくれると、とても嬉しいにゃー」
頬を桃色にして、満面で嬉しそうな表情を僕に向けてくれる。……本当に可愛い。
「それに優勝もおめでとう。ずっと観客席から応援していたけれど、さすがクー……強くて、格好良かった」
クーは武闘会の優勝者の証である、きらきらした金のトロフィーを手に持って。今度は照れ恥ずかしがるように、肉球のついた右手で頬を掻く。
「褒め殺しする気か……にゃん。もう」
いつもの明るくて元気なクーも好きだ。けれどたまに見せる乙女なクーも、大好きで。僕は彼女に笑いかけて言う。
「今日はクーは頑張った。それに優勝のお祝いに、家に帰ったらご馳走を振る舞うよ。
何が食べたい?」
「ご馳走かにゃ!!」
瞬間に、クーは瞳を輝かせて僕に顔を寄せて来た。いきなりの事で驚いてしまう。
「うわっと!?」
「ならお肉! お肉をたくさん食べたいにゃあ!」
お肉、お肉とせがむ彼女。両耳をぴょこぴょこ動かして尻尾も大きく振って、おさえられないくらいに。
「分かったから落ち着いて。なら家に帰ったらたくさん、肉料理を作ろう。ハンバーグにステーキ、それにメンチカツだったり、クーが満足出来るくらいに腕を振るうから」
僕はまかせてと、軽く腕を構えてジェスチャーをする。
「やったっ!! セシルっ! 大好きにゃん!」
「でもまずは材料を買いに行かないと、帰りに商店に寄って買い物しようか」
クーは買い物も嬉しそうな様子で応えてくれる。
家に帰る途中、夫婦揃って買い物。……こう言う時間も、好きだな。
────
料理のための材料を買い物して、僕とクーは家へと帰った。
元々僕達は幼馴染だったけれど、お互いに好意を寄せ合って……結婚して、夫婦になった僕達。
「料理は今から作るから、しばらく待っていて欲しい」
頑張ったクーのために僕はキッチンで要望通り肉料理を作る。料理は昔から好きだったから、幼い頃からよく彼女に手料理を作ったりもしていた。
(昔から、クーは僕の料理を本当に美味しそうに食べてくれる。そんな嬉しそうな彼女の顔が見たくて、僕も料理するのが好きになった。
沢山料理するのは大変だけど……全然苦なんかじゃない)
彼女は食いしん坊だから、料理の量はいつも多い。腕によりをかけて頑張らないと。
僕は時間をかけて色々な料理を作った。
「にゃにゃ。いい匂いがするにゃー」
「お待ちどうさま。僕特製の熱々ハンバーグ、それにステーキ、串焼きだとかも。たくさんどうぞ」
彼女が待つリビングに、料理が乗った大皿をいくつも持って行く。クーは両手それぞれにナイフとフォークを握って、今にも待ち切れない様子で皿に盛り合わせになった、いくつもの肉の料理を見つめている。
テーブルの上いっぱいの料理の数々。僕も席へと座った。
「晩ごはん、一緒に食べようにゃん」
「うん。僕が来るまで待ってくれて嬉しいよ、クー」
そう言うとクーはくすっと笑って。
「当然だにゃ。ご飯は好きな人と一緒に食べた方が、ずっと美味しいにゃんよ。
それに──」
彼女はにんまりとした表情で、こんな事も言った。
「セシルも今日は沢山食べるにゃっ!! お肉を食べて……精力つけるにゃん!」
肉料理が盛り沢山の晩ごはん。ボリューム満点だったけれど、クーと一緒に無事に完食。
「とっても美味しかったにゃ! 満足、満足にゃぁー」
「クーが満足してくれて良かった。……げふっ」
彼女はともかく……僕にはちょっと分量が多かったかも。お腹がパンパンで、少しだけ苦しい。
後はシャワーを浴びて身体を洗って、それから寝室に。
「……ふぁーあ」
寝間着姿に着替えた僕は寝室に、ベッドの上に座って一あくび。眠いしもう眠る時間だ。
