今日もお天道様は姿を隠している。
完全環境都市を覆う半球天蓋の外は、今日も真っ黒な雨雲が隅々まで広がっている。昨年亡くなった曽々お婆ちゃんの代までは、環境汚染はここまで酷くなかったらしい。らしいと言うのは、高祖父母が昔撮った田舎の写真を見ても何も感じないから。
秋の刈り入れの時期の田んぼを写したものらしく、にぎにぎと実った黄色い稲穂と高い空に薄く靡く白い雲、そして燦々と輝く白い太陽。曽々お爺ちゃんが現役の農家だった当時は、酸性雨が降ることはあったものの常に酸っぱい匂いがしていたわけではなかったらしい。
何度も聞かされた昔話を思い出しては、本物の太陽を見てみたいと思い至る。だけどこの世界は富裕層が自分たちに都合の良い世界に作り変えた結果、いつ滅びてもおかしくない荒廃した環境になった。
そして僕も体制の側の人間と言うのは、皮肉ととらえていいのかな?
「君、迷子かい?」
ぼんやりとドームを見上げていると、巡査さんに声をかけられた。お母さんを待っていただけだけど、迷子に見えたみたい。嘘を吐く理由もないし素直に応じれば、巡査さんは「一緒に待っててあげる」と答えてくれた。
そこから後は楽しい時間だった。その巡査さんは僕と同じくらいの頃から仮面○イダーとかウルト○マンとかスー○ー戦隊が大好きで、そういったヒーローに憧れて巡査さんになったことを教えてくれた。
「ク○ガは刑事ドラマとしても最高なんだ!」
「侍ヒーローならシン○ンジャーが一番好き!」
好きなものが同じ人がいるのは、本当に嬉しい。人目も気にせず時間も忘れて、このヒーローはここがかっこいいとか、この怪人はこんなところが面白いとか、そういったことを何十分も語り合っていた。
そして楽しいお話も話題が尽きる頃。お母さんに呼び掛けられて、帰る間際になってもその巡査さんは嬉しそうな顔で、よく見えるように大きく手を振って見送ってくれた。
「○○くん!また会ってお話しようね!」
優しくて、力強い声が後ろから聞こえる。手を引くお母さんは目もくれないけど、僕はゆっくり振り返って……
「うん!ありがとう!」
たった二言しか答えられなかったけど、はっきりとお礼を伝えた。恥ずかしいのを隠すために、もう一度ドームを見上げる。
「…………あれ?」
真っ黒な雨雲の中に一瞬だけ、太陽が光るのが見えた気がした。