<ハサウェイ・ノアの火星旅行>
「あれがミノフスキードライブ搭載船のマーズか。地球圏と火星を一ヶ月掛からずに往復できるだなんてスゴイなぁ」
宇宙世紀100年、二十歳となった大学生のハサウェイ・ノアは夏季休暇を利用して1人で火星に旅行しようとしていた。従来の船なら数ヶ月掛かっただろう火星への移動が、ミノフスキードライブの登場によって大幅に短縮された為ハサウェイのように物珍しさで火星に観光に行こうとする人間は少なからず存在した。
ちなみにこの世界のハサウェイは第二次ネオ・ジオン紛争が起きなかった為クェス・パラヤと出会う事はなく、NTの素質はあれどごく普通の青年として暮らしていた。
「そうだよねー、ミノフスキードライブのおかげで火星に行くのが本当に楽になったよ」
「ああ、フィアナの言う通りだ。以前よりも気軽に妹達の様子を見に行く事ができるようになった」
「あの輪っかの人ってスゴイよね」
「輪っかって……シロッコ博士の事なら木星帰りの天才って呼びなさいよ」
「でも本当に輪っかじゃないか。あの頭の輪っかなんなんだろ?」
「木星のファッションだと思う……多分」
ハサウェイの隣で話す妙齢の美女達は奇妙な事に全員同じ顔立ちをしており、髪型やファッションなどで差別化していなければ違いが判らないほどであった。
(彼女達が有名なプルシリーズなのか……こんな綺麗な人たちがクローン兵士だったなんて)
「え、私達の事綺麗だと思う?君みたいな好青年に褒められて照れるなー」
「フフッ、もっと褒めてもいいよ?」
「えっ!?」
妙齢の美女達に見惚れていたハサウェイは心の中で考えていたことを見通されて驚く。
「フィアナとナナがごめんね。君も知っていると思うけど私達はニュータイプ兵士として作られたからある程度考えが読めるんだ」
「でも君の考えがわかったのは君にニュータイプの素質があるからだと思うよ」
「ああ、確かに磨けば一流のニュータイプになれるだろうな」
「ぼ、僕に……?」
自分にNTの素質があると言われてハサウェイは戸惑っていた。実際に正史ではマフティー・ナビーユ・エリンとしてΞガンダムを乗りこなしていたので鍛えれば一角のNTになれるのは確かであった。
「何なら私が手取り足取り教えてあげようか?」
「おい、あまり揶揄うな。彼も困ってるじゃないか」
「えー、私本気なんだけどなー」
「ア、アハハ……」
フィアナと名乗るプルシリーズの一人からアプローチを受けたハサウェイは妙齢の美女に誘われて思わず照れ笑いを浮かべていた。その後輸送船「マーズ」の航海中でもハサウェイはプルシリーズ達と和やかな雰囲気で交流しており、退屈することなく楽しく過ごしていたのであった。
「まったく、そんなに彼の事が気に入ったのか?」
「うん、一目見てビビっときたね!」
「あ……私も」
「ナナもか!?……確かに綺麗な心を持っているとは感じたけど、彼に迷惑だからあまりちょっかいをかけるなよ」
「ここが火星一の繁華街か。結構賑やかな場所じゃないか」
「そうでしょう!アナハイムから援助があってここまで発展できたんです。まったくアナハイム様々ですよ」
火星に到着したハサウェイはプルシリーズ達と別れてタクシーに乗り繫華街に向かっていた。道中では生粋の火星育ちだと言うタクシー運転手から火星について色々と話を聞くことができた。
「アナハイムが来る前はどんな感じだったんですか?」
「まぁ賑やかではありましたけど、今の半分の規模もありませんでしたよ。それにマーズジオンのクソッたれ共が幅を利かせていたんであまり楽しめませんでしたね」
「マーズジオン、ですか」
最後のジオン残党勢力といわれたマーズジオンについて話が及びハサウェイは興味を持つ。
「マーズジオンって嫌われていたんですか?」