「ふふっ、眠そうにしているセシルも可愛いにゃ」
もちろんクーも一緒。寝室に置いてあるベッドはダブルベッドで、いつも夜は一緒に眠っている。布団も暖かいけれど……ふわふわしたクーの毛皮も暖かくて心地良いんだ。
「そろそろ眠ろうか、クー。沢山食べたから眠いんだ」
さっそく眠りにつこうとした僕。……だけれど。
「だーめだにゃっ!!」
クーはいきなり僕の身体を掴んだ。かと思うと上乗りになってベッドに押し倒す。
「……えっ?」
緑ドクロの僕と猫娘族のクー。力は彼女の方がずっと強くて、こうなるとなす術もない。
「眠いのにすまないにゃ。でも、あんなに食べてすぐ寝るとオークになっちゃうにゃぁ。たくさん食べたら……たくさん運動しないとだにゃん!」
すぐ間近に迫る彼女はまるで獲物を狙う獣のようで、吐息は熱く瞳を爛々と輝かせて僕に迫る。クーが一体どうしたいか……すぐに想像がついた。
「運動って、もしかして──」
「んにゃ! 夫婦になったのは良いけれど、大事な事を忘れているにゃん。
私とセシルで大事な夫婦の営み……子作りしようにゃ!!」
「!!」
ドキッとする僕。それから少し、しどろもどろになりながら。
「子作りって……いきなりすぎるよ!? まだ覚悟が──」
「問答無用にゃあ!」
そう言うやいなや、クーは濃厚なキスで僕の唇を塞いで一気に襲いかかって来た。
「ふぁっ……むぐ……っ」
「ふふっ、セシルは可愛いにゃー。二人で……たくさん子どもを作ろうにゃん♡」
────
それから……朝。
「うみゃみゃ……zzz」
先に目を覚ました僕。隣にはクーが小さく寝言を呟きながら眠っていた。
上体を起こした。けれど肌寒さを感じて、一旦毛布を被りなおす。
(そうだった。服は夜中に全部脱いだっけ)
着ていた服はベッドの周りに散らばって、僕は全裸のままで眠っていた。
──夜の間中、ほとんどずっとクーと……色々していたからで。
(……クーは本当に遠慮がないから。まだ夜にかいた汗が、少しだけベタつく感じがする)
夜は二人で──とりわけクーの方から──激しく過ごして。おかげでまだヘトヘトで、疲れも残っている。……けど。
「zzz……」
隣で眠っているクーの寝顔。夜にはあれだけ滅茶苦茶にした事が嘘みたいに穏やかな、気持ちよさそうに眠っている寝顔で。
(けど、何だかんだ夜は僕も気持ちが良かったし、そんな君も全部……僕は好きだ。もちろん……こうして無防備な寝顔を見せているところも)
「……う……みゃ?」
そう考えていると、ようやくクーも目を覚ましたみたいで。寝ぼけ眼を右手でこすりながら僕の方へと視線を向ける。
「あっ……セシル、おはようにゃん」
「おはよう、クー。よく眠れたかい?」
「……にゃっ」
クーは頷いて応えてくれる。それから表情を緩めて、軽く頬杖をつくと僕に……。
「くすっ、昨日は良い夜だったにゃ。……ねぇねぇ」
「どうかした?」
彼女の問いかけに僕は耳を傾ける。すると頬を赤らめながら、こんな事を。
「夜はセシルとたくさん、たくさんしたにゃ。だから二人の子ども、出来るかにゃん?」
どきっとする質問。けれど、僕は。
「正直まだ分からない。でも……」
照れ笑いを大切な愛妻であるクーに向けて、心から応える。
「僕達の子ども──出来たらいいね」
たったそれだけの言葉。けれど彼女は嬉しげにはにかんでくれた。
「うん。だにゃ!」
自由気ままで奔放なクー。僕の何より大切なひと、一緒にいると僕はとても……満ち足りた気持ちになれる。
──ちなみに数年後には望み通り、僕とクーの間には子どもが十人以上も恵まれる事になるけれど、それはまた別の話だ。