――防ぐ。斬られる。治す。
――斬られる。防ぐ。治る。
――斬られる斬られる斬られる。無理やり治すッ!
――防いでも防いでも、傷が増えていく。
額が裂ける。腕が千切れ掛ける。すぐ治る、けど!
埒が明かない!
「ハァっ、ハァっ…………ちょっともぉ、強すぎィィィィ!!!!」
「あら、貴方の実力はその程度なのかしら。なら期待外れと言わざるを得ないわね」
「オレってば戦闘経験皆無の戦闘種族だからさァ! ごりっごりの戦闘ゴリラな君とは畑が違うわけ! お分かり!?」
痛覚切ってるから無理くり肉壁できてるけど、こりゃいつまで持つか分からんね!?
ちょっともう、強すぎるでしょう!
オレの鬼族の動体視力でも目で追うのがやっと……!
オレはもう鬼化して全力前回だってのに、この女!
まだまだ全然本気出してねぇ!
――あっはぁ! それでこそエルザ・グランヒルテ! オレの一推し! 『原作』の大人気キャラ! 最ッ高だぜ!
「残念……噂に聞く鬼族と聞いて期待したのだけれど。そう、ならもういいわ。死んで」
キィンと、高められた闘気による銀閃がけたたましい音を立てる。
「あばぁ……」
オレはアホ面で口を大きく開けて、その中から血を垂れ流した。
っべー、内臓やられた。ていうか、お腹掻っ捌かれた。
痛くない、けど、気持ち悪い。うぇぇ。
「大丈夫!?」
エミリアが後ろで悲鳴のような声を上げる。
ああ、そういえばオレってばエミリアさんに名乗ってない?
エミリアに……というよりパックに協力してもらえないと時間稼ぎも厳しそうだ。
なら、
「まだ倒れないのね、頑丈な子」
「……それだけが取り柄なんでねぇ、ってぇな。あー、
「へぇ」
チロリと、エルザが舌なめずりする。
何が琴線に触れたんだ。
お腹ぶった切っても死なない、面白い玩具が見つかったってか?
あー、『原作』キャラに喜んでもらうためならオレの腹くらいいくらでも斬らせてやりたいが……。
「――オレはナギサ! 通りすがりの野生の鬼族! 今は主人、ナツキスバルのお付き人!」
「――『腸狩り』エルザ・グランヒルテ。ナギサ、覚えておいてあげるわ」
ちげぇよ!? そんな大一番の口上じゃないし、アンタに言ったんでもない!
こぉれ、ただの自己紹介!
エミリアへの、な!
「頼むっ! オレだけじゃ時間稼ぎもできない! 手を貸してくれ、エミリアさん! ロム爺さん!」
「! わかったわ!」
「うぅむ、ワシもか?」
「手貸さねぇなら、この蔵派手にぶっ壊すぞ!?」
お前に手を貸さない選択肢とかねぇから!?
そのままそこで見物とか絶対許さねぇよ!
アンタが重症で倒れてくんねぇと、ラインハルトが来たときに揉めるだろうが!
いや、別に勝手にどんちゃん騒ぎやってもらって結構ですけど。
あぁもう、どうでもよかったか!?
いや、いやいや、ロム爺の手もあった方がいいに決まってる!
だって、こいつぁ……
「そう、何人でも構わないわよ。相手がどれだけいようと私の仕事は変わらないもの」
「多勢に無勢だ。逃げてもいいんじゃないの?」
「お生憎様――貴方たちくらいなら、何人いても問題ないわ」
おっひゃー、すわおっそろしい女の子ですわぁ。
ロム爺も今のエミリアもこの世界では割と強い方……まぁ、方や年老いた老兵で方や人に向けて攻撃を放ったことなんて数えるほどしかない女の子。
そして、剣術なんて欠片も身に着けてない種族だよりの木偶の坊と……終わったな。
確かに、これじゃ何人いても勝てるわけねーわ。
でも、
「こちとら時間さえ稼げりゃそれで勝ちなんだよ! おら、今話してる間に腹も治ったことだしな!」
「本当にタフなのね。ふふ、また貴方に興味が湧いてきたわ。
――どこまでやれば、貴方は再生しなくなるのかしら」
ひぃ、勘弁してつかぁさい。
ラインハルトが登場した日にはマナがそっぽ向いて再生できなくなるんですぅ。
どっからエネルギー引っ張ってんのか不明な貴方様の『呪い人形』の呪いとは違うんですぅ。
「さぁ、応援が来るのが先か、オレらが死ぬのが先か。一丁、勝負といきましょうや」
「ええ、そうね」
「――ヒューマ!」
「きりきり舞え!」
会話が途切れた、その途端にエミリアの魔法とロム爺の棍棒がエルザに襲い掛かる。
エルザはエミリアの魔法をひらりと交わし、振り下ろしたロム爺の棍棒の上に乗る。
そうして、構えたナイフを一閃。
「ぐぉおっ」
「まず一人」
ロム爺の腕が切断され、武器を失った。
しかし、片腕ぐらいくれてやるとばかりに、間髪入れずに残った腕を振りかぶるロム爺。
だが、もう一閃でその腕さえも切り裂かれる……前に、オレがロム爺の前に割って入る。
「ってー、くない」
防ぐように構えた両腕が切り裂かれるが、元々ロム爺の腕を狙っていたナイフはオレの腕の表層を切り裂くだけに終わった。
これくらいなら瞬きの間に再生する。
オレも大概化け物じみてるな!?