「お客さん、火星生まれでマーズジオンが好きな人間は存在しませんよ。火星生まれの人間が必死に頑張っている中で呼んでもないのに来た軍人崩れ……いやテロリスト共が俺達を支配してきたら誰だって腹が立つでしょう?しかも火星独立ジオン軍とか寝言言い始めたら反感覚えますよ。後から来たくせに火星の代表面するのかって」
「ああ……」
運転手が嫌そうな顔でマーズジオンについて言及し、ハサウェイはマーズジオンが圧制を敷いていたというのは本当なんだなと納得する。
「まっ、マーズジオンはティターンズにけちょんけちょんにされて壊滅したからいい気味ですよ。地球を解放するとか言っておきながら一方的に負けるだなんて所詮テロリストでしたね」
「火星の人達はティターンズについてはどう思っていたんですか?」
「まあ俺達の事を見下しているのは察していましたけど、俺達を解放してくれたし、圧制を敷いてこないし表面上は節度ある態度を取ってましたからマーズジオンなんかより遥かにマシです……いや、マーズジオンなんかと比較したらティターンズに失礼でしたね」
「そ、そうですか」
運転手の様子を見て、本当にマーズジオンは嫌われているんだなとハサウェイは少し引いていた。
「ああすみません、つい熱く語ってしまいました。この後どちらへ向かいます?」
「そうですね、アナハイムが経営する環境整備施設を見に行きたくて」
「ああ!あそこですか。あそこは人気ですからねぇ」
「すごい人だかりだな」
目的地に到着したハサウェイはアナハイム経営の環境整備施設……テラフォーミング計画やビオトープを纏めた施設を訪れていた。
「アナハイムが誇る環境整備施設へようこそ~。施設についてご案内しますので何かご質問がありましたら気軽にお声掛けくださいね~」
(あ、ガイドの人もあの人達と同じ顔……)
プルシリーズの一人と思われるガイドにハサウェイは案内されることになった。
「さっき驚かれていましたがやはり私の顔が気になりますか~?」
「あ、すみません。女性の顔をジロジロ見るのは失礼でしたね」
「いえいえお気になさらず、私達の顔は結構有名ですからね~まぁ私は厳密にはプルシリーズではないのですが」
「え、それはどういう」
「私は兵士としての能力が足りなくてナンバーが与えられなかったんですよ、同じクローンでも個体差があるのは面白いですよね~。連邦政府に救出されてなかったら廃棄処分だったでしょうね」
「それは……!」
プルシリーズの闇を聞いてハサウェイは思わず義憤に駆られる。
「あっ、ごめんなさい。業務とは関係のない話をしちゃって……いつもはこんなミスをしないのにな~」
「あの、随分と軽い様子で話しましたけど大丈夫なんですか?」
「いや別に?今は充実していますから~。皆様から同情されて親切にされるし、悲しい過去と顔の良さを活かしてアナハイムの正社員になって勝ち組人生送ってますからね~」
「えぇ……」
ミレイと名乗るプルシリーズの一人は過去に囚われることなくのほほんとした様子であり、ハサウェイは逞しい女性だなと感じていた。そんなことがありつつもハサウェイはミレイに案内され施設を巡る事になるのであった。
「こちらは現在アナハイムが建設を進めているラーフ・システム……巨大太陽光発電システムの模型になります~」
「あ、輸送船マーズのモニターでも見ました。まだ建設が始まったばかりなのに遠くからでもわかるくらい大きかったですよ」
「アハハ、本当に大きいですよね~、これでも小型化されてるんですよ~当初予定していたサイズなら地球圏のエネルギーを一挙に賄える程だとか。でも今のサイズでも火星のエネルギー問題を解決できるらしいですよ~」
「それはスゴイですね」
「まずは試験運用という事で火星限定用にサイズを縮小したようですね~、火星で上手くいけば地球圏に本来予定していたサイズのラーフ・システムを建設する予定だとか」
「これは火星緑化計画の為に用意されていた植物です。まあ使われることなく封印されましたけどね~」
「封印、ですか?何か問題が?」
「えーっと、こちら当初の目的である火星の緑化の為に要求されていた基準は満たしていたんです。草木一本生えない荒れ地でも繁殖できるスーパー植物ではあるのですが……元になった植物がジオンが開発した環境破壊用生物兵器らしくて」
「え、大丈夫なんですかそれ?」
「ええ、一応問題ないらしいのですがノアさんのように使用を懸念する声が続出しまして~、結局一度も使うことなく封印となりました。今後は時間を掛けて地道に苔などを使って緑化を進める方針ですよ~」
「うん、僕は素人で詳しいことはわかりませんが、それが一番いいと思います」
「それは現在火星で流行している花ですね~この施設で栽培しているんです」
「へぇ、綺麗な赤い花ですね」
「はい~、火星の明るい未来をイメージして作られた通称「希望の花」です。綺麗なだけでなく丈夫でタフな花なんですよ~」
「ええ、まるでミレイさんみたいに綺麗だ」
「ンンッ!?……ほ、褒めてくれてありがとうございます」
「ミレイさん、本日はありがとうございました」
その後施設を巡り終わったハサウェイは満足げな様子でミレイに礼を言っていた。
「いえいえこちらこそありがとうございました~。この後予定はありますか~?なければ一緒に食事でもどうです?」
「えっ、別に予定はありませんけど」
「それはよかったです~ではこの施設の近くにある美味しいレストランがありますので行きましょうか~。着替えるのでちょっと待っててくださいね~」
(いいのかな?ホイホイ誘いに乗ってしまって……いや綺麗な人と一緒に食事できるのは嬉しいけど)
妙齢の美女に誘われるのは悪い気分ではなかったハサウェイは旅の思い出として悪くないと誘いに乗るのであった。
「あー、ミレイに誘われてここに来てたのね。まさか君にまた会えるとは思わなかったなー」
「これも運命……多分」
「ほらほらこの火星産のワインをどーぞ!……うん!いい飲みっぷりで惚れ惚れしちゃう!」
「お前達いい加減にしろ!……その、私の妹達がすまないな」
「ああいえ、迷惑だとは思ってませんよ」
「あれ~ナンバーズの皆さんがどうして……ひょっとしてノアさんを?」
「いや偶々再会したんだが、もしかしてミレイも?」
「はい~、彼の純粋な心とカワイイ顔立ちにビビっときまして~」
「わかる!私もそーなんだ!」
ミレイに案内されたレストランで輸送船マーズで乗り合わせたプルシリーズ達と再会したハサウェイは少し困惑しつつも食事を楽しんでいた。
「そういえば皆さんは妹さん達と会えたんですか?」
「元気だったわ。妹達もなんだかんだ上手くやれているようね」
「まあ妹達と言っても火星のマーズジオンで製造されたクローン仲間なんだけどね。あの伝説のパイロットであるアムロ・レイが手加減してくれたおかげで生き残ったんだ」
「ちなみに戦ったけどまったく歯が立たなくてトラウマになったらしいよ。流石伝説のニュータイプだよねー」
「……アムロさんだしなぁ」
「私はこの後ホテルに行く予定ですが皆さんもどうですか~」
「え、本気?判断が早くない?じゃあ私も」
「行動力の化身……!私も行く」
「ノアさんは観光客で私は火星在住ですからね~。この機会を逃したら今後会う事もないでしょうし」
尊敬するアムロ・レイの活躍を聞いてハサウェイはアムロだからと納得する。
「ノア君は暫く火星に滞在するの?」
「ええ、まだ行っていない観光スポットが色々とありますからね。夏季休暇の間に火星を満喫する予定ですよ」