さっすが、最強の亜人族ぅ!
「厄介ね」
「っていうか、おい! おっさん、役に立たねぇな!」
「むぅ!? すまん……」
『大参謀』が聞いて飽きれらぁ。
いや、錆を落とさなきゃこんなもんかぁ?
そりゃ、エルザに何度も殺されてるもんなぁ。
期待薄か。
かぁ、『原作』を知っているばかりに期待してしまう。
先を知っているばかりに今の彼らに失望を覚え、ない。
別に、今はまだダメダメな彼らの為にこそ、オレは頑張りたいのだから。
役に立ちたいのだから。
だから、
「――ご主人、やめとけ」
「くっ、なんでだよ!? 俺にだって、何かできることくらい……」
「あるだろうな、あるだろうさ。だが――今はダメだ」
『原作』通りならよかった。
エルザは本気じゃなかった。
遊び半分だった。
でも、今は違う。
偏に、オレがいるせいで。
多少なりとも戦える……サンドバック状態だが、この女に相対して生き残れるオレがいるせいで、エルザは少しギアを上げている。
今、ただの高校生であるスバルが出てきたら瞬殺だ。
それこそロム爺のように。
「エミリアさん、攻撃はいい! スバルとロム爺を守りながらエルザの妨害、できるか!?」
「やって、みる!」
あー、早く来てくれよ。
――ラインハルト。
あ、ちなみにフェルトはとっくに逃がしてるよ。
え? それを早く言えって?
いやぁそれこそスバルの口八丁の成果で『原作』通りだし語ることないない。
◆◇◆
指が飛ぶ。
護身刀が砕ける。
お気に入りの髪が切り裂かれる。
目を切り裂かれる。
足の甲を踏み砕かれる。
打撲。粉砕骨折。肉断裂。
痛みはないとはいえ不快な感触。
蹴られた勢いで歯が吹っ飛ぶ。
ああ、歯がないとこをベロで触れるときもいんだよなぁ。
大動脈が、頸動脈が斬られて、斬られて、切り開かれて、遂には出血多量で動けなくなった。
「おわりね」
「……かふっ」
もはや吐く血反吐すらない。
やば、死ぬ……。
え、まだ……遅くない?
「っ、ヒューマ!」
「もうそれは飽きたわ」
ははぁ、ちなみにパックはとっくのとうにお眠です。
やっべぇ、血がなさすぎて眠い。
てか、目開けてらんない。片目しかないから余計にね。
「ナギサッ!」
「ここが限界みたいね。楽しかったわ、でもこれでお終い」
「ぁ……」
首が飛んだ。
いやに視点が高い。
んだよ、首跳ね飛ばしたのか?
行儀がわりぃ。
あぁ、やり直しか……?
みんな……スバルも死んで――。
「――そこまでだ」
宙を舞う首が地面にボトンと落ちた頃、それは盗品蔵の天上を突き破って舞い降りた。
おせーよ。
ああ、ほんとうに、いけ好かないぜ。
◆◇◆
「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」
「『剣聖の家系』ラインハルト・ヴァン・アストレア」
白滅の極光が迸り、世界を震わす剣気が常世を切り裂く。
その剣戟の後には彼女の肉片は、影も形も残らなかった。
「は?」
その非現実的な光景にスバルは口を開け広げて滑稽な姿を晒していた。
無理もない。
異世界に来て最初に見るのが、この世界最強の剣聖では彼の異世界観念を大きく歪めたことだろう。
あんなのがそこら中にいるとしたら狂気の沙汰だからな。
だが安心して欲しい。あれはれっきとした超人、この世界の特異点だ。
「そんな力があるなら、もっとはやく……ッ、あと少しはやく来てくれたら!」
「すまない、君の友達を助けられなかったのは僕の不徳の致すところだ」
「あ……いや……悪い、お前が悪いんじゃねぇのは分かってる……分かってるんだ」
あ、なんか修羅場ってる。
怒りのぶつける先を失ってるスバルに、面目ないラインハルト。
あっはっは、最高かよ。
すると、そこへエミリアたんが歩いていく。
「スバル……」
「エミリアたん! ナギサは……」
その言葉にエミリアは、ふるふると、首を振ることで答える。
「外面は元通りになったけど、やっぱり一度死んでしまったらもう……」
「ちくしょう……ッ! 俺が、もっと上手くやってれば……ッ!」
あー、うん。あれ、これなんか起きにくいぞ。
いや、いや、確かに首吹っ飛ばされたら死ぬな?
普通死ぬな?
いやぁ、気まずぅ。
「こうなったら、もう、これしか……」
あーあー、スバルがなんか拾った音がする!
これあれだろ、そこらへんに転がってる武器の破片拾ったろ!
こいつ首切る気だ。
ん~、よし、今!
「――その必要には及ばないよ、ご主人殿」
「へっ? は、はぁぁぁぁああ!????」
「ひゃっ、い、生きてるの……?」
「これは驚きだ」
おいラインハルト、お前だけ冷静すぎやしねぇか。
え、もしかしてオレが寝たふりしてるの知ってた?
おいおい、何しれっとオレに向けてウインクしてんだよ。
お前、そんな茶目っ気あるキャラじゃなかっただろうが!
だぁもう。
「っと、ほら、見ての通り無事だ。ちなみに、起きたのはついさっきな?」
「その予防線は逆に怪しい……じゃなくて! お前、どうやって!」
「あーほら、秘儀『死んだふり』的な?」
「じー……」
おいおい、そんな目で見るなよ。
わーったよ、言うよ。
ったく、オレの一日に一回しか使えない必殺技なんだぞ。たぶん。
「言ったろ、オレの持ってる加護は『従者の加護』だって」
「ああ、だけどその効果は主人にかかってるバフデバフの共有だって……」
「「バフデバフ……?」」
ああ、異世界組にはわからん単語だよね。
あれ、オレらとエミリアたち、この場合どっちが異世界組になるんだ?
じゃあ、エミリアたちは現世組? わからんね。
「そう、そして言ってなかったが、オレのご主人様は一日に一回だけ変えられる」
「変えられる……は?」
「幸い
「お、おう……? え、でもじゃあお前は誰を主人に……」
「そりゃあ、あの狂人こと腹狂い女を」
「エルザを、主人に」
「おん」
「ッ馬鹿か、てめーは!? いや馬鹿だてめーは!」
いやぁ、はっはっは。
これがオレの奥の手ね。
オレってば言ってる通り『原作』キャラのファンだからさぁ。
『原作』キャラはだいたい主人候補にできちゃうんだよねぇ。
ペトラとかはギリ無理かもだけど。
レム、ラム、ロズワールくらいなら余裕でご主人様にできる気がする。
てかする。
ラムちーに仕えて扱き使われたーい。
……ラムのデバフ重すぎて動けなくなりそう。
「まぁそんなわけで、オレは所詮、デカパイのねーちゃんには簡単に尻尾振っちゃう風見鶏なのさ……。
てなわけでこれからもよろしくな! ご主人!」
「だぁれがお前なんかのご主人様やるかッ! ていうか、それだったらエルザが死んだ今、とっくに効力は切れてるんじゃ……」
「……いや? まだ全然ご主人様だけど? あれ?」
「――ッ!」
その瞬間、瓦礫の中から血まみれのエルザが姿を現す。
そして、一番近く剣聖から遠い存在に向かって銀閃を振るう。
止めないと……ッ!
そう思った途端、オレの行動に抑制がかかる。
がァ、『従者の加護』!
――従者は主人の不利益になる行動を取れない。
「狙いは、腹ァッ!」
「チッ」
かくして、スバルはエミリアを守って倒れ、エルザは逃げ、エミリアは徽章を取り戻し、ラインハルトはオレ同様にご主人様を見つけた。
あん、もしかして…………ラインハルトも『従者の加護』持ってる?