「ふーん、じゃあ私達も一緒に行っていいかしら?私達も妹達に会うついでに観光に来たのよ。旅は道連れ世は情けというしどうかしら?」
「そうですね……ではよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね!この旅で貴方の事色々と知りたいわ…………色々とね」
「やめろお前達!一時の欲望に身を任せて愚かな真似をするんじゃない!」
「えー、でもツー姉さんも彼の事は嫌いじゃないでしょ?」
「いや、まあ、ノア君は私も嫌いじゃないしいいとは思うが」
「ですよね~、ニュータイプとしての勘ですが私達との相性はいいと思いますよ」
プルシリーズ達と同行することになったハサウェイは明日からの観光が楽しみだと呑気に考えていた……まあ妙齢の美女達から誘われたら男として少し調子に乗るのも無理はないだろう。
「で、どうするのツー姉さん?」
「……………………………………私も行く」
「じゃあ決まりだね!」
「あぁ楽しみですねぇ、本当に楽しみ……クフフッ」
「ミレイ、淑女としてはしたないわよ」
その後無事お持ち帰りされたハサウェイは色々ありつつも火星に骨を埋める覚悟を決め、綺麗な嫁達と可愛い子供達に囲まれて大変ながらも幸福な人生を送ることになったのであった。
「ブライト、飲み過ぎだぞ」
「うるさいアムロ、今日だけは好きにさせてくれ……大学を辞めて火星で結婚すると言って重婚したバカ息子の事を考えたら飲まなきゃやってられないんだ!」
「オ、ソウダナ」
「いや、ハサウェイはもう大人だし結婚は本人の自由だと思う。だけどいきなり義理の娘が6人増えるとかおかしいだろう!?」
「オ、ソウダナ……写真を見たが皆美人じゃないか。あんな美女達を捕まえるとはハサウェイもなかなかやるな」
「ああ、男としては褒めてやりたいくらいだが親としては頭が痛いんだよ!」
「でもブライト、今の地球連邦では重婚は別に合法だぞ?昔の価値観に囚われているんじゃないか?」
「ああ、一年戦争で総人口の半数が死んだ影響で人口回復を優先した当時の連邦政府の政策のおかげでな……でもいきなり6人はおかしいだろ!」
「オ、ソウダナ」
「しかも今度子供と一緒に地球圏に帰ると言っていた……孫に会えるのは嬉しいがいきなり6人の孫となるとどんな顔で会えばいいんだ」
「ハハッ、ブライトもおじいちゃんになるのか。まあ今後もドシドシ増えるだろうが子沢山なのはいい事じゃないか。今の連邦政府は子育て支援も手厚いしハサウェイも頑張って嫁と子供達を養うだろうから心配しなくていいだろうな」
「そういう問題じゃないだろう!」
「オ、ソウダナ」
「……なあ、アムロ」
「なんだブライト」
「ハサウェイは上手くやれると思うか?」
「父親が息子を信じないでどうするんだ。ハサウェイはもう立派な大人だし問題ないさ。俺のニュータイプの勘がそう告げているよ」
「フ、そうか。ならバカ息子も大丈夫だろうな……地球圏に帰ってきたら一発殴るくらいならいいよな?」
「まあそれくらいならいいと思うぞ。でもハサウェイが無事に結婚できてよかったよ。あの未来のようにならなくて本当によかった」
「あの未来?あの未来とは一体なんだ?」
「しまった、迂闊だったな……ブライト、世の中には知らない方がいい事がある。俺の心からの忠告だ。お前は何も気にせず息子の成長を喜べばいい」
「そんな深刻な表情で言うなんて、その未来では一体何が起きていたんだ……!?」
閃光のハサウェイを観た感想ですがハサウェイには何か妙な色気があると思います。
番外編を後数話ほど予定しております。更新速度は遅くなりますが頑張って投稿していこうと思います。
感想くれると嬉しいです